「郡上先輩に対する気持ちと、ぼたんに対する気持ち」そこにあるわずかな差を繊細に詰めて──TVアニメ『上伊那ぼたん、酔へる姿は百合の花』砺波いぶき役・青山吉能さんインタビュー【連載第5回】
塀先生による人気漫画を原作としたTVアニメ『上伊那ぼたん、酔へる姿は百合の花』が、2026年4月10日よりTOKYO MX・BS11ほかにて放送中です。
本作は、大学へ進学した上伊那ぼたんが、埼玉県秩父市の学生寮での生活を通して、“お酒”をきっかけに寮生たちとの距離を縮めていく物語。お酒を通してゆっくりとほどけていく関係性の変化が、色彩豊かに描かれています。
アニメイトタイムズでは『上伊那ぼたん、酔へる姿は百合の花』のキャストインタビューを連載でお届け。今回は砺波いぶき役・青山吉能さんにお話を伺いました。
役作りのためにしっかり、しっとり、しっぽりと深くお酒と向き合った青山さん。第5話で改めてスポットライトが当たった砺波いぶきについて、たっぷりと語っていただきます。
【写真】『上伊那ぼたん、酔へる姿は百合の花』青山吉能【連載インタビュー第5回】
「ぼたんは光です」
──初めて本作の物語に触れたとき、また、砺波いぶきに出会ったときの印象をお聞かせください。
砺波いぶき役・青山吉能さん(以下、青山):お酒にまつわる人間関係の描写がすごく鮮やかに描かれていると感じました。作品と出会った当初は、お酒を楽しく飲む作品なのかなと思っていたのですが、キャラクターの心理描写が丁寧で、想像の余地を与えられていて、我々の読解力も重要なのかなと思います。
塀先生の描かれる原作を読んで、最もつかみどころがなく、一番声のイメージがつかなかったのがいぶきでした。オーディションでは、実はほとんど全ての役を受けさせていただいたのですが、いぶきの手ごたえは全くなくて。つかみきれないままスタジオオーディションの会場を後にしました。
でも、いぶき役に選んでいただいた。ということは私がいぶきを演じていくということだと。……すいません、変な構文になっちゃいました(笑)。
──(笑)。つかみどころのない、という認識から、どのようにいぶきを作り上げていったのでしょうか。
青山:「このままじゃいけない」と思ってはいたものの、いぶきは逆に「つかみどころがない」ところも魅力だなと感じていて。“アニメのキャラクター”をしすぎていない……「人間である」という部分は損ないたくなかったんです。だからこれは、演じながらのバランスだと思いながら、第1話の収録をさせていただきました。
──いぶきは登場キャラクターの中でも特に「お酒が好き」という印象があります。青山さんご自身のご経験も含めて、いぶきが作り上げられたのかなと想像していました。
青山:お酒をたくさん飲む日々を過ごしました。もちろん役作りの一環で!(笑)
ただ、私はお酒を飲んでもしゃっくりが全く出ない体質なんです。お酒を飲んで出てしまうしゃっくりって、普段偶発的に出るものとはまたちょっと違うのかなと思っていました。どうしたらしゃっくりが出るかを考えて……本当に、真剣な研究の意味でお酒を飲んで、夜中の3時ぐらいまで飲んだときにやっとしゃっくりが出たんです。
──夜も更けましたね……!
青山:(笑)。そのときに「あ、これだ!」と思って録音したんです。それを後日聞き直したら、もうへべれけもいいところで! 「◯△✕▢……」みたいな怪文書……怪音声が残っていて、何の参考にもならなかったんですよね。
でもそのおかげで「喋りたいのに、都度止まってしまう」というストレスがわかりました。いぶきってこんな大きなストレスの中にいるんだなって。しかも一緒に飲んでいた人たちの一人に「うるさい」と言われてしまう。そしてそれは自分の中でもわかっていて、引け目に感じている……。理解していることを人から指摘されるという苦しみを、いぶきは味わっていたんだなと実感して、よりキャラクターの深みが増しました。やはりお酒を飲んで良かったです。
──深く酔っているときにも「録音しよう」という思考が働くのがやはりプロだなと思いました。
青山:絶対に聞かせられないような音声ですけどね(笑)。でも、結構そういうことがあるかもしれません。とても悲しいことがあって号泣しているときとかも「いつかの号泣演技に使えるかも」という冷静な自分がいて……自分でも「怖い」って思うことがあります。そうして生まれたニュアンスが伝わっていたら嬉しいです。
──「しゃっくりのお芝居」も、あまり演じる機会が多くないのではないかと思います。
青山:そうですね。それこそ「酔っ払った人のお芝居」としてのアニメ的なしゃっくりはよくあるのですが、ここまで毎回出てくるのはかなり珍しいと思います。こればっかりは、そのときの音声をとにかく真似していました。
──お酒を飲んでいるとき、飲んでいないときのお芝居の違いを教えてください。
青山:ぼたんが特にそうですが、やはりお酒を飲むと心の距離がぐっと詰まる気がしています。いぶきも、お酒を飲むこと自体は好きだし、本来はきっと誰かと飲むことも好きだったと思うんですよね。ぼたんという(いぶきが)心を開き始めた人と大好きなお酒を飲むと、陽気さや前のめり感が増すんだろうなと。この変化を意識していました。
第1話の時点では「一人が好き」「私は孤独」のような雰囲気を見せていましたが、物語が進むうちに本当はそうじゃないということがわかります。なので独りぼっち感みたいなものは出さずに「お酒に対する愛情がとても深くて広い子」を表現できるようにしました。
──さきほどお話しいただきましたが、いぶきは大好きなお酒なのに人と飲むことへのトラウマを抱えています。彼女が向き合う悩みについて、青山さんはどのような変化を感じていますか?
