水島こども食堂ミソラ♪ ~ 毎月第3土曜日開催 。子どもと親がほっとできる居場所を育んで8年、その歩みとこれから
いまや全国に10,000件以上もある「子ども食堂」。
地域によって、そのかたちや目的は少しずつ異なりますが、どこも「誰かのために」という思いから生まれた場所です。
倉敷市水島では、8年前に「水島こども食堂ミソラ♪」が始まりました。
地域の人や子どもたちが気軽に集い、ほっとできる時間を過ごせる場所です。
水島こども食堂ミソラ♪が大切にしている居場所としての役割、そしてそこから生まれるあたたかなつながりとはどのようなものでしょうか。
実際にボランティアとして関わった筆者が、現場で感じたことを紹介します。
水島こども食堂ミソラ♪とは
水島こども食堂ミソラ♪(以下、「ミソラ♪」と記載)は、2017年8月にスタートしました。
立ち上げに関わったのは、一般社団法人みんなのお家ハルハウスの代表をつとめる井上正貴(いのうえ まさき)さん。開始以来、地域の人や近くに住む子どもたちが気軽に立ち寄り、安心してごはんを囲める場所として、水島の商店街のなかで親しまれてきました。
しかし、2020年3月、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、みんなでごはんを食べるイベントは一時休止に。その間、井上さんは個人や企業から寄せられた食料を、困窮家庭に届けるフードシェア会を通じて、困っている人たちに手を差し伸べてきました。
そして、みんなのお家ハルハウスで始まったテイクアウトでの受け渡しを経て、少しずつかたちを変え、2023年6月にようやくみんなでごはんを食べるミソラ♪が再スタートしました。
水島こども食堂ミソラ♪の一日
水島こども食堂ミソラ♪は、毎月第3土曜日に水島学区コミュニティ会館で開催しています。
筆者は、2025年7月19日のミソラ♪に参加しましたので、そのようすを紹介しましょう。
今日の気分は〇〇点。ミソラ♪定番の朝ミーティング
午前9時20分。スタッフやボランティアの人たちが次々と集まり、ミーティングが始まります。
ミソラ♪では、まず一人ひとりが自己紹介します。
そのなかで「今の気分や体調は何点です」と発表するのが定番です。少し緊張していた初参加の高校生や大学生も、このやりとりでふっと表情がほぐれていきます。
この日は、親子で手伝いに来ているかたもいて、和やかな雰囲気が流れていました。
スタッフがメニューを説明すると、皆が役割を確認し、それぞれの持ち場へ。
いよいよ、ミソラ♪の一日が動き始めます。
準備から始まる、ミソラ♪のふれあい
今日のメニューは、野菜たっぷりの豚丼、たまごとわかめのすまし汁、そしてアイスクリームのカステラサンドでした。
野菜を切る人、卵を割る人、豚肉に味をつける人。
「やってみたい!」と思った作業に、それぞれが自然に分かれていきます。
そのうち、子どもたちも次々に集まり始め、一緒に準備に加わります。
家ではあまり料理を手伝ったことがない子どもも、ここではスタッフに「上手!」「すごいね!」と声をかけられ、うれしそうな笑顔を見せていました。
包丁を握る手は少し緊張気味ですが、真剣そのものです。
みんな笑顔で「いただきます」
お昼が近づくと、お肉のおいしそうな香りが会場いっぱいに広がります。
スタッフやボランティア、子どもたちが協力して、できあがった料理を食卓へ運びます。
この日の参加者は50人。
ご高齢のかたから3か月の赤ちゃんまで、幅広い年代が集まりました。まるで大勢の親せきが集まったかのような、あたたかい雰囲気です。
「いただきます!」
小学生の元気な声を合図に、おいしい時間がスタートしました。
夏休みが始まったばかりということもあり、いつもより子どもたちが多いようです。高校生のお兄ちゃんに宿題を教えてもらったり、ボードゲームで盛り上がったり。
会場は、ワイワイと賑やかな声に包まれていました。
初めての人にも届く、安心のぬくもり
食事のあとは自由時間です。
子どもたちは思い思いに遊び、保護者はおしゃべりを楽しんだり、スタッフに相談したりと、それぞれ思い思いに過ごしています。
この日、初めてミソラ♪を訪れたというお母さんは、2歳と小学5年生の子どもを連れて来ていました。「近くにこんな場所があるなんて知らなかった。とてもありがたいです」と、少し安心したような笑顔で話してくれました。
帰り際には、支援企業や個人の人から提供された差し入れやプレゼントも手渡されます。
大人にはお米や日用品、子どもたちにはお菓子が配られ、「こんなにたくさんもらえるの?」と驚きながら、うれしそうに袋をのぞき込む姿も見られました。
たくさんの「ありがとう」と笑顔が飛び交うなか、この場所がただの食事会ではなく、誰かがそばにいてくれる安心できる居場所になっていることを実感します。
そのようなミソラ♪が、どのように始まり、どのような想いで続けられているのか、運営するスタッフにお話を聞きました。
水島こども食堂ミソラ♪ 運営スタッフにインタビュー
一般社団法人みんなのお家ハルハウスの代表で、水島こども食堂ミソラ♪を運営している井上正貴さんと、スタッフの井上倫子(いのうえみちこ)さんにお話を聞きました。
水島こども食堂ミソラ♪が生まれた日
──水島こども食堂ミソラ♪が始まったきっかけを教えてください。
井上(敬称略)──
困窮家庭の学習支援の仕事をしていたとき、「子ども食堂を立ち上げるから会議に出て」と声をかけられたのがきっかけです。2017年1月から準備を始め、8月にプレオープン、9月にスタートしました。
「家族のだんらん」のような時間を、血縁関係にかかわらず多くの人と作りたいという思いがありました。スタッフ同士の関係も、全員が意見を言いやすいように心がけていて、今で言う「ファシリテーション」を意識していたのかもしれません。
ファシリテーションとは 人と人との対話や場の流れをスムーズにして、目標に向かって協力し合えるように促すこと
8年間のミソラ♪の歩みをふりかえって
──子ども食堂を始めたばかりの頃、印象に残っている出来事はありますか。
井上──
子ども食堂を始めてすぐの頃、自分の息子と種松山に出かけたときに、3人の小さな子を連れたお母さんに出会いました。とても大変そうだったので、声をかけて子どもたちを少し預かり、一緒に遊んだんです。
帰り際に「よかったら水島こども食堂ミソラ♪に来てね」と伝えたら、後日Instagramを見て連絡をくれて、通ってくれるようになりました。
そして先日、なんと7年ぶりに再会したんです。家族が増え、再婚もされたそうで、幸せそうな笑顔にこちらまでうれしくなりました。
──子ども食堂立ち上げから8年。変わったことはありますか?
