【グッドルーザーとは】負けた時こそ相手に敬意を払いたい。高校サッカーで敗れた浜松開誠館イレブンから学ぶこと
静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは「グッドルーザーとは」。先生役は静岡新聞の寺田拓馬運動部長、聞き手はSBSアナウンサーの杉本真子(SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」 2024年12月5日放送)
エスパルスの入場者数が96年以降で最多!
(寺田)まず、サッカーの清水エスパルス。よかったですよね。見事J2優勝を果たし、3季ぶりのJ1復帰を決めました。
(杉本)よかったですね!
(寺田)優勝を決めたホームのいわき戦の時、秋葉監督はインタビューで、「This isエスパルス」って叫んでましたよね。そこは「This isフットボール」じゃないんだと思ったんですが(笑)。秋葉さんはサポーターのことを、選手やスタッフと一緒に「ファミリー」と呼んでいるので、ファミリーへの感謝の気持ちを表したんでしょうね。
清水の今季ホーム19試合の総入場者数は33万7千人以上でした。リーグのチーム数の変動で試合数は年ごとばらつきがあるんですが、なんと1996年以降で今年が最多だったんですよ。
(杉本)へぇー!
(寺田)30年以上の中で最多ということになります。今年はJ2だったのに最多だったんですよね。
(杉本)今年は、毎回シーズンの最多人数を更新していくようなホームゲームでしたもんね。
(寺田)9月には国立競技場でホームゲームを開催し、2位の横浜FCとの首位攻防戦でJ2最多の5万5千人以上が駆け付けたんです。J1だって国立競技場を満員にできるクラブはそうそうないですよね。取材した記者によると、静岡駅から国立まで「オレンジの道」ができ、会場周辺までオレンジ一色だったって言っていました。
(杉本)私も現地に行きましたが、もう、「静岡かな?」っていうくらい、知り合いに会いました。
(寺田)このサポーターの熱狂的な応援を受け、ホームは15勝3分け1敗と無類の強さを見せました。
(杉本)すごいですね。
(寺田)清水は、昨季まで5季連続で監督が途中交代し、クラブとしての明確なスタイルを打ち出せませんでしたが、昨季途中から秋葉監督が継続して指揮を執り、粘り強さをチームに植え付けました。ただ、今季は実は、横浜FC、長崎、山形とリーグ2〜4位の上位陣には2分け4敗で勝ってないんですよ。
(杉本)まさに、拮抗する大事なところで勝てていないんですね。
(寺田)優勝できたのは下位に取りこぼさず地力を示したからなのですが、来季J1で戦うには、さらにチーム力の上積みが求められます。
「グッドルーザー」とは?
(寺田)今回は「グッドルーザー」っていう言葉について考えてみたいと思います。直訳すると「良き敗者」ですよね。どんな意味があると思いますか?
(杉本)負けた時にも相手に対する敬意があるというか…。
(寺田)「惜しくも負けた」って意味だと捉えている方がいるかもしれませんが、私はちょっと違うと思ってるんです。この夏もパリでオリンピックとパラリンピックがありましたが、表彰式を見ると、銀メダルを取った人って複雑な表情だったりしませんか?
(杉本)「金をやっぱり取りたかった」っていう…?
(寺田)そうですね。勝ち負けがつく対戦方式の競技の場合、金メダリストは当然喜んでいますし、銅も3位決定戦に勝ってメダルを獲得できたら笑顔ですが、銀メダリストって最後、決勝で負けちゃっていますよね。
悔しくて、すぐに銀メダルを外してポケットに突っ込んだり、もっとひどいとゴミ箱に捨てちゃったりとかね。スポーツの歴史を振り返ってみると、実際にそういう事例もあったんですよ。
(杉本)いろいろあるんですね。
(寺田)スポーツと関係ないようですが、先日、アメリカで大統領選挙がありましたよね。負けたハリスさん、落選が決まるとすぐに支援者の前で敗北を認める演説をしました。
これはアメリカの大統領選では恒例で、ハリスさんの前にも、トランプさんに前々回敗れたヒラリーさんが敗北演説で「ガラスの天井はいつか砕ける」と訴え、「それぞれが持つ違いに敬意を払い、強い信念とこの国への愛情を持って団結しよう」と呼びかけました。この演説は名演説として語り継がれています。
アメリカには「アメリカンドリーム」があって競争社会なんですが、同時に「グッドルーザー」の精神とそれを尊ぶ価値観が大切にされているんだそうです。子どもの時から、競争で勝つことだけでなく、フェアプレーの精神や負けた時に取るべき態度について、学校や家庭などで学ぶそうです。
(杉本)へぇーっ。
(寺田)正々堂々と力を尽くして戦って、それでも勝てなかった時は、いさぎよく自分の負けを認め、相手に敬意を表して勝利をたたえる。それができるなら、試合や競争に負けても人として負けたわけではない。むしろ、グッドルーザーこそ勝ち負けより大切で、態度で示せる人は人間として素晴らしいし、称賛に値するっていう考えがあるんです。
浜松開誠館が敗れた後…
(寺田)このコーナーで、高校サッカーの魅力について「どんな状況でもベストを尽くし、相手に敬意を持ってプレーする。それが高校サッカーの魅力なんだ」とお話したことがあります。
全国高校サッカー選手権静岡県大会の決勝は前評判通り、静岡学園が2−0で浜松開誠館を下しましたが、私が心を打たれたのは表彰式の後の開誠館イレブンの態度だったんです。
表彰式が終わった後、新聞とテレビ用の撮影があり、静学の選手たちは何回もかけ声を掛け合って「やったぞ」とか「全国でも頑張るぞ」みたいなシーンを繰り返していました。その間、開誠館イレブンは直立のまま、ピッチの脇で待機してたんです。
開誠館の選手たちは負けて悔しいだろうし、試合の途中から雨が降り出して寒かったので風邪を引かないか心配にもなったんですが、後で青嶋監督に聞いたら「勝った相手に敬意を表すためで当然だ」と言うんです。浜松開誠館イレブンは、まさにグッドルーザーでした。
(杉本)話を聞くだけで、ちょっと涙が出そうになりました。
(寺田)勝者は忘れられても、グッドルーザーは語り継がれて永遠に人々の記憶に残りますよね。今年の開誠館のスタメンは2年生が多かったので、来年に向けてどう成長するか楽しみですね。
ここでアメリカに話を戻すと、トランプさんは今回の大統領選に勝ちましたが、前回負けた時もはっきりとした敗北演説をしていないんです。
(杉本)へえ、そうなんですね。
(寺田)だいたい、負けを認めませんでしたからね。世界の各地で紛争が相次ぎ、分断と対立が激化する中で、一本を取ってもガッツポーズしないし、負けた相手に敬意を払う「グッドルーザー」の精神は、今まさに重要さを増してるんじゃないかと思うんですけどね。
(杉本)意外と、負けを認めるってできないじゃないですか。ラグビーでのノーサイドの精神とか、かっこいいなって思いますよね。スポーツマンシップというか。
(寺田)皆さんもグッドルーザーの精神について考えていただけたらと思います。ウインタースポーツのシーズンも佳境が近づいてますから、スポーツ観戦で応援する際は競技だけではなく、試合後の敗者の振る舞いにも注目していただき、グッドルーザーには大きな拍手を送ってほしいと思います。
(杉本)見る側も熱くなりすぎて、相手のことを称えるって忘れる時間ありますもんね。今日の勉強はこれでおしまい!