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東京23区で唯一「消滅可能性都市」に指定された豊島区。宣告から12年後の現在

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消滅可能性都市とは?豊島区が指定された背景

消滅可能性都市とは、今から約12年前の2014年5月に日本創成会議・人口減少問題検討分科会(座長:増田寛也氏)が『成長を続ける21世紀のために「ストップ少子化・地方元気戦略」』の中で明らかにした896基礎自治体のことである。

同会議から消滅可能性都市と宣告された896自治体は、国立社会保障・人口問題研究所(以下、社人研という)による「日本の地域別将来推計人口(2013年3月推計)」をベースとして、人口移動が収束しないと仮定した上で2010年から30年後の2040年時点において、20〜39歳の女性人口が50%以上減少するとされた。

ここでいう「人口移動が収束しない」という仮定とは、2010〜2015年に観測された人口移動の偏り(5年累計で転入超過約+180万人、転出超過約-180万人)がその後もほぼ同水準で続くよう、社人研推計で用いる年次・性別・年齢階級別の純移動率について、転入超過側(プラス)と転出超過側(マイナス)それぞれに一定の調整率を乗じて行った将来推計を指す。

2010-2040年における女性人口(20-39歳)の変化率 ※出典:日本創生会議・人口減少問題検討分科会(2014年5月)『成長を続ける21世紀のために「ストップ少子化・地方元気戦略」』から著者作成

したがって、都心に位置する豊島区でいえば、東京一極集中に伴う地方圏から東京圏への人口移動の影響を受けてもなお、2010年を時点として30年後の2040年に20〜39歳の女性人口が半減することを意味する。具体的な数値については、当時の社人研推計では、-55.8%、人口移動が収束しない場合を加味すると-50.8%とされている。なお、当時の推計では、23区内では豊島区が唯一半減するとされた。なお、次点の自治体としては、足立区が-44.6%、杉並区が-43.5%となっていた。

補足として、以下の画像は当時の東京23区の推計結果である。左図が2013年の社人研推計、右図が2013年社人研推計に人口移動が収束しないと仮定した場合の推計である。左図の社人研推計では、豊島区以外にも、足立区、杉並区、渋谷区が半減する結果となっていた。

宣告から12年、データから読み解く豊島区の現在

2010-2040年における女性人口(20-39歳)の変化率 ※出典:国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(2013年推計・2023年推計)」から著者作成

では、宣告から約12年が経過し、現在の2040年推計はどのように変化しているのか。

最新の社人研推計(2023年推計)によると、次のように変化している。左図は、2013年推計、右図は、2023年推計による2040年の将来推計人口の変化率を比較したものである。結果、2013年推計ベースでは豊島区を含む4自治体が半減する予測であったが、2023年推計ベースでは、豊島区を含めてゼロである。むしろプラスに転じている区が多い。

豊島区人口・23区総人口の推移(実績・推計) ※出典:国勢調査、社人研(2023推計)から著者作成

豊島区に限ってみると、2013年推計では、23区内で最も変化率が高い約-55.8%であったのに対し、約-5.8%まで改善している。半減するとしていたのが、わずかマイナス6%まで低減したのだから驚異的である。人口ベースでみても、当時の推計では、20〜39歳の女性人口が2万2,173人であったのに対し、2023年推計では、5万3,230人を予想している。つまり、2倍を超える上方修正である。

この傾向は、東京23区全体の推計人口でみても当時の推計との差が明瞭である。下図は、2013年推計と実績・2023年推計を重ねたものである。2013年推計は、2010年国勢調査結果のデータをベースとしており、2015年、2020年は実績、これ以降は2023年推計で示している。当時の推計に対し上方に振れていることが一目で分かる。したがって、当時の推計を超えて東京圏への人口流入が進んでいることを示している。

さらに、その内訳をみるために、豊島区の5歳階級別人口について2013年の社人研推計における2020年推計と2020年実績(国勢調査)を比較すると、特に若年層で上振れがみられる。

例えば、最も多い上振れは、25〜29歳で、約1.4万人となっている。続いて、20~24歳、そして0〜4歳と続く。これは、豊島区において比較的若い世代の流入が大きかったことを示すとともに、その世代の子どもが誕生もしくは流入していることが分かる。また、図表には掲載していないが、外国人居住者も増加している。豊島区によると、2010年1月1日時点の外国人居住者数は1万8,575人であったが、2026年4月1日時点では3万7,877人としている。こうした変化も、豊島区の人口動態が当初想定より強く上方に振れた背景の一つと考えられる。

豊島区5歳階級別人口(2020年時点における2013年推計値と国勢調査実績) ※出典:国勢調査、社人研(2013推計)から著者作成

なぜ消滅可能性都市を脱却できたのか(仮説)

