「キンダーカウンセラー」が親と先生を救う 関西の幼稚園から広まる新たな子育て支援
臨床心理士が幼稚園などへ訪れ保護者や保育士を支える「キンダーカウンセラー」第2回。過去の事例をふまえキンダーカウンセラーの業務と役割、キンダーカウンセラーがいないときの相談窓口や、孤立しない子育てのヒントなどを紹介。(全2回)
▶後悔しない園選び! 先輩ママが重視したポイントは?<アンケート結果>「うちの子、少し周りの子と違うかも?」という発達の悩みから、家庭内の複雑な事情まで、幼稚園・保育園という場所は、実は家族のさまざまな「SOS」が最初にあらわれる場所でもあります。関西の幼稚園で広まりつつある「キンダーカウンセラー」は、臨床心理士など専門家が不安な“保護者”をサポートする支援です。子どもの様子を見ながら保護者に寄り添い、児童相談所や行政へつなぐ架け橋のような役割も担っています。
キンダーカウンセラーがいることでどんな安心を得られるのか、現場のリアルな声を聞きました。
園が直面した深刻な事態を救った専門家の視点
幼稚園は「教育」の場ですが、ときには「福祉」の専門性が必要な家庭の危機に直面することもあります。
たちばな幼稚園(大阪府門真市/幼保連携型認定こども園)の邨橋(むらはし)智樹副園長は、「かなり前の話にはなりますが、保護者が子どもの問題について、どの機関に連絡すれば、対応してもらえるのかわからないといった相談を受けたこともあったそうです」と振り返ります。
「園として話を伺うと、確かに子どもの生活環境に大きな不安があることがわかり、当時は、正直なところ園としてどう動けばいいのか迷ったということです。子どもを守る必要がある。しかし、スムーズにどう行政につなげればいいのか……」
そんなとき園と保護者を支えたのが、キンダーカウンセラーの存在でした。
「保護者と園、行政の間に入り、状況を整理しながら児童相談所や自治体などとの連携を進めてくれました」
子どもの問題は、園の中だけで完結するものではありません。家庭、地域、行政など、さまざまな機関とつながることで初めて支えられることもあります。キンダーカウンセラーは、そうしたつながりをつくる役割も担っているのです。
先生+キンダーカウンセラーが連携して子どもを安全へ導く
子どもの発達に関する悩みは、多くの場合、日常の中の小さな違和感から始まります。
落ち着きがない、友だちとの関わりがうまくいかない、活動に集中できない。そうした変化に最初に気づくのは、担任の先生です。邨橋さんは言います。
「担任の保育者(園の先生)は毎日子どもを見ていますから、ちょっとした変化には本当によく気づきます。ただし、その変化をどう理解すればいいのかは簡単ではありません。
成長の過程なのか、一時的なものなのか、それとも専門的な支援が必要なのか。判断は難しいものです。保育者の知識で、この子は発達特性があるとかを断定することはできません。我々はそういったことの専門的な勉強をしているわけではないので」
そんなとき、臨床心理士であるキンダーカウンセラーの視点が加わることで、子どもの姿をより多面的に理解し、確実な支援に結びつけることができるようになります。
キンダーカウンセラーの仕事は「観察」から
大阪府の幼稚園でキンダーカウンセラーをしている臨床心理士の田近文(たぢか・あや)さんに、園での業務について聞きました。
「キンダーカウンセラーの仕事は、子どもの観察がメインです。カウンセリングと聞くと、相談室で向き合って話を聞く場面を想像する人も多いかもしれませんが、それとは少し違います。
子どもたちは保育室や園庭で遊び、友だちと関わりながら一日を過ごしています。臨床心理士はそうした日常の場面に入り、子どもの姿を観察します。どんな遊びを選ぶのか。友だちとどのように関わるのか。どんな場面で困りやすいのか。逆に、どんなときに安心しているのか。
日常の環境の中で見ていくことで、その子の特徴や困りごとが見えてくることがあります。医療機関での面接とは違い、幼稚園では子どもの“普段の姿”を見ることができる。それが園での支援の大きな特徴でもあります」
