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【40歳からのやんわり無化調】動物系の出汁を支える煮干しの塩梅が命(福岡市・箱崎)

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出汁が生きるラーメンを箱崎で追い求める。

無化調麺をぼくなりのペースで追い求めていく本コラム【40歳からのやんわり無化調】。前回は、福岡市中央区薬院にある「鍋と酒菜 はま岡」を紹介した。
今回は福岡市東区に目を向ける。JR鹿児島本線の箱崎駅から徒歩3分ほどの駅前にある「らーめん あんゆう亭」は、2023年12月にオープンしたニューフェイス。開業からおよそ1年半が経ち、今、まさに脂が乗った注目店を訪れ、ラーメンづくりの話を聞く。

店主・安田雄一さんは福岡市東区名島の出身。「あんゆう亭」を開いたこの箱崎は地元にあたる。
「福岡で店をやるなら、天神、大名といったど真ん中ではなく、ちょっと中央から離れた場所が良いかなと思っていました。他のエリアもチェックしてみたんですが、最終的にこの物件が気に入って。以前、ここにあったラーメン店さんが自家製麺だったんですよ。そのためのスペースも確保されていたので、これはもう、運命だなと思いました」

開業前、安田さんは元々、海外志向があり、ワーキングホリデーでニュージーランドに滞在していた。そして、一時帰国した際、安田さんの運命を変える出合いがあった。
「妻の実家に行った時、近くに『らーめん えにし』というお店があったんですよ。そこで初めて塩ラーメンを食べ、衝撃を受けました。豚骨ラーメンを食べて育ってきた自分にとって、それはもう、未体験の味だったんです」
その後、再び、ニュージーランドに戻ったものの、頭にあるのは「えにし」の味。その感動と興奮は帰国するまで冷めることはなく、安田さんは弟子入りすることになった。

「えにし」で過ごした5年間でラーメンづくりをゼロから学んだ安田さん。スープの取り方、麺の製造、チャーシューといったトッピングの仕込み、一通りを身に付けたところで、福岡に帰り、開業を果たす。
オープン当初は塩ラーメンと汁なし担々麺の二本柱で営業。淡麗な味わいの塩ラーメン、一方で濃厚な味わいの汁なし担々麺という対極の麺を出す店ということで、福岡のコアなラーメン好きの噂になり、一躍、その存在が知れ渡った。

現在、「あんゆう亭」で提供される麺料理は大きく5種類。元々あった塩ラーメン、汁なし担々麺に加え、醤油ラーメン、汁ありの担々麺、塩つけ麺というラインナップになった。
ラーメンはどれも無化調。看板メニューの塩ラーメンを例に挙げると、鶏ガラや豚足などでとった動物系の出汁を土台に、煮干しを主体とした魚介系の食材を加えてスープを取っている。
「動物系が軸にはあるんですが、魚介系の旨みもしっかり効かせているのが特徴です。割合にすると動物系6割に対して魚介系4割くらいでしょうか。無化調なのは修行先の『えにし』がそういうスープだったから。あの味に魅せられてラーメンの世界に入ったので、そこは譲れない部分ですね」

出汁が生きるラーメン――安田さんは自身のラーメンにそんなキャッチフレーズをつけているのだという。前述したように動物系がベースにあるスープではあるが、安田さんが最も大切にしているのが煮干しの風味。えぐみが出ないように試行錯誤して加える煮干しの塩梅が、この塩ラーメンの要だ。
雑味のない煮干しの旨みが金色の液体に行き渡ることで、まるで全身に血が巡るように、スープが躍動する。飲んでいると、ついついもう一口、というように、引き込まれていく。
スープの味を決める塩ダレには沖縄産の海水塩を選ぶ。「塩気が尖ってなく、味に奥行きが出ます。他の塩もいろいろと試してみましたが、うちのスープに一番、しっくりきたんです」という安田さん。
スープと塩ダレ、これらががっちりと重なり合うことで、「あんゆう亭」流の無化調・塩ラーメンは完成する。
できれば、スープを飲み干してみてほしい。特に終盤、スープの温度が下がってからの出汁の旨みは極上。熱々のスープよりも、さらに解像度高く、スープの出汁感が舌へと伝わってくる。

麺は開業前から自家製と決めていたという安田さん。店内の入口部分に設けられた製麺室では、塩や醤油といった汁もののラーメン用の細麺、つけ麺や汁なし担々麺のための太麺の2種を打つ。自家製ゆえに、スープに合わせた徹底的な擦り合わせが可能だということもあり、開業当初から常にそのレシピは変わり続けているという。現在、塩ラーメンに使っているのは地元・福岡の製粉会社「鳥越製粉」から取り寄せた福岡のラー麦など国産小麦3種を独自の比率でブレンドした麺で、「打ち立てよりも味が馴染むから」という理由で、丸1日以上寝かせてから使っている。
塩ラーメンで生麺の状態で麺は140g。一般的な博多ラーメンの店がおよそ100gくらいなので、しっかりと食べごたえがある。

目指す「あんゆう亭」の姿は地域密着の店。「わざわざ食べに来てもらえることは本当に嬉しいことです。ただ、地元の方にふらりと寄ってもらえるような店でありたいと思っています」という安田さん。
よくよくメニューを見てみると、夜だけ提供される餃子を筆頭に、棒棒鶏や肉団子といった酒の肴の品書きが並ぶ。軽く一杯、ビールでも。そんなちょい飲み利用も楽しい店だ。ラーメン店として、時には町場の止まり木として、「あんゆう亭」はこれからも箱崎という街に馴染んでいく。

らーめん あんゆう亭
福岡市東区箱崎1丁目12−14 エステートモア箱崎

山田祐一郎
1978年福岡県生まれ。2012年8月、ウェブサイト「KIJI (キジ)」を設立し、同時に、日本で唯一(※本人調べ)のヌードルライターという肩書きで本格的に活動を開始。飲食関連の専門誌、情報誌、ウェブマガジンなどの原稿執筆に携わる。毎日新聞での麺コラム「つるつる道をゆく」をはじめ、連載多数。著書に「うどんのはなし 福岡」「ヌードルライター 秘蔵の一杯 福岡」。過去には麺検索アプリ「KIJI NOODLE SEARCH」もリリースする。「1日1麺」をモットーに、美味しい麺との出会いを求め、国内のみならず海外(台湾、タイ、イタリアなど)にも足を運んだ。日々食した麺の記録はWEBマガジン「その一杯が食べたくて。」に掲載中。2019年9月から製麺所「山田製麺」の代表も務める。
http://ii-kiji.com/

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