友だちトラブル、不登校で悩んだ発達障害娘。高校1年で「登校スイッチ」が入ったワケ【読者体験談】
監修:鈴木直光
筑波こどものこころクリニック院長
一生懸命甘えさせても、自己肯定感が育ってくれない娘
わが家は姉・弟・弟の3人姉弟、3人共にそれぞれ診断が出ています。一番上の娘は現在中学3年生、11歳直前でADHD(注意欠如多動症)、ASD(自閉スペクトラム症)、LD・SLD(限局性学習症)の診断を受けました。
授業中折り紙など別のことに熱中し、気付くとほかの人は別のことをやっていてる……ということが多かった娘。不注意の傾向が強いため、苦手な「ー(マイナス)」がある数学の式は大体間違えます。私が解き方を教えたりして対応しています。
私に対してや、信頼している先生にはすごく甘えますが、私が一生懸命甘えさせてもなかなか自己肯定感が育ってくれません。先生たちには「娘はほかの人より愛情で満たしたい器が大きすぎて、いくら頑張ってもいっぱいにならないように感じています」と説明しています。
そんな娘は、中学校の一時期学校へ行けなくなる事がありましたが、ある出来事がきっかけで登校できるようになりました。その経験をお話したいと思います。
少しずつ積みあがった小学校時代の友だちトラブル。そして娘はストレスで髪を食いちぎるように……
娘は、2学年上の近所のお姉さんと一緒に登校していました。こちらは送り出したら一安心でしたが、娘は途中の草花などにいちいち立ち止まるそうで、お姉さんが何度も声をかけて学校に連れて行ってくれたようです。ですので一人で帰る時は寄り道ばかりになり、大人の足で16分の距離を1時間以上かけて帰ってくることもありました。
小学1年生の頃、幼稚園の時仲が良かった男の子と一緒に帰るところをほかの男の子たちから「カップルだ」とからかわれ、それ以来男の子が苦手になりました。また休み時間「外で一緒に遊ぼう」と女の子から声をかけてもらった時、「今、本を読んでいるから」と断った娘。それから「女子たちから陰口を言われている気がする」と感じるようになり、クラスで孤立していったようです。仲がいい特定の女友だちの存在が救いでしたが、彼女とは途中でクラスが別れることとなりました。
このように、友だち関係でのトラブルが増えて行った娘。小学4年生の時、一緒に学校に行っていたお姉さんが卒業、続いて小学5年生の始めにコロナ禍で休校になった時、限界を迎えました。
休校中のある日、末の弟が家のあちこちに髪の毛の束が落ちていることに気づきました。娘がストレスで髪を食いちぎっていたのです。「これはまずい」と思った私は、娘にゆっくりとなにか苦しいことがあるのか話を聞きました。そこでそれまでの友だちトラブル、「もう私、ぼっち確定だ」と嘆くに至った背景を知ることができました。
そして、娘は弟が通っていた児童精神科でADHD(注意欠如多動症)、ASD(自閉スペクトラム症)と診断。そこから小学校に相談をして、スクールカウンセラーの先生に話を聞いてもらったり、教頭先生やほかのコーディネーターの先生などにも様子を見てもらいながら、休校開けはどうにか学校へ通うことができました。担任の先生が優しい女性だったのが幸運だったと思います。
そこからは仲のいい友だちと同じクラスにしてもらうなどの配慮を受けながら、学校へ通い続けることができました。
中学校へ進学。巡回相談、放課後等デイサービスを利用し環境を整え学校へは通えていたけれど……
中学校では通常学級へ在籍することになりました。学校との協力、巡回相談、放課後等デイサービスを利用しながら、娘が苦しくない方法を模索し続けました。
放課後等デイサービスには中学1年4月から通い始め、学習面のサポートや居場所を作ってもらえました。他校の友だちができたり、料理や裁縫、小物づくりなどで先生に褒めてもらったり、そこにいくと楽しすぎて120%のエネルギーが出るそうです。
放課後等デイサービスに行き始めて半年ほどで驚いたことは、爪が伸び始めたことでした。ストレスで爪を嚙むことがある娘は常に深爪で、きれいに爪が伸びた姿を見ることはないと思っていた私。足、手としっかり伸びた美しい爪を見たときは、とても嬉しく、感動しました。
担任の先生は巡回相談以外の時間にも細かく娘の状況を教えてくださいました。1年、2年と仲がいい友だちと同じクラスにしてもらえたおかげで、学校にも安心して行けていました。ですが、中学2年生の10月頃から2ヶ月程、急に不登校になりました。
中学2年生の秋、突然学校へ行けなくなった娘
原因はこれと言い切ることはできませんが、おそらく体育祭を欠席したことだったのかもしれません。体育は苦手ですが頑張って練習をしていた娘。ですが、当日体温が37度になり、喉頭痛もあったことから「新型コロナウイルスかもしれない」と体育祭には行くことができませんでした。それから朝になるとうつっぽくなったり、微熱が出ることが増えました。コロナは陰性だったにも関わらずです。
