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たった1本の小さな金属部品の改良から世界へ。ものづくりの半世紀を超えて「人が光る会社」へ【東京都品川区】

ローカリティ!

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たった1本の小さな金属部品の改良が、世界企業への扉を開いたーー。 

1970年代の東京・品川の小さな工場から始まったパンチ工業株式会社は、いまや世界の製造現場を支える精密金型部品メーカーへと成長しました。 

苦難が立ちはだかったときに道しるべとなったのは、企業アイデンティティである「パンチスピリット」と、社員一人ひとりの声から生まれたパーパス。 

代表取締役社長執行役員・森久保 哲司(もりくぼ・てつじ)さんに、半世紀を超える企業の歩みとその歩みを支えてきた思想と、未来へ向けた人づくりの挑戦を伺いました。 

小さな改良が、大きな進化を生んだ 

パンチ工業の原点は、1975年に東京・品川で創業した「神庭商会」でした。当時扱っていたのは、製造現場で使われる“プリントピン”と呼ばれる小さな金属部品。この部品の寿命を延ばすために材質や形状を工夫したところ、生産現場から大きな反響がありました。 

「部品ひとつの改善が、生産全体を変える」という手応えとともに注文が増え、創業から2年後の1977年、自社工場を構え、社名を「パンチ工業」へ。ここからメーカーとしての歩みが本格的に始まりました。 

その後、金型部品や自動化装置などを中心にラインアップを広げ、多様な製造現場を支える企業へと成長。現在は、日本国内だけでなく海外にも拠点を広げています。 

変化の時代に必要だった“新しい力”  

現在のグローバルに活躍するパンチ工業にたどり着くまでには、険しい道のりがありました。

金型部品の量産化を見据え、生産地のグローバル化が一気に進んだ1990〜2010年代前半に中国・アジア・アメリカへ拠点を展開した同社ですが、製造業を取り巻く環境は次第に大きく変わっていきます。 

人件費・原材料価格などの高騰により、海外拠点のコストは上昇。競争相手は世界中に広がり、技術革新のスピードもこれまでとは比べものにならないほど速くなるなか、日本社会における人の働き方やキャリア観の概念も大きく変わりました。 

社員自らが作り上げた、自社の存在価値 

こうした外部環境の変化に適応しようと、創業40周年の節目を迎えた際に制定されたのが、現在も 受け継がれている企業アイデンティティ「パンチスピリット」でした。 

創業者が大切にしてきた「チャレンジ」「創意工夫」「自由闊達」の姿勢を、これからの時代にも通用する会社の軸として再確認し、明文化したものです。 

「外部環境が大きく変わる中で、会社として何を守り、何を変えていくのか。一度、立ち止まって考える必要がありました」と森久保さんは当時を振り返ります。 

さらに創業50周年を1年後に控えた2024年には、異なる職種の若手・中堅社員20人ほどがメンバーとなって、“パンチ工業らしさとは何か”を追究し、パーパスを策定するプロジェクトが立ち上がりました。メンバーは約半年かけて、社内外に向けて数多くのインタビューを実施。社長やお客様、そして約700名の社員の意見を取りまとめ、パーパスを策定しました。 

「ものづくりによる信頼、真摯な技術、自由な創造力で、次世代の豊かな未来をカタチづくる」 

社員が自ら拾い上げた言葉を束ねたこのパーパスは、時代が大きく動く中で次の一歩を踏み出すための指針となりました。

パーパスを“言葉のまま”にしないために 

パーパスが生まれたことで、会社の大切にしたい価値がはっきりしました。しかし、それを日々の行動に落とし込み、文化として根づかせるには、時間も手間も必要です。 

森久保社長は、その難しさをよく理解していました。「パーパスはつくるだけでは意味がありません。そこで働く人が自分の力を発揮できるようにするための環境づくりが大事なんです」 

こうした考えのもと、会社では若手が挑戦しやすく、ベテランの知恵が自然に生かされる仕組みづくりが進められています。 

そのひとつが「パンチアカデミー」。新しい技術の学び直しや、挑戦したい人が力を伸ばせるようにするための研修部門です。若手がアイデアを出し、経験のあるメンバーが助言し、互いが自然 に支え合う関係性をつくろうとしています。 

「育ってきた文化も、見てきた景色も一人ひとり違います。だからこそ、組み合わせたときに力が生まれるんです」と森久保さんは話します。 

時代の変化に合わせて、年齢や役職だけで評価するのではなく、多様な働き方や価値観の違いを尊重し、それぞれの良さが正しく評価される組織を目指して日々進んでいます。 

技術と人で、これからの社会に応えていく 

製造業は、今まさに大きな転換点にあります。AI、ロボット、自動化技術。生まれる産業もあれば、役割を終えていく産業もあります。 

そんな環境の中で、森久保社長が大切にしているのは「お客様に応える技術力」と「それを実現する人材」です。 

「最後は品質と価格と納期で応える技術力が必要です。その技術を磨き続けるには、人を育てるしかありません」と森久保さんは静かに語ります。

社員が自分の力を発揮できる環境をつくることが、技術の価値を高め、ひいては社会への貢献にもつながるーー。そんな確信があります。 

また、日本全体が高齢化する中で、同社として「どんな形で高齢化社会に役立てるか」も大きなテーマになっています。これまで培った技術や国内外の製造現場を支えてきたネットワークを生かし、新しい柱となる事業も育てていく方針です。 

ここでも中心にあるのは、やはり「人」。社員一人ひとりの経験や強みを生かし、世代を超えて学び合うことで、新しい技術や挑戦が生まれると考えています。 

社員一人ひとりの経験や強みを持ち寄り、世代を超えて学び合うことで、新しい技術や挑戦が生まれると考えています。 

同社は、創業から続く「ものづくりへのこだわり」と同じくらい、「人が光る会社」であり続けることを目指しています。 

最も印象に残った言葉 
「最後は品質と価格で応える技術力が必要です。その技術を磨き続けるには、人を育てるしかありません」 

企業情報 

会社名:パンチ工業株式会社 
取材対象者:代表取締役社長執行役員 森久保哲司さん 
設立年月:1975(昭和50)年3月29日 
企業アイデンティティ:パンチスピリット「チャレンジ」「創意工夫」「自由闊達」 パーパス:ものづくりによる信頼、真摯な技術、自由な創造力で、次世代の豊かな未来をカタチづくる 
事業内容:金型部品、自動化装置及びその周辺部品、特注機械部品等の製造・販売 
URL:https://www.punch.co.jp/ 所在地:東京都品川区南大井6丁目22番7号 大森ベルポートE館 5階

天野崇子

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