青山:「お酒が好き」という根底は変わっていないのかなと思います。ただ、やはり人と飲むことに対する強いトラウマがあった中に、ぼたんという真っ直ぐで優しい光が差し込んだことは大きかっただろうなって。
郡上先輩の方が(ぼたんより)一緒にいる時間も長いはずなのに、いぶきはぼたんの真っ直ぐさにやられて……ほだされて(笑)。さらにそれによって、やえかやあかねたちとの関係性も変わってくるのがすごく印象的ですね。そうして、いぶきが臆せずにどんどん変わっていくのは、ぼたんによってもたらされたものなんだなと解釈しています。
──背中を押してくれるインパクトが、いぶきには必要だったのかもしれません。
青山:そうですね。本当に、ぼたんは光です。
「『上伊那ぼたん、酔へる姿は百合の花』だけに心を預けて」
──本作のアフレコはいかがでしたか?
青山:ぼたん役の鈴代紗弓は結構付き合いも長くて、こうして二人でがっつり掛け合いができてありがたいな、なんて思っていました。また郡上かなで役の寿 美菜子さんは、共演させていただくのも初めてのことで。
メインキャラクターが全員集合して収録することが多かったのですが、リアルな関係値が似通っていました。ぼたんといぶき、紗弓と私。郡上先輩といぶき、美菜子さんと私……。色々な立ち位置が、良い方向に作用したなと思います。
アフレコブースの雰囲気も、本当に愉快で、フレンドリーでした。みんながずっと何かを喋っているんですよね。基本的にあかね役の天海(由梨奈さん)が、ずっと大きな声で何かを言っていたり(笑)。それに対してジンラン役の河瀬(茉希)さんがボソッと突っ込んで、やりとりにツボっている富田美憂ちゃんがいて。バランスがものすごく心地良くて楽しい現場でした。
あと天海は行動も大胆だったなと思います。あかねはやえかとの会話が多めなので、富田美憂ちゃんとお芝居をすることが多かったのですが、最初は二人ともよそよそしくて。でも次の収録のときには「もうマブ(マブダチ)だね!」みたいな感じになっていて「仲良くなるスピード速すぎない?」と思っていました。あの二人の間に何があったのか不思議で……インタビューで聞けたら聞いてみてください(笑)。
──承知しました(笑)。そして、本作の魅力のひとつとしてキャラクターごとに衣装が細かく設定されていることも挙げられます。
青山:原作コミックスにはおまけページがあるんですよね。こうして衣装についてのお話があるという作品も珍しいなと思いました。
いぶきについては「ぼたんとペアで登場することが多いため、衣装の方向性が重複しないよう意識しています」という記述があって。たしかにぼたんがプリティな格好をしているときのいぶきは、ダボっとしたメンズライクな着こなしをしていることとかが多いんです。こんなに衣装設定がある作品ってめちゃくちゃ貴重ですよね。視聴者の方がどのくらい気づいてくださるかはわかりませんが、本当に信じられないくらい膨大な設定画がありますので、ぜひ今後も注目して欲しいなと思います。
──いぶきも、衣装だけで色々なバリエーションを見せてくれていて。
青山:個人的に、体のラインがあまり見えないようなダボっとした服を着ている女の子が好きなのですが、いぶきは比較的そういう服を着てくれるんです。それでいて、たまに足を出してくれるので「ありがとう……!」と思っています(笑)。
──(笑)。次に、放送された第5話でお気に入りのシーンや印象的なお芝居の瞬間を教えてください。
青山:第5話は、いぶきが人前でお酒を飲めない理由が判明しました。本当にしんどかったです。
辛いことを思い出す。しかも思い出すだけではなく、言葉にして誰かに伝えるって、ものすごくエネルギーがいることだなと思うんです。簡単には発せられないけど、アニメだから発さないといけない。自分の中でも葛藤がありました。
──トラウマの告白も含め、今回はいわゆる“お当番回”でしたね。
青山:アバンからいぶきにフォーカスを当てていただいていましたが、最初の「しずまれ」というセリフがどうしても……こう、某魔法作品みたいな感じになってしまって(笑)。もっと、誰かに言うわけでもない、自分の中での自分の心の波に対して言っている「しずまれ」だから「もっと心の内に落としていいんだよ」というディレクションをいただいたことを思い出しました。
Bパートでは郡上先輩と二人きりで旅行に出かけました。かなでにとって、ぼたんが郡上先輩の背中を押したシーンとなります。
いぶきの、郡上先輩に対する気持ちと、ぼたんに対する気持ちは誰が見ても違う感情だとわかる。でも愛の形は様々で、全部をひっくるめて愛って呼んでもいいのに、やっぱり違う。そこにあるわずかな差を繊細に詰めていく作業が難しくもあり、楽しかったです。
──ありがとうございます。最後に、今後の見どころや本作の推しポイントを教えてください。
青山:これから新たなキャラクターが登場します。この子が登場することによって人間関係にまた波乱が……波乱というとドンチャンなイメージが出ちゃうんですけど(笑)、静かに波が生まれるような変化が訪れます。
色々な波が押しては返して、繊細な移ろいがとても綺麗に描かれる作品です。ぜひ、この作品を見ているときは『上伊那ぼたん、酔へる姿は百合の花』だけに心を預けて、これからもご覧いただければ嬉しいなと思います。よろしくお願いします。
【インタビュー:西澤駿太郎】