漁師と両立しながらプロに! 引退後もサーフィンを満喫【愛知県田原市】
サーフスポットが点在する田原市に移住し、プロのロングボーダーを目指した那須憲治さん。その道のりは平坦ではなかったが、持ち前の負けん気の強さとポジティブ思考、地域とのつながりが力となり、2009年にプロの資格を取得。引退した現在は、肩の力を抜いて海辺の暮らしを楽しんでいるという。
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掲載:2025年6月・7月合併号
愛知県田原市(たはらし)
愛知県の最南端に位置し、景観が美しい田原市。年間を通じて温暖で日照時間が長いため、全国屈指の農業産出額を誇る。観光農園も多く、夏はメロン狩りが人気。東名高速道路浜松西ICより田原市街地へ車で約1時間10分。
田原市で築いた人の輪が仕事も呼び寄せた
那須憲治さん
1979年、岐阜県多治見市生まれ。2001年、田原市に移住し、09年〜17年にプロのロングボーダーとして活躍。家族はサーフィンを通じて出会った妻と、3人の子。サーフィンと両立しながら漁師・農業に従事していたが、24年に市内のウナギ卸売会社に転職。たはら暮らし定住・移住サポーターも務める。
愛知県南端に広がる渥美半島。田原市には太平洋ロングビーチなど安定した波が打ち寄せるサーフスポットが点在し、各地からサーファーが訪れる。那須憲治さん(45歳)も20歳から田原市でサーフィンを始めた。
「当時はサーフスタイルが流行していて。実際にサーフィンをやったらモテるんじゃないかという動機で始めました」
そう笑う那須さんだが、サーフィンの難しさに直面。負けん気に火がつき、練習に没頭。休日は岐阜県から往復5時間かけて田原市に通った。那須さんがプロのロングボーダーを志すようになったのは、世界を代表するプロの技を目の当たりにしたことから。
「その方のサーフィンがあまりにすごくて衝撃を受けました。それで自分もあんなふうになりたいと、当時所属していたショップの店長に相談したら、『移り住んで毎日練習をしなければうまくならないよ』とアドバイスが返ってきたのです」
2001年4月、隣接する豊橋市の企業の派遣社員になり、社宅で暮らす段取りを整えた。ところが、当初聞いていた勤務時間と話が違い、毎日海に入れないことが判明。これでは移住した意味がないと退職してしまう。住む場所を失った那須さんだったが、1カ月半ほど車中泊をして練習を継続。そんな姿を見て、仕事を紹介してくれたのがサーフィン仲間だ。
その仕事とは、シラス漁師。日の出とともに出航し、早朝から沖でシラスを獲るという一見過酷に思える雇用条件だが、那須さんは「14時には仕事が終わるから、練習の時間が取れる」
と前向きだった。また、仕事を始めてからもしばらくは車中泊やプレハブ小屋暮らしが続いたが、知人から古民家を紹介してもらい、海との距離が近い環境を整えられた。
毎日サーフィンの練習を繰り返す日々を送った那須さん。09年には狭き門であるプロの資格を取得。大会の賞金やスポンサードを受けることもでき、生活の基盤はできた。だが、那須さんは漁師の仕事を続け、15年からは畑を借りて、農業も営み始めた。
「生活をすることはできたのですが、家族のための貯金や子どもの学費のことを考えたら、プロと並行して働いたほうがいい。シラス漁は年間100日しか稼働しないので、空いた時間を活用できないかと考えたのです」
プロとして活動した期間は、暇があれば海に入って練習をしていた。引退後は、2日に1 回くらいのペースでサーフィンを楽しんでいる。
「これまでサーフィン仲間や地域の人たちに助けられてきた」と那須さん。
パワフルに活動してきた那須さんだったが、現役引退を考えるようにもなった。
「ただ、中途半端に終わるのは嫌だから、最後の1年は年間で5戦ある大会すべてに出場することを決めました」
湘南、千葉、バリ島などを巡り、サーフィンにすべてを捧げた1年。目標としていたトップシードには入れなかったが、「順位がよくても悪くても引退することは決めていた」と、那須さんの心に後悔はない。17年にプロを引退した。その後も漁師、農家は継続していたが、24年に変化があった。サーファー仲間に誘われ、田原市内のウナギ卸売会社に転職することになったのだ。仕事はウナギの選別、総務と多岐にわたる。
「初めての仕事ということもあって、うまくいかないことも多いですが、新しい挑戦は全部楽しい。今、自分が楽しく暮らせているのは、田原で出会った人がいたからこそ。今後も地域のコミュニティは大切にしていきたいですね」
24年からサーファー仲間が経営する田原市内のウナギ卸売会社に勤務。「社長の人柄が転職の決め手。社会保険に加入できたこともよかったと思っています」と那須さん。大学1年生、高校2年生、中学1年生になった子どもたちのためにも仕事に精を出す。
田原市の魅力はここ!
◎ 肉や野菜がおいしい。 ◎ 伊良湖の先端から見る夕景など、景色が素晴らしい。
リゾートエリアでの田舎暮らしへのアドバイス
手に職を持ってから移住することをオススメします。美容師、溶接などジャンルは問わないので、何かしら技術があると生活の基盤が築きやすいと思います。また、地域の人との付き合いは大切にしたほうがいい。距離が縮まると、親切な人が多いことに気づかされます。
• 那須さんのとある一日 •
5:30 … 起床、朝食。
6:30 … 出社。
7:00〜16:00 … 仕事(休憩は変則的にある)。
16:00 過ぎ〜… アプリで波をチェックしてサーフィンへ。気分が乗らない日は帰宅して家族と過ごす。
18:30…夕食。
22:00… 就寝。
田原市 移住支援情報
支援制度も充実! 渥美半島での暮らしを実現しよう
愛知県の最南端に位置し、年間を通して温暖な気候と平均気温の高さに恵まれた田原市。全国屈指の農業と花のまち、そしてサーフスポットの多さで知られている。行政と地域、そして、先輩移住者による「たはら暮らし定住・移住サポーター」が連携し、仕事や住まいに関する相談や、移住後のサポートに対応。住宅取得への奨励金のほか、就農や創業、子育てなどの支援事業にも注力している。
問い合わせ/企画課地域戦略係 ☎0531-27-7978
4人の「たはら暮らし定住・移住サポーター」が田原への移住をお手伝い(左から2人目が那須さん)。
「お試し移住支援補助制度」では、宿泊費とレンタカー借り上げ料の一部を補助。
「ぜひ『田原市お試し移住制度』を活用し、海や自然が身近な生活を体験してみてください。その際には、先輩移住者の『たはら暮らし定住・移住サポーター』が移住相談などのお手伝いをさせていただきます」
企画課 鈴木 颯さん
文/横澤寛子 写真提供/那須憲治さん