「こだわり」を強みに変える!支援者や家族ができること【10/18.19 日本LD学会大会登壇・東京学芸大 藤野博先生に聞く】
この記事で分かること
発達特性のあるお子さんの「特別な興味」を、成長を支える力に変える視点学校や療育の現場で「特別な興味」を学びやコミュニケーションに活かす具体的な支援方法家庭でできる連携のコツと、お子さんの自己肯定感を育む関わり方支援者と保護者が明日からすぐに試せる「はじめの一歩」となる関わり方
2025年10月18日(土)・19日(日)に、「日本LD学会第34回大会」が開催
2025年10月18日(土)・19日(日)に、日本LD学会第34回大会が開催されます。今年のテーマは「一人ひとり自分の学び方との出会いがそこにある-好奇心が伸びていく-」。
LD(学習障害)のある子どもたちの「学び」とどう向き合えば良いのか、多くの保護者の方が日々試行錯誤されていることだと思います。そこで今回、発達ナビでは、今大会の大会企画シンポジウム「よかけん ―発達に特性のある子ども・若者の余暇活動を研究する―」と教育講演「スペシャル・インタレスト ―特別な興味に基づくコミュニケーション支援―」にご登壇される東京学芸大学大学院教育学研究科(教職大学院)教授・藤野 博先生へのインタビューを行いました。発達特性のあるお子さんの「特別な興味」を支援の力に変える視点や、支援者や保護者へ向けたコミュニケーション支援、明日から試せる「はじめの一歩」など参考になる支援方法を多数お聞きしました。
※DSM-5における学習障害は現在「SLD・限局性学習症」と呼ばれるようになりましたが、この記事では大会名に合わせて「LD・学習障害」と記載しています。
「特別な興味」を支援の力に変える視点
LITALICO発達ナビ編集部(以下――):先生は臨床家として子どもや保護者に寄り添い、研究者として専門家を導く、双方の視点をお持ちです。お子さんの「特別な興味」は、時に学校の先生にとっては「集団行動との兼ね合い」、保護者にとっては「将来への影響」といった悩みの種になりがちです。まず、こうした双方の立場からの懸念を、子どもの成長の力に変えるために、なぜ今「スペシャル・インタレスト」という考え方が重要なのかお聞かせいただけますか。
藤野博先生(以下、藤野):発達障害、特にASD(自閉スペクトラム症)の特性をもつ子どもの「こだわり」の問題は、かつては病的な問題としてネガティブに考えられ、「強迫的興味」などと表現されていました。しかし近年、「特別な興味(special interests)」という中立的な表現が使われるようになり、ポジティブな側面にも光が当てられるようになっています。
ポジティブな面として、興味の対象に深く入り込み、知識や技術を深めていく中で社会とつながることができる、つまり一芸に秀でると世の中に居場所ができるということがあります。また、そのことと関係しますが、進路や就労につながる可能性があります。そして余暇の過ごし方が充実し、QOLが高まることもメリットといえます。
教育との関連で言いますと、定型発達の子どもたちの学びの方向が年齢の上昇とともに「広く浅く」から「狭く深く」に向かうのに対し、ASD(自閉スペクトラム症)の子どもはその反対に、「狭く深く」から「広く浅く」に向かっていくという見解があります。つまり、ピンポイントでフォーカスされた興味の対象から、それに関連する物事へと少しずつ知識や関心を広げていくわけです。また、ASD(自閉スペクトラム症)の人たちの「特別な興味」は内発的な動機づけに基づくという知見もあり、彼らの興味・関心を生かした課題の設定ができれば、主体的・自発的な学びにつながることが期待できます。
学校と家庭で実践するコミュニケーション支援
――ご講演では、特別な興味を活かした具体的な支援方法についてお話しされると伺いました。学校や療育の現場で先生方が実践する上でのポイントと、その効果をより高めるために保護者が家庭でできる連携のコツは、どのようなものでしょうか。
藤野:教員や支援者の学校・療育の現場での支援ポイントですが、3点ご紹介します。
まず1点目は「教材や課題に特別な興味を組み込む」ことです。例えば恐竜が好きな子なら算数の問題に恐竜の絵や名前を入れる、電車が好きな子なら国語の文章題に鉄道の要素を取り入れるなどです。2点目としては「コミュニケーションの媒介に活用する」ことです。クラスで「〇〇博士」として発表の機会をつくってあげたり、子どもたちの興味のある共通の話題を通じて友だちとの交流を促すことができます。3点目は「情緒の安定や自己調整のために取り入れる」ことです。強いこだわりがストレスにならないよう興味のあることをスケジュールに組み込み、興味のある活動を安心できる切り替え時間として活用することでストレスを軽減できることがあります。
家庭での連携のコツを4点挙げるとすると、1点目は「学校と同じテーマを共有する」。学校で使った特別な興味の活用例を家庭でも取り入れるたりすると子どもが家でも同じことで認められていると感じやすくなります。2点目は「成功体験を広げる」ことです。興味をきっかけにした学習成果や作品を家庭で展示・共有したり、小さな成果を家族が喜ぶことで子どもの自己肯定感が高まります。
3点目は「視野を少しずつ広げる」です。例えば、電車好きのお子さんでしたら、電車をきっかけに地理・地図・歴史へと関連分野へ触れることのきっかけを促すようなこともできます。最後は「ストレス対処としての活用を理解する」です。特別な興味に没頭する時間は休息の仕方として尊重する、没頭時間を無理に制限せず、バランスをとる工夫を学校と共有する、などの考え方です。
子どもたちに見られた「うれしい変化」のエピソード
――このアプローチを通じて、子どもたちのコミュニケーションや自己肯定感には、実際にどのようなうれしい変化が見られるのでしょうか。先生がこれまでにご覧になった中で、支援者や保護者にとって特に印象的だったエピソードがあれば、ご紹介いただけますか。
藤野:大学で開催している会話型のロールプレイゲームで遊ぶ会で見られたことを紹介します。キャラクターに扮してストーリーを展開していく活動なのですが、自分が決めたキャラクターに仮装するとほかのキャラクターに仮装した子どもたちと自然で自発的な会話が生まれます。日常会話ではほとんど言葉が出てこない子どもでもです。
それから、ゲームの中で、キャラクター同士でなく、ゲームに関する話題で子ども同士の会話が見られるようになります。そして、ゲームが終わったあとに、ゲームの世界の外で、子どもたち同士の会話が生まれてきます。このゲームを体験してから「雑談ができるようになった」「会話が楽しくなった」という子どもたちの声も聞こえてきました。興味の対象(ゲーム、キャラクター)を拠点として、そこからコミュニケーションを広げていった例になるかと思います。
支援者、保護者が明日から試せる「はじめの一歩」は?
