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アニメ『タコピーの原罪』上田麗奈さん(しずか役)×小原好美さん(まりな役)インタビュー|「心が苦しくなる覚悟を」オーディション秘話からアフレコ現場の葛藤、作品の魅力まで徹底解剖

アニメイトタイムズ

写真:アニメイトタイムズ編集部

タイザン5原作の『タコピーの原罪』(集英社ジャンプ コミックス刊)。2巻完結ながら発行部数145万部を突破した衝撃作が満を持してアニメ化。しかも今回は、6月28日(土)午前0時より、各プラットフォームにて配信がスタートし、それ以降、毎週土曜日に配信されるという。テレビアニメと違い、各話の尺の制約がないというのは、原作をアニメ化するにあたって、大きなメリットとなっているように感じた。

そんな本作のアニメの配信を前に、上田麗奈さん(しずか役)と小原好美さん(まりな役)にインタビューを実施。原作を読んだ際の衝撃、オーディション秘話、アフレコ現場での感情と葛藤、そして作品の魅力について、たっぷり語っていただきました。

 

 

【写真】『タコピーの原罪』上田麗奈×小原好美インタビュー|「救いは点在している」

それでも、キャラクターの近くに救いは点在している

──原作を読んだ印象を聞かせてください。

上田麗奈さん(以下、上田):オーディションを受けるときは、タコピーというかわいい生き物が出てくるということくらいしか知らなかったのですが、受けるにあたり、マネージャーさんから「元気なときに原作を読んでください」と言われたんです。「もしかしたら苦しくなるかもしれないので、覚悟して読んでください」と。で、覚悟をしてから読み始めたんですけど、それでも「いったん休憩を挟もうかな」と思うショッキングなところはありました⋯⋯。

 

 
これはとんでもない作品に出会ってしまったなと思ったのですが、子供たちや親たちを見て、すごく胸が苦しくなる内容だったからこそ、タコピーや子供たちが、その先どうやって生きていくのか、生きていけるのかというのを最後まで見届けなければならないと思えてきて、それ以降は最後まで読み進めることができたという思い出があります。ただ、キャラクターの表情が左右で違ってみえるという特徴があったり、キャラクターのセリフや行動から、影の中にも光が見えるという物語にも受け取れたんですよね。善と悪とか、希望と絶望のすごくグレーなところを綱渡りしているけど、キャラクターのすごく近いところに救いが点在している感じがあって、そこは特に魅力的だと思いました。

小原好美さん(以下、小原):最初は、タコピーもかわいいし、ほっこりしたお話なのかなと思ったんです。ただ、私がオーディションを受けたタイミングでは、すでに声の入ったPV(上巻発売記念PV)が公開されていたので、それを拝見したら、かわいいとは?みたいな(笑)。とんでもない雰囲気だったので、これは原作を把握しておくべきだ!と思って読んでみたら、おそらく多くの読者と同じように衝撃を受けてしまいました⋯⋯。

個人的に、こういった題材の作品に出る機会がなかったですし、事務所から「まりなちゃんを受けてください」と言われたときも、これまでチャレンジはしたけど、受かったことがない系統の子だなと思ったんです。だからたぶん落ちるだろうなという気持ちがどこかにあったんですけど、受かったら私にとってチャレンジングなことになりそうだとも思ったので、いろいろと覚悟を持ってオーディションを受けました。結構メンタルも持っていかれる作品なので、決まったらいいなという気持ちと、決まったらどうしようという気持ちの両方ありましたが、それだけ、いろんな魅力が詰まった作品だと思いました。

 

 

──それぞれ、演じたキャラクターの印象はいかがですか? しずかは、タコピーに出会った人間の少女ですが、あまり笑顔を見せないキャラクターでもあります。

上田:しずかに関しては、自分が孤独であることがこびりついているイメージがありました。これまで、いろんな傷つくことがあったと思うんです。無邪気さだったり、無意識だったり、無関心だったり。利己的な人の心ない言葉にひとつひとつ傷ついて、そんな自分を自分でも守れないし、誰も守ってくれない⋯⋯。だから、自分にとって都合の良い・悪い相手はいるけど、心から信頼できる人はいないんだろうなと思いました。また、反対意見に過剰に反応したり、敵・味方の判断を急ぎがちだったり、思考の癖がすごくリアルだと感じました。そんな中で、ハッピーを広めるために地球に来たハッピー星人のタコピーと、いろんなドラマが繰り広げられていくので、そこから変化するのかしないのか⋯⋯とても難しいキャラクターだと思いました。

──まりなは、しずかのクラスメイトとなりますが、しずかをかなり敵対視していて、強く当たってくるキャラクターです。

小原:たった2巻のマンガで、ここまでのお話があるんだ!と、全部読み終えた上で、改めてまりなと向き合いました。あまりネタバレはできないキャラなのですが、読み始めたときのまりなの印象と、後半の印象が少し変わるんです。そう考えると、彼女も環境が良ければ、違ったんだろうなと思いました。それはしずかにも言えることで、恵まれた温かい環境で育っていたら、2人が仲良くしている未来もあったのかなと思うんですよね。そういう、生きている環境に左右されるというところには生々しさを感じました。

