「検車区高砂車庫」という名の広大な車両基地がある「京成高砂駅」は京成電鉄の要衝だった
「高砂」と言えば、まず浮かぶのは、「高砂や 浦船に 帆をあげて……」という、おめでたい結婚式には欠かせない「謡曲」だろう。葛飾区史によると、現在の高砂地区は、1932年(昭和7)まで、「曲金(まがりかね)村」と呼ばれていた。村に続く小字(こあざ)名に「高砂」など謡曲の曲名があり、「曲金」ではわかりにくいのでその中から一番縁起の良い「高砂」を地名にしたという。駅名はそれより早く、1913年(大正2)に「曲金」から「高砂」に改称されていた。
これまで、「京成高砂駅」は、柴又の「寅さん記念館」や「柴又帝釈天」を訪れるときに通過する乗り換えの駅だったが、今回は下車して街を歩いてみたくなった。
家族経営の温かい下町のお煎餅屋さん
「高砂に行ったら春助煎餅を買って帰るのが京成散歩の達人です。近所の人のみならず、遠くからも春助目指して買いに来るんです、今では少なくなった手作りのお煎餅屋さんです」とは、京成線の〝鉄オタ〟を自認する編集部のSの弁。早速、南口を出て程近いところに、大きく「春助煎餅」という看板が見えた。「春助煎餅」は煎餅やおかき、あられを親子三人で手作りする、この地で56年続く家族経営の老舗だ。ガラスケースにはお土産や贈答用に箱詰めされた商品が並ぶ。
「秋揚げ」「海苔秋揚げ」「揚げ餅」「おこげ」「中丸」「かたやき」「あつやき」「ごま」「満月」「のりまる」「ざら丸」などざっと60種類もあるという。餅をつく日、餅を削る日、天日に干す日、あられを焼く日、揚げる日、煎餅を焼く日と、天気とも相談しながらその日の作業のメニューが替わる。
屋号の「春助煎餅」は、店主の祖父の名から命名したもので、武蔵小山で創業し、笹塚へ移転し昭和44年に高砂のこの地に移転してきた。小袋に詰めた食べきりサイズのものや一枚ごとに袋詰めされたものあり、いろいろな種類をもとめることもできる。
優しい笑顔のおかみさんに創業当時の高砂周辺のことを聞くと、
「お店の前の通りも本当に賑やかだったんですよ。魚屋、果物屋、八百屋、惣菜屋、衣料品店などが立ち並ぶ商店街になっていて、子どもたちが元気に遊んでいました」と。駅前にイトーヨーカ堂ができて街の様子が変ったようだ。今では、このスーパーがなければ買い物難民になってしまうほど、重要なポジションだ。
お店の奥で創業当時から使っている機械を使って焼く様子を見せていただいた。焼いた煎餅に醬油をつけ乾燥させ、午後から袋詰めの作業が始まる。
「あれ、おこげ終わっちゃったの?」とはご近所の常連さんだろう。この地域の人たちに愛されている老舗の温かいお煎餅屋さんだった。焼き作業の撮影を目指して訪問した開店直後の午前中でも、次から次にお客さんが絶えない。
▲煎餅を焼く現場を見せていただいた。この店の誕生とともに使わている機械は唯一無二のもの、壊れれば浅沼さん自身で修理する。薄く切ったゴマ入の餅を充分乾かした後特製の機械で焼く。醤油漬けし乾燥させ、一つひとつ袋詰めして店に並ぶ。
春助煎餅
住所:東京都葛飾区高砂3-10-5 ℡.03-3650-3608
営業時間:9:30~18:00 定休日:毎週火曜日
京成電車の安全を支える、重要な基地のある駅
京成高砂駅は、京成本線、京成押上線、京成金町線、北総線の4路線が乗り入れるターミナル駅だ。
北口を出て線路沿いに歩いていくと、5、6分ほどで京成電鉄の「検車区高砂車庫」に辿り着いた。車両の安全運行と、保守には欠かせない重要な拠点となっているところだ。途中オレンジの作業服を着た整備員の方たちに出くわしたが、彼らが車両の点検や整備、清掃をして快適な運行の根幹を支えているのだ。
ホームの様子を見ていると、車掌や運転手の交替している様子が伺えた。そういえば駅周辺では、制服を着た乗務員の姿もみかける。「京成高砂駅」は、京成電車の大切な拠点なのだろう。
▲塀に囲まれた「検車区高砂車庫」の内部は見えないが、東側から広い車庫エリアが覗ける。(オレンジ色のユニフォームの皆さんは京成電鉄提供)
駅の構内には、1911年にアメリカのカーネギー鉄鋼会社で製造されたレールが飾られている。1912年(大正元年)11月3日の押上~柴又間の開通から44年間レールとして使われ、その後1955年(昭和30)3月から41年間はホーム上の屋根の支柱として活躍して来たものである。コンコースの拡張、エスカレーター工事にともない惜しまれて引退したが、陰の力となったレールがモニュメントとして飾られている。構内にあったスタンプを記念に捺印し、旧3200形(1964-2007)と2025年にデビューした新3200形の塗り絵の下絵も窓口でいただいた。
ホームのエスカレーターの壁には、「スカイライナー」や「京成3500形」「北総7300形」などの様々な車両の写真が飾られていた。改札窓口で尋ねると、鉄道写真好きな京成高砂駅の駅員さんが自ら撮影したもので、またレールのモニュメント前のパネルは、子どもたちが電車の窓から顔を覗かせて撮影できるようにした、手づくりのものだという。 写真に気づき、質問されたのがたいそう嬉しかったのか、「駅も特徴を出すようにしているんです」と、駅員さんは満面の笑みを浮かべて答えてくれた。
▲京成高砂駅は、乗り換えなしで京成本線を利用するのが最も一般的で、上野駅を起点に乗車時間は約20~30分。構内にあるアンテナショップ「こしじ家」では、柴又の老舗「コシジ洋菓子店」の人気の商品「下町のチーズケーキ」なども売られている。