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和歌山ラーメン誕生物語 ~第11話~ 「物語が紡ぐ未来の和歌山ラーメン」

ロカルわかやま

いまや全国的な知名度を持つ「和歌山ラーメン」。そのブームが生み出された経緯を知る筆者(S.Sat.SD)が、後世に伝えるべく、ロカルわかやまに書き綴る第11話。

第10話までのあらすじ

1998年(平成10年)正月のテレビ番組で、和歌山市内の中華そば店が日本一だと紹介された。同年10月には新横浜ラーメン博物館で和歌山ラーメンの特別展が開催され、和歌山ラーメンブームがピークを迎える(第8話まで)。

時を超えて2026年、ブームの立役者の1人である床井浩平さん(和歌山大学准教授)にインタービューしたお話の最終章。

『車庫前系』と『井出系』の分類意義

編集部Horry(以下、H)「床井浩平さんに会いに和歌山大学へ行った日は小雪がちらつくと書いていましたが、楽しいGWすら過ぎちゃいました」

私「社内には冷房がガンガン入ってる」(PCなど精密機器保護のため…と注釈)

H「床井さんとの話を引っ張るから、もう季節は初夏です」

私「内容が盛りだくさんだったから、と言うてくれるか」

では、暖房がガンガン入っていたころのインタビューの続きを…

床井さん(以下、床)「私は和歌山ラーメンの話をする際、武内伸さんを思い出してしまうんです。この方がいなければ、今の和歌山ラーメンの隆盛はあり得ませんでした」

私「それは私も同感です」

ラーメン愛好家として数々のマスコミに登場し、私が出会ったときは新横浜ラーメン博物館広報担当の肩書を持っていた武内伸さん。第2話以降で武内さんの和歌山での奮闘ぶりを紹介しているので、まだご覧になっていない方はぜひ目を通していただきたい。

1998年、武内さんは和歌山に来る際(来る前から)、私のほか、和歌山のラーメン情報を自身のホームページで発信していた床井さんにもコンタクトを取っていた。

床「90年代、和歌山にはおいしいラーメン屋さんがある…という評判は、インターネットなどに乗って全国に流れていました」

私「床井さんのホームページをはじめ、いろんなラーメンサイトを目にした記憶があります」

床「ときたま和歌山に取材に来るマスコミは、『和歌山のラーメンは九州ぽい』や『東京のラーメンに似ている』など異なる印象を口にしていました」

私「なるほどね…そう思われても仕方ないですか」

床「ところが武内さんは和歌山のラーメンを食べ尽くすことによって、ある種の構造に気づきました。『車庫前系(醤油が際立つ)』『井出系(豚骨醤油)』というキーワードを使って、和歌山のラーメンの味(2種)を言葉にして全国に発信したのです」

私「初めてそのワードを耳にしたときは『なんじゃ、それ?』と思いましたが、灯台もと暗しとはこのことで、まさに言いえて妙。じわじわ来た覚えがあります(今風に言えば“じわる”かな(笑)」

床「和歌山の味は一つではなく、ご当地ラーメンとしてプロモーションしていく上で、個性が定まらず、印象に残りにくくなります。でも武内さんは、一つでないことを逆手に取りました。『車庫前系』と『井出系』の分類を行うことで、和歌山のラーメンの成り立ちに構造を与え、それこそが個性だと、『和歌山ラーメン』というブランドの符号化を行ったのです」

物語を提示することで生まれる体験願望

日赤前の歩道橋から南側を見たチンチン電車
※山本潔さん提供写真(1970年頃)をAIでカラー化

床「しかも武内さんは、単なるお店紹介ではなく、和歌山のラーメンの成り立ちから始まる『物語』を構成しました」

私「武内さんと初めてお会いした時、『和歌山のラーメンの歴史を解き明かしたい。図書館などに行っても一切資料はないし、各店を回って聞くしかない』とおっしゃっていました。地元の情報誌に携わる自分が、ラーメンを歴史や食文化という観点から深掘りできておらず、虚を突かれた記憶があります」

床「その食べ物がいかにおいしいか、私たちは『証拠』を求めます。和歌山のラーメンには、醤油、豚、かまぼこといった伝統の食材があり、和歌山市にはチンチン電車や車庫前といった生活の思い出があります。それらを紡(つむ)ぐ物語を提示されることで『そこに行ってみたい、参加してみたい、食べてみたい』との動機づけになるのです」

私「和歌山に関心のない人に、行動を起こすきっかけになる」

床「そう考えれば、一時の和歌山ラーメンブームは、そういう物語から導き出される『体験願望』が生まれたからではないかと思えてきます」

武内さんから和歌山市へ“プレゼント”

床「和歌山ラーメンは、ご当地ラーメンの一つとして全国に認知されました。時代が進み、新しいコンセプトのお店が和歌山に次々と誕生し、『車庫前系』『井出系』の分類は現状を反映していないとの指摘もあります」

私「地元民はそもそも、その分類を意識していませんでしたし」

床「全国的には『井出系』の味が和歌山ラーメンだと認識されています。もし武内さんが『車庫前系』の物語を紡いでいなければ、井出系でないラーメンは『東京ラーメンに似たどこにでもあるラーメン』と判断されたことでしょう。これは和歌山の実態を正しく捉えていません」

私「歴史の古さでいうと『車庫前系』ですし、井出系の味以外は『和歌山の味じゃない』と安易に思い込んでほしくないです」

床「武内さんが新横浜ラーメン博物館に招いたのは井出商店でしたが、決して井出商店だけをクローズアップしたわけではありません。『車庫前系』『井出系』の分類を行い、車庫前系の歴史的背景を掘り起こし、和歌山市でラーメンを食べる『体験』そのものに価値を与えました。結果、和歌山市に大きな経済効果を生み出すことになったのです。これは武内さんからの、和歌山市に対する『プレゼント』だと思っています」

