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富山で小中高生の創作劇上演へ 沖縄から移住した演出家の思い

HUB沖縄

「オヤケアカハチ〜太陽の乱〜」を演じる子どもたち

 沖縄県内外、各地で行われている現代版組踊舞台の指導を手がけ、「肝高の阿麻和利」を皮切りに「現代版組踊オヤケアカハチ〜太陽の乱〜」など約15年間、舞台演出や子どもたちの居場所づくりに取り組んできた、比屋根秀斗さん(36)=うるま市勝連出身=。今年5月から、富山県氷見(ひみ)市で小中高生が演じる地元の歴史や文化芸能を題材にした創作劇を創っている。なぜ富山県で小中高生の舞台を作ることになったのか、プロジェクトにかける想いなどを語った。

地域おこし協力隊として舞台制作

 氷見市では、新文化交流施設として「氷見市芸術文化館」が10月にオープンする。その大きな目玉となっているのが、前述のオリジナル創作劇だ。

 比屋根さんは5月に総務省のプロジェクト「地域おこし協力隊」として氷見市に着任し、その舞台指導にあたっている。7月から舞台ワークショップが始まり、氷見市芸術文化館で来年夏に初演開催を目指す。

沖縄本島や石垣島、大阪で舞台指導

 比屋根さんは中学1年生の時、「現代版組踊 肝高の阿麻和利」の立ち上げ期に携わり、中学3年生から高校卒業までの4年間、「2代目阿麻和利」として主役を演じた。

 与勝高校を卒業した後は、慶應義塾大学総合政策学部に進学。在学中から舞台指導に携わり、その後、「現代版組踊オヤケアカハチ〜太陽の乱〜」など現代版組踊舞台の指導を約15年近く手がけ、県内のみならず大阪府内でも舞台演出や子どもたちの居場所づくりをやってきた。

「オヤケアカハチ〜太陽の乱〜」を演じる子どもたち

「肝高の阿麻和利」が繋いだ縁

 氷見市から比屋根さんのもとに、舞台作りのオファーがきたのはあまりにも突然のことだった。

 「富山県がどこにあるのか、氷見市がどういう地域なのか、何も分からなかった。そこに暮らす自分の姿も全く想像がつかなかった。一度は辞退も考えた」と比屋根さん。

 しかし20年前、比屋根さんを主役に勝連城跡で行われた「現代版組踊 肝高の阿麻和利」を氷見市芸術文化館総合プロデューサーの河出洋一さんが観劇していて、感動しているということを知り、心が動き始める。

 河出プロデューサーは比屋根さんに対し、同作品を観た時のことを「市民がこれほど情熱をもってやる作品があるのかと心に残っていた。ずっとやりたいと思っていたができずにいた。氷見でやりたい」と明かしていた。

 比屋根さんは「舞台を見られてそれがきっかけとなって今に繋がっていると話を聞いて、大事にしたい縁だと思った」と胸の内を話す。

うるま市の中高生が演じる「肝高の阿麻和利」(肝高の阿麻和利公式ホームページより)

故郷と重なる思い

 決意の裏には、氷見市での出来事も。

 「氷見の子どもたちは、高校を卒業して都会へ出たきり、氷見には戻ってこない」
 「何もない田舎だから、誰も戻って来たがらない」

 地域の人の話を聞けば聞くほど、生まれ故郷、うるま市勝連に重なるものがあった。

 比屋根さんが小学生の時、与勝地域の出身だと知られると、軽く馬鹿にされるように感じていたといい、出身地を隠して過ごしていた。自身も「大人になったら勝連には絶対戻ってこない」と強く思っていた。

 しかし、中1で「肝高の阿麻和利」に出会って活動していく中で、その価値観が180度変わった。自然と自分の地域が誇りに思えるようになった。

 「こんな田舎の子どもたちに何ができるんだ」「こんな何もない地域で、舞台なんて」。肝高の阿麻和利を立ち上げる時もあった声。それでも地道に1年、2年と舞台を続け、気付けば20年以上経った今も活動が続いている。

 「氷見でも舞台表現を通して、地域を盛り上げることができるんじゃないか」。自身の実体験から、思い切って氷見への移住を決めた。

比屋根さん原案・脚本・演出・主演・制作の舞台「命ぬ紬詩」

新たな地で子ども達が輝ける居場所を

 着任して約1ヶ月半。現在は脚本を作りながら、今月7月から始まる舞台ワークショップの準備中だ。

 「『(芸能が根付く)沖縄だからできた』ではなくて、子どもたちの元々もっている素質を見て、光を当てることができれば地域は関係ない。地域それぞれのオリジナルの文化、歴史が根付いているので、そこに焦点を当てて、その文化歴史と子供達がしっかりと交わることができれば、沖縄だからとか、芸能があるないとかは関係ない」と比屋根さんは話す。

子どもたちと田植え体験に参加する比屋根さん=富山県氷見市

 また、比屋根さんは抱負を語る中で「子どもたちの居場所作り」という言葉を何度も口にした。

 「舞台作りは、エンターテイメントでありながら、居場所作り。ただ演技が上手くなる、ダンスができるじゃなくて、新しい形の『居場所を作りたい』が大きな目標。学校と家以外の自分だけの居場所があることが重要だと体感してきた。その機会を少しでも多くの子どもたちに作っていきたい」と実体験から話す言葉には重みがある。

 地域の歴史や文化を知り、演じることで、地域に対する誇りが生まれ、故郷が本当の意味での自分の居場所となる。

 「何もないと思っていた自分の故郷が、実は魅力に溢れた地域だったと氷見の子どもたちにも気付いてもらいたい。氷見でも、子どもたちの居場所となれる舞台、自分への誇りを取り戻せる舞台を目指して取り組んでいきます」

 うるま市勝連から生まれた「肝高の阿麻和利」。その経験を胸に、新たな地で子どもたちが輝ける場所を創る。

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