横浜赤レンガ倉庫に総勢122組のアーティストが集結、揺るぎない愛を確認した『MURO FESTIVAL 2024』総括レポート
『MURO FESTIVAL 2024』
2024.7.2021横浜赤レンガ倉庫 野外特設会場
7月20日(土)、21日(日)の2DAYSにわたって『MURO FESTIVAL 2024』(以下、『ムロフェス』)が開催された。
今年の『ムロフェス』も昨年に引き続き、神奈川・横浜赤レンガ倉庫 野外特設会場を舞台に、2日間で総勢122組のアーティストが集結。幸運にも7月18日(木)のベストタイミングで梅雨明けが発表され、初日のスタートは抜けるような青空の快晴となった。開演30分前からすでに、入口付近はたくさんの人たちでごった返している。
リストバンド交換を済ませ、メインエントランスをくぐると、目の前に大きなライブスペースが現れた。向かって右手に「ムロ海ステージ」、左手に「ムロ芝生ステージ」、その周りには美しい海が広がっていて、クルーズ船やベイブリッジ、ランドマークタワー、観覧車まで見えるというロケーションが素敵。もうひとつの「ムロ赤レンガステージ」へのアクセスも良く、徒歩5分あれば移動可能な近さとなっている。また、転換のタイムロスを避けるよう、3ヵ所それぞれに「LEFT STAGE」と「RIGHT STAGE」が隣接されており、計6ステージでアーティストのパフォーマンスがテンポよく楽しめる仕様も嬉しい。
主催者の室清登(Spotify O-Crest店長)が海ステージに登場し、集まってくれた人たちへ「今日と明日、赤レンガ倉庫はライブハウスになります!」「暑いのでしっかり水分補給していきましょう」「海には絶対に飛び込まないでください」とメッセージを送る。そしていよいよ10時となり、12回目の『ムロフェス』が開幕。
全アクトの口火を切った海ステージのシンガーズハイが、爽やかなギターロックサウンドとともに、内山ショートのハイトーンボイスを青空に響きわたらせていく。芝生ステージでは、オーディション『MURO FESTIVAL×Eggs presents「ムロエッグ」』を勝ち抜いた弁天ランドが躍動(ボーカルのサトウケイがフィールドを走り回る!)。赤レンガステージでは、the quiet roomが祝祭感に満ちた「パレードは終わりさ」で、朝から熱いシンガロングを巻き起こしている。こうして各トップバッターだけを取っても、フレッシュなニューカマーとの出会いがあったり、グイグイと上り調子なバンドが観られたり、ライブハウスシーンの今をリアルに確認できるのが『ムロフェス』の醍醐味と言えよう。
日差しがとても強く、ジッとしていても汗が出るほどの炎天下だが、しばしば吹く海風の存在がありがたい。潮の香りもして、心地よい清涼感を誘う。観客エリアを見渡すと、猛烈な暑さに負けることなく、全力で拳を掲げて飛び跳ねる人もいれば、体調管理に気を配り、木陰で涼を取りつつライブを楽しむ人もいる。赤レンガ倉庫1号館と2号館の間にあるスペースには、フェス飯を食べて栄養補給する人、公式ガチャに興じる人の姿も。
そんな中でよりいっそう『ムロフェス』を楽しんでもらおうと、ライブを観ながらあちこちでオリジナルピックを配り歩いていたのは、ついさっき開会アナウンスを行なった室清登。「室さーん、ピックください!」と声をかけてくるオーディエンスに、「はーい、どうぞ!」と嬉しそうに手渡すやりとりが、ハッピーなムードの拡充に繋がっている。主催者の顔がちゃんと見えて、なおかつ距離の近いフェスは珍しい。出演アーティストから彼に向けた感謝の言葉があふれてやまないのも納得がいく。
