『追放者食堂へようこそ!』連載インタビュー第7回:ジーン・ブラックス役 甲斐田裕子さん|美味しいものがあるから人生を戦える──食から始まる師弟関係は“親子感・近さ・特別感”を大切に
2025年7月3日より好評放送中のTVアニメ『追放者食堂へようこそ!』。超一流の冒険者パーティーを追放された料理人・デニス(CV:武内駿輔)が、憧れだった食堂を開店し、看板娘のアトリエ(CV:橘茉莉花)とともに、お客さんに至高の料理を提供するという“新異世界グルメ人情ファンタジーです。
アニメーション制作をてがけるのはOLM Team Yoshioka。食欲をそそる料理作画に加え、笑いあり、涙ありのストーリー展開がSNSを中心に話題をよび、第1話はXで日本トレンド1位を獲得するなど、“深夜の飯テロ人情アニメ”として注目を集めています!
アニメイトタイムズでは、アニメ放送後に掲載されるインタビュー連載を実施。第7回はデニスの師匠であり、育ての母でもあるジーン・ブラックスを演じた甲斐田裕子さん!
第7話「早く、良くなってね」は、熱で寝込んだデニスが、ジーンに拾われた過去を夢で見るエピソード。甲斐田さんの包容力と余裕を感じるお芝居を存分に味わうことができる第7話の振り返りに加え、本作の魅力などについてもたっぷりと語っていただきました。
【写真】『追放者食堂へようこそ!』ジーン・ブラックス役 甲斐田裕子インタビュー【連載第7回】
「すべてを受け止められるようにしようと思いました」
──甲斐田さんが感じる『追放者食堂へようこそ!』の魅力を教えてください。
ジーン・ブラックス役 甲斐田裕子さん(以下、甲斐田):食というのは、誰の身近にもあるものです。戦いと食は同じといいますか、美味しいものがあるから人生を戦える。誰もが美味しいと思える瞬間があるし、それは値段が高いから美味しいというわけでもない……。そんな、人生にまつわる色々な気付きが散りばめられていて、勉強をしながら原作や台本を読んでいました。
登場するキャラクターもそれぞれに魅力があって、自分を重ねられる存在がきっといると思います。一緒に成長しているように感じることができるのではないでしょうか。
──本作は“飯テロアニメ”とも言われるほど、料理が美味しそうなのも特徴です。
甲斐田:それはそうでしょうね(笑)。きっと(食欲を)我慢するのが大変だと思います。
──甲斐田さんが演じられたジーンというキャラクターについてですが、どんな印象を持っていますか?
甲斐田:ジーンは謎めいた雰囲気で登場しますが、デニスにとって包容力のあるお母さん的存在であり、師匠です。また、職人としての厳しさや矜持を持っている人なのかなと思います。
演じる上で様々な雰囲気を醸し出したいと思いながら台本を読んでいましたし、人間的な深さや安心感をどのように表現しようかと考えていました。
──それらのポイントを表現するために、どのようなことを意識されたのでしょうか。
甲斐田:すべてを受け止められるようにしようと思いました。そして行き先に迷ったら、ちゃんと「こうだよ」と言ってあげられるようにしておく。今の段階では「言っても伝わらないかな」ということも、きびしく示すのではなく、きっと気づく日がくるだろうと思って、種を植えておくんですね。そのような言葉を与えておけば、デニスはちゃんと応えてくれるんです。
だからジーンとデニスには親子以上の信頼感があるなと思いましたし、血はつながっていないけれど、親子感がある2人の関係性・近さ・特別感のようなものを大事にしたいと思っていました。今回は一緒に収録をすることができたので、隣のマイクにいたデニスと一緒に、空間を作り上げられたらいいなと。
──ジーンの気持ちに共感されながらの収録だったのかなと。
甲斐田:すごく親近感が沸きました。こうありたいなと思える大人の女性だったので「こんなカッコいいことを言える大人になりたいな」と思いながら、学んでいましたね。
