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【駿府博物館の「Love Art Peace~きらめく立体切り絵とアートGETA」】「足す」と「引く」の芸術家二人。共存共栄のコラボレーション作品とは

アットエス

静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は静岡市駿河区の駿府博物館で10月25日に開幕した企画展「Love Art Peace~きらめく立体切り絵とアートGETA」を題材に。

立体切り絵作家の濱直史さんと、塗下駄アーティストの鈴木千恵さん(静岡市清水区)のコラボレーション展。素材、手法ともに無関係のように見える二人の作品だが、二つの展示室を歩くと、決して無理やりセットされたものではないことが分かる。作品制作のアプローチがきれいに線対称、あるいは点対称を描いていることに気付くのだ。

弥生時代にルーツがある日本古来の履物「下駄」をキャンバスに見立てる鈴木さんに対し、濱さんのフィールド「切り絵」は古来から世界中で技術が磨かれたグローバルな表現である。機能美とは切り離した視点で下駄というドメスティックなフォルムに装飾を「加える」鈴木さんに対し、切り絵は正しく「引き算」の芸術。それぞれの作品群が内包する動と静という分かりやすい印象の切り分けも、作家やキュレーターが意識したところだろう。

濱さんの生み出す、色とりどりの「折り鶴」はシャープな線とやわらかな面が同居する。鶴の羽根の文様は全て、「切り抜かれた空間」から漏れ出る光が意匠を決定づける。一方、鈴木さんの下駄作品「鳳凰」は正反対の発想で成り立つ。履物としての下駄に色鮮やかな鳥の羽根を描き、鼻緒の部分は羽根そのもので覆われている。すでにあるものに「何か」を加えるという発想は、多くの作品に通底している。

そんな二人が共同制作した「共存共栄」は、緊張と弛緩が同居している。赤黒の鼻緒の高下駄に、黒い花弁の花が寄り添っている。メイキング画像では鈴木さんが濱さんに、自分の着色した下駄に「寄生」するよう求めていた。大胆な発言だ。養分を吸い取られる可能性があるというのに。

ところが、出来上がった作品はグロテスクさを全く感じない。むしろ、作家二人が互いに養分を分け合っているように見える。「共存共栄」とはよく言ったものだ。下駄と花から引き出されたこの言葉こそ、この展覧会の全体像をよく表している。

(は)

<DATA>
■駿府博物館「Love Art Peace~きらめく立体切り絵とアートGETA」
住所:静岡市駿河区登呂3-1-1 
開館:午前10時~午後5時(月曜休館、祝日・振替休日の場合は開館し翌日休館)
観覧料金(当日):一般(高校生以上)800円、中学生以下と障害者手帳提示は無料 
会期:2026年1月12日(月・祝)まで

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