群馬のFOMARE、京都のHakubiなど、日本全国のライブバンドが集まった『ムロフェス』。広島のbokula.も、11時40分からピーカン照りの赤レンガステージで熱演を繰り広げる。「愛してやまない一生を.」での大合唱は、歌詞にある《本当に幸せ》というリアクションの現れ。ボーカルのえいは「いいねー、ヤバい。このままじゃお前らに負けちまうな!」と笑う。なんともライブハウスらしい光景だ。
中堅勢も見逃せない。12時25分から海ステージを任された、2012年の初開催以降ほぼ毎回出演してきたLACCO TOWER(群馬)は、灼熱の会場に「火花」を投じ、サマーチューン「藍染」も颯爽と披露。「グッドモーニングアメリカという新人バンドをすごく楽しみにやって参りました。『ムロフェス』に呼ばれるたびに“お前らちゃんとこの一年がんばったよ、カッコよかったよ”と室さんやみんなに言ってもらえてる気がします」と語る、SNSのコメント動画(https://x.com/murofes/status/1812073204527366423/video/1)に対するアンサーも込めたボーカル・松川ケイスケの言葉に、ジストニア発症によるレフティギタリストへの転向を表明して約2年の細川大介が、もはや当然のように左で華麗なソロを弾いている姿にグッときた。
先に書いたとおり、『ムロフェス』では注目のバンドが数多く観られる。「麻婆豆腐!」「油淋鶏!」「回鍋肉!」と叫ぶコール&レスポンスが痛快な「中華で満腹」などで場を盛り上げたのは、“POPS日本代表”を掲げるパーカーズ。「結成当初から絶対に出たいと話していた超大事なフェスです。夢が叶ってめちゃめちゃ嬉しい。続けてきてよかった」というボーカル・豊田賢一郎のMCも印象深い。5月にメジャーデビューした新潟の終活クラブは、猛暑の影響で羽茂さんのキーボードが鳴らないトラブルに見舞われるも、ボーカルの少年あああああが「これだからやめられねえな、音楽って(笑)」とプラスに転換し、ダークな旨味の薫るキャッチーかつダンサブルなロックで大暴れ。以前はMCさえしていなかった彼らだが、O-Crestで初ライブをした際、室に「すごく暗い感じがする」「何がしたいのかわからない」と言ってもらえたことが変わるきっかけになったのだそう。
昼過ぎの芝生ステージを彩ったそんな2組に続き、海ステージでは石川県金沢市発のプッシュプルポットが、「愛していけるように」で《僕、歌で君を守るから》とまっすぐな言葉を放っている。太陽の真下で轟くエモーショナルな演奏とコーラスも熱量が半端ない。もみくちゃの観客ゾーンに飛び込んだボーカルの山口大貴。あまりの暑さに最後はフラつきながらも「生半可なライブをしたくてここに立ってるわけじゃない」と気概を見せ、《明日 生きてる保証はないから》の歌詞どおり、ラストの「バカやろう」までをフルスロットルで駆け抜けるさまに胸がすく。彼らの物販に行って、令和6年能登半島地震の募金をした。やはりバンドシーンの実情をこうして一挙に、しかも野外で堪能できる機会というのはそうそうない。
