「いちばん大切にしたことと聞かれたら“どこまでも愚か者であること”」――冬アニメ『TRIGUN STARGAZE』ついに始動。ヴァッシュ役・松岡禎丞さん、 ウルフウッド役・細谷佳正さんが語り合う“最終章”
内藤泰弘先生による人気ガンアクションコミック『トライガン』を、スタジオ・オレンジがフルCGで新たに描き出したオリジナルアニメ『TRIGUN STAMPEDE』。その系譜を受け継ぐシリーズ最終章『TRIGUN STARGAZE』が、2026年1月10日よりテレ東系列で放送される。
物語の舞台となるのは、『TRIGUN STAMPEDE』から2年半後の世界。ヴァッシュたちの新たな旅路を描くシリーズ完結編として、あの衝撃的な結末の“その後”が、いよいよ明かされようとしている。今回は、ヴァッシュ・ザ・スタンピード役の松岡禎丞さんと、ニコラス・D・ウルフウッド役の細谷佳正さんにインタビュー。それぞれのキャラクターへの想いはもちろん、互いの存在などについてじっくりと語ってもらった。
※大きなネタバレはありませんが、作品序盤の描写に触れる箇所がありますので、気になる方はご注意ください。
【写真】冬アニメ『TRIGUN STARGAZE』松岡禎丞✕細谷佳正対談インタビュー
再びヴァッシュを演じる不安と覚悟
──前作『TRIGUN STAMPEDE』(以下『STAMPEDE』)が衝撃的な形で幕を閉じてから、ついにシリーズ完結編『TRIGUN STARGAZE』(以下、『STARGAZE』)が動き出しました。序盤から衝撃的な展開ですが、脚本を読まれた際の印象をお聞かせください。
松岡禎丞さん(以下、松岡):第1話から完全に頭がバグること間違いなしですね(笑)。原作をご存じの方なら分かっているとは思うのですが「あれ、なんかおかしくないか」と感じるはずです。特になぜヴァッシュがエリクスと呼ばれているのか、ホッパードとの絡みとか。でも、その一筋縄でいかないのが『TRIGUN』なので。物語が進むうちに「ああ、そういう意味だったのか」とわかっていくと、もうどこに感情を置いたらいいのか分からないみたいな。
細谷佳正さん(以下、細谷):武藤健司監督が『STAMPEDE』は「偉大なる欠陥品」とお話されていたように、荒々しいパワーを持って、一筆書きで描き切る武藤監督の美学が込められている作品だと感じていました。
動画配信サービスで配信するところから始まっているのもあり、日本だけでなく世界中のアニメファンに向けて作品を作っている空気を感じていました。
『STARGAZE』は日本での地上波放送から始まることもあって、幅広いアニメファンの皆さんに対して、ストーリーの完結を分かりやすく、丁寧に伝えていこうとしている印象を受けました。
──再びヴァッシュとニコラスを演じるにあたって、おふたりのなかではどのような心構えがありましたか?
松岡:実は前作を終えた時点で僕自身は「これで完結したのかな」と思っていました。「最終章をやる」と聞いて、そうなのか、またあの日々が戻って来るのかと。あらためて映像を見返すことはありましたが、(アフレコ以外で)ヴァッシュという人物を演じる機会はそんなに多くはなかったので、最初はものすごく不安でした。特に精神的に核が抜け落ちてしまったようなヴァッシュで始まるので、最初の一言をどう言えばいいのか。とても怖いことでもありました。でも、現場でつくっていくものだと、ある種割り切って、演じてはいけましたけど……とはいえ、仲間たちと再会するまでは手探り状態でしたね。特に今回はジェシカと行動を共にする場面が多くありました。一方で、敵と相対しているときは「誰かヴァッシュのもとに早く来てくれないかな」と思うような気持ちもありました。
細谷:今作の『STARGAZE』でニコラスが登場するシーンが観ている人を“安心させる”ような演出になっていると感じました。ヴァッシュが年月を経た変化を見せる一方で、彼は以前と同じ姿で同じ様に砂漠を歩いていて、毎度おなじみというか。その“既視感”が、前作を観てくれた人を含め安心させる演出だと感じました。
──緊迫感のある展開の中、ウルフウッドの変わらない姿を見て、確かにホッとするところがありました。
細谷:そういう意味でも『STAMPEDE』を観てニコラスを好きになってくれた作品ファンの皆さんが 「望んでいるであろうニコラス像」を守ることを望まれているんだろうなと、演出から感じていました。作品的にも話の本筋はヴァッシュとナイヴズの物語の決着なので、その物語に“花を添えていくような”立ち位置なんだと思いました。
──ところで、さきほど松岡さんから前作で完結かと思っていたというお話がありましたが、細谷さんはどうだったのでしょう?
