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【事例紹介】「落ち着きがない」は困りごとの氷山の一角!?発達障害息子の感覚過敏と母の悟り

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【事例紹介】「落ち着きがない」は困りごとの氷山の一角!?発達障害息子の感覚過敏と母の悟り

監修:初川久美子

臨床心理士・公認心理師/東京都公立学校スクールカウンセラー/発達研修ユニットみつばち

足の速さはピカイチ!?息子・失踪事件。

わが家はひとり親家庭で、コチ丸が小さかった頃の最強の助っ人は、同居していた私の“じぃじ”でした。コチ丸がまだ未就学児だったある日、じぃじが「今日は大きな公園に行ってくるぞ!」と意気揚々とコチ丸を連れ出したことがありました。ところが、帰宅したじぃじはクタクタな顔。聞けば、車から降りて公園の入り口に立った瞬間、コチ丸は秒速で視界から消えていったそうです(笑)。

広い芝生を見つけた瞬間にスイッチが入ったのでしょうか。甥っ子の相手で男の子の扱いには慣れていたはずのじぃじも、コチ丸の「爆速スイッチ」には太刀打ちできず、日曜日の大混雑した広大な公園で、迷子探しに疲弊しきっていました。

「どこを探してもいないから、あの時は生きた心地がしなかったぞ」と、じぃじは亡くなる直前までこの話を良くしていました。よほどトラウマだったのでしょう(笑)。結局、じぃじとコチ丸の公園遊びは、後にも先にもあれっきり。じぃじ、本当にお疲れ様でした。

「光」がささる!良かれと思っていた環境が、息子には「天敵」だった!?

コチ丸が成長し、私の買い出しに付き合わせることが増えると、今度は私の忍耐を問われる修行が始まりました。スーパーに入るやいなや、コチ丸はすごい速さで姿を消します。特に食料品コーナーなんて、「滞在時間0秒」が目標なのかと思うほどです。買い物カゴを抱えたまま、「コチ丸ー!」「どこ行ったー!」と叫ぶ日々……。

ある日、あまりの落ち着きのなさに、私はついにスーパーの真ん中でブチ切れました。「なんでじっとしてられないの?ちょっとは隣で静かにしてなさい!」すると、コチ丸は思いもよらない言葉を口にしました。「俺、スーパー嫌いなんだよね。肉売り場とかの棚の光、あれが目に染みて痛いんだよ」

「は?光が痛い?」最初は何を言っているのか分かりませんでした。私にしてみれば、肉を美味しそうに見せるための、ただの明るいライトです。でもコチ丸にとっては、それが目にささる「物理的な痛み」だったのです。

さらに追い打ちをかける一言。「ママが好きな近所のスーパー、並び方がぐちゃぐちゃだし、ポップの文字がチカチカして、見てるだけで気持ち悪い」

衝撃でした。私が「ごちゃごちゃして楽しい!」と好んで行っていたあの空間が、コチ丸にとっては「刺激」でしかなかったわけです。

ごめん、コチ丸。

そうは思ったものの、やっぱり「光が痛い」という感覚の違いは、当時の私にはピンとこないものでした。それからは、お気に入りだった近所のスーパーは泣く泣く封印。通路が広くて、照明が落ち着いていて、陳列も整然としたスーパーへ「遠征」するようになりました。

教室の音が「重なりすぎて」脳内パニック

音の過敏さも、学校生活において大きな壁となっていました。「授業中にウロウロして困る」と担任の先生に呼び出された際、その理由を問われたコチ丸は真顔で答えました。「隣のクラスの先生の声が聞こえてきて、うるさすぎる。どっちを聞けばいいか分からない」

先生も私も「えっ、そこ?」となりました。確かに隣の教室の音は聞こえますが、周囲が「あ、なんかやってるな」とスルーできる程度の音が、コチ丸の耳には自分のクラスの解説と同じ音量で聞こえてしまう。音の選別ができず、常に複数の情報が脳内に流れ込むパニック状態だったのです。

「そりゃ座ってられないわな……」と私は妙に納得し、その後、イヤーマフを買ってみたものの、今度は「耳に当たる感じがムズムズして無理!」と感覚過敏で使用を断念。当時はまだ合理的配慮という言葉も浸透しておらず、小さな学校で特別な対応を求めることの難しさも痛感していました。