ここまでのアーティストの爆発力を目の当たりにし、《無力な僕らにできるのは歌うことしかないの》というフレーズが耳に残るKALMAの「SORA」を聴いて、ロックバンドの果たすべき役割がクリアに見えてきた。「ライブハウスの人間がやってる、血の通ったフェスに呼ばれるのがいちばん嬉しいです」とボーカルの畑山悠月は言う。忘れらんねえよも、頭空っぽで楽しめる初期衝動ソングを連打。「ばかばっか」では、ボーカルの柴田隆浩がフィールド後方にいる室のところへクラウドサーフで進み、「『ムロフェス』の出演者すべてが、これから100年バンドを続けていけますように!」と、受け取ったビールをオーディエンスの上で鮮やかに飲み干す。単純明快で清々しいパフォーマンスが、暑い海ステージをますます熱くする。
ようやく日差しがちょっと和らいできた。夕刻の赤レンガステージに登場したSAKANAMONは、意外にも『ムロフェス』初出演とのこと。「今朝サウナに行ったんですけど、完全に失敗ですね。(ギターの)弦も2本切れました」と苦笑するボーカルの藤森元生だが、彼らならではの緩さとカッコよさを兼ね備えた楽曲、骨のあるアンサンブルは絶品だ。ロックナンバー中心のセットリストに入れたバラード「おつかれさま」も、程よく疲労がたまった身体に優しく染み込む。
日が暮れ始めた頃、芝生ステージで血が滾るロックンロールを届けてくれたのは、2022年結成ながら早くも『ムロフェス』3回目の出演となる、屈強メンバー揃いのMARSBERG SUBWAY SYSTEM。ソリッドに響くシャウト、妖しくギラついたグルーヴが冴えわたっていたことに加え、“星”“月”“太陽”のモチーフが多いマズバグの曲を、18時40分~19時05分の絶妙な時間帯に野外で味わえたことが嬉しい。「すごく暑い中、なんでみんな必死でここに来たんだろうって思うんだけど、音楽を聴いてカッコいいとなったときの気持ちが、たぶんずっと忘れられないんですよね」というボーカル・古川貴之の見解も胸を打つ。
夜になり、座ってのんびりとライブを観る人たちも増えてきた。そんな状況にすかさず喝を入れてはオーディエンスを走り回らせ、海ステージ一帯をキラキラと輝かせる四星球。その熱量を受けて『ムロフェス』常連組のアルカラが、ロックのみならずハードコアやメタルの旨みも湛えたタイトなアンサンブルを繰り出す。さらにボーカルの稲村太佑がバイオリンを弾き、クラシックの要素までも加えてくる奇行師ぶりに痺れっぱなし。
「今年の『ムロフェス』は特別なんです。素敵な仲間が帰ってきてくれてね。俺は彼らの曲を歌い続けてきたんですよ。ほんなら、やっぱり願いが叶ってさ」と感慨深く告げる稲村。話すうちに想いがあふれた結果、グッドモーニングアメリカの「言葉にならない」を我慢できずに急遽カバー → たまらなくなったグドモのベースのたなしんがバックヤードから飛び出してきてダイブするという一幕も。
というわけで、初日全体のトリを飾ったのは、活動休止を経て5年ぶりに『ムロフェス』へ帰ってきたグッドモーニングアメリカ。出番前の時間は雷が鳴り、雨が若干パラついていたが、ラッキーなことにどうにか天候も持ち直した。そして、盟友アルカラに最高のバトンをもらった。たくさんの人たちが彼らのライブを待ちわびている。
観客エリアから登場のたなしんは、当日に各所でこっそり集めていた室へのサプライズ寄せ書きを、フラッグとして掲げながら海ステージに到達。味方だらけの空間で《独りぼっちじゃないよね》と歌われる「キャッチアンドリリース」に、オーディエンスは脊髄反応で狂喜乱舞し、ペギの2ビートが映える本家「言葉にならない」など、あの頃の名曲が再び輝き出す。金廣真悟の伸びやかなハイトーンをはじめ、活休前のタフな音像が凛々しく蘇り、そこに復活のエモみがプラスされたバンドの無敵さたるや……!