細谷:僕も前作で完結したと思っていました。『STAMPEDE』がマルチバースの世界観で描かれていたのでその作品に“続編” があるとは思わなかったです。
──おふたりがそれぞれ演じるうえで、最も大切にされた“軸”のようなものを教えてください。
細谷:先程も申し上げましたが、前作『STAMPEDE』を観てくださったアニメ・作品ファンの皆さんに望まれるキャラクターであるということです。
──まさに俯瞰で考えられていたんですね。松岡さんはいかがでしょうか。
松岡:ヴァッシュって、どこまでも“優しさ”で突き進むじゃないですか。でも、それって決して良いことばかりじゃないと思います。人を助けられることもあるけれど、優しいがゆえに妙に反感を買ったり、理解されなかったりもする。なぜか優しい人ほど、反感を買いやすいところがありますから。それでも、優しさを捨ててしまったらヴァッシュじゃなくなる。だからいちばん大切にしたことと聞かれたら、「どこまでも愚か者であること」。どんなに愚かに見えようと、どんなに「愚者」と言われようと、その優しさを貫き通していくっていうのは考えていました。
“現実は甘くない”ニコラスと、“平和を信じる”ヴァッシュ
──せっかくのおふたりの取材なので、ヴァッシュから見たニコラス、ニコラスから見たヴァッシュ、それぞれをどう捉えているのかを教えてください。
細谷:ニコラスは孤児院の子どもたちを助けたいという目的があります。“ただ、自分が思う様にはその子たちを助けられていません。それがニコラスの中に満たされない部分として存在しています。
「現実は厳しく、綺麗事では他人は救えない」という考えで生きていますし、その考えって強いんですよね。理想を謳えば世の中を知らない奴だと言われやすく、現実を突きつければ反論されにくい。
──正論でねじ伏せるというか。
細谷:ニコラスは現実主義を盾にして常にモノを言うんですね。でもヴァッシュにはその言葉がまったく響かない(笑)。ヴァッシュは超然としていて、理想主義。それが愚かに見える時もあると思います。
でも、僕にはヴァッシュが達観しているように見えるし、ニコラスは自分の不満を他人にぶつけている子供の様にも見えます。
ヴァッシュの精神性が高すぎて、ニコラスはイライラするんだなと。ヴァッシュを現実主義的な言葉や意見でコントロール出来ないし、ニコラスの当たり前の外にヴァッシュは存在しているから。
──松岡さんはどうですか?
松岡:……細谷さんのお話を聞いたあとだと、ちょっと言いづらいですね(笑)。
いや、でも、本当に……ヴァッシュから見たウルフウッドって、ものすごく“割り切っている人”なんです。なんて言ったらいいんですかね……目的のために手段を選ばず動くことができる。でも、それはヴァッシュには絶対にできないことなんですよ。例えば、孤児院のあの体制を分かった上で手を組めるかと言えば、ヴァッシュは組めない。でもウルフウッドは割り切って手を組んでる。それがヴァッシュ的には、ないものねだりじゃないですけど、自分もそんなふうに割り切れたらいいと思いながらも、ウルフウッドにはなれないと思っているんじゃないかなと。
たとえばリヴィオの時も、本当に苦しかったと思います。血はつながっていないけれど、弟のように思っていた存在に銃を向けられるかといったら、ヴァッシュにはできないんです。でもウルフウッドは、そこを割り切った上で「ここでコイツを止めなければいけない」と、身内だとしても引き金を引ける。その強さはすごいなって。それとまた、細谷さんも言っていたように、ウルフウッドって……ヴァッシュの痛いところを突いてくるじゃないですか……。
松岡:しかもヴァッシュにも心当たりがあるからこそ、自分の行動が引き起こしている現実を理解しているからこそ、ウルフウッドは何も言い返せないんです。第5話「祝福の子供」のシーンもすごくしんどかったです。最後に言うじゃないですか。「なんも責任取れんやつが……」って言われる場面は、本当にしんどかったです。言い返したいけど、なにも言い返せない。あそこ、ウルフウッドに言われて、ヴァッシュの気持ちになったときに、本気で逃げ出したくなりました。でも、そこで逃げたら今までやってきたことを全部否定することになる。
ウルフウッドって見た目は大人ですけど、強制的に成長させられた過程がありますから、見た目以上に若いんですよね。だからこそ、お互いに“ないものねだり”のではないかなと思います。
お互いに対する絶対的な信頼関係
──お互いの芝居についてのご印象もうかがいたいです。
細谷:松岡さんは役に全身で潜り込んでいく演者さんだと思っています。主観的に役を演じる人なんだなと。松岡さんがインタビューに答える様子を見ていて、役の気持ちと自分の気持ちの境界線がシームレスな人だと思いました。それが松岡さんの、演者としての大きな魅力なんだと思っています。現場で自分を削りながら演じている姿を見ると、「ヴァッシュ・ザ・スタンピードは松岡さんだ」と思います。