観察後、キンダーカウンセラーは担任の先生に見立てを伝え、その子にはどんな関わり方が合っているのか、どういった工夫ができるのか、安心につながる方法を一緒に考えます。
「園の先生って、本当に子どもたちのことをよく考えていて、いろいろなアイデアを持っていらっしゃるんです。なので、そこにキンダーカウンセラーがサポートすることで、先生の自分の考えを整理でき、その子に合った支援を自信を持って行えるようになればと考えています」
田近さんは毎月1回キンダーカウンセラーとして幼稚園を訪問します。幼稚園という子どもの日常が見える場所にいることで、保護者は気軽に話をしやすくなる。「ここ(幼稚園)にいることに大きな意味を感じる」と田近さんは言います。
「わざわざカウンセリングに行くっていうのは、やっぱりハードルが高いと思うんです。相談すること自体に不安を感じる保護者も少なくないんじゃないでしょうか。我々が幼稚園で行うカウンセリングでも最初は緊張している保護者の方が多いです。
それでも話しているうちに、『こんなふうに悩んでいるのは自分だけじゃなかったんですね』『子どもの相談って言いながら、結局は自分の話を聞いてほしかったのかも』と、カウンセリングの最後にはホッとしたような笑顔をみせてくれることがあります。そんなときキンダーカウンセラーの重要性を実感しています」
キンダーカウンセラーがいない園はどうすれば?
キンダーカウンセラーは2003年に国内で初めて大阪で導入され、兵庫、京都など関西を中心に広まりつつあります。
とはいえ、大阪府でも配置されているのは府内の私立幼稚園・認定こども園418園のうち、約半数。小中学校のスクールカウンセラーがほぼ全校に配置されているのと比べるとまだまだ普及の途上です。
「もし住んでいる地域にそのような制度がなければ、保護者自らが少し情報のアンテナを広げてみることも大切かもしれません」とは大阪府私立幼稚園連盟でキンダーカウンセラー事業を担当している平林祥さん。
キンダーカウンセラーはいなくとも、多くの園では、自治体の巡回相談や発達支援センター、医療機関などと連携していて、園の先生に相談すると、地域の機関を紹介してもらえることもあります。子育てに関する相談窓口も、自治体の子育て相談、発達支援センター、保健センター、子育て支援拠点など、さまざまな場所にあります。
子どものことを心配しているのは、保護者だけではありません。園の先生や地域の専門家など、一緒に子どもを見守る人たちがいます。一人で抱え込まず、少し視野を広げてみる、誰かを頼ってみることが支援を受ける一歩へとつながっていきます。
全国へ広げていきたい
さらに、平林さんは、「今の時代こそキンダーカウンセラーは必要」と語ります。
「園にキンダーカウンセラーなどの臨床心理士が関わる事業は、全国的に見ればまだ広く普及しているわけではありませんし、自治体によって支援体制は大きく異なります。しかし、子育ての悩みが複雑になっている今、保護者だけ、園だけで抱えることが難しいケースは増えています。
保護者、園、専門家、そして行政。それぞれがつながることで、子どもを支える環境は少しずつ広がっていきます。
大阪で続いてきたキンダーカウンセラー事業は、子育ての悩みを一人で抱え込まないための一つの仕組みとして、その役割を静かに果たしていると思います。
実際に、この事業で救われたと感じる保護者や保育者も多いと思いますので、これからは全国に少しずつでも広がっていくことを願っています」
子どもの成長において、保護者の抱える悩みは子どもが何歳になっても絶えることはありません。より手がかかる幼児期なら、なおさらのこと。子育てのリアルな悩みはネット検索だけではなかなか解決できません。
キンダーカウンセラーは、親や園の先生だけでは解決できない問題を突破する「架け橋」のようなものです。
あえて専門家とリアルで向き合って言葉や心を交わし、心を整理してまた前に進む。子どもが毎日通う園にそんな体温のあるつながりがあれば、親は孤立から救われ、明日への活力につながるのだと実感しました。
取材・文/関口千鶴