思いも一緒に刺繍する。柏崎で続く刺繍とプリント加工会社「新潟刺繍」。
柏崎にある、創業40年目の「有限会社新潟刺繍」は、刺繍加工とプリント加工というふたつの事業をメインに展開する会社です。製品のデザイン・企画提案から携わることもあり、最近では「オイシックス新潟アルビレックスBC」のレプリカユニフォームを手掛けたんだそう。代表の野口さんに、会社のことや刺繍・プリントの仕事をする中で大切にしていることなど、お話を聞いてきました。
有限会社新潟刺繍
野口 貴広 Takahiro Noguchi
1992年柏崎市生まれ。高校卒業後、東京の大学に進学。その後、新潟の専門学校で経営を学ぶ。卒業後、父親が経営する「有限会社新潟刺繍」へ入社。2019年、代表取締役に就任。
刺繍・プリント加工の会社を経営する若き2代目代表。
――「新潟刺繍」さんはどういうお仕事をされている会社なんですか?
野口さん:繊維関係のものへの刺繍加工やプリント加工を請け負っている会社です。近年だと加工だけではなくて、その上流工程のデザイン・企画のところからご提案させていただいています。
――刺繍やプリントといってもいろいろあるとは思うんですけど、特に得意な分野ってあるんでしょうか。
野口さん:弊社のルーツが「着物の刺繍」という関係上、今でも仕事の半分以上は着物への刺繍です。会社として「着物の刺繍をやっています」と謳っている会社が、全国を探してもなかなかないんです。あとはスポーツウェアだったり、企業さんのユニフォーム・作業着やアパレルだったりに加工することも多いです。
――ホームページに書かれていた「金駒刺繍」というものも着物の刺繍技術のひとつのようですけど、珍しい技術なんですか?
野口さん:珍しいですね。太い金の糸を使うんですけども、糸が太いのでそもそも針穴に通らなくて、普通の刺繍屋さんだとできない技術なんです。うちは専用設備があったりノウハウを持っていたりするので、金駒刺繍ができます。実際に刺繍したものを見てみてください。
――わ〜きれい! 金色の糸だから、着物がさらに華やかになりますね。
野口さん:ありがとうございます。豪華さとか絢爛さが出ますよね。日本では着物にしか使われていない刺繍だと思うのでかなりニッチですし、特殊な技術になります。
――こういう着物のお仕事は、着物メーカーから依頼があって受けているんでしょうか?
野口さん:そうです。長い反物の状態でうちに着物が来ます。実は十日町市って京都に次ぐ着物の総合産地だといわれていて、着物のメーカーさんが十日町に集積しているんです。柏崎は隣なので昔から依頼をいただいていて、今もずっと続いているんです。
ユニフォームの企画・デザインから提案。
――商品の企画やデザインにも携わるようになったのは、ここ数年のことですか?
野口さん:私が代表になってからです。それまでは、お客様のイメージがすでに固まっていて、その通りに加工するという仕事を多く承っていました。でも最近だと「商品を作りたいけど何からはじめたらいいのか分からない」とか「デザインができない」とか、そういう方も多いというところに注目しまして。ここ数年の間で、デザインや提案もしはじめました。
――最近だと「オイシックス新潟アルビレックスBC」のユニフォームを作っていましたよね。それも企画から携わったもののひとつですか?
野口さん:そうです。特別なレプリカユニフォームになっていて、通常だと背番号と選手の名前が入るだけのユニフォームが多いんですけども、選手が活躍しているシーンを収めた写真をデザインに使いました。
――サポーターには嬉しいデザインですね。
野口さん:それと、「チームに所属している全員分のグッズを作りましょう」という提案をさせていただきまして。というのも、こういうグッズはレギュラー選手のものしかないことが多いんです。でもアルビさんが「⽇本プロ野球の⼆軍リーグに参加する」という話を聞いて、せっかくのチャレンジの年ならチーム全体を応援していきたいよねっていう思いがありました。
――アルビのユニフォームですし、反響も大きかったんじゃないでしょうか。
野口さん:SNSとかで、購入されたお客さんの声を制作に携わったスタッフも目にして。そういうお客さんの声がスタッフに届くことによって、自分たちがやっている仕事の意義を感じたり、「もっとこういう提案をしたい」と思えたりしますし、スタッフの意識向上につながっているのを感じます。
――メーカーから受ける仕事だと、実際に商品を手に取る方から直にリアクションを貰う機会って、きっとほとんどないですよね。
野口さん:おっしゃる通りで、着物の仕事ってメーカーさんから評価のお声はいただくんですけども、それを着た方が喜んでいる姿とか、「この柄、素敵だね」と言っている姿とかはなかなか見ることができないんですよね。だから、自分が素晴らしい製品を作っているっていう実感を得にくいんです。今回の仕事ではそういうお客さんの声を直に耳にしたり、目にしたりする機会をいただけたので、すごく価値があったなと思います。
――野口さんはこのお仕事をしていて、どういうときに喜びを感じますか?
野口さん:出来上がった製品を見たときに、「かっこいい」とか「きれい」と感じるものが生まれたことに、純粋な喜びを感じます。それに、作ったものが最終的にお客さんの元へ渡って、お客さんが同じ感情を抱いてくれるであろうことにも喜びを感じますね。実際に手に取ったお客さんの気持ちを想像すると、それだけでも嬉しいです。
――自社の製品をそれだけ誇れるって素敵なことですね。
野口さん:社員自身も、自分が携わった製品ができたときは絶対に「かっこいい」って感じると思うんですよね。アルビのユニフォームに携わった女性スタッフも、最初は野球のルールも知らなかったんですけど、今は毎試合の結果が気になるくらいには興味を持っていて(笑)。それって自分が携わっている仕事自体に興味を持って、さらにその先まで興味を持ったっていうことだと思うので、それは私としてもすごく嬉しいですね。
人の思いや誇りを引き立てるのが自分たちの仕事。
――このお仕事に携わる中で、大切にしている思いはありますか?
野口さん:着物の中でも振袖を例に出すと、成人式で振袖を着るということは、一生に一度の舞台に立って、これからの未来に思いを馳せると同時に、成人になったことに誇りを持つっていうことだと思うんです。そういうふうに、いろいろな思いを持って成人式に臨む方の「晴れの舞台」をより引き立てるというか、輝かせるような存在が振袖であり、私たちがやっている刺繍なんだという認識でやっています。
――自分たちが刺繍した振袖が、誰かにとって一生に一度の思い出になるわけですもんね。
野口さん:企業の作業着も同じです。胸に社名や名前が入った作業着を着て仕事に従事するっていうことは、自分の仕事や会社に対して誇りを持って、それなりの覚悟と思いで働いているっていうことだと思うんです。だから刺繍・プリントはその人の誇りやプライドを引き立てて、思いを体現する存在でありたいなと思います。
有限会社新潟刺繍
柏崎市茨目3-11-20
TEL:0257-24-9911