「CBR1000RR-R」のライバル車に試乗!公道でもシビれる加速感が味わえるヤマハ「YZF-R1M」
今回紹介するヤマハ「YZF-R1」は、2020年にひと際大きな話題となったスポーツタイプのバイクとして、すでに試乗レポートを掲載しているホンダ「CBR1000RR-R」のガチンコのライバルというべき存在。モデルチェンジを受け新しくなった上位グレード「YZF-R1M」に乗り、長年にわたるライバル車とのキャラクターの違いをじっくり確かめてみた。
幾度も「CBR」を破った実力を持つマシン
「YZF-R1」の初代モデルが登場したのは1998年のこと。すでに人気モデルとなっていたホンダ「CBR900RR」の対抗馬として開発され、177kgという当時のミドルクラス並の車体に、150PSを発揮する998ccの4気筒エンジンを搭載。“カミソリ”と形容されるシャープなハンドリングを誇り、1000ccクラスのスーパースポーツブームを牽引する存在となった。2000年には早くもモデルチェンジが行われ、2002年には燃料供給が電子制御のフューエルインジェクションに進化。その後、2004年にスーパーバイク世界選手権のレギュレーション変更を受け、レースでの勝利を目指した設計に刷新された。頻繁にブラッシュアップが施され、常に進化を続けていたのはスーパースポーツジャンルの競争が激しかったこともあるが、ヤマハのフラッグシップとしての役割が与えられていたことも大きいだろう。
そして、2009年にYZF-R1のキャラクターを決定づけるモデルチェンジが施された。エンジンに、不等間隔爆発をもたらす「クロスプレーン」と呼ばれるクランクを採用したのだ。通常4気筒が等間隔に爆発するところを、あえて不等間隔に爆発させることでトラクション(駆動力を路面に伝える)性能が向上し、コーナーからの脱出時に早めからアクセルが開けやすくなるというメリットがある。最高出力を向上させるような効果はないものの、立ち上がりの加速がよくなればタイムも縮めやすくなるため、最高峰のレースである「MotoGP」ではほぼすべてのマシンに採用されている技術だ。
クロスプレーンクランクを採用したエンジンの効果は大きく、そのエンジンを搭載したマシンで参戦した2009年のスーパーバイク世界選手権ではチャンピオンを獲得。全日本ロードレース選手権のJSB1000クラスでも、2009年から2020年までの12シーズンで9回シリーズ王者となっている。ホンダが王座奪還を目指して発売した「CBR1000RR-R」で参戦した2020年シーズンにおいても、王者となったのは「YZF-R1」だった。
レーシーなルックスと扱いやすさを両立した2020年モデル
2020年型の「YZF-R1」も、当然ながらクロスプレーンクランクを採用している。最高出力は200PSと、ライバル車の「CBR1000RR-R」(218PS)と比較すると数値的にはYZF-R1のほうが劣るが、これはスペックよりも扱いやすさを重視したことによるもの。コントロール性を向上させるため電子制御も積極的に導入しており、ABSやトラクションコントロールはもちろん、2020年モデルからはアクセル開度センサーを組み込んだ電子制御スロットルや、アクセルオフ時のエンジンブレーキの効きをコントロールする「EBM(エンジンブレーキマネージメント)」、そして、EBMと連動してブレーキ圧力を制御する「BC(ブレーキコントロール)」も追加された。
なお、YZF-R1には、2015年モデルからオーリンズ社製の電子制御サスペンションを装備した上級グレードの「YZF-R1M」がラインアップされており、2020年モデルにも用意されている。
小さめのLEDライト採用するなど、スタイリングは非常にレーシー。しかし、レーシーな雰囲気に仕上げたというより、レーシングマシンとしての性能を追求し、それに合うライトやウィンカーといった保安部品を追加していった結果、このデザインになったように感じる。このスタイリングや基本構造は前モデルから継承したものだが、独立したデザインのライトは自由度の高いカウルの設計ができることもあり、2020年モデルは5.3%の空力性能向上を実現した。ちなみに、カーボン製のカウルを装備したYZF-R1Mは、標準モデル「YZF-R1」よりスパルタンな雰囲気がより強い印象だ。