「おかえり」の声援が飛ぶ中、感情を爆発させるメンバーは本当に楽しそう。たなしんの「ファイヤー!」も懐かしい。金廣は「こんな日が来るなんてね」と笑顔でしみじみ。「未来へのスパイラル」の特大シンガロングから、みんながこの曲の高揚をずっと覚えていたこと、再会の時を心待ちにしていたことが伝わってきて、思わず涙腺が緩んでしまう。
「呼んでくれてありがとうございます。つい最近、活動を止めてしまったアイツらもさ……俺たちが帰ってきたってことは、なあそういうことだろ? 『ムロフェス』のバトンを絶対に繋いでいきましょう!」と力強く意思表示した、ギター・渡邊幸一の粋な言葉もそのまま書き残しておく。グドモのワンマンツアーが解禁となり、アンコールの「空ばかり見ていた」、室の一本締めをもって、DAY 1はドラマティックな空気のまま終演を迎えた。
『ムロフェス』DAY 2も、朝の時点で気温30度超え。前日とほぼ変わらない快晴の中、多くの音楽ファンが横浜赤レンガ倉庫に詰めかけ、またしてもホットな1日になる予感しかない。
「めちゃめちゃ暑いので無理はせず、休みながら遊んでもらえたら」「ルールを守って、思いやりを持って、よろしくお願いします」「ライブハウスで出会ったバンドのみんなと作るフェス、ぜひ楽しんでいってください!」
主催者の室による挨拶で、10時に無事開演。時速36km、鉄風東京と、バンド名だけで目の覚める音が聴こえてきそうなアクトが朝から並び、『ムロエッグ』枠のMOCKENを含め、パワフルでありつつ繊細さも感じさせる等身大のロックが、青空の下でエモーショナルに鳴らされていく。“トップバッターだろうがすべてを掻っ攫ってやる!”という気迫がビシビシ伝わるパフォーマンスに対し、オーディエンスも惜しみないリアクションを返す。みんな『ムロフェス』の現場にいられることがすごく嬉しそう。
しかしまあ、今年の『ムロフェス』はとにかく体力勝負。「昨日、僕も虚ろな感じになっちゃって……」と室が注意喚起していたとおり、気を抜いていなくても熱中症になる危険性が高いのだ。ただ、この状況下でもアーティストたちは最高の音楽を届けてくれる。ありえない暑さにむしろ喜んだり、あるいは負けないように奮起したりしながら。
そして、室のオリジナルピック配布に加え、2日目はフレンズからボーカルのえみそんが会場に駆けつけ、公式Instagramで出演アーティストに突撃インタビューを行なうインスタライブなども企画。このハンドメイド感、楽しませたい精神が魅力的に映る。
太陽がいちばん高く昇る、いちばん暑い時間帯の海ステージを任されたバックドロップシンデレラは、リハーサルから四星球の「クラーク博士と僕」を演奏して沸かせるさすがのエンターテイナーぶり。持ち前の“ウンザウンザ”サウンドが投下されれば、ボーカル・でんでけあゆみはいきなりのダイブ、オーディエンスはサークルを作ったりヘドバンをしたりと、フィールドが一気にお祭り騒ぎと化す。「フェスだして」でカオティックに盛り上げるなど、炎天下、海が見える環境での突き抜けたライブがたまらない。「Twitter(現X)とかであるじゃん。“『ムロフェス』最初は温存するつもりだったけど、バクシンがヤバすぎて全部使い果たしたわ”みたいなやつ。俺、あれがやりたい。みんなの体力と声、ついつい奪いたい!」という、ギター・豊島“ペリー来航”渉の焚きつけも面白かった。
爆発力に富んだバンドが揃う中、サウンド以上に歌で魅了してくれたのは、各種大型フェスから続々と声がかかっている注目の3ピース、Hwyl。昨年のオーディション選出を経て、今年は正式オファーのもと赤レンガステージに登場し、堂々たるライブを繰り広げた。SNSでバズを引き起こした「暮らし」を筆頭に、自分の信念は絶対に曲げないことが伝わる言葉の強さ、切実さ、聴き取りやすさ、音源超えのパフォーマンスが素晴らしく、あっという間に惹き込まれてしまう。ラップ調の歌唱を織り交ぜたり、荒々しくシャウトしたりと、キャッチーさがしっかりある。一方で、終わらない戦争の悲劇に触れるなど、目を逸らしてはいけないテーマを歌う気骨もある。ボーカル・あきたりさが周辺を歩く人たちに向けて「観ておかないと後悔するよー!」と呼びかけていたけれど、本当にそのとおり。