伝説の「爆音ライブで爆睡」事件と、ドラムとの出合い

極めつけは、これも同じ頃、私の大好きなアーティストのライブにコチ丸を連れて行った時のこと。「ママの大好きなアーティストの良さをコチ丸にも分かってほしい!」と勇んで連れて行きましたが、開演した瞬間、コチ丸は両耳をぎゅっと押さえて「うわあああ」という顔に。

「え!そういう感じ!?でももうちょっと聴いたら絶対良くなるから我慢してくれ!」と見たかったアーティストそっちのけで心の中で念じましたが、耐えきれない思いが爆発したのか、コチ丸はその轟音の中、1時間もしないうちに椅子に横になり眠ってしまったのです……。

「こんなうるさい中で寝られるって……(大汗)」と当時は思いましたが、多分脳が限界を超えた刺激を遮断するための防御反応だったのでしょう。今思えば申し訳ないことをしました……。

ところが、不思議なものです。そんな「音に敏感すぎる男子」が、数年後にハマった特技は、なんと「ドラム」でした。他人が出す予測不能なノイズは苦痛でも、自ら響かせる爆音は、心地よい刺激だったようです。良い師匠に出会えたこともあり、ドラムはその後のコチ丸の人生に欠かせないものとなりました。

みんな違って、みんな「自分は普通」

今年、あの「ライブで爆睡」から10年を経て、同じアーティストのライブへコチ丸と共にリベンジ参戦する予定です。今は私より音楽に詳しくなり、ドラマーに成長したコチ丸なら、もう耳をふさいで寝てしまうこともないでしょう。

振り返れば、私の今のパートナーは「音がないと眠れない」と言い、私はその横で「無音じゃないと絶対無理」と言って、彼がつけっぱなしのインターネット動画をいつ消そうかと眠りに落ちる瞬間を伺う毎日。定型発達だ、発達障害だと言ったところで、結局のところ、人間はみんな感覚がそれぞれズレているものです。

自分の「当たり前」を押しつけると、相手にとっては「痛み」や「拷問」になることもある。 育児を通じて、私はコチ丸に「世界の見え方は、人の数だけあるんだよ」という、当たり前だけど忘れがちな教訓を叩き込まれました。

かつて「光が痛い」と言って逃げ回っていた小さな男の子は、今では「ママ、重いから持つよ」と米袋を担いでくれる最強の荷物持ちです。お子さんの「困った行動」の裏には、私たちが想像もできない「理由」が隠れているかもしれません。そう思えるだけで、明日の育児が少しだけ優しく、あるいは笑えるものになることを願っています。

私はこれからも、コチ丸の独特なフィルターを通した「面白おかしい世界」を、隣で笑いながら観察していこうと思います。でも、コチ丸からしてみたら、「この家で一番変わってるのはママ。さらにその上はばぁば。俺は常識人間」だそうです。わが家の血筋って……。

執筆/あき

(監修:初川先生より)
コチ丸くんとあきさんの感覚の違い、そしてコチ丸くんの感覚過敏についてのコラムをありがとうございます。スーパーの光が目に刺さって痛いと言葉にしてくれたこと、コチ丸くんすごいですね。よくぞ言ってくれたと思います。刺激の受け取り方(感覚)は、ひとそれぞれですが、子どもの場合、それが不快だとしても「どう不快、どうつらいのか」を言葉にすることは難しい場合が多かろうと思います。言葉にすること自体の難しさもありますが、苦手な刺激がいっぱい入ってきた場合に体中がその不快な刺激で満たされてしまうために言葉にするどころじゃないのもあると思います。教室で隣のクラスの授業まで聞こえていたら、それは集中できませんよね。そうしたことを言ってくれて、初めて周囲の人は「なるほど、そうだったんだね」と理解できるところです。本人が感覚刺激の不快さに苦しんでいるだけでも、周囲からすると、「落ち着きがない」とか、授業を聞きたくないから(あるいは怠けで)取り組みが悪いのではと、実際とは違う想像を巡らせてしまうことも多々あると思います。もしかして環境や刺激が本人にとってつらいものなのでは?という視点を持てるだけで、かける言葉も変わり、できる工夫や対応も変わっていくことと思います。「もしかして、この音(光、触り心地)つらい?」と聞いてみていただければと思います。

(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。

ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。

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