そんな子をどう演じていけばいいんだろうと考えたんですけど、この子って頼る子がいないんですよね。作中では母に寄り添いたかったんでしょうけど。ただ、演じるにあたっては私が軸というか、彼女の中に入るわけだから、想像の世界だけど、どれだけまりなに寄り添えるか⋯⋯だったんです。衝撃的なことは起こるけど、それでも寄り添っていかなければならないと思いながら演じていました。

 

 

──今、演じたときのお話が少し出ましたが、役作りという面では、どんなところを大事にしましたか?

上田:この作品の特報PVを収録したときのディレクションで、「諦めを強く出したい」という話があったんです。なので本編も諦めをベースにして、それを意識しながら演じていきました。とはいえ、しずかって表情が豊かなところもあるんですよ。飼い犬のチャッピーといるときは笑顔になっているし、自分にとって救いや希望が見えたときは、喜怒哀楽がさらに見えやすくなるんです。反対意見を言われたとき、ムッと過剰に反応しちゃうところとかもそうですね。意外と喜怒哀楽があるんですけど、そこを出しすぎず、でも無感情、無気力になり切らないところを狙っていけるように頑張りました。

あと、なるべく人の話を聞かない。相手の心の内を聞こうとしない、その感覚がそもそもないような感じになれば、人と話しているときの噛み合っていないチグハグな感じが出せるのかなぁと思い、そこも意識して演じていました。善・悪の悪に見える瞬間もあるけれど、彼女の言動はなるべく衝動的なものであり、グレーなものにしたかったので、善・悪をはっきり付けすぎずに演じられたらいいなと考えていました。

 

 

──例えば、上田さんとして、しずかを助けてあげたくなったりはしなかったですか?

上田:あぁ⋯⋯でも、「しずかの感覚もわかる」っていう感じだったかもしれないです。上手くいかなくて、コミュニケーションが成り立たない、ずっと地面を掘り続けているような時期は私にもあったから、わかるなぁと思って。もちろん、全部がわかると言ったら乱暴ですが、あのときの引き出しを引っ張り出して、こう思っていたなぁと思いながらやっていたので、光のほうから闇を見ている感じにはならなかったかもしれないです。

小原:私は、さっき寄り添わなければと言ったんですけど、正直何もかもわからなかったんです。実体験がないことですし、引き出しがなくて⋯⋯。で、まりなって感情的になるシーンが多いんですね。怒ったり、泣いたりするのって勢いが必要な感情なので、極端なことを言えば、どういう言い方でも成立はするんです。なので、家でひとりでたくさん練習するより、現場で掛け合ってみて、その場で出た勢いを大事にしたほうが生々しいのではないかと思ったんです。

ただ、その際の不安点として、怒りの感情をあらわにするキャラクターに必要なのは、強い音を出せる人なのではないかというのがあって⋯⋯。私はキーも高いほうなので、感情の起伏が大きい彼女の声になれるのだろうかと思ってしまって、第1話の収録では、そんな思いを抱えつつも一生懸命向き合っていました。ただ、普段はあまりないことなんですけど、「何で私になったんですか?」と、飯野慎也監督と音響監督の明田川仁さんに聞いてみたんです。そしたら、「アニメはデフォルメされた世界だから『こういう行動を取るにはこういう声質の人』というのがあるけど、実際の世界だったらそんなのないじゃん。だから、そういう行動をしなさそうな声の人がやるほうがリアルなのではないか、というのもあったんだよ」と話してくださって。そのとき、自分の不安がほどけていって、第2話以降、より挑戦していくことができました。だから、いろんな方にヒントをいただきながら演じることができたんです。

 

 

色や音楽がついているアニメだからこそより、そのツラさが伝わってくる

──ハッピー星人のタコピーは、間宮くるみさんが演じられていますが、掛け合いはいかがでしたか?

上田:タコピーは純真無垢で、悪気なくいろんな言葉を掛けてくれるので、心がほぐされそうになってしまうのが一番大変で(笑)。実際、タコピーがいてくれたことで、少し表情がほころぶことも、第1話の中でもあったんです。でも、心がほぐれても、タコピーとの出会いで、しずかのこんがらがったものが全部ほどけるわけではないから、手放しで屈託のない笑顔を向けることはできないんですよね。

間宮さんが、本当に純真無垢に、思いが凝縮された言葉を掛けてくださるので、届くものがたくさんあるのに、しずかに届けてはならないという。そこで壁を作るようなイメージはありました。

 

 

──本当に、何の汚れもない声でしたよね。あの言葉が届く状態であれば、しずかも変わったかもしれないですね。

上田:自分自身をさらけ出せない状態にあるので、その中でどんな言葉を掛けてもらっても響きはしないというのは、そうなのだろうなぁと思いました。

ただ、言葉を掛けてもらって、しずかだけでなく上田麗奈としても涙が止まらなくなるようなシーンはあって、そこは間宮さんが本当に素晴らしいお芝居をされていたので、その思いの強さに、どうやっても涙は出てしまうよね、ということはありました。我慢をする部分が多かったからこそ、感動も大きかったというか。しずかのことを、こんなに泣かせてくれるんだ、って思いました。

──小原さんは、タコピーに関してはどんな印象を持ちましたか?