――講演に参加された支援者の方や、この記事を読んだ保護者の方々が、それぞれの立場で明日からすぐに試せる「はじめの一歩」となるとしたら、どのような関わり方が考えられるでしょうか。
藤野:こちらも支援者と保護者に向けての関わり方をそれぞれご紹介します。
【支援者(学校・療育スタッフ)の「はじめの一歩」】
1.話題に取り入れてみる
・授業や活動中に子どもの特別な興味のキーワードをひとつ加えてみる。
(例:算数の問題に好きなキャラクターを登場させる)
2.興味を認めて声にする
・「〇〇が好きなんだね!」「それ、すごく詳しいね」と一言添える。
3.交流のきっかけに使う
・「〇〇さんは電車博士だから、教えてもらおう」と友達とのつなぎ役を意識する。
【保護者の「はじめの一歩」】
1.毎日の会話に取り入れる
・「今日は〇〇についてどんなことを考えたの?」と、興味をテーマに会話を広げる。
2.小さな成功を褒める
・興味をきっかけにした作品や発見を「すごいね!」と共有する。
3.関連分野を少しだけ紹介する
・例:恐竜好きなら「この恐竜はどの時代にいたのかな?」「地球の歴史とつながってるね」と自然に広げる。
などが挙げられます。
――最後に、支援者と保護者がより良いパートナーシップを築いていくために、学校の先生方をはじめとした支援者の皆さまと、お子さんの最も身近な支援者である保護者の皆さまへ、それぞれメッセージをお願いいたします。
藤野:まずは支援者(学校・療育スタッフ)の方へのメッセージです。特別な興味は、子どもにとって世界とつながる大切な窓口です。先生や支援者の皆さまが、その興味を尊重し、学びや交流の場に生かしてくださることは、子どもの安心感と成長につながります。保護者と共に、子どもの小さな変化や喜びを共有しながら、一歩ずつ歩んでいける存在であっていただければと思います。
次に保護者の方へ、お子さんの特別な興味は、単なるこだわりではなく、その子らしさと可能性の源です。ご家庭でその興味を受け止め、楽しみ、支援者と共有してくださることが、お子さんの成長を支える大きな力になります。先生や支援者は、保護者の皆さまと同じように、お子さんの未来を共に支える仲間です。安心して歩みを分かち合ってください。
一般社団法人 日本LD学会第34回大会
テーマ:一人ひとり自分の学び方との出会いがそこにある -好奇心が伸びていく-開催:星槎大学会場:国立オリンピック記念青少年総合センター+オンデマンド日時:2025年10月18日(土)~19日(日)
■藤野博先生のご登壇
・大会企画シンポジウム【会場+オンデマンド配信】
10月18日(土)13:40~15:40
「よかけん ―発達に特性のある子ども・若者の余暇活動を研究する―」
企画者・話題提供者:加藤 浩平先生
企画者:藤野 博先生
司会者・話題提供者:日戸 由刈先生
話題提供者:平尾 直志先生
指定討論者:本田 秀夫先生
・教育講演【オンデマンド配信のみ】
「スペシャル・インタレスト ―特別な興味に基づくコミュニケーション支援―」
藤野 博先生(東京学芸大学)
※会場参加の申し込みは締め切りました。オンデマンド参加の申し込みは以下期間で行っております。
2025年10月9日(木)~11月19日(水)
詳細は日本LD学会第34回大会Webサイトをご確認ください。
※ボタンをクリックすると日本LD学会第34回大会公式Webサイトに遷移します
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
SLD(限局性学習症)
LD、学習障害、などの名称で呼ばれていましたが、現在はSLD、限局性学習症と呼ばれるようになりました。SLDはSpecific Learning Disorderの略。