23区別人口(2020年時点における2013年推計値と国勢調査実績) ※出典:国勢調査、社人研(2013推計)から著者作成

前章からも判断できるように、当時の推計では捉えることができなかった想定以上の東京圏への人口移動により、23区の人口が増加していることが大きな要因といえる。実際、2013年推計では、2020年の23区の人口推計値を894万5,695人としていたが、実際の2020年の国勢調査結果からは973万3,276人となっており、この差は+78万7,581人となっている。想定よりも約80万人増加している。

この結果は、2013年の社人研推計において2010-2040年の20〜39歳女性人口が半減するとされた渋谷区や中野区、杉並区も同様に半減しない結果となっている。すなわち、シンプルに東京圏の人口吸引力が、豊島区の消滅可能性都市からの脱却の背景にあったとみることができる。

人口に関するデータを見れば、上記のように推察することができる。しかしながら、豊島区では、当時、23区内で唯一の消滅可能性都市であるとして大々的に報道されたことを受けて、緊急対策本部を設置し、行政計画をはじめとして、若い世代の女性人口の改善を図る施策に積極的に取り組んできた背景がある。

また、豊島区では、東京圏への流入を活かしつつ、池袋をはじめとした拠点のイメージ刷新を図ってきたことも一因として大きいと考えられる。その代表例が、国際アート・カルチャー都市の推進、マンガ・アニメ文化の活用、そして他区同様の手厚い子育て支援施策である。

ただし、豊島区の動きを行政計画の効果としてどこまで帰属できるかは慎重に扱う必要がある。東京圏への人口流入という強力な外部要因の側面がある以上、政策がなかった場合の反実仮想を観測データから厳密に構成することは難しく、政策効果と都市圏構造による流入効果を統計的に完全に切り分けることには限界があるからだ。

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豊島区の取り組み

中池袋公園 ※2026年4月撮影

改めて整理すると、2014年5月、民間有識者組織「日本創成会議」が発表した人口推計において、豊島区は東京23区で唯一消滅可能性都市に指摘された。これは20〜39歳の若年女性人口が将来半減するという予測に基づくもので、区に衝撃を与える結果となった。しかし豊島区は、この危機を都市構造を変革する好機と捉え、当時の区長を本部長とする「消滅可能性都市緊急対策本部」(後に「持続発展都市推進本部」へ発展)を立ち上げた。以降、若年層、とりわけ女性や子育て世帯に選ばれる都市政策を行っていく。

第一に取り組んだのが、女性の定着に直結する子育て環境の改善である。保育施設の緊急整備等に予算を重点配分し、区は2017年度に待機児童ゼロを達成。その後も継続して対策に注力し、「子育てがしやすいまち」としてのメッセージを強力に発信している。

第二に、都市空間の再編では、公園を起点としたまちづくりが象徴的である。かつて暗いイメージもあった南池袋公園は、官民連携の手法を用いて2016年4月にリニューアルオープンした。ほぼ全面的な芝生広場とカフェ等を備えたまちの居場所へと生まれ変わり、家族連れや若者が日常的に滞留する空間を創出した。これを皮切りに、中池袋公園(2019年10月)、池袋西口公園(グローバルリング、2019年11月)、イケ・サンパーク(2020年)と次々に特色ある公園を整備。これらを赤い小型電気バス「IKEBUS」で結び、まち全体の回遊性を高めるネットワーク化を実現している。

南池袋公園 ※2026年4月撮影
豊島区立芸術文化劇場(東京建物Brillia HALL) ※2026年4月撮影

さらに、池袋東口では「国際アート・カルチャー都市」構想を掲げる流れのなかで、旧区庁舎跡地などを活用した再開発が進行した。2020年7月にはHareza池袋がオープンを迎え、Hareza Towerや東京建物Brillia HALL、としま区民センター等からなる新たな文化発信拠点として定着している。

このように豊島区では、子育て支援と新しい公共空間・文化施設の拠点整備を両輪として推進した。これらの取り組みが相乗効果を生み、都市の回遊性と滞留の質を同時に底上げしたことで、東京圏への人口流入と相まって都心居住の選択肢として選ばれる自治体への転換を果たしたと整理することもできる。加えて、現在も池袋駅周辺では市街地再開発事業が積極的に進められている。

豊島区立芸術文化劇場(東京建物Brillia HALL) より中池袋公園を撮影 ※2026年4月撮影

池袋駅周辺での市街地再編の動き

池袋駅周辺の市街地再開発事業(豊島区まちづくりの動向)出典:豊島区役所HP(https://www.city.toshima.lg.jp/433/zigyoutyousei/2502060818.html)