──細谷さんが俯瞰的に全体を見られるタイプで、松岡さんが身体ごと没入していくタイプだとすると、正反対のアプローチともいえますか。
細谷:引いて見てるときもあるし、近づいて見る時もあるから、僕はいい加減なタイプなんだと思います(笑)。
──えっ、そうなんですか。そう感じたことは私はなかったですが。松岡さんはどうでしょうか。
松岡:細谷さんといっしょにお芝居する現場を経ての(感想)なんですが……細谷さんがいると、すっごく安心します。ものすごく頼れるお兄ちゃんというか。細谷さんのお芝居の仕方であったり、声色であったりが、僕は大好きなんです。特に、お芝居の自然な雰囲気が好きで。正直な話をすると、オーディションをやっている段階から「ウルフウッドは絶対に細谷さんだな」と思っていました。
細谷:嬉しいです。ありがとうございます。それを当てられるのが凄いですよね。
松岡:「当たった!」って(笑)。だから一緒にやれるとわかったときは本当にホッとしました。収録の交番表を見て、細谷さんの名前があると「今日は大丈夫だな」って思っております。
細谷:ありがとうございます。松岡さんにそんなふうに言ってもらえるてうれしいです。
松岡:で、また現場でも“お兄ちゃん気質”がすごい出るんです。
細谷:そんな気質あります(笑)??先輩風を吹かすのよくないですよね。老害になってしまう(笑)。
松岡:いや、違うんですよ!(笑) やっぱり、みんな頼っているから。
細谷:頼ってます(笑)?
松岡:頼ってますよ。すっごく気軽に相談に乗ってくれるじゃないですか。
細谷:雑談するのが好きなだけですよ(笑)。
松岡:しかも、まったく自分には絶対にない切り口で話してくれるんです。たとえば、『STAMPEDE』のときも、「嫌われない勇気」みたいな話をしてくれて。それと、手相も見られるんです!
細谷:手相は全く関係ないですよ(笑)
松岡:今みたいなお茶目な一面もあって。でもマイク前で並ぶと、すごく自然に話せるんですよね。
細谷:それは嬉しい。
──オーディションの時点で「ウルフウッドは絶対に細谷さんだな」と思われていたというのは……。
松岡:直感でした。
細谷:直感って凄いですね。
松岡:でも、僕、けっこう当たるんです。他の作品でも「この役は細谷さんだろうな」って思うと、だいたいそうなります。
細谷:「この役受けようと思うんですけど、いけますか?」って今度松岡さんに聞こう…(笑)!
松岡さんは「自分の背中を見せて周りの空気を変える人」
──現場にいると、キャストの皆さんはもちろん、スタッフの皆さんの熱意や仕事ぶりを間近で感じることも多いかと思います。特に印象的だった出来事はありますか?
松岡:『TRIGUN』の現場には謙虚な方が多い印象があって。最初は「遠慮がちなのかな」と思いましたが、裏を返してみれば、自分たちに自由を与えてくれているんですよね。僕、(アフレコ本番前の)テストって、僕はプレゼンだと思っています。自分なりに「今回のヴァッシュはこう演じたい」とアピールしつつ、自由に演じさせてもらう。すると、スタッフの皆さんが「ここはこの方向でお願いします」と的確に応えてくれる。
でも大体のところは自由にやらせてくれます。そうなると、こちらもどこが限界値なのか分からないので、どんどんと(限界値を)超えていくような感覚があって。それで休憩のときに「大丈夫ですか?」って聞いてみたら、「あとでお芝居に合わせて画を作らせていただきますので」と言われて。これほど頼もしい言葉はないなと思いつつも、どこまで攻めていいのか自分でわからなくなる瞬間がありました。でも、だからこそ全力でやり切ろうと。
細谷 佐藤(雅子)監督とお話する機会があったんですね。そのときに本作の監督を引き受けた経緯や、制作スタッフの皆さんが、各々どんな立場と状況で作品作りをしているのか?という様な話をお聞きしました。プレッシャーがあると思うんですよね。『STAMPEDE』からの流れを受けて、かつ、『TRIGUN』の本質を変えずに、続編を作ることは。
それぞれの立場で、各々最善を尽くして作品を作っているんだなと思いました。
あとは松岡さんのスタジオ内での佇まいが印象的でした。コミュニケーションを取って現場をまとめる座長的な主演もいますけど、松岡さんはその仕事ぶりで現場の雰囲気を作っていく人です。
今回、若い演者さんや初めてアフレコを経験する方もいて。
そういう人たちにとって、松岡さんの存在はすごく大きかったと思います。
──最終章も楽しみにしています。ありがとうございました!
[文・逆井マリ]