【掛川市の広域アートフェスティバル「原泉アートデイズ!」】アーティスト・イン・レジデンスの成果発表。中山間地に各国から俊英が集合
静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は11月6日に掛川市の原泉地区で開幕した広域アートフェスティバル「原泉アートデイズ!」を題材に。開幕2日目の11月7日に展示作品を訪ね歩いた。(文・写真=論説委員・橋爪充)
掛川市北部の中山間地で行われる「原泉アートプロジェクト」の作品発表会である「原泉アートデイズ!」は8回目。今年は日本を含む六つの国と地域のアーティスト8組が参加した。旧茶工場や商店、神社での作品展示のほか、各種パフォーマンスやワークショップを行う。
アーティスト・イン・レジデンス(滞在型制作)で知られる原泉アートプロジェクト。今年のテーマは「幸福への祈り」だ。早いアーティストは夏過ぎに来日し、原泉地区で生活しながら制作を行った。
地区内に点々とする作品を巡った。民俗学研究者の山本拓人は、商店としての面影を残す旧田中屋に「集い-ケ-」を展示。地域の人々への聞き取りを通じて構成した「祭り」をテーマにしたインスタレーションで表現した。来場者も対話の当事者として想定しており、作品内に言葉を残すことを求められる。
米ニューヨークのマルチメディアアーティストのモス・バスティールの「驟雨」は、民家の10畳間を使った作品。天井から赤い糸につるされた木炭とガラスの破片が、「何か大きな破壊」の直後を感じさせた。
井口貴夫(沼津市出身)は、八幡宮神社の境内全体を使った「こちら側/向こう側」を公開した。クラフト紙を使った大型のフロッタージュが社務所の天井からつるされている。周囲の地面を鉛筆でこすり取った「痕跡」が地上から持ち上げられて風に揺れる。「水平」を「上下」に変換。他のアーティストらの手形を表裏に押した半紙群は右左の手を合わせる「平和の祈り」をイメージさせた。
旧原泉第2製茶工場ではフランスを拠点にしたチリ人2人のユニット「EBC-223 EXPANSIVE BONELESS COLLECTIVE」が映像、サウンドアートを組み合わせたインスタレーション「マグマの後に、花が咲く」を展開。不規則に打ち鳴らされる金属音を発するむき出しの音響機材の横には、茶畑に設置される防霜ファン約10基がそれぞれバラバラなスピードで回転している。茶が収穫され、整えられていく場所だった製茶工場の記憶を「無秩序」で上書きしようとしているように見えた。彼らはこの場所で11月16日午後2時から「IGNEO(イグネオ)」と題したパフォーマンスを行う。
昌光寺にはドイツ出身のマルチインストゥルメンタリスト、ルーカス・カンネマンの世界が広がる。前庭に構築された竹の構造物に導かれて畳敷きの本堂に上がると、本尊があったであろう場所が竹の壁で覆われている。絶えず流れるアンビエント音楽は、本人が機材を操って現場でつくり出していた。アーティストと観覧者の距離が近い「原泉アートデイズ!」を象徴するような作品だった。
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■原泉アートデイズ!
会場: 掛川市原泉地区全域
受付場所:旧原泉第2製茶工場(掛川市萩間702)、旧田中屋(掛川市黒俣545-1)
入場料:ドネーション(寄付)方式
会期:11月30日(日)までの木、金、土、日曜。午前10時~午後4時
※イベントやワークショップの日程は公式サイト(https://haraizumiart.com/artdays/)参照。