──ジーンは、LV.100に到達した料理人ですが、演じる上で“レベル”は意識されていたのでしょうか。
甲斐田:やはり「LV.99からLV.100へ行けた人の余裕」のようなものがあるんだろうなと思っていました。私は、まだそこまで到達できていない人生ですから、ジーンが持つ包容力をどうしたら表現できるのか、悩みながら演じさせていただきました。
すべてはあの雨の日。ジーンとデニスの出会いがあったから──
──第7話の印象的なシーンをお聞かせください。
甲斐田:やはり雨の中でのジーンとデニスの出会いですね。とても重要だったというか、あのシーンにすべてが詰まっていると思いました。普通だったら、あのような境遇の男の子が落としたお財布を拾って返すなんて、できないことだと思うんです。
デニスが持っている善良さ、真っ直ぐさが、その後に食堂を作ることに繋がっていくんだろうなと。当時のジーンは可哀想な人をたくさん見てきたと思うけれど、あの出会いがあったからこそ……デニスだったからこそ“母”になったのだと思うし、それが彼女自身の成長にも結びついていったのではないかなと思います。
──路頭に迷っている状況でありながら、自分より他人のことを考えられるなんて。
甲斐田:人は余裕がなくなったら、他の人のことなんて考えられなくなっていくものですから。それがきちんとできる素質を持っているのが、すごいんです。
──個人的な解釈ですが、自分が美味しいものを食べたいから料理を作るというより、人に美味しいものを食べてほしいから作ると思っています。なので、元々デニスは料理人の資質を持ち合わせていたのかなと、今お話をしていて思いました。
甲斐田:確かに! 料理は自分のためだと手抜きしちゃいますからね(笑)。
──その後、ちょっと言うことを聞かないところがある幼少期のデニスを見て、どのようなことを思いましたか?
甲斐田:負けん気の強い子どもだなぁと。でも、男の子らしいですよね(笑)。「母さんに褒められたい」という気持ちもあるだろうし、自分はできるんだ!という気持ちもあったんでしょうね。自分も師匠を助けられるんだ!という奢りのような気持ちを持っていることが、子どもらしいなぁと思っていました。
でもジーンは、そんな気持ちも含めてデニスのことをわかっていて。「こう言ったら聞かないけれど、こう言ったらきっと気づいてくれるだろう」と、横からふわっと、行く道を手助けしてあげる。そんな姿を見ていると、「母親」以上に「師匠」なのかなと思いました。母親だったらきっと怒鳴っちゃうと思うので(笑)。師匠と弟子の関係のほうが強いのかなと思います。
そのあたりも、きっとLV.100の余裕なんでしょうね、何にでも対応できてしまう。
──第7話時点では、大きくなったデニスと関わっていないジーンですが、甲斐田さんは大人になったデニスを見て、どのように感じましたか?
甲斐田:あの負けん気の強かった子が、きちんと色んな人たちを手助けして、料理を振る舞っている。それは、持って生まれた気質であり、彼の才能でもあるんですよね。だから、良い仲間に恵まれるし、みんなデニスに付いていきたいと思っている。雨の中の出会いから、良い意味で変わっていないなと思いました。
この先、悩むことがあれば、ジーンの元に助言を求めに来るでしょうけれど、あの仲間たちがいれば、きっとLV.100に到達するんじゃないかなと思っています。彼の持って生まれた素質、そして師匠の存在が、冒険者食堂という仲間が集う食堂を作り上げたんでしょうね。
──この作品で重要な料理である炒飯ですが、元はジーンがデニスに最初に振る舞った料理だったんですね。
甲斐田:そうなんです。私がそもそものレジェンダリー炒飯ですから(笑)。最初にデニスに振る舞ったのが炒飯で、第1話でデニスがアトリエに振る舞ったのも炒飯。そしてこの第7話では、お粥がキーになっていたので、やはりお米って大事なんですね。
「成長していく姿を一緒に見守ってください」
──甲斐田さんが冒険者食堂で食べてみたい料理は何ですか?
