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DX導入成功のヒントは「ドラえもん」の野比家にある

さくマガ


DXはドラえもんである

最近激アツのデジタルトランスフォーメーション(DX)。営業部門におけるDXとは「情報技術で営業活動を変革させることで、顧客の購買行動にあわせて最適化して競争力と優位性を維持向上させる」。要するに、「営業マンの足で稼ぐ」的な従来の営業のやり方では吸い上げられかった顧客ニーズに応じられるよう営業組織を変革させるということである。
2年ほど前、DXについてのセミナーを受けたとき、「DXは営業という仕事を劇的に変える黒船やドラえもんのような存在になりえるのではないか」と直感した。新卒で営業職について以来、四半世紀、僕は営業という仕事の魅力と良い部分を見てきた。同時により多くのダメな部分、改善しなければならない欠点を見てきた。
DX(という概念)に触れて、野比のび太の人生が、ドラえもんとの出会いで良いものになったように、営業という仕事をDXで良いものに変えられる予感がしたのだ。もっとも、DXを営業部門に導入することは、他の部門よりもハードルが高いことも理解していた。

営業にDXが必要なわけ

以前、プロ野球中継で、解説者が「バッターの苦手なコースは得意なコースのすぐ近くであるケースが多い」と言っていたのをよく覚えている。長所と欠点は紙一重だ。営業の仕事の魅力と欠点も同じだ。営業部門では、長く「カリスマ営業マン」「スーパー営業マン」という華やかな存在が持てはやされてきた。彼らはノルマをクリアして、大型案件と大金を会社にもたらすスターだ。
一方で、彼らの退職や異動によって空いた穴を埋めることができないという弊害もあった。一個人の能力に依存していたので、情報やノウハウが組織やチームに蓄積されることがなかったのだ。またエース的な存在は己の孤高と優位性を保つために、積極的に手のうちを明かそうとはしない。

属人的でありすぎたのだ。僕が所属してきた営業部門でも、エース人材が抜けたあとの部門成績の落ち込みや、安定的な営業計画立案の困難さが問題になっていた。数字を守るために「あいつがヤメたら、部署ノルマを達成できない」「転職させないよう説得しよう」という言葉を上司が口にするのを何度も聞いた。
結論はいつも、「より良い人材を集めること」であった。抜本的な解決ではなく、同じ方法論を採ったのだ。それがカリスマ営業マンや、時代のエース人材を生み、営業という仕事をさらに属人的なものにしていた。
おそらく日本の多くの会社の営業部門は、こういう状況であったのではないか。よく言われているように、DXの導入は、単なるツールの導入ではなく、組織とチームを根本的に変革することである。DXをうまく導入できれば、これまでの営業の属人的なやり方を改められる可能性があるだろう。

属人的な仕事の功罪

前述のとおり、良くも悪くも属人的である営業部門は「特定の個人に依存した仕事の在り方」や、「情報やノウハウを組織にフィードバックできていない」という問題を認識していながら、見過ごしてきた。なぜだろうか。
様々な原因があるけれども、一番の原因は、確実に、属人的な仕事よりも結果を残せる仕事の方法を見つけられないからだろう。営業という仕事は結果を求められる。極端な言い方をしてしまえば、プロセスがどうであれ(法律を犯すとか著しくモラルを欠くのは論外だけれども)結果を出してしまえばいい。逆にどれほど良い仕事をしても、結果を出せない営業には存在価値がないのだ。

一営業マンにたとえると、「普段は昼寝をしたりパチンコ屋に入り浸っていたりしても必ずノルマを達成する営業マン」と、「日々真面目に勤勉に働いているがノルマを達成できない営業マン」では、前者が評価される。そういう職種なのだ。
営業部門に、「営業を変えたい」という気持ちがあり、問題点をほぼ正確に認識していても、積極的にDXのような新しい概念や方法の導入に向かえないのは、「結果が出なかったら…」という営業の存在意義を問われる恐怖心が大きい。
そして、問題点があるとはいえ、ある程度の結果が見込める従来のやり方と天秤にかけたとき、確実に結果を見込めるほうを選んでしまう。結果にとらわれた営業の呪いのようなものだろう。ほとんど小手先のテクニックのような営業ノウハウがあらわれては消えていくのは、属人的な仕事から脱却できないなかで、解決策を見つけたい営業という仕事のジレンマをあらわしている。

DXは従来の営業のやり方の代替ではない

* 結果を求められるために属人的な仕事のやり方から脱却できないこと
* 問題点があってもそれなりに結果を見込めてしまうこと
* 属人的な仕事によって情報とノウハウを独り占めすることによる仕事のブラックボックス化
* 一人の営業マンが案件を見つけて商談を重ねて成約するというサクセスストーリーへの憧憬
等々の原因から、それらを一気に変えて、古いものにするDXを導入するのは非常にハードルが高い。人間は変革を恐れるからだ。まして、長年にわたって結果を出してきたノウハウを変革するとなると、難易度は高い。