現在、池袋駅周辺では、市街地再開発事業をはじめとした大規模な都市計画が複数進行している。下図は、豊島区が公表している市街地再開発の予定地等を含めたマップである。

池袋駅西口 ※2026年4月撮影
施工中の南池袋二丁目C地区第一種市街地再開発事業 ※2026年4月撮影

特に注目したいのは、池袋駅東側から現・豊島区役所(南池袋エリア)周辺にかけての市街地再開発である。池袋駅東側は、旧来の雑居的な土地利用や細分化した敷地、狭隘な道路による歩行空間の不足といった課題を抱える一方、サンシャインシティや劇場・映画館など文化・商業資源が集積し、日常的に厚い人流を生み出している。こうした条件のもとで、個別更新だけでは解決しにくい歩行者ネットワークの構築や公共空間の拡充、防災性の向上を、再開発の枠組みを用いて同時に実装しようとする動きが本格化している。

これまで同エリアでは、新庁舎への移転を契機として、旧庁舎跡地におけるHareza池袋の形成や、現庁舎に隣接する南池袋公園の整備が進み、行政・文化・民間開発を束ねて滞在と回遊をつくる基盤が整えられてきた。現在進行中の再開発(南池袋二丁目・東池袋一丁目)では、これら既存の拠点を点で終わらせず、駅から東側市街地にかけての面としてのつながりをいかに構成するかが焦点となる。

さらに、池袋駅西口は、広域から集客する巨大ターミナルの利便性を享受する一方で、駅前の東武百貨店をはじめとする建築物の老朽化や、地上・地下の動線の複雑さが長年の課題とされてきた。現在検討中の西口地区再開発では、業務・商業・居住機能を集積させた超高層建築物群の整備が計画されている。『池袋ウエストゲートパーク』を見ていた世代ならおなじみの池袋西口公園については、既存の公共空間とシームレスにつなぐ歩行者ネットワークや、滞留を促すオープンスペースの拡充が実現すれば、エリア全体の価値をさらに底上げする余地がある。

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施工中の南池袋二丁目C地区第一種市街地再開発事業 (2026年5月に移転予定の豊島区保健所)※2026年4月撮影

居住地としての豊島区の魅力と将来性

豊島区役所 ※2026年4月撮影

豊島区の居住地としての強みは、池袋駅という巨大ターミナルを核に、通勤・通学・買い物・医療・文化といった都市機能が集積している点にある。特に文化的拠点の成長は著しいものがあり、都内の主要駅とは違った表情を見せている。加えて、南池袋公園やHareza池袋に象徴されるように、滞在できる公共空間や文化拠点が充実しつつあることは、都心居住で不足しがちな余白を補う要素となり、単身者から子育て世帯まで多様なライフスタイルに適応しやすい環境を生み出している。

もっとも、豊島区の居住環境は区内で一様ではない。池袋駅周辺の高い利便性と再開発の波及を強く受けるエリアがある一方、目白や巣鴨寄りのエリアでは、住宅地としての落ち着きや既存ストックの質が独自の魅力となるなど、居住地としての評価軸は場所によって異なる。豊島区全体が一括して上向いたとみるよりも、池袋を核とする都市機能の更新が区内の各エリアに異なる形で波及していると捉えるほうが実態に近い。

池袋駅西口(池袋西口モザイカルチャー「えんちゃん」) ※2026年4月撮影

将来性の観点では、池袋駅周辺で進む複数の市街地再編が、歩行者ネットワーク・防災性・都市の回遊構造をどう更新するかが鍵となる。東口・西口の再編が周辺市街地へ波及し、住環境とにぎわいのバランスが取れれば、豊島区は「働く・遊ぶ」のみならず、「住み続ける拠点」としての魅力を増す可能性がある。一方で、地価・賃料の上昇が生活コストに与える影響や、住宅ストックの更新と管理、学校・保育・医療などエッセンシャル施設への負荷への対応も、都心居住の持続可能性を左右する論点として見逃せない。

なお、豊島区が消滅可能性都市の指定から脱却したことは確かな変化ではあるが、それをもって都市の持続可能性が全面的に改善したとみるのは早計だろう。そもそも、消滅可能性都市という指標は若年女性人口の将来減少に着目した単一の尺度であり、当初推計との大幅な差は、政策効果というより、東京一極集中がもたらした人口流入の恩恵として理解するほうが実態に近い。加えて、この指標は、地価の上昇、住宅費負担の増大、外国人居住者を含む急速な人口流入といった、近年の東京都心が直面する課題を捉えていない。

豊島区の将来性を左右するのは、東京圏の一自治体として、周辺自治体との関係性も視野に入れつつ適切な役割分担を行いながら、都市機能の更新が生活の質の改善として実感できる形で適切に実装されるかどうか、官民連携による都市行政の運用力にかかっているといえる。

満山 堅太郎
建築士・ライター
地方から新たなまちづくりに挑戦中。国土交通省、いわき市役所勤務を経て2022年に起業。 前職では、港湾・空港整備、都市計画・まちづくり、公共交通行政の他、建築審査・指導等を経験。 株式会社UrbanPoleShift(https://iwaki-poleshift.jp)代表取締役。 一級建築士・建築基準適合判定資格者など

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