井上──
コロナ禍が大きな転機でした。
一時は会食を中止してフードシェア会に切り替えましたが、再び食事を提供する場に戻すのは本当に大変でしたね。
テイクアウトだけでは「だんらん」が生まれません。やはり、ともに過ごす時間こそがミソラ♪の大切な核なのだと実感しました。
大切にしているのは、特別ではないふつうの時間
──「ミソラ♪」ならではの特徴はありますか?
倫子(敬称略)──
ミソラ♪のいちばんの特徴は、支援の場というよりも、子どもや保護者にとってほっとできる居場所であることだと思います。
ごはんのあと、子どもたちはスタッフのそばにちょこんと来て、何か話したそうにすることがあるのです。
たわいもないおしゃべりのなかに、実はとても大切な気持ちがこぼれてくることもあります。私たちは、そのような何気ない時間をとても大切にし、小さなサインを見逃さないよう心がけています。
必要に応じて、ほかの支援機関や専門の施設とつなげることも。ただそれ以上に「ここに来ると、なんだか安心できる」と思ってもらえるような場所でありたいと願っています。
つながりのなかで生まれる支援のかたち
──ミソラ♪は、地域とも連携しながら活動していると聞きました。具体的には、どんな取り組みをしているのでしょうか?
井上──
ミソラ♪では、地域の支援機関と連携しながら、家庭を見守るネットワークづくりに取り組んでいます。
以前、社会福祉協議会から家庭支援の会議に呼ばれたことがありました。そのご家庭のことを、私たちは日頃からよく知っていて、お父さんともLINEでやりとりをしていたんです。私たちの存在が地域にとって必要だと感じてもらえたことで、今では倉敷市や社会福祉協議会と一緒に支援体制を作っていくようになりました。
もしかすると、地域の中でいちばん細やかな情報やつながりを持っているのは、子ども食堂なのかもしれません。だからこそ、困ったときに思い出してもらえるような頼れる存在でありたいと思っています。
想いに共感してくれる人とつながりたい
──スタッフやボランティアを募集しているとのことですが、どのような人に来てほしいですか?
井上──
何よりも「やってみたい」という気持ちがある人に来てほしいです。
最初から特別なスキルは必要はありません。一緒に学びながら関わってくれることが、私たちにとっても大きな力になります。
子ども食堂は、ごはんを出すだけの場ではなくて、すごく奥深い場所です。子どもたちや家族が抱える課題、地域のつながり、さまざまなことが見えてきます。
だからこそ、社会のことに関心を持って、「もっと地域を良くしたい」と思ってくれる人と、一緒に取り組んでいけたらと思っています。
楽しむ気持ちは忘れずに
──最後に無理なく続けるために、大事にしていることはありますか?
井上──
大変なこともありますが、それすら楽しむ気持ちを大切にしています。思いがけない出来事に出会えるからこそ、毎回違うドラマがあり、それが続ける力になります。
うまくいかない日も、「今日あって良かったこと」をひとつ見つけていく。そのような小さなうれしいの積み重ねが、ミソラ♪をもっと良い場所へ育てていくのだと思います。
ボランティアを通して感じたこと
筆者は、ボランティアとしてミソラ♪に関わるなかで、「子ども食堂」はただごはんを作ってふるまう場所ではないのだと、あらためて感じました。
ごはんはあくまでもきっかけであり、本当に大切なのは、そっと寄り添ってくれる大人の存在です。子どもたちも保護者も、何気ない会話やちょっとした気づかいに、ほっとした表情を見せてくれます。
そのような小さなやりとりが、誰かの心の支えになるのだと実感しました。
「新しく始めるよりも、今ある場所をもっと良くしていくほうが、社会の力になれると思うのです」
そう話してくれたスタッフの言葉が今も心に残っています。
もし子ども食堂に関心があるのなら、まずは身近で続けられている場所に足を運んでみるのも一つの方法かもしれません。小さな一歩が、誰かの安心や希望につながることもきっとあるはずです。
水島こども食堂ミソラ♪は、毎月第3土曜日に開催しています。
気になったかたは、一度足を運んでみてください。