【横須賀市】田浦月見台住宅 「廃墟群」一転、注目エリア 店舗や民泊 約40のなりわい
役割を終えた旧市営住宅に新たな活力を吹き込んで再生させる横須賀市田浦町の「田浦月見台住宅」のプロジェクトが本格始動した。横須賀市と不動産会社の(株)エンジョイワークス(鎌倉市)による官民連携事業。「仕事」と「生活」を同時に成立させる”なりわい住宅”のコンセプトを打ち出した新しいまちには、用意した47戸のうち42戸の入居契約があり、店舗や民泊施設として活用されている。
同地では7月から順次店舗が開業しており、飲食店や古着店、占い処、金継ぎ店、焙煎工房を備えたコーヒーショップと多彩なジャンルが長屋形式で軒を連ねている。
入居条件も多様だ。店舗営業のみから、店舗と住居併用の契約方式などがある。開業までのプロセスを楽しみたい人のために自分たちで手を加えながら拠点を整備していくDIYプランなども用意されており、出店にとどまらずライフスタイルの選択肢として移住を決めた人もいるという。
10月5日には大方の出店者が出揃い、「新しいまち」が本格的に動き出すことを記念したイベントが開かれた。セレモニーに上地克明市長が駆け付け、「自分が思い描いていた理想のまちが実現した」と喜びを伝え、天空の住居群を「横須賀のマチュピチュ」と表現した。ジャズライブにも飛び入り出演し、自慢の歌声を響かせた。
「なりわい住宅」のコンセプトの仕掛け人である(株)ブルースタジオの大島芳彦さんは、「自分の好きなことを表現しながらシェアする暮らしを楽しむような場所の創出が求められている」と話し、地方創生の取り組みとして田浦が全国的に注目を集めていることを伝えた。
課題は平日と冬場の集客対策だ。山頂という場所柄アクセスの改善を図る必要もあり、「駅から気軽に立ち寄れる仕組みづくり」を求める声がエンジョイワークスの担当者から上がっていた。
チャレンジ楽しむ「手しごと弁当」
田浦町在住の鎌苅直子さんは、長年の夢だった飲食店を月見台住宅でオープンした。
グルテンフリー、添加物不使用調味料の弁当やケーキを提供するテイクアウト専門店の名称は「ALLGOOD(オールグッド)」。「なんとかなるさ」というポジティブなメッセージを込め、チャレンジを楽しんでいる。
出店を決意した一番の理由は安価な賃料。「最小のリスクで挑める」と鎌苅さん。母親の介護もあり、すぐに駆け付けられる距離であることも好都合だった。小麦アレルギーに対応したオーストラリアのカフェでの勤務経験を生かし、新たな食のスタイルを提案していく。
店内には電子レンジを置かず「蒸して出す」など徹底した健康志向。リユース容器の利用も推奨している。「自分の意に沿わないことはしない」という明確なポリシーの持ち主は、自分の理想とするスタイルをとことん追求する。