原始系と識別系を知ろう!鈍感な子や敏感な子に対してのアプローチ方法とは!?【発達が気になる子の感覚統合遊び】
理論2:体の内側に感じる2つの感覚と新たな視点②
○理論解説のポイント!
固有感覚と前庭覚を知り保育に役立てる鈍感と敏感、感情欲求を知ると多様性に寛容になれる原始系と識別系を知ることで支援の幅が広がる
【知識・学習】なぜ敏感なのか:識別系を育む
敏感な子どもへの理解と支援を、さらに触覚の視点から解説したいと思います。
触覚は全身の皮膚や粘膜に、そのセンサー(受容器)が張り巡らされています。感覚には、「原始的・本能的な働き」と「認知的・識別的な働き」があり、触覚は特にこの 2 つの働きに特徴があります。
触覚の「原始系」の働きは、生後すぐにはじまる取り込み行動である「吸啜反射」に象徴されます。おっぱいを赤ちゃんの口に含ませると吸うという反射で、生きるための働きをします。
また口に入れたとき、危険だと感じるものは吐き出したりすることを「防衛行動」といい、これも命を守るために必要な「原始系」の働きです。私たちは、この原始系の回路を使わないと生きていけません。まさにサバイバル的な感覚です。
感覚がもつ2つの働き
【原始的・本能的な働き】
→原始系(原始的な回路):生後すぐにはじまるサバイバルのための回路
【認知的・識別的な働き】
→識別系(識別的な回路):生後3か月頃から発達する、世界を能動的に知ろうとするための回路
この「原始系」をベースに、生後3か月くらいから「識別系」の回路が発達してきます。ものをもたせるとぎゅっと握る「把握反射」から、手や指が開きはじめて、自由に動かせるようになっていきます。赤ちゃんが「これってなんだろう」と観察するようになり、自分の周りの世界を知ろうという働きをはじめます。
今まで優位に働いていた「原始系」から「識別系」という回路に切り替わっていきます。生後半年くらいからはなんでも口に入れて、見る・触ることで自分と世界をつなげていきます。発達するとこの「原始系」は調整され、普段の生活の中では見られなくなります。「原始系」の反射は消えるわけではなく、背後から人に急に触られると身構えるなど、必要なときに現れます。
原始系の反射(背後から急に触られると身構える)
触覚過敏の子どもは、この「原始系」の回路が強いのです。識別系の発達が未熟で、原始系と識別系のバランスが悪い状態にあります。私たちは過敏さばかりに目が向きやすいのですが、「識別系」を育むことに目を向けることが必要です。
【知識・学習】識別系を育むためには
触覚過敏が強い「原始系」が優位に働いている場合、「慣れさせることも」「がまんさせることも」有効な手立てではありません。これは、偏食についても同じです。もちろん、個々の程度によりますが「一口だけでも」という声かけで食が広がる子もいますが、この一言で翌日から登園ができなくなる子もいます。ですから、自分の基準で考えず、その過敏がどの程度のものなのかよく考えてみることが必要です。
「識別系」を育てるには、まず自分の周りの世界に興味・関心があり、「これってなんだろう?」と触りたくなったり、口に入れたくなったりすることから始まります。これには日ごろその子がどんなものを触り、見て、聞いているかをよく観察することが大切です。その「もの」と似た形や素材を用意してみましょう。自分から、「触ってみよう」「試してみよう」と思える環境を仕組んでみましょう。識別系は「安心」からしか育まれません。
【知識・学習】敏感タイプの支援と考え方
敏感タイプの子どもには、苦手な感覚刺激は避けましょう。声のトーンを落として話しかけたり、イヤーマフなど音の刺激を軽減するツールを使ったり、のりはスティックのりを使ったりします。また、刺激を遮断できるような休憩スペースを設けたり、におい対策としてマスクを使用したりするなど、工夫して安心できる環境をつくりましょう。 無理に慣れさせるというアプローチはかえって不安を強くし、過敏さを強くすることになりかねません。
固有感覚と前庭覚が敏感だと、動くのが苦手な子も多いのです。子どもをがんばって動かそうとするより、「興味のあるものに心惹かれ思わず動いてしまった」という仕掛けを考えましょう。また、気持ちがリラックスする本人の好む感覚刺激を取り込む支援も有効です。
【アイディア提案】ケーススタディー:刺激からのエスケープ
いつも部屋の隅でぼーっとしている4歳児の Bさん。遊べていないことも気になりますが、急に癇癪を起こしたり、部屋から黙って出て行ったりします。クラスの中では感覚刺激が多いため、頭をぼーっとさせて感覚刺激を避けているようです。癇癪を起こすのも、表面上は急に見えますが少しずつストレスをためた結果だと考えました。
そこで廊下にひhとり用の小さなスペースを設け、その中に本人の好きなおもちゃを設置し、いつでもここで休憩してよいことを伝えました。大人が適宜誘導すると、Bさんも自ら使うようになりました。すると癇癪はほとんど起こらなくなり、お部屋の中でぬり絵などをするようにもなりました。
感情刺激から子どもがエスケープできる場を設定することは、情緒の安定が図れ、お部屋で遊ぶ時間が増えることにつながります。
【知識・学習】鈍感タイプの支援と考え方:感覚欲求の視点
鈍感タイプには感覚を堪能させましょう。
本人の好む感覚を満足するように取り入れることが重要です。本書の感覚統合遊びをぜひ活用してください。そのほか、触れるのに適切なもの、口に入れてもよいもの、音を楽しめるもの、においを嗅げるもの、見て楽しめるものを提供します。
視覚や聴覚が鈍感で、保育者の働きかけに対して反応が鈍い場合は、注意が向くように個別に目を合わせたり体に触れたりして、話しかけることも必要です。
【アイディア提案】ケーススタディー:重いものを背負わせる
奇声を発したり、人を押してしまったりしていた2歳児の Cさんは、固有感覚の鈍感さが観察されました。通常の動きでは感覚欲求が満たされず不機嫌になっていたのです。
そこで固有感覚に刺激を与えるために、リュックに 500ml の水が入ったペットボトル2本を入れて、Cさんに背負ってもらいました。嫌がったらやめることが大切ですが、今回のケースでは背負うことで、Cさんの表情がやわらいでいることが確認できました。重いものを背負うことで、固有感覚にしっかり感覚が入ったのでしょう。
しっかり感覚を入れてあげることが大切なので、マッサージをしたり、揺れを楽しむ遊びを取り入れたり、固有感覚と前庭覚にしっかり感覚を入れる支援をその後も継続しました。すると、奇声がなくなり、人のことも押さなくなりました。多動傾向があり、機嫌が悪い子は、この固有感覚と前庭覚に感覚を入れる工夫を考えて実践してみてもよいでしょう。重り入りリュックやマッサージはコストパフォーマンスのよい支援方法です。
【出典】『発達が気になる子の感覚統合遊び』著:藤原里美