滋賀のArakezuriも旬のバンドで、日差しが照りつける赤レンガステージを熱く盛り上げてみせた。「ヒーロー」の《たった今、0秒先の未来からあなたを助けに来た》、「ピースオブケイク」の《ドンマイ気にすんな》――魂のこもった爆音ロックに乗せて、シンプルかつストレートな歌が心の奥に最短距離で届くため、自然と勇気づけられる人も多かったはず。《知る人ぞ知るなんかじゃ終わらせたくないんだよ》と訴える「時代」は、すべてのミュージシャンに刺さるものがあり、前日に続いての出演について、ボーカルの白井竣馬は「(出られなかったバンドマンたちが)“2日間も枠を取りやがって”と思ってくれたほうが嬉しい。俺たちも本気やからな。遊びでやってない」と言い切る。ちなみに、彼らは翌日のアフターパーティー込みで、史上初の『ムロフェス』3DAYSを駆け抜けたとのこと。
まだまだ暑い15時25分、海ステージの周りが混み合ってきた。同じく話題沸騰中、名古屋のねぐせ。が『ムロフェス』初登場。6月に日本武道館単独公演を大成功させたとあって、注目度の高さはトップクラスかもしれない。青い空と青い海に囲まれた舞台で、“愛する”“好き”というピュアな気持ちを包み隠さず全面にフィーチャーした、今しかないエモーションや若さがあふれるライブは、抜群に人懐っこく爽やか。夏の高校野球応援ソングを担当しているバンドだけに、太陽の下でのパフォーマンスもハマる。ボーカルのりょたちが「室さん、さっきギリ熱中症っぽかったから心配です。見かけたら助けてあげてね!」と主催者にエールも送りつつ、締めはそのミディアムナンバー「ずっと好きだから」をみんなで活き活きとシンガロングし、華々しい一体感を生み出す。
猛暑日も何のそのといった感じで、赤レンガステージをゴキゲンなダンスフロアに変えたBRADIO。来年で結成15周年のキャリアを誇る実力派、しかもニューアルバム『PARTY BOOSTER』のリリースツアーを2日前に終えたばかりで、笑っちゃうくらいバチバチに仕上がっている。ボーカル・真行寺貴秋の「ライブハウスがやってるフェスってことで、パッション全開で行こうと思ってます!」という言葉どおり、熱気に満ちた歌唱×心地よくリズミカルなファンクネス×すぐに真似できる振り付けで、初見のオーディエンスをもあっさりと巻き込む。「Flyers」の豪快なイントロとともに、大歓声が青空に抜けていったシーンが忘れられない。太陽の下、みんなが楽しく踊り、最高の光景がどんどん更新されていった。いつの間にか、辺りはFPP(FUNKY PARTY PEOPLE/BRADIOファンの総称)だらけ。柄シャツを纏ったこのバンド、夏が似合いすぎる。音楽って素晴らしい。
昨年メジャーデビューとはいえ、こちらも結成15年のw.o.d.。聴き手のハートを刺激する鋭利な声、ゴリッと歪ませたヘヴィでぶっといビートを軸に、渇望や葛藤を昇華させた破壊力満点のネオグランジサウンドを、海ステージでアグレッシブに轟かせる。夏の刹那をエモーショナルに歌った「1994」、終わらない快楽を呼ぶサイケデリックな最新曲「エンドレス・リピート」など、このシチュエーションにマッチした曲を純粋に選んでいる感じも、声高なアジテートではなく、脂が乗った3ピースのグルーヴでナチュラルにこちらを踊り狂わせてくれるのもいい。「『ムロフェス』はいちばんライブハウスっぽい野外フェスじゃないかな。ライブハウスってめちゃくちゃ自由で、優しい場所でもあると思ってるので、死にそうな人がいたら助けてあげてください」というボーカルのサイトウタクヤによるクールなMCを含め、ロックスター然とした佇まいの彼ら。夕暮れ時の演奏が画になっていた。
