「中学受験伴走」早稲田アカデミー・女子御三家特別コース担当講師が明かす「国語が得意な子」が低学年からやっていること
2024年、中学受験の伴走を終えた教育ジャーナリスト・佐野倫子さんによる「中学受験伴走」連載。今回は、抜群の合格実績と熱い指導に定評がある進学塾「早稲田アカデミー」の志望校別コースで、女子御三家のひとつ「桜蔭学園」の国語担当・本多弘篤先生に、国語が得意になる方法について伺いました。全3回の1回目。
中学受験 読んでおきたい作品リストとは?2024年に中学受験伴走を終えた、教育ジャーナリスト・佐野倫子です。「中学受験伴走」連載、今回は絶対に外せない「国語」の勉強方法についてお伝えしていきます。国語は暗記でもなければ、一問一答形式で鍛えられるものでもありません。どのように勉強をすれば、子どもの国語力を伸ばせるのでしょうか? 国語が得意な子、伸びていく子のことを知りたい!
そこで、大手進学塾「早稲田アカデミー」の志望校別コースで、女子御三家のひとつ「桜蔭学園」の国語を担当している本多弘篤先生に、国語の勉強方法を教えてもらいました。
「長文を読み解く力」が大切にされる傾向が続く理由
「国語はすべての科目の土台になります」(本多先生)。
──本多先生は、早稲田アカデミーの「NN志望校別コース(※それぞれの学校の対策を徹底的に行うコース)」で女子御三家の「桜蔭学園(※以下、桜蔭)」の国語対策を担当されているとお聞きしました。
桜蔭は、強靭な記述力が求められ、付け焼き刃では対応できないイメージがあります。対策を担当されている本多先生から、改めて中学受験における国語力の重要性を教えてください。
本多弘篤先生(以下、本多先生):文章を正確に読み取り、それに基づいて設問で聞かれたことに的確に打ち返す。それが国語という科目の本質です。
そして国語というのは、他の科目すべての土台になります。特に、読み取ったことや、考えたことを表現する「記述」は、他の科目でも必要ですよね。
また、最近の中学入試では、国語に限らずいろいろな科目において問題文が長文化しています。これからますます「読み取る力」はすべての科目で重要になってくるでしょう。
──なるほど、問題文を正確に深く読み取るという力は中学受験に限らず不可欠ですね。
本多先生:中学入試の問題が長文化する傾向は、大学入試の共通テストの傾向を反映しています。中学の入試問題は中高一貫校の先生方が作っていますから、当然共通テストのことが頭にあります。長い文章を読み解く力を大切にする傾向はしばらく続くでしょう。
低学年から身につけておきたいこととは?
──20年以上教鞭を取る先生からみて、最近の子どもたちの様子で気になることはありますか?
本多先生:世代間に能力的な差はないというのが前提ですが、今の子どもたちのほうがおしなべて、洗練されたカリキュラムについていくために演習量への耐性、難しい問題にも取り組もうとする意欲、勉強の体力のようなものはついていると感じます。こんなに長い文章の難しい問題に向き合っているなんて、今の小学生はすごいなと素直に思っています。
一方で、言葉に対する幅のようなものは狭くなっているかもしれません。
──「幅」とは、どういうことでしょう?
本多先生:言葉というのは概念とセットです。その概念が、もともと自分の引き出しにないと、ピンとこないんです。例えば、「姑が嫁につらくあたる」という描写があったとします。しかし核家族化が進むなかで、現代っ子は現実にそういう場面を見た子は少ない。そうすると姑という言葉に対する解像度は変わってきます。
本多先生:ほかにも、最近の子どもたちは、「かぼちゃ」と聞いてイメージするものは「ハロウィン」です。かぼちゃを冬至に食べると言われてもピンとこなかったり、冬至にゆずと聞いても、お風呂に入れたことがある子が減っていたり。
そういう言葉に対する下地みたいなものを、できれば本格的に中学受験勉強が始まる低学年のうちにたくさん身につけておけるといいですね。
──そのために親はどんなふうに接するべきでしょうか?
本多先生:日常の会話で、保護者の方や周囲の大人がいろいろな言葉や立場、状況で話してあげると引き出しは増えます。何気ない会話でもちょっとだけ背伸びするような言葉で言い換えてみてはいかがでしょう。
あるいは目上の人、近所の人、おじいちゃんやおばあちゃん、さまざまな立場の方と話す機会が多ければ、言葉のバリエーションは増えていくと思います。
本多先生もお薦めする小学生のうちに読んでおきたい本とは?