部屋にこもった娘はこのように話していました。
・なぜか気分が上がらない。やる気がおきない。自分がだめだと思ってしまう。
・友だちがいる学校に行きたいけれど、勉強が全然分からない。
・ママに言われて頑張って苦手な数学の通信教育を頑張っても全部バツになってしまう。頑張っても頑張ってもバツになるからとても悲しい。
・パパやおばあちゃんにいろいろ言われている。「やらないならもったいないから通信教育をやめろ」「あの子は学校行かないで大丈夫なのか」「また学校休んでる」など1階で話しているのが聞こえる。部屋で動画を見て聞かないようにしている。
少しでも娘の気持ちが楽になるようにと、私の姉二人と姉の息子でグループチャットを作り、なにかやったら写真に載せてみんなから褒めてもらったり、AIとおしゃべりできるアプリを利用したりしました。
病院でさまざまな検査をしましたが、身体的な病気はありませんでした。心の問題かもしれないということで、かかりつけの精神科と相談し投薬を調整、12月から朝行けそうな様子であれば、1時間や2時間ほどの短い時間、学校に行くようになりました。私が学校まで送り、帰りは自力で帰り、できたら褒めるを繰り返しました。
初めて学校へ復帰した日は、仲良しの友だちと休み時間に抱き合って再会を喜んでいたと、当時の担任先生から教えてもらいました。学校へ行きたいのに、さまざまな苦しみを抱えて行けない娘。やっと友だちに会えてよかった……と感無量でした。
「学校へ戻らないと」スイッチが入った娘が始めた「あること」
中学3年生に進級する前の3月のことです。娘より年上の従兄は高校に進学を控えていました。従兄は雑談の中で娘に「高校に行くには遅刻も欠席もしちゃだめなんだよ」と言ったそうで、これを聞いた娘は「自分で学校へ戻らないと」と、スイッチが入ったようでした。
ある日娘は「春休み中、ママのお弁当を作るね」と言い出しました。インターネットでお父さんのお弁当を作る娘の動画を見て、自分もやってみようと思ったそうです。「今まで7時に起きられなかったけど、もっと早く起きることになるよ?」と言うと「やってみる」と娘。朝6時に起きてお弁当を作る日々が始まりました。パパが「いいな~。ママだけ」と言うので、「じゃあパパの分もおまけで作ってあげる」と夫の分も作ってくれる事になりました。
そして4月、学校が始まってからも6時になると自分で起きて野菜を切ったり、炒めたりしてしっかりしたお弁当を作り続けてくれています。中学1年になった弟の弁当も加わりました。
娘はお弁当の残りを自分の朝ごはんにして、身支度をして7時40分に家を出発。遅刻することなく登校する生活ができるようになりました。「今のところ無遅刻無欠席だからこれからも頑張る!」と言って……。
自分で決めて一歩踏み出した娘
なにがきっかけになるか分からないですが、本当に嬉しいです。これがさまざまなやる気につながるように、よく褒めて見守っていきたいと思います。ただ、頑張りすぎて疲れてしまうことも当然あると思います。そんなとき、娘の安全基地でいられるよう、娘の様子には目を配っています。
これからどんどん大人になっていく娘。自分の力で自分のやりたいこと、なりたいことに真摯に向き合って、夢をかなえて幸せになってほしいです。自分に自信をもってチャレンジする力を持ってほしいです。その一歩に今、立ち合えている気がします。娘のお弁当に私は毎日幸せと元気をもらっています。
イラスト/ネコ山
エピソード参考/まんまゆうまま
(監修:鈴木先生より)
ASD(自閉スペクトラム症)のお子さんはこだわりが強い傾向にあります。そのルーティンをやらないと気が済まないのです。そのために、からかいやいじめのターゲットになりやすいという面があります。今回は従兄との雑談が功を奏したようですね。ちょっとした一言にこだわり、結果登校できたのならばそれで良しとしましょう。そして、お弁当作りもたまたまインターネットを見て自分でやってみようと考えたのは立派なことですね。なお、お弁当作りや無遅刻無欠席もこだわりがあれば継続できますが、ちょっとでも寝坊したり、遅刻したりした場合はその法則が崩れてしまう可能性も秘めています。ASD(自閉スペクトラム症)のお子さんはほかの子同様、自分の思った通りに事が運み、その結果親から褒めてもらうと機嫌よく過ごすことができます。それが継続できるようにお母様は日々娘さんを見守ってあげてくださいね。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如・多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。
SLD(限局性学習症)
LD、学習障害、などの名称で呼ばれていましたが、現在はSLD、限局性学習症と呼ばれるようになりました。SLDはSpecific Learning Disorderの略。