「あの子のおかげで私も変われた」不登校・4つのフリースクールをさまよって親子がたどり着いた「正解」のない答え[教育ジャーナリストがルポ]
「学校に行きたくない」――。わが子のその一言から、出口の見えないトンネルに迷い込んだような日々が始まることがあります。親として何ができるのか、どう接すればいいのか。焦燥感と不安の中で、必死に「正解」を求めてわが子を追い詰めてしまう……そんな経験を持つ方も少なくないはずです。
教育ジャーナリスト・おおたとしまさ氏の新刊『フリースクールという選択』(講談社+α新書)5月11日刊行には、そんな葛藤の末に、自分たちなりの「居場所」を見つけた家族のリアルな声が収められています。
今回は本書の中から、3つのフリースクールを経てようやく心安らぐ場所にたどり着いた、ある親子のエピソードを特別に再構成して公開します。
【▶画像を見る】教育ジャーナリスト・おおたとしまささん小学1年生の5月に不登校
いきなりですが、わが子に合ったフリースクールに出会うまで、長い長い道のりを旅してきたある母親の告白です。
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ユズル(仮名)は保育園のころから行き渋りをくり返していました。保育園ではまわりに合わせて無理をするんです。
保育園の先生は「楽しくすごしてました」と言うのですが、家に帰ってくると毎日ひどい癇癪(かんしゃく)でした。その相手をするのに、私も疲れ果てて……。
いま思えば必要以上にいろんな相談機関に行きました。診断がほしかったんです。私のせいじゃないって誰かに言ってもらいたかったんだと思います。
小学校に上がったら、お友達関係もいちどリセットされてやり直せるんじゃないかって本人も期待して、楽しみにしていました。私もそこに望みをかけていました。でも入学から1ヵ月もしないうちに、学校に行けなくなりました。
ちょうど下の子の育休に重なったので、下の子をおぶって、毎日ユズルと登校しました。「いま私が頑張らないと、あの子の人生、ヤバい……」って本気で思って、必死でした。
学校の先生からは「お母さん、大丈夫ですか?」って心配されて、いろいろな相談機関を紹介されましたけれど、私じゃなくてユズルをどうにかしてほしいと苛(いら)立っていました。
フリースクールをさまよった2年間
半年くらいはそうやって頑張ったんですけど、あるとき「これ、そこまでして続ける意味あるのかな?」って思ったんです。ユズルは毎日毎日毎日毎日……私に怒られてかわいそうだし、学校の先生とのやりとりにも疲れてしまったし。
それで気づいたんです。自分を変えるしかないって。 ありとあらゆる手を尽くして、手が届く限りのボタンをぜんぶ押してみたけれど何も変わらない。気づけば、最後に残っていたボタンは自分だけだったんです。 それで学校に行くのをやめました。
そこからフリースクールという存在を知りましたが、「ヒカモリ」(光の森学園)にたどりつくまで約2年間。ヒカモリが4つめのフリースクールでした。
子どもを追いつめる「どうだった?」
最初に訪ねたところは、いちばん近所のフリースクール。わりと大きな組織が母体でした。ユズルは頑張って適応しようとして、職員に「楽しかった! また来ます!」って答えるんです。その一言に、私も希望を感じました。でも、それっきり行こうとしない。
「5分だけでも行ってみない? 行けば変わるかもしれないよ」なんて半ばむりやり連れていきました。学校のときと同じです。終わって、「どうだった?」って聞くじゃないですか。そうするとまた「楽しかった!」って言うんですけど、次からはもう行かない。
その場しのぎの“いい子”を演じさせちゃってるんだと気づいて、あきらめました。
次に訪ねた小さなフリースクールは体験だけで終わりました。3つめのフリースクールには2ヵ月を超えたくらいからやっぱりぱったり行かなくなって……。私もとうとう仕事を辞めました。
ユズルと外の世界をつなぐつながりがほしかったこのころ、ユズルはものすごく荒れていたし、自分責めもすごかったんです。「もう生きていなくていいだろう」とか「死にたいな」とか。
私としては、もう生きていてくれさえすればいいや、と。勉強が心配とか、そんなことを言っているような状況じゃぜんぜんなかったです。
その場にいられること自体がすごい
4年生になる直前に出会ったのが、ヒカモリです。ヒカモリがほかの3つと違ったのは、自然の中にあるところ。緑な感じ。
もし、みんなといっしょに活動ができなくても、そこにいるだけでOK!って思っちゃいました。そこにいるだけできっと何かを感じるだろうから。森の力ってすごいですね。
それまで行ってみたフリースクールでは、その場になじまなきゃいけないというプレッシャーが、ユズルにも私にもありました。
でもヒカモリでは「別にいいんじゃないですか。その場にいられること自体がすごいんじゃないですか」って言葉をもらえて、私も「そうだよな」と思えて楽になって。
それからはほぼ毎日、休まずに通えています。いまユズルは、生きていくうえで誰かといっしょに楽しい時間をすごすことの大切さみたいなものに気づきはじめています。もうそれだけで十分です。
「あなたはどうしたいの?」の裏の下心
ヒカモリに来てから、ユズルはみるみる変わっていきました。それに気づいてから、私もユズルに甘えてたんだなってわかりました。
「あなたはどうしたいの?」っていう言葉の裏には必ず「本当は私はあなたにこうしてほしいんだけど」みたいな下心があった。
だから私の目指す答えを言ってくれるまで遠回しに追いつめた。そういうコミュニケーションのパターンみたいなものを、私がつくっていたんだって。フリースクールに「行く? 行かない?」もそうですよね。
「この子のせいで」が「あの子のおかげ」に
思いどおりにいかなくて苦しいとき、私はいつも正解を求めていました。でも、それをやっているうちは、目の前の子どもが見えていないんですよね。だからますます子どもは荒れるという悪循環でした。
いまはユズルも私も「変わったね」っていろんなひとから言ってもらえます。私もね、変われたんです。それは、あの子のおかげです。
あの子がね、頑張ってくれました。親なのに、ユズルのことが大切なのに、「この子のせいで……」と思ってしまったこともありました。でもいまは、あの子のおかげでいまがあると思えています。
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やっとのことでユズルくん親子がたどりついたヒカモリは実在します。どんなところか、本書で訪ねています。
【編集部より】
新刊『フリースクールという選択』(講談社+α新書)では、ユズルくんたちが通うヒカモリをはじめ、日本各地にある多様な学びの場と、そこにいる子どもたちの姿を著者が現地でルポしています。
アバターで登校するメタバース校舎 や、ITやクリエイター系が好きな子どもが続々集まる通信制スクール 、さらには学校復帰より個人事業主として生きていくスキルを養う型破りなオルタナティブスクールなど、親世代の常識をくつがえす教育現場が次々と登場します。
「学校以外の道」を考えることは、子どもがその子らしく生きていくための「前向きな選択」になり得ます。本書が、お子さんとご家族にとっての新しい一歩を照らすヒカリとなることを願っています。
おおたとしまさPROFILE
教育ジャーナリスト。1973年東京生まれ。リクルートから独立後、教育に関してさまざまな観点から取材を行い、著書は90冊以上。どこの組織にも属さない在野の視点で現代の教育への考察・提言を続けている。メディアへの出演や講演も多数。
“フリースクール探し”で最初に読む本、登場! 『フリースクールという選択』(著:おおたとしまさ/講談社+α新書)