「先生がこわい」小3から登校渋り。学校との話し合い、転籍、付き添い…自閉症息子の再登校への道のり
監修:藤井明子
小児科専門医 /小児神経専門医/てんかん専門医/どんぐり発達クリニック院長
どうしたら行けるようになるんだろう
小学校3年生の3学期より「先生がこわいから学校に行きたくない」と登校を渋り始めた息子は、4年生になっても気持ちは回復せず、次第に学校へ行けなくなっていきました。精神科で処方されたお薬を飲んでも状況は一切改善せず、むしろ悪化するばかりでした。
病院「お薬をきちんと飲んでいれば学校に行けるようになります」
学校「頑張って登校してください」
そのどちらの意見も、息子に向けられているようで、向けられていないような感じがしました。副作用で1日のほとんどを眠り続ける息子を見ながら、私はだんだんと追い詰められていきました。
それでも「学校に行きたい!」という気持ち
ある朝、私は学校に電話をかけて、「もう無理です。しばらくお休みさせてください」と担任の先生に伝えました。とうとう気持ちの限界を超えてしまったのです。
さぁもう学校へは行かないぞ!という決意を密かに固めていたのですが、息子の口から出るのは「今みんな何してるんやろう」「今日の体育何やろうか」「給食何食べてるんやろう」と学校のことばかり。学校へ行くとしんどくて暴れてしまうのに、「学校へ行きたい」「みんなと遊びたい」という思いは強くありました。私は息子のサポートをとことんやろうと決めました。
付き添い登校、スタート!
学校側からの申し出で再登校に向けて、現担任、前担任、校長、教頭、私たち夫婦で校長室にて話し合いを行いました。そして、息子は特別支援学級に転籍できることになりました。
息子が好きな図書の時間、給食だけ、など短時間の登校から始めて、午前中のみ、午後のみと少しずつ学校での滞在時間を時間を延ばしていくことにしました。もちろん最初から全てうまくいった訳ではありません。クラスメイトの一言で気持ちが崩れてパニックになったことも、泣き暴れる息子を抱えて早退した日も、突然廊下を駆けだして学校から出ていこうとしたこともあります。そうした日々を繰り返して、7月頃にはなんとか1日学校にいられるようになりました。
友達がいるから頑張れる
学校に行けるようになった、と言っても息子が1人で教室にいることは不可能でした。担任の先生や支援の先生は、私の目から見ても手一杯で、学校という場所は本当に人が足りていないんだなと感じました。教室にいられない児童を見る余裕なんて誰にもありません。それでも支援の先生は息子のために、精一杯手を尽くしてくださいました。私も、なるべく皆の邪魔にならないように心を配りながら付き添い登校を続けました。学校へ行くと、放課後は毎日のように友達が家に遊びに来てくれました。それが息子にとって、明日の登校への原動力でした。
付き添い登校の終わりと、新たな始まり
そんな付き添い登校が終わりを迎えたのは4年生の3学期終盤、2月の終わりのことでした。「買い物とか行けていますか?大丈夫ですか?」と支援の先生が付き添い登校を続ける私を気遣ってくださったことがきっかけでした。
確かに当時、家の状況は本当にギリギリでした。家事は最低限、買い物は宅配を利用していましたが、足りないものがあると早朝にコンビニに走り、娘の幼稚園送迎やケアもありました。夜は、前担任の先生のことを「こわい」と言って泣き続ける息子の対応に追われていました。
支援の先生がほかの先生と連携して、少しずつ私と離れる時間をつくってくださいました。「1時間だけ帰って洗濯をする」「歯医者に行く」「PTAの係仕事がある」という理由で、息子から離れることは私にとって救済でもありました。そうしていくうちに、息子はなんとか一人で授業を受けられるようになっていきました。始めはあんなに苦労したのに、離れる時はあっという間。きっとその時はそういう時期だったのだと思います。
当時の不登校は、支援の先生のお力がなくては再登校に繋がっていなかったと思います。先生には今でも深く感謝しています。
不登校は保護者の力だけではどうすることもできません。多くの大人が子どものほうを向いて何ができるかを考えて……それがうまく作用して、子どもの心や体のタイミングとマッチしたら動けるのかなと思います。このバランスが崩れてしまうと、息子はまた動けなくなってしまいます。
私が息子の様子から感じるのは、不登校は「解決」するのではなく、「落ち着く」けど「繰り返す」。バケツの水があふれてしまうように子どもの思いがあふれてしまったら、もう戻ることはできないということ。親の私ができることは、そのあふれた水を堰き止めることでも、すくい上げることでもなく、「あふれても大丈夫!!」という環境をつくり上げていくことなのかもしれないと、息子が高校1年生になった今、改めて思います。
執筆/花森はな
(監修:藤井先生より)
不登校のお子さんが増えている今、診察室で相談受けることも多くあります。親御さん、学校・園の先生、児童発達支援施設の方、時には習い事の先生などと連携し、お子さんを取り巻く環境を少しずつ整えていくのが大切です。お子さんのペースを大切にしながら、でも、少しだけ次のステップを踏むことができるように促していくのがポイントです。休んでいる時期があったとしても、お子さんのタイミングで、一人で教室に行っても良いかも、フリースクールに行っても良いかも、と社会との繋がりを少しずつ再構築しはじめます。医療でできることはわずかですが、お子さん、親御さんが息切れしないように共に伴走しながら、不登校の時期があっても大丈夫だよと、スモールステップを踏むことを応援しています。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。