電子制御のサスペンションは、走行モードと連動してサスペンションのセッティングを切り替えることができる。もっともレスポンスの鋭い「A」から穏やかな「D」まで4段階の走行モードが用意されており、エンジン特性だけでなく、トラクションコントロール(TCS)やBC、EBCなどの介入度合いも走行モードごとにセッティングが可能だ。
公道でも楽しい! クロスプレーンのエンジン特性
筆者はすでにライバル車であるホンダ「CBR1000RR-R」に試乗しているので、今回の試乗では両モデルを比較した感想もお伝えするが、このクラスのスーパースポーツは公道では性能をフルに発揮できないため、速さを比べるというよりはキャラクターの違いにフォーカスする。
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まず、車体にまたがったライディングポジションが明確に異なった。YZF-R1Mは着座位置が高く、ハンドルの位置も低めで絞りもキツイなど、明らかにレーシーな姿勢。ハンドルが結構開き気味だったCBR1000RR-Rと比べると、YZF-R1Mは少し緊張してしまうポジションだ。
エンジンをかけると、元気のよい排気音が耳に届く。CBR1000RR-Rと比べるとやや割れたような音だが、これは不等間隔爆発エンジンの特徴で、「MotoGP」に参戦するマシンの音質に近い。そして、クラッチをつないで走り出すと、低回転域からトルクがあり、思った以上に扱いやすい。特に50km/hくらいからアクセルを開けると、クロスプレーンクランクのエンジンらしく、路面をタイヤがしっかりかいて進んでいくような感覚が伝わってくる。この感覚は、一般道でも非常に気持ちがいいものだ。アクセルコントロールのしやすさは一般道の速度域でも感じられ、1速で走っていてもギクシャクしてしまうような挙動はない。CBR1000RR-Rに試乗した際は、街中では早めにシフトアップしていく走り方をしていたが、YZF-R1Mは1速でずっと走りたくなるような乗り味だった。
高速道路に入ると、その気持ちよさがより堪能できる。合流で少し大きめにアクセルを開けると、恐ろしいほどの加速感を味わえるが、その間もタイヤがしっかり路面を蹴っている感覚が伝わってくるので、どこかに飛んでいってしまいそうな不安感はない。1速のまま100km/hオーバーまで加速できてしまうため、高速道路でも1速で十分な動力性能だ。とはいえ、さすがに4速くらいまではシフトアップしているが、高速道路でも低めのギアでアクセルコントロールを楽しみたくなる特性は変わらず、6速に入れることはほとんどなかった。一般道と高速道路での扱いやすさにおいては、ライディングポジションが前傾でラクとはいいがたいものの、CBR1000RR-RよりYZF-R1Mのほうがすぐれている印象だ。
次に走行したワインディングでも、アクセルが開けやすい特性が気持ちいい。コーナーで、高い着座位置から重心を落とすように倒し込むと、スパッと向きが変わる。コーナリングスピードを高めるより、しっかり速度を落として向きを変え、立ち上がりの加速感を楽しむ走り方が向いているようだ。クロスプレーンのトラクションを感じながら加速するのが楽しいので、リスク低めの走り方で楽しめるマシンだと思う。
試乗を終えて
200PSという最高出力を持つ高性能マシンだけに、公道での速度域でどこまでCBR1000RR-Rとの違いを感じられるか不安もあったが、実際に走ってみると、思った以上に明確なキャラクターの違いが感じられた。YZF-R1Mで際立った個性を発揮しているのは、やはりクロスプレーンのエンジン。レースで勝つために採用された機構だが、公道の速度域でもアクセルが開けやすい特性や気持ちよさは十分堪能できる。
また、4気筒エンジンは回転上昇のスムーズさがメリットではあるが、1000ccクラスのエンジンで吹け上がりの気持ちよさを味わおうとすると、とんでもない速度が出てしまう。しかし、クロスプレーンのエンジンの場合、そこまで回転を上げなくても不等間隔で爆発するエンジンが路面にトラクションを伝えている感覚が味わうことが可能。かつ、電子制御のおかげもあって公道の速度域でもアクセルコントロールがしやすく、パワーの半分も使えていなかったとしてもYZF-R1Mの持つ高性能の一端を垣間見ることができる。実に楽しい試乗体験だった。