小原:最初にタコピーと向き合ったとき、なんてノーテンキな奴なんだろうと思ったんです。元気でかわいくて、何もわかっていない。その、人間のことをわかっていないノーテンキなところが、後半になると一番恐怖に感じるところになったりするんです。アフレコは全員揃った状態でやっていたんですけど、間宮さんの演じるタコピーが素晴らしいだけに、その元気で淡々とした感じが、だんだん怖くなりました。

しかも間宮さん自身は現場で、(間宮さんのマネを少ししながら)「やっぱ、ずっとこの感情を維持するのって大変だよね。だってかわいそうじゃん⋯⋯」っておっしゃるんですよ(笑)。間宮さん自身は、そうやってキャラクターに共感しながら、一緒に悲しんだりするんですけど、いざタコピーを演じるとなると、それができないキャラクターになるんです。だから、全員がいろんなことと格闘しながら演じていた印象があります。

 

 

──相手の演技に持っていかれないようにしたり、受けすぎないようにしたり、抑えたり⋯⋯感情と戦いながらの収録でもあったのですね。では最後に、アニメ『タコピーの原罪』を観て、魅力に感じた部分を教えてください。

上田:光と影の描き方が素晴らしいなというのがまずありました。日の光と影もそうですし、美しいところと汚いところの描き方も、とことん突き詰めているので、総じて光と闇の描き方が素晴らしいんです。しかも、そこにちゃんと意味があるんですよね。キャラクターの心情とか状況を汲んだ上で、コントラストを付けている。それは、色があるアニメーションだからこそ膨らませられるところなんだろうなと思いました。監督やスタッフの方々が、原作へのリスペクトを持って、細かいところまで汲み取って作っていることが、すごく感じられました。あと、タコピーの動きがかわいい!(笑)。

小原:原作の絵が、そのまま動いている印象があったので、原作のタイザン5先生も喜ばれるだろうなと思いました。あと、音がすごいんですよね。アニメって、デフォルメされたかわいい絵の世界とも言えるから、結構息のアドリブとかを入れるんです。例えば、ほかのアニメでは、振り返るときにアドリブで息の芝居を入れたりするんですけど、この作品は必要がなければ入れない。そこがむしろこの世界観を高めているなと感じました。

──それが生々しさとかリアルさにつながっていたような気はします。

小原:別のタイミングで明田川さんと話す機会があったんですけど、そのときに「ダビング作業をしていても心を持っていかれる」とおっしゃっていたんです。それを聞いたとき、全6話を通して、制作チーム全体が、本気でこの作品に向き合っているんだなと思ったし、戦ってきたんだなと思いました。それがフィルムからも溢れていたと思います。

 

 
上田:何だかアニメのほうがよりツラさが増していた気もしますね。劇伴もお洒落でかわいいし、絵もかわいい成分をすごく残しているんだけど、みんなのお芝居もあって、タコピーに見えている世界としずかたちが見ている世界の違いが、より引き立っているんですよね。この二つの世界は相容れないのかも?と思うとツラくなってしまって、アニメのほうがよりしんどいのかもしれないなと思いました。

小原:そうだね。タコピーから見えている世界はカラフルだけど、人間からすると暗かったりして、全然違うんですよね。色で恐怖を感じるって、あまりない経験だったかもしれない。

──この作品、たとえば映画のような長尺で、ずっと観続けていたら心が大変かもしれないなと、ここまで話を聞いていて思いました。ある意味1話ずつ、心を落ち着かせて観られるのがいいのかなと。

上田:それでいうと、1話ずつで区切っていたからこそ、最終話のオープニングの入りが本当に良いんですよ! これは完璧な流れだ!と思ってしまいました。まだ内容は言えないんですけど、このためのオープニングだったんだと思ってしまうくらい、すごく良かったです。そうやって良さを引き立てるという意味でも、全6話構成というのは良かったのではないかなと思っています。

小原:各話数の終わり方も、めちゃめちゃいいところで終わるんです。作品の展開もあるから次が見たくなる。ツラかったらやめていいんだけど、その先を見たいと思わせるものがあるんです。なので、最後まで観ていただければ嬉しいです。

 
[文・塚越淳一]

 

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