「えほん七十二候 はるなつあきふゆ めぐるぐる」作:白井明大、絵:くぼあやこ(講談社)
太陽の動きをもとに、一年を24等分したのが「二十四節気」。それをさらに3つに分けて、各時季の自然をこまやかなにうつした言葉が「七十二候」です。
言葉のリズムからも季節を体感できるよう、擬音語・擬態語もふんだんに取り入れた、子どもからおとなまで、季節のうつろいを、思い思いに感じられる一冊。
「日本のことばずかん あじ」監:神永曉(講談社)
和歌や文学作品に登場する「味」にまつわる美しい日本語に、名画や浮世絵、美しい写真などが添えられた、子どものことばの力を育てる、食にまつわる言葉を掲載。監修は、国語辞典のレジェンド、37年間、辞書編集一筋の神永曉氏。
「決定版 心をそだてる はじめての伝記101人[改訂版]」(講談社)
知識と心を豊かにする、子どもたちに今出会ってほしい、101人の物語を収録。作家・画家による文章と絵は、小さい子どもにも読みやすく、また写真資料も掲載しているので、子どもの質問におうちの方が答えることができます。
読書は好きなものを
──本の話がでましたが、読書についてもお伺いさせてください。中学受験を見据えて心掛けたい読書は、どう取り組んでおくとよいのでしょうか?
本多先生:読書はするに越したことはありませんね。活字に慣れているのは有利に働くでしょう。字を読んで、想像力を膨らませる、頭の中でイメージを持つ、それをもとに思考するというのはとても大切です。
とはいえ個人的には、読書くらいはあまり受験を意識せずに好きなものを読んでもいいんじゃないかなと思っています。好きな本を自由に読むほうがきっと好奇心を持って、結果的にたくさん読めますよね。
「子どもの読書量は個人差が多く、読まない子に悩んでいる保護者も多い」と、受験生の家庭を取材し続ける佐野さん。
──そう伺うとホッとしますが、そもそも本に興味がない子はどうすればいいでしょうか?
本多先生:まず保護者の方が家で本を読んでいる姿を見せるのがいいと思います。子どもは素直なので、そうすると読書がぐっと身近になります。
また、気分転換にさっと手が届くところに、いつも本があるといいかもしれません。保護者の方が並べておくのも手ですね。
――──入試問題に頻出する作家さんの本を調べて読ませる、という仕掛けはいかがでしょうか? この時期に出版された本が出やすい、などアドバイスはありますか?
本多先生:最近の傾向としては、直近2年間で出版された本から出題されることが増えています。とはいえ、それを当てるために読むというのもきりがないですから、例えば、勉強の合間の気分転換に親子で書店に行き、最近発売された本のなかで面白そうな物語を一緒に選ぶ、くらいの気持ちでいいと思いますよ。
中学受験対策 作品リスト
「彼女たちのバックヤード」著:森埜こみち(講談社)
それぞれに事情を抱える3人の女子中学生。仲良しだったはずの3人の関係がぎくしゃくし始め、そして、それぞれが抱える事情が明らかになるという物語。「友人関係」「家族関係」など、中学受験で重要とされる「他者理解」を鮮明に描いた作品。
「ぼくの色、見つけた!」作:志津栄子、絵:末山りん
トマトを区別できない、肉が焼けたタイミングがわからないことから、色覚障がいが発覚し苦しむ主人公。学年が上がり、クラス担任が、自分自身に向き合ってくれたことで、自分の個性を生かして打ち込めるものと出会い、心を成長させていく物語。「自己理解」がわかりやすい文体で描かれているうえ、心情表現も満載。
「17シーズン 巡るふたりの五七五」著:百舌涼一
学校ではほとんどだれとも話をしない「ぼっち」の主人公は、あることがきっかけでクラスの優等生から句会の誘いを受ける。詠みあげられる句を聞きながら、「五・七・五」の影響を強く受けていたことに気づく、17音を描いた物語。言葉の価値を認識させてくれる一作。
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「国語力は、すべての科目の土台」。本多先生の言葉には重みがありました。大学入試の共通テストもしかり、最近の入試問題は長文化の傾向があります。国語力をしっかり鍛えることは、中学受験が終わったあともずっと大切だということは心に刻み込んでおきます。
次回2回目は、いよいよ本格的に中学受験勉強が始まる4年生の勉強法について伺います。
撮影/安田光優
取材・文/佐野倫子
『中学受験ウォーズ 君と私が選んだ未来』著:佐野倫子(イカロス出版)