『ザ・ヒューマンズ─人間たち』が開幕 舞台写真&桑原裕子(演出)、山崎静代、平田満らキャストコメントが公開
2025年6月12日(木)新国立劇場 小劇場にて『ザ・ヒューマンズ─人間たち』が開幕した。この度、舞台写真と初日前会見での桑原裕子(演出)、キャストのコメントが届いた。
劇作家・脚本家として活躍するスティーヴン・キャラムのヒット作『ザ・ヒューマンズ─人間たち』。ピュリツァー賞演劇部門最終候補、そしてトニー賞ベストプレイを受賞した本作は、21年、作家自身が監督を務め、A24製作により映画化も果たした。
マンハッタンの老朽化したアパートを舞台に、感謝祭を祝うために集まったある家族の会話から、貧困、老い、病気、愛の喪失への不安が浮かびあがる一夜の物語。家族ドラマに、気味悪さ、恐怖という予想外の要素を混ぜ込んだ異色作。今回、桑原裕子の演出によって上演。
本公演では、まるで「ドールハウス」のような二階建ての舞台装置が印象的。そこで上階と下階を行き来する登場人物を見ていると、観客はまるで飼育箱を観察しているかのような錯覚へと陥る。次々に起こる"怪奇現象"に加えて、徐々に登場人物たちが抱える"不安"が明かされていくうちに、客席へもその空気は伝染し、次に何が起きるのかわからない緊張感が続く。
桑原の細やかな演出のもと、複雑な戯曲をカンパニー全員で丁寧に読み込んで立ち上げた、出演者の息の合った演技に、客席からは熱い拍手が贈られた。
本公演は新国立劇場 小劇場にて6月29日(日)まで上演。そのほか、愛知・大阪公演あり。
【あらすじ】
眠れぬ夜を過ごしているエリックは、感謝祭の日、フィラデルフィア郊外から、妻ディアドラと認知症の母モモを連れ、次女のブリジットとそのボーイフレンド・リチャードが住むマンハッタンのアパートを訪れる。そこに長女エイミーも合流し、皆で夕食を共にする。雑多なチャイナタウンにある老朽化したアパートでは、階上の住人の奇怪な物音や、階下のランドリールームの轟音がして、祝日だというのに落ち着かない。そんな中始まった食事会では、次第にそれぞれがいま抱える人生の不安や悩みを語り出し、だんだんと陰鬱な雰囲気を帯びてくる。その時、部屋の照明が消え、不気味な出来事が次々起こり……。
『ザ・ヒューマンズ─人間たち』初日前コメント
■演出:桑原裕子
チャイナタウンのアパートに集まって、あたたかな感謝祭の夜を家族で過ごすはずだったのが、家族がそれぞれ持ち寄った不安の種が爆発して不穏なことがいろいろ起こり、思わぬ方向に進んでいくという、ジャンルを定義できないこの不思議で面白い物語をようやくみなさんに観ていただく日が来たということで、ワクワクしています。
ブロードウェイの劇評では、“コメディ”とも評されている作品ですが、客席全体が「ワーッ!」と笑うようなコメディではありません(笑)。そういった作品は、どこかに“安心”があるからこそ笑えるんだと思いますが、この作品は、客席に対して安心させてくれないところがあるんです。
家族は笑っているのに同時に不安になるようなシーンがいっぱいで「これは怖いのか? 面白いのか? どっちなんだろう…?」と迷って観ていただくことになると思います。そうやって迷いつつ観察することこそが、この作品の醍醐味で、観ていてちょっとずつストレスが溜まっていくような感じがするのが、ある意味で正解であり、登場人物も客席も不安で、劇場に不安が充満していく感じが見どころかなと思っています。
■エイミー役:山崎静代
いよいよ初日ということで、キャストもスタッフも、みなさん健康で無事にケガなくこの日を迎えられたことを本当に嬉しく思っています。1か月半くらい前にみなさんと初めてお会いして、本読みと話し合いを重ねて、重ねて、本当に難しいなぁと思いながら稽古していたんですが、みなさんが一生懸命、真面目に稽古を重ねていらっしゃったので、私も頑張ろうと思いました。こうしてこの家族で一生懸命つくり上げてきたものをお客様に伝えることができるように努めたいと思います。
アメリカのニューヨークが舞台で、遠い国の自分とは全然関係のない話のように思えるかもしれませんが、「家族」という点では、すごく身近なお話。人間ってどこの国に住んでいても同じなんだな…と感じてもらえるように演じたいです。ぜひ愚かな人間たちをのぞき見してもらえたらと思います。
■ブリジッド役:青山美郷
こうして初日を迎えられることが奇跡みたいだなと感じています。今回の作品は現実なのか? 物語なのか? 境界線が自分でもわからなくなってしまうことがたくさんあり、いろんな悩みや葛藤もありましたが、桑原さんをはじめ、素敵なスタッフのみなさんに支えられ、キャストのみなさんと手を繋ぎ合って、光の方へともがき、あがいてきたような日々でした。一人でも多くの方にご覧いただきたいと思っております。
■リチャード役:細川岳
初日を迎えるのがメチャクチャ怖いです。お客様にどう思ってもらえるのか? 全然、想像もできませんが、「わからないもの」を観察しに来てもらえたらと思います。でも観終わった後にこの作品が跳ね返ってくる人は絶対にいるなと感じています。そういうものを残せるように引き続き頑張りたいと思います。
■「モモ」役:稲川実代子
私は、共演者みなさんの猛烈な量のセリフの合間、合間に訳のわからないことをちょこちょこと喋ります。無口な私ですので、あまり多くは語れません(笑)。いよいよ初日ですが、初日を迎えられるということが本当に信じられないくらい、ここまで体力勝負でした。みなさん、ケガも病気もなく、本当に嬉しく思っております。最後まで気合いで頑張ります!
■ディアドラ役:増子倭文江
初日を迎えられることが実に感慨深いです。稽古中は、セリフの量、セリフの応酬がとても激しく、役者が奮闘した日々でした。セリフが全て頭に入り、お客様の前に立つ日が来るんだなと今しみじみと思います。
ディアドラはダイエット中の役柄にもかかわらず、劇中で食べ物をたくさん食べます(笑)。 「ママ、口の中いっぱいだよ!」と娘のブリジッドに言われるくらい、食べながらセリフを言わなきゃいけないのはとても大変です。そこはいまだに緊張するし、苦戦もしますが、頑張りたいと思います。
■エリック役:平田満
稽古の時から、初日を迎える今も、お客様がどういうふうに観てくださるのか全く想像がついていません。桑原さんの演出だけを信じて演じていますので、開幕してのお楽しみです。
決して気持ちの良いだけのお芝居ではないと思います。私たちの同業者に多いのですが、普通の芝居を観ていて、誰も笑ってないところで「ワハハ!」と笑うような方は笑うと思います(笑)。でも「みんなで楽しく、安心して笑おうね」というタイプの方は、どう観ていいかわからない作品かもしれない。そんな客席に広がる不安も含めて、どうか楽しんでいただけたらと思います。