甲斐田:もちろん炒飯ですよ! どんな炒飯なんだろう。私も炒飯は大好きで、色んな町中華に行くと、炒飯を味見したくなっちゃうんです。今はなくなってしまったお店なのですが、美味しかったなぁと、今でも思い出す炒飯があって。あのお店の炒飯を超える炒飯を探し続けているところがあるんです。
──ちなみにここまで、多くのキャストさんが「炒飯」と回答されています。
甲斐田:それはそうですよ。『追放者食堂へようこそ!』といえば炒飯ですから(笑)。でも本当に、どの料理も美味しそうですよね。作中のみんなは、いつも美味しそうなご飯を食べてて良いなぁ、ズルいなぁと思っていました。それをあのスピードで作れちゃうデニスもすごいですよね。
──働きすぎて倒れてしまったところもデニスらしいですよね(笑)。では次に、気になるキャラクターを教えてください。
甲斐田:アトリエです。アトリエもデニスの教えを受けて、ちょっとずつ成長しながら良い料理人になっていきそうだなと思いました。だから、孫みたいな感じですね(笑)。かわいいなぁと思っていました。あまりしゃべらないけど、リアクションがかわいいんですよ。
──台詞が少ないというのは、ある意味演じる役者さんにとっても大変なことですよね。
甲斐田:そうですね。でもアトリエ役の橘茉莉花さんは、いつも一生懸命やっていたから、その後ろ姿を見ながら頼もしいなと思っていました。まるで母のような視点でしたね(笑)。キャラクターもかわいいし、橘ちゃんもかわいかったです。
──そんなアフレコはどのような雰囲気でしたか?
甲斐田:しばしば飲み会が開かれる現場でした。「中入り」のときは結構深くまで飲んだし、「打ち上げ」も原作の君川先生とつむみ先生が来てくださって。そのときも深い時間まで飲んだなぁと(笑)。
──流行り病から明けて、元の生活が戻ってきた感じがあっていいですね。
甲斐田:そうですね。みんな揃って録れていたので、非常に良いアニメだったなと思っています。
──飲みの場ではお芝居のことも話すのですか?
甲斐田:もちろん! 何でも話します(笑)。収録時間より長く飲んでいたので、面白かったですよ。そういう機会があると、スタッフさんのこともたくさん知れるので良い時間でした。
──食堂やレストラン、料理に関する思い出を教えてください。
甲斐田:私は旅行が好きで、旅先で美味しいものを探すのも好きなんです。「もう一度だけでも、あのお店に行きたい!」と思っている寿司屋が一軒、熱海にあって。本当に無愛想なおじさんが切り盛りしていたお店だったのですが、本当に感動したんですよね。
……その後何度か行っているのですが、いつも閉まっているんです。入れたのはその1回だけ。奇跡だったんです。
──どのようなお寿司屋さんだったのですか?
甲斐田:漬けにしてあるか、お塩が少し振ってあるかで、お醤油がないんです。コースのみの提供なのですが、それほど高いわけではなくて。何より美味しくて……また行きたいです。
──そのときの思い出も、料理の美味しさにプラスされているのですね。
甲斐田:それはあると思います。旅先で食べたものとかは印象に残るし、そこで出会った店主も含めて思い出になるんですよね。この仕事をしているので、あまり遠出はできないのですが、伊豆にもまた会いに行きたいなと思えるお店があったりします。
食べ物自体が美味しいという感動はもちろんあるけれど、それを作ってくれた人との出会いが繋がると、余計に良い思い出になる。食事ってそういうものなのではないかなと思います。
──最後に、今後の展開を楽しみにしているファンへメッセージをお願いします。
甲斐田:ジーンの活躍はこれからだと思っています。ジーンとデニス、他のみんなが色々な壁にぶち当たり、ボロボロになりながらも真っ直ぐに突き進んでいくので、成長していく姿を一緒に見守ってください。そして美味しいご飯を食べたいなと思ったら、ぜひテレビの前で一緒に食べてください!
【インタビュー・文:塚越淳一 編集:西澤駿太郎】