時間割は子どもたちで…川でタニシ、馬とふれあい「遊んでいるだけに見えるかもしれないけど…」学校の新たな選択肢
新たな選択肢の学校が出てきています。
オルタナティブスクールという学校をご存じでしょうか?
定義はしっかりと決まっていませんが、これまでの公立学校と違い、民間などが独自の方針で運営していて、様々な事情があって学校に行けない、行かない子どもたちが通うものです。
不登校などの子どもが通う「フリースクール」も含まれるとされ、「オルタナティブスクール」をうたう学校教育法で認可された私立もあります。
なぜ子どもたちは通うのか、保護者がどんな思いなのか、新しくできた北海道内の現場を取材しました。
北海道浦河町に住む、田岡陽の出ちゃん(8)。
春休みが終わり、この日から学校が始まります。
小学3年生になった陽の出ちゃんが向かうのは、地元の公立小学校…ではありません。
1年前に開校したオルタナティブスクール「フレンド森のがっこう」です。
オルタナティブとは「代わりの」という意味があります。
不登校の子どもだけでなく、どんな理由があっても通うことができる学校です。
まずは朝のミーティング。スタッフの本宮万記子さんと話し合います。
「カエルを見たい、さっきタニシ捕まえたところに行きたい」
時間割を決めるのは子どもたち。
森のがっこうは、国語や算数など教科書を使った授業は行わず、子ども達が自分でやることを決め、自発的に行動することを重視しています。
この日、子ども達が決めたのは、週に3回やってくるアメリカ人のクリスさんとのイングリッシュパーティーです。
英語の歌を、歌詞カードを見ながら歌い、歌を通して英語と触れ合います。
次は、子ども達の大好きな川遊び。
陽の出ちゃんと楓ちゃん(8)が探しているのは「タニシ」です。
川の探索は、お手の物。
一方、池に入ったのは小学2年生の武志(7)くん。
カエルを捕まえました。
自然と目いっぱい触れ合った3人は、馬のエサ用にふきのとうをとり、ビニールハウスに戻ります。
一見、ただ遊んでいるようにしか見えないのではないか…スタッフの本宮さんもそう感じていた部分があったといいます。しかし…
「ここにいる子どもたちは自分たちで何が面白いか、自分はどうしていきたいかって常に自分や仲間の気持ちと向き合いながら、どんどん面白い話を展開していく。プロセスがあるなって感じたんです」と話します。
子どもたちが「やりたい」と言えば思う存分やってもらうようにして過ごしているんです。
子どもは生き生き、でも勉強は…親の葛藤
両親がいちご農家をやっている陽の出ちゃん。
大人数に囲まれるのが苦手で、森のがっこうに来るまでは、小学校の支援学級に通っていました。
「ちょっと勉強やテストが難しくて、悩みすぎて、大変だった」と陽の出ちゃんは話します。
支援学級に行けなくなってしまった、そんな時。
森のがっこうが開校し、通うことにしました。
通い始めてからは大きな変化があったといいます。
陽の出ちゃんのお父さんの田岡秀幸さんは「すごく嫌だ嫌だって言っていた学校よりも森の学校の方が、ものすごく行きたくて行きたくて、夏休みも冬休みも休みない方がいいっていうぐらい」と教えてくれました。
絵が好きな楓ちゃんは、学校が終わると家でタブレットで絵を書くなどして過ごしています。
そんな姿を見守りながら、母の野田知絵さんは「ちょっとくらい掛け算やってみたらとか、漢字ちょっと書いてみたらとか、結構言う」のだとか。
小学校とは、教育方針や、学び方は大きく異なるため、勉強に対する不安な気持ちは残っているといいます。
「同じぐらいの年齢の子とやっぱり勉強に関してはできることが違うので、そこはやっぱり不安で心配だなって」
ジレンマ抱えながらも
「フレンド森のがっこう」に通う子どもたちは、もともと通っていた小学校に在籍したまま。現在は欠席扱いとなっています。
地域との連携、教育委員会や学校との連携はできているとはいえない状態。
できる限り、勉強面でサポートができるよう働きかけるのは、保護者に任されているのが現状です。
それだけに頭を悩ませています。
週に一度程度、在籍している学校からお便りや宿題を持ち帰ると、野田楓ちゃんのお母さん、知絵さんは「やってみない?」と声をかけて促してみるといいます。
ただここでは、教科書を使った授業はせず、自然を活用しながら自分たちのやりたい活動を行うことで、主体性などを身につけることを重視しています。
午前中、野山を駆け巡ると、「午後は進級を祝うパーティーがしたい」と楓ちゃんが提案しました。
買い出しはどうするか、何を食べたいか。
楓ちゃんは以前は、自分の意見を述べることが苦手だったといいますが、ここに通ってからは積極的に意見をだせるようになりました。
「小学校は楽しかったけど、ずっと座ってるのが嫌だった。森のがっこうは、森に行ったり、馬の世話も一緒にするから楽しい」といいます。
母の知絵さんは「すごく元気になって、何でも堂々とチャレンジできるようになった」と目を細めます。
無理やり小学校に行かせても、全然いいことはない。
心が元気で、1日1日が楽しくて充実しているのはすごく良いこと。
「勉強」についての不安と、のびのびできて笑顔あふれる今の環境。ジレンマを抱えながらも、「今の環境を一番にしたい」と話します。
勉強は、決して無理強いしないながらも、サポートしていこうと考えています。
子どもたちは、一日の終わりにその日を振り返り、「明日も楽しみ」と口にしながら、学校をあとにします。
新たな学びの場は広がる
「オルタナティブスクール」は新たな選択肢の学校として、少しずつ広がっています。
北海道内でもオルタナティブスクールをうたう学校は、この2年間で札幌市や上川町、長沼町でも設立されています。
子どもの自主性を大切にしながら独自の教育方針で子どもの成長を促す「オルタナティブスクール」。
「フレンド森のがっこう」の伊原康史(いはら・やすし)代表は、子どもの幸せが1番、勉強は2番という考えを大事にしています。
諦めない力、考える力など成績やテストといった数字では表すことの出来ない能力を養う場所にしたいと話しています。
また「フレンド森のがっこう」では、大学の教授などを招いて特別開校日を設けたり、海外の子も参加出来る体験会や留学を受け入れているということです。
なおここに通う子どもたちは、もともと通っていた小学校に在籍したままで、現在は欠席扱い。
地域や学校との連携はあるとはいえず、保護者は月2万円を「森のがっこう」に支払って通わせています。
「森のがっこう」も企業からのサポートやクラウドファンディングで経費を賄っているということです。
北海道教育委員会は「フリースクール等の教育施設は学校に通えない子どもにとって重要な役割を果たしていると思う」と理解を示す一方、オルタナティブスクールの実態は把握しきれていません。
今後は「道教委としての対応を検討する」としています。
教育の歴史に詳しい日本大学法学部の香川七海准教授は、「従来の、不登校の子が通うフリースクールだけでなく、新たな学びの場を作るべきだと考える人が増えている、今後も全国でオルタナティブスクールのような教育施設は増えていくと思う」と話しています。
子どもたちにとって選択肢が増えることになるオルタナティブスクール。
一方で、地域との連携や、学習面を含め、将来まで切れ目のないサポートをどうしていくのか。課題も見えてきています。
日本の教育にどんな変化をもたらすか、今後も注目です。
文:HBC報道部
編集:Sitakke編集部あい
※掲載の内容は「今日ドキッ!」放送時(2024年4月22日)の情報に基づきます。