僕は営業マンで、同じ業界の営業マンとの横のつながりで情報を共有することがある。DXの話題になると「最近どう?」的な雑談のなかから、お互いの手札を探り合うのだ。DXの話題になると、「営業にDXを導入するのは難しい」「ウチの会社の営業には合わない」というフレーズを耳にする。狭い観測範囲のサンプルになってしまうが、逆に次のように考えているようになった。
「営業部門とDXの相性が悪いのなら、導入することでこれまでにない化学反応が起きるのではないか。従来の方法の代替と考えずに、従来を超える営業の仕事のやり方になるのではないか」
「他社が導入に及び腰である今、取り掛かれば、先行して有利な戦い方が出来るかもしれない」

トップの同意は不可欠である

「ドラえもん」の世界なら、土管のある公園で何か新しいことをするためにはガキ大将(リーダー)であるジャイアンを味方につけなければならない。最初はなかなか話を聞いてもらえない。信じてもらえない。下手な歌を聞かされ、理不尽な扱いをされることもあるだろう。だが、納得してもらえば、ジャイアンほど強い味方はいない。
DXを営業部門に導入するのなら、ジャイアン=トップの同意は不可欠である。トップがDXに理解を示してトップダウンで事を進められるのが理想である。そうでなければ営業部門にDXを導入することでもたらされるメリットを懇切丁寧に説明してトップを味方にしなければならない。

先述のとおり、結果を出せない営業組織には存在価値がない。短期的に結果が停滞しても、結果、中長期的には従来の方法よりも大きな結果を得らえることをトップに説明して同意を得られれば、これまで抜本的な変革の最大の敵であった結果が出ないことへの恐怖は緩和されるようになる。また、トップがやる気を見せることは、変革を前進させる大きな力になるはずだ。

野比家になればDX導入はうまくいく

完全に個人的な意見になるが、僕の経験からいって、トップの同意とともに必要なものがある。それは事前に、従来の営業組織をDXが受け入れられるようカスタマイズしておくこと。もちろん、一気に革命のように導入したほうがいいのではないかという意見は否定しない。
だが、確実にDXを導入したいのならば、少し時間をかけてでも地ならしをしたほうが確実で、問題が大きくなる前に対処できる。従来の属人的な営業組織に、属人的と真逆なDXをそのまま導入するのはアレルギー反応を起こしかねない。
アレルギー反応を抑えるためには、本格的な導入前に、現在の営業組織を見直して、属人的な点を少しずつ改めていくのがいい。DXがうまく機能するようにあらかじめ環境を整備しておくのだ。DXはドラえもんである。より良い方向に導いてくれる存在である。よく考えてみてほしい。

ドラえもんが活躍できるのは、ドラえもんを受け入れた野比家があるからだ。野比家には、未来の革新的なロボットであるドラえもんを受け入れる環境が整っていた。少し頼りないけど優しい心を持つのび太君(営業マン)。のんびりしていて大らかな包容力のあるパパ(トップ)。本当は優しいが厳しい監督者役もつとめるママ(営業部門責任者)。誰が欠けてもドラえもんを受け入れることはできなかったはずだ。
ジャイアン家(剛田家)やスネ夫家(骨川家)には、野比家のような、大らかさはない。残念ながら今現在の営業部門の組織は、野比家のように新しい者を受け入れる余裕がない。営業部門は、程度の差はあっても属人的な働き方に基づいた組織になっている。ギスギスしているのだ。

ドラえもん=DXを導入するために、DXを導入できる環境を作ろう。まずは一人の営業マンがひとつの案件の発掘から成約までを担当するやり方を改めるようにする。仕事の外注化やチーム制の導入やノルマの細分化。案件発掘と案件進捗と有力案件クロージングの分業制。
僕の会社での取り組みをまとめたブログ記事がありますのでご興味のある方はどうぞ。(「属人化を排除した結果、「あなたはいてもいなくても同じ」と部下に言われた。」)
DX導入を成功するのなら、DX導入を見越して、計画を立てて、組織を段階的に変革していくことが僕は大事だと思う。DX導入成功のカギは、僕らがドラえもん=DXを受け入れられる野比家になれるかどうかにかかっているだろう。
執筆

フミコ・フミオ
大学卒業後、営業職として働き続けるサラリーマン。食品会社の営業部長サンという表の顔とは別に、20世紀末よりネット上に「日記」を公開して以来約20年間ウェブに文章を吐き続けている裏の顔を持つ。現在は、はてなブログEverything you’ve ever Dreamedを主戦場に行き恥をさらす。

編集

川崎 博則
1986年生まれ。2019年4月に中途でさくらインターネット株式会社に入社。さくマガ立ち上げメンバー。さくマガ編集長を務める。WEBマーケティングの仕事に10年以上たずさわっている。

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