日の入り時刻、海ステージの観客エリアはパンパンに埋まっている。8月12日(月・祝)に日本武道館での初ワンマンを控えるTETORAの登場だ。彼女たちはいつも、一本一本のライブに対するひたむきさがすごい。邪な感情に囚われず、ベストを尽くそうと必死で挑む。その姿勢が予期せぬドラマを生むのだと思う。儚くも力強いハスキーボイス、瑞々しいバンドサウンドで気合十分に攻める3人。《こんなのじゃ 悲しんでるみたいじゃないか》という歌詞とさりげない転調が胸を締めつける「素直」の曲中、ボーカルの上野羽有音が「サボるな!」と叫ぶ。自分たちへの叱咤に聴こえた。そんなことを考えていたら、MCでドキッとする言葉が。
「売れててカッコいいバンド、売れてなくてもカッコいいバンド。今日はいっぱいいるけど、TETORAが好きやなーってなるバンドの大前提は、本気でやってるバンドやなと改めて思いました。軽い気持ちで茶化すのは、絶対にアカンなって思いました。ウチらも本気でやってる。みんなも最後まで本気で来てほしい!」と上野が語ったのだけれど、実はこれ、核心を突くシーンだったのではないだろうか。こういう情熱と覚悟を宿したアーティストたちが集まっているからこそ、彼らの生きざまを信じるオーディエンスが集まっているからこそ、『ムロフェス』が奇跡みたいに素敵なバランスで成り立つのだなと、腑に落ちた感じがする。
気づけば『ムロフェス』2日目もクライマックス。今や全国アリーナツアーを開催するなど格段に成長を遂げたSaucy Dogが、海ステージ下手方面の空に美しい満月(バックムーン)が輝く絶好のタイミングで大トリを託される。代表曲「シンデレラボーイ」が渾身のフル歌唱で届けられたリハから使命感の強さが存分に窺え、何かが起こりそうな只ならぬムードが漂っていた。
「楽しんでいこうねーーー!」というボーカル・石原慎也の呼びかけから、「ナイトクロージング」で勢いよく疾走し始めると、サウシーはスケールアップした演奏力と変わらない親しみやすさを携えたライブを展開。3ピースのシンプルなアンサンブルにもかかわらず、いや、シンプルだから、そして嘘偽りのないまっすぐな歌だから、多くの共感を生み、どこまでも一体感が増していくのだろう。ぎっしりと集まったオーディエンスの手を取って導くように、そのパワーをスッと味方につけ、瞬く間にどデカいグルーヴを作り出すさまは、息を呑むほどの素晴らしさだ。秋澤和貴のベースラインが際立つ「雷に打たれて」以降、歓声やハンドクラップがさらに大きくなる。ドラム・せとゆいかの寄り添うコーラス、曲入りの「ワン、ツー」カウントが息ぴったりに揃うところ、メンバーのフレッシュな笑顔も目を惹く。
「7年前に初めて出させてもらったときはオープニングアクトで、大トリを飾れる日が来るなんて想像もしてませんでした。室さんって、俺が歌詞を間違えたらすぐに気づくんです。どういうことかわかる? たぶん、これだけ多くのアーティストの歌詞をちゃんと覚えてるんだよ。そんな愛のある人が作った『ムロフェス』、最高じゃないわけないよね!」
感謝の想いを伝えつつ、石原はオーディエンスにも室への「ありがとう」を促す。バンドが注目されるきっかけとなった「いつか」に続く歴史が見える流れも、タイトルどおりの懐が深い楽曲「優しさに溢れた世界で」におけるモニターへの歌詞字幕表示とエンディングにふさわしい盛大なシンガロングも、すべてがドラマティック。時間の都合でアンコールはやれなかったけれど、現場にいた人たちの心は十分満たされたに違いない。
締めの挨拶を務めた室が話していたが、今年の『ムロフェス』は約2万人の来場者を記録。両日とも雷注意報がずっと出ていた中、見事なまでの快晴に恵まれ、揺るぎない愛が確認できるシーンも随所にあり、文句なしの大成功で幕を閉じたのだった。またライブハウスに足を運びながら、次回の開催を楽しみに待とう。
取材・文=田山雄士