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「名作を超える、名作...」朝ドラの呪いに斬り込む『虎に翼』。寅子(伊藤沙莉)が貫く「フェアネス」にハッとする視聴者たち

毎日が発見ネット

「名作を超える、名作...」朝ドラの呪いに斬り込む『虎に翼』。寅子(伊藤沙莉)が貫く「フェアネス」にハッとする視聴者たち

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「ヒロインのフェアネス」について。あなたはどのように観ましたか?


※本記事にはネタバレが含まれています。



女性法律家のさきがけ・三淵嘉子をモデルとした伊藤沙莉主演のNHK連続テレビ小説(通称「朝ドラ」)『虎に翼』の第3週「女は三界に家なし?」が放送された。



子役2週間がピークとなる作品もある朝ドラにおいて、初回から視聴者の心を掴みまくっている本作は、3週目にしてさらにアクセルを強く踏み込んできた。



生徒数が減り、存続の危機に陥る明律大学女子部では、宣伝のために2年生3年生が合同で法廷劇を上演することになった。題目は実際の判例がある「毒饅頭事件」。



しかし、本番は女子部をからかう男子学生たちの妨害に寅子(伊藤)とよね(土居志央梨)は立ち向かい、乱闘劇の末に法廷劇は中止になってしまう。



何だろう、この既視感。それは「朝ドラあるある」ではなく、私たちの日常の中の既視感だ。



わざわざ足を運んでからかう男子、暇人か? と呆れるが、現実にもそんな場面は実に多い。選択的夫婦別姓や同性婚、女性専用車両など、あくまで「選択」だったり、自分に関係なかったりする話に尋常でないエネルギーを注いで妨害してくる男たちに「はて?」とシンプルに疑問を抱いたことのある女性は多いだろう。



自分たちが戦うことなく持っていた場所や特権を奪われる恐れを感じるのか。分け前は絶対与えたくないのか。なにしろセコい。



しかし、この乱闘の末、ケガをしたよねを運んだ女子部一同は、よねが働きながら苦労して弁護士を目指していることを知る。



よねの男装は、女郎として売られそうになり、「女をやめる」と髪を切り、逃げ出したこと、姉を救うために悪徳弁護士に自らの性を搾取されたことによるものだった。



男装をするよねが最も女性性に縛られているように見えたが、怒りをエネルギーとして「今の私のまま舐め腐った奴らを叩きのめす力を」得るため、法を武器として身に付けようとしていたとは。



それにしても驚くべきは、寅子のフェアネスだ。



よねのいないところで、よねの話を、よねじゃない人から聞くのは違うということ。本気度が勝っているから、戦わない・戦えない人を愚かというのは違うということ。それを感情的にならず、「はて?」という疑問でぶつける寅子は極めて法曹的だし、学ぶことが多い。



寅子は他者を簡単にわかった気にならず、上から目線になるでも同情するでもなく、かける言葉を選ぶ。それでも見つからず、実際の事件を徹底的に調べようと提案する。



猪爪家ではる(石田ゆり子)と花江(森田望智)に手伝ってもらいつつ、実際に饅頭を作ってみる寅子たち。しかし、突然、涼子(桜井ユキ)が謝罪する。



涼子が判例を改めて調べたところ、実は学長(久保酎吉)が元の事件を脚色し、可哀想な女性を女性たちが弁護しているように見えるよう改変したのだった。



涼子は男の言いなりだったと感じ、男子学生の股間を蹴り上げたよねを賞賛。よねは無駄だったと吐き捨てるが、はるはそれを否定する。実際、この一件を通して女子部一同は共に戦う仲間になっていた。



一番大きな変化はよね自身で、当初は恵まれた面々に苛立ちを露わにしていたが、それぞれが抱える事情(主婦と勉強の両立、言葉の壁、華族の息苦しさ、生理の重さ)を知り、それでも戦うことに敬意を抱くようになっている。



一方、本作の素晴らしさは、「共に戦う仲間」の傍らで「戦わない人」を置き去りにしないこと。



花江は親友・寅子が仲間たちに自分を「兄の嫁・義理のお姉さん」と紹介したことに寂しさを感じていた。そんな花江の弱音をよねはなじるが、寅子は弱音をどんどん言おうと言う。弱音で解決することはなくとも、ありのままのその人を自分が、周りが受け入れることはできるからと。



はると花江のギクシャクも、男性が大好きな嫁姑戦争やキャットファイトじゃない。華族である涼子の父母の関係も含め、「家」が個より優先される社会構造のしがらみが大きいのだ。



それにしても、今週驚かされたのは「ヒロインは貧乏で可哀想なのに明るく健気じゃないと応援できない」という昔ながらの朝ドラの作り手や視聴者の「呪い」に斬り込んできたこと。



女は愚かで惨めであるべき、可哀想で健気であるべきという価値観は、おそらく誰かにとって都合が良かったのだろう。



声をあげる人・あげない人、戦う人・戦わない人も、本当は対立関係じゃない。敵はそこじゃない。



また、弱音を吐くことは大事。声をあげること、怒ることも大事。しかし、本当は誰より苦労している、どん底にいる人自身が戦うのではなく、恵まれている・余力のある・声をあげられる人が格差をなくすために戦うのが健全な社会だ。これは沖縄問題や原発、被災地の問題に置き換えることができる。



100年前も今も変わらず繰り返されている数々の問題を軽やかに笑いを交えて描きつつ、冷静に社会を、自分自身を問い直すきっかけを与えてくれる『虎に翼』。名作は数あれど、こんなにも血が滾る朝ドラは初めてかもしれない。


文/田幸和歌子

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