sumika 「音楽活動で嘘をつかないってことは約束できる」――ステージと客席の境界線を曖昧にした、ツアーファイナル武道館公演レポート
sumika Live Tour 2026 「Unique」
2026.7.24 日本武道館
sumikaが全国各地をまわり、計29公演を行ったツアー『sumika Live Tour 2026 「Unique」』。7月24日に東京・日本武道館で開催されたツアーファイナル公演は、嬉しいサプライズとともに幕を開けた。開演時刻になり、ステージを覆っていた紗幕が落とされると、カラフルな装飾が施されたステージとゲストメンバーの面々がお目見え。あれ? 肝心のメンバーは? と思いきや、片岡健太(Vo,Gt)、小川貴之(Key,Cho)、荒井智之(Dr,Cho)はなんとアリーナエリアに登場した。そして3人は、観客の笑顔と手拍子に包まれながら、客席の間を通り抜け、ステージへ向かっていく。
「『Unique』ツアーファイナル、sumikaへようこそ!」という片岡の挨拶とともに、1曲目の「Phoenix」が鳴らされた。リスナーの手を引き、眠れない夜からパレードの始まりへと導く軽やかなサウンド。約3ヶ月半の旅を経たバンドのアンサンブルは程よくリラックスしていて、誰のことも迎え入れてくれるような包容力に満ちている。私がsumikaのワンマンライブを観るのは、2023年の横浜スタジアム公演『sumika 10th Anniversary Live 「Ten to Ten to 10」』ぶり。奇しくもこの「Phoenix」は、あのハマスタのあと、sumikaが最初にリリースした楽曲だ。あの時も含めて、結成から今日に至るまで、このバンドは決して平坦ではない道のりを歩んできた。彼らもまた、笑ったり泣いたりしながら泥臭く生きている人間だ。それでも観客の前に立つ時はいつも、誰もが帰ってこられる家のように構えている。その頼もしさが、今日も変わらずそこにあった。
観客のテンションも素晴らしい。2階立ち見エリアまで、武道館を隅々まで埋めつくす観客は、拳を突き上げたり、手拍子をしたり、歌ったりしながら、感情を思いっきり解放している。あまりの盛り上がりっぷりに、思わず「すごーい!」と口にする片岡。鉄板の「Lovers」を経て、「「伝言歌」」ではゲストメンバーを紹介。三浦太郎(Gt,Cho,Per/フレンズ、HOLIDAYS OF SEVENTEEN)、太田美音(Gt,Cho,Per/ayutthaya、マイクロコズム)、CHAAN(Key/YIKO)、上口浩平(Gt)、須藤優(Ba/TenTwenty)の名前を呼んだあと、片岡は「そして、あなたも合わせてsumikaです!」と呼びかけた。そしてラスサビでは、客席を巻き込んだ大合唱が広がる。曲が終わると、片岡は観客へ拍手を送り、客席全体を抱きしめるようなしぐさとともに「俺、今日の武道館大好きだ!」と叫んだ。
最初のMCでは、片岡が『Unique』というツアータイトルについて、「ツアータイトルを思いついた時に一番に浮かんだのは、客席のあなたのことでした」と語った。音楽が好きな人の中でも、生のライブに価値を感じ、こうして会場に足を運んでくれる人は1割にも満たない。そんな愛すべきアブノーマルな人たちを『Unique』と呼び換えた片岡は、「ユニークなあなたに愛情ぶっ飛ばしてもいいですか!?」と次の展開へ繋げた。
楽曲を重ねながら、会場のテンションは一層高まっていく。「Flower」では客席から起きたシンガロングに、片岡が「これ、サビじゃなくてDメロだよ? なんでそんなに歌えるの?」と驚く一幕も。その直後のメンバーのプレイは明らかにノッており、喜びが素直に伝わってきて微笑ましかった。そして「春風」演奏後に片岡が一時退場し、「ハイヤーグラウンド」と「ソーダ」は小川のボーカルで届けられた。なかでも「ハイヤーグラウンド」でのギター&ボーカルスタイルのお披露目は、今回のツアーで初の挑戦。ゲストメンバー含め4本のギターが響くエネルギッシュな音像の中、「俺たちで忘れられない日を作ろうじゃないか! これは、フロアにいるみんなだけに言ってるんじゃない。ゲストメンバー、チームスタッフにも言ってるんだ!」と情熱的に呼びかける小川は、ロックスターの貫禄を漂わせていた。
11曲目「ゴーストライター」の演奏を前に、今度は片岡のみがステージに残り、一人でのMCへ。ラジオやSNSに複数のファンから相談が寄せられたことから、客席を巻き込んで「明日行くべき、東京最強デートスポット」を考える。ひとしきり客席とのやりとりを楽しんだあと、片岡は寝る前に音楽を聴くのが日課だと明かした。いいことがあった日はその音楽とともに一日を反芻し、嫌なことがあった日は、せめてその時間だけは忘れるようにしていると。そんなMCを経て、「今日来てくださったあなたが毎日よく眠れているのかは分からないですけど、願いを込めて1曲歌います」と、「ゴーストライター」が弾き語りで届けられる。片岡の声色はいつになく温かく、直前に語られた“あなた”への思いが滲むようだ。時にはマイクから離れ、生に近い歌声を客席に届ける場面もあった。
