富山県からヒット作を連発!『有頂天家族』に『パリピ孔明』のアニメ化も手掛けるアニメ制作会社「P.A.WORKS」
SBSラジオ「TOROアニメーション総研」のイチオシコーナー、人気アニメ評論家の藤津さんが語る『藤津亮太のアニメラボ』。今回はアニメ制作会社「P.A.WORKS」についてお話を伺いました。※以下語り、藤津亮太さん
誠実さが光るP.A.WORKSの歩み
今日はアニメーション制作会社「P.A.WORKS」についてお話ししようと思います。P.A.WORKSのPAは「Progressive Animation」の略。前向きな意味の込められた社名ですね。
設立したのは現在代表取締役の堀川憲司さん。堀川さんは富山県出身ではありませんが、P.A.WORKSは富山県南砺市に本社を構えており、地方に本社を持つアニメ制作会社として知られています。
堀川さんは大学進学を機に富山に来て、在学中にアニメ制作を志し、名古屋の専門学校を経てアニメ業界に入りました。最初はタツノコプロで働き、例えば『新世紀エヴァンゲリオン』では終盤の制作デスクを担当されています。
制作(制作進行)とは、アニメーターなどスタッフの成果物を次の工程へ回し、スケジュールを管理し、状況に合わせて必要な調整や、作画などに必要な資料を探すことも行う役職です。テレビ局のADと漫画編集者を合わせたようなポジションだともいわれています。制作進行のとりまとめ役、要となる役職です。
堀川さんは『エヴァンゲリオン』最終回のときの制作デスクで、シンジくんの姿が薄っぺらくなって炎などにメタモルフォーゼしていくペーパーアニメのカットでは、マーカーで色を塗ったりもしたそうです。その後Production I.Gへ移り、沖浦啓之監督の映画『人狼 JIN-ROH』でも制作を担当。1997年にI.G系の制作会社ビィートレインを設立しました。
ですが堀川さんには、子どもが小学校に上がる頃には家族の住む富山に戻り、奥さんの実家の農業を継ぐという約束がありました。そのためビィートレイン設立後に富山へ帰郷。農業をしながらも、やはり自分にできる仕事ということで、2000年に制作会社を立ち上げ、2002年から社名をP.A.WORKSと改めて活動を始めました。
当初は他の会社がいろんなシリーズを作るときにスポットで一話だけ作るというグロスと呼ばれる下請け中心で、『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』や水島精二監督の『鋼の錬金術師』などに参加。両方ともアクションも線も多い大変な作品でしたが、丁寧で誠実な仕事ぶりが評価され、業界内で評判を高めました。そして2008年、初の元請け作品『true tears』を制作します。
『true tears』は元々ゲーム原作企画でしたが、“真実の涙”というキーワードさえ使えば自由に作っていいという企画だったため、内容はほぼオリジナルです。監督は西村純二さん、脚本は岡田麿里さんが担当。少女3人と少年1人の恋愛を軸にした青春ものなのですが、感情描写が非常に生々しく、こんなすばらしい作品が突如制作されたことに新鮮な驚きがありました。
これ以降、P.A.WORKSはオリジナルや小説原作中心に作品を制作しており、『パリピ孔明』まで、いわゆる「人気マンガ原作」という企画は制作していません。『パリピ孔明』でついにマンガ原作をやるんだと驚きましたね。オリジナル作品を中心に長く仕事をしていたという点でも、P.A.WORKSはすごく得難い会社です。
堀川さんは制作として大変優秀で、スケジュール管理が非常に厳しく、遅れているときの圧のかけ方がすごいそうです。堀川さんは自社作品の中でも『有頂天家族』『有頂天家族2』への思い入れが強いようなのですが、『有頂天家族』は小説家・森見登美彦さんの小説が原作で、これまで第2部まで発表されアニメ化されています。
そしてこのあと第3部が書かれることも、予告はされています。なので堀川さんは、10周年のイベントなど森見先生と顔を合わせるタイミングで、必ず「第3部はまだですか」と森見先生に質問を投げかけています。それは普通に見ていると、第3部を楽しみに待っている人の姿なんですけれど、制作としての優秀さを知っていると、チャンスを逃さず少しでも早く原稿をアップしてもらおうとする「制作」の姿に見えてきて、なかなか興味深いです。これも作品愛あればこそという感じです。
堀川さんのような方が創業したからだと思うのですが、P.A.WORKSの作品は真面目なんですよね。語り口はいろいろあっても「人として生きるまっすぐな道とはこういうことだ」というところを示す作品が多くて、それは堀川さんの仕事に対する姿勢が反映されているように感じられます。『不思議の国でアリスと』も、非常にP.A.WORKSらしい、真面目に人生に向き合っている作品だと思います。