私「武内さんは和歌山の“恩人”です。和歌山からもっと評価されるべきだと常々思っています」

床「ラーメン愛好家であり、“ラーメン王(TVチャンピオン『ラーメン王選手権2代目チャンピオン』の称号を持つ)”である以上に、そのラーメンが食べられている街や、食べている人々の『幸せ』を描こうとする作家、あるいは研究者のような人だったと思います」

私「返す返すも、2008年に48歳の若さで病没されたのは残念」

床「自分の好きなラーメンを、みんなが楽しんで食べていることを喜んでいました。新横浜ラーメン博物館の広報として、全国各地にあるラーメンに付随する物語を掘り起こし、『ここには、こんなにおいしいラーメンがあるよ!』と、多くの人と共有することを願っていたと思います。とにかく優しくて、おいしくラーメンを食べている人と出会いたいと考えている印象でした」

和歌山ラーメンの未来像

「和歌山ラーメンを取り巻く明るい未来」をAIが作成

私「さて、和歌山ラーメンのこれまでについて話してきました。今後、和歌山ラーメンはどうなっていくのか、床井さんの意見をお聞きしたいと思います」

床「近年、和歌山各地にオープンしているラーメン店は、個性豊かでバリエーションも増え、楽しみ方も広がりました。だから『和歌山ラーメンとは?』を語ること自体、意味がなくなってくるかもしれません。でも、武内氏が一つ一つのお店やその背景を大切に拾い上げたように、ラーメンと地域の生活や人々とのつながり、それぞれ存在する明確なストーリー、ナラティブとして語り継いでいく必要があると思っています」

私「“ナラティブ”を検索すると、出来事や情報をバラバラに見るのではなく、ストーリーとしてつなげて理解・説明する考え方、と説明されています」

床「いくら『和歌山ラーメンはうまいんだぞ』とアピールしても、その根拠や人の心を動かすストーリーが伝わらなければ、食べてみたい、あるいは体験したいとは思わないのでしょう。これは私が地域連携の仕事や、メタバース関連の研究で感じたことでもあるのですが、得られる体験に対する期待こそが、人がそこに向かう行動を始める動機やきっかけになると考えています」

左/2026年1月30日の取材時に撮影した床井浩平さん
右/1998年10月に撮影した床井浩平さん(「和歌山の中華そばとラーメン。」発行/アガサスより)

H「いやー、奥深いお話でした。さすが大学の先生です」

私「第8話まで私が書いた、おちゃらけ文章とは全然違う…ほっといてくれ」

H「ところで、積み残し案件が」

私「『日本うどん学会』の件よな?」

H「忘れてなかったですか」

私「大丈夫、床井さんから抜かりなく回答をもらってる」

【床井さんからの回答】
「日本うどん学会」のHPによれば、同会は「うどんの種類・チャンネル・食文化等に関連する問題をフィールドワークに重きをおいた手法で学際的・業際的に研究」することを目的とした学術団体。
同学会が2011年9月18日に和歌山大学で全国大会を開くにあたり、基調講演の依頼をいただき、「和歌山ラーメンという物語」をテーマにお話しをしました。

私「ということで、伏線回収! 第9話~第11話のインタビュー記事は、同会で床井先生が作成された資料も大いに参考させていただきました」

H「和歌山ラーメンについて、語りつくした感じですね。次回からどうするんですか?」

私「前回募集した意見・感想などがぼちぼち来ているので、そこからふくらまそうと思って」

H「おちゃらけ文章の復活ですか(笑)」

※ということで、第12話につづく(2026年6月中旬公開予定)

「和歌山ラーメン誕生物語」へのご意見・ご感想、そして和歌山の中華そば、ラーメンの思い出などを募ります。下記のアドレス(satoh@conex.gr.jp)まで、件名に「和歌山ラーメン」と書いて送ってください。採用者には何かいいものをお送りします。

メール送信はこちらのボタンをクリック

【和歌山の一杯】福井食堂

1998年(平成10年)の「和歌山ラーメンブーム」時に営業していたお店を、2026年(令和8年)に訪れて食べたレポート。

中華そば(750円)※2026年4月9日実食

和歌山のラーメン事情を語る上で、無視できないジャンルがある。食堂の「中華そば」だ。地元民のみならず多くの観光客が目指す店になっている「山為食堂」、そしてあまりの行列と早い時間に品切れになってしまうことが知られる紀の川市の「うらしま」(昔は「うらしま食堂」とも呼ばれていた記憶あり)など、食堂のメニューが和歌山を代表する味になっているのも興味深い。

ここ「福井食堂」の中華そばも人気が高い。丼物や麺類、定食におかず一品など、あらゆるメニューが存在する。毎日通っても飽きないラインナップである。

さて「中華そば」。強烈な個性を発揮するわけではなく、奇をてらわないオーソドックスな一杯に仕上がっている。これは多種多彩な他のメニューとの組み合わせを考えると、ちょうどいい控えめな安心感。どのメニューとも合うバランス感がいいのである。麺類に+200円でご飯と小皿1品がつく「めん類セット」というメニューがあり(14時まで)、お客の胃袋を存分に満たしてくれる。

名称


福井食堂

所在地


和歌山県和歌山市新雑賀町71

電話番号


073-433-4722

営業時間


11:00~19:00

定休日


月・火曜

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