その後はフル編成に戻り、sumika流スタジアムロック「VINCENT」や、遊園地のように楽しみ盛りだくさんの「運命」が届けられた。「いいライブの定義、それはステージと客席の境界線が曖昧になること!」と片岡が叫んだ通りの光景がまさに、現在進行形で広がっていく。荒井のキックと観客の手拍子とともに始まった「ふっかつのじゅもん」では、片岡と小川が再び客席に現れ、特に小川はアリーナだけでなく1階スタンドにも姿を見せ、会場を沸かせる。姿を消しては現れる2人を客席が声援で追いかけ、最後には、メインステージに戻った2人がラスサビをユニゾンで歌い上げた。熱い演出に会場は大盛り上がり。その高揚感のまま突入した次の曲「Starting Over」では、この日一番の大合唱が沸き起こった。
本編ラストの片岡のMC。「心臓バクバクしてて倒れそうです。生きてるなって感じるし、生きててよかったなと思います。あなたのおかげです。ありがとう!」と、混じり気のない感謝の言葉が一番に飛び出した。「嬉しい」「楽しい」という感情が想像を超えるほど高まると、「生きててよかった」とまで思えるという片岡。しかし「嬉しい」や「楽しい」の裏には、「悲しい」や「寂しい」がある。そのほとんどは、人と人との摩擦から生まれるものであり、時にテクノロジーはそれをやわらげるために開発される。そんな時代にあっても、片岡は「生産性・効率が追いつけない場所で握手していたい人がメンバーであり、ゲストメンバーであり、スタッフチームであり、あなたなんですよ」「人間ってめんどくさいけど、そういう人がちょっとでもいた方が、人生楽しくなるんじゃないかって俺は思うから」と語った。
そのうえで、「今日来てくれたあなたにも、手を離したくない人はいますか? その人が、あなたの“生きててよかった”を作ってくれる唯一の人です」と一人ひとりの心に問う。さらに、「その手を掴みたい人の中に、sumikaも入れてくれたらとっても嬉しいです。こいつらだけは手を握ってたいなと思われるバンドでいたいです」と続ける。
「俺たちは、あなたを悲しませることはしない。一生懸命音楽やってるから、体調崩したり、バンドの活動が止まってしまうこともあるかもしれない。気持ちを割いてくれてる分、あなたに悲しい思いをさせてしまうこともあるかもしれない。でも、俺たちはあとで必ず取り戻しにきます。感じさせてしまった“悲しい”や“寂しい”の何倍もの“楽しい”や“嬉しい”で返します。だから、信じてほしい。俺があなたを裏切ることは1ミリもない。人生に疲れた時は、それを思い出してほしい」
小指を差し出しながら片岡が語ったその言葉は、リスナーへの愛の告白のように感じられた。冒頭で触れたように、sumikaというバンドもまた、平坦ではない道のりを歩んできた。「悲しい」も「寂しい」もたくさん経験したが、それでも必ず取り戻しに来ると言い切ってしまう。それも無理して虚勢を張るのではなく、バンドは生き物であり、不安定な存在であると認めながら、「長い時間をかけて見ていてほしい」と伝える形で。変わり行き、混沌としているこの世界で、それでもなお僕たちを信じてほしいと。「音楽活動で嘘をつかないってことは約束できるので、あなたと手を繋いでたい」と差し出された言葉は、もはやプロポーズのようなものではないか。
「絶滅危惧種のあなたに伝えたい、ホントのこと」とMCは結ばれ、本編ラストの楽曲「Honto」が全ての帰結点のように、明るく美しく、武道館に鳴り響いた。バンドから差し出された手を握り返すように、観客は、演奏を終えたメンバーが去ってからも拍手を続ける。しばらくしてメンバーが再登場すると、客席からは「アンコールありがとう!」という声が飛んだ。身体を大きく動かしてそれに応える片岡の姿が、暗闇の中でもよく見えた。
この日確かに感じられた喜びから出た、「出会ったり別れたりいっぱいあるけど、長生きしよう! こうやってまた交わって、生きててよかったって感じよう!」という片岡の言葉。その約束を早くも果たすように、sumikaは9月から次のツアー『sumika Live Tour 2026 「Flügel Letter」』に出発する。さらにこの日、全国ホール&アリーナツアー『sumika Live Tour 2027 「Laurens Library」』の開催も新たに発表された。永遠など約束できない世界で、それでもまた会おうと手を差し出し続ける。その人間臭く愚直な営みの積み重ねが、sumikaを、誰もがいつでも帰ってこられる家へと育てている。
取材・文=蜂須賀ちなみ 撮影=Sotaro Goto、Taku Fujii