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この味を受け継ぐ人がいないのは悲しい。細くて長い「十割そば」は歴史がつないだ味(新得町元町)

北海道Likers

<span class="media-credit">出典: <a href="https://hokkaidolikers.com/">北海道Likers</a></span>

北海道の中央に位置し、東大雪の山々と日高山脈の山懐に抱かれた自然あふれる町、新得(しんとく)町。十勝総合振興局に属するこの町は、国内有数のそば産地であることをご存じでしょうか?

今回は、新得町のそばの歴史を語るうえで欠かせない人物とその味を継いで守ってきた一家が営むそば屋「蕎麦 十箱(とばこ)(以下、十箱)」をご紹介します。

そばの町・新得町の「そば打ち名人」

十勝の開拓期から入植者たちにとって欠かせないものであったそば。その歴史が120年続いている新得町では、『しんとく新そば祭り』を開催するなど、品質のよさで高く評されているそばで町おこしも行っています。

中央の小豆色の和帽子の方が柴田さん。左は石畑智美(さとみ)さん、右から2番目は石畑健(たけし)さん 出典: 北海道Likers

そんな新得町のそばの歴史を語るに欠かせない人物が柴田信昭さん。JA新得町にて勤務、参事を勤め上げ、新得町長議会議員としても活躍した傍ら、そば打ち歴46年という大ベテランです。山形県から入植してきた先祖から受け継いできた鉢でそばをこね、客人や家族のイベントでもてなしていたそう。

柴田さんはJA新得町での勤務時にそばに関してさまざまな研究や実験を重ね、より丈夫に栽培、より美味しく食べる方法を常に模索。『しんとく新そば祭り』の立役者でもあり、人生をそばと共に歩んできたといいます。

守りたい味

出典: 北海道Likers

そんな柴田さんを師と仰ぎそばを学ぶ人は多数いましたが、お店を出すと決意して弟子入りしたのが、今回ご紹介する「 十箱」の石畑健(たけし)さんです。

石畑さんは柴田さんのご親戚でもあり、子どものころから親戚の集まりなどでそばを食べていて、大人になっても柴田さんのそばの味が一番好きだと惚れ込んでいました。

そんな素晴らしい味を受け継いでいく人がいなくなったら悲しい、ただその想い一つでそれまでの職を離れ、師匠の下でみっちり修行。同時に、食を仕事にしようとしているのに十勝の生産地のことをまったく知らないことに気づき、いくつかの農家さんを手伝いにいって身体を動かしながら畑や作物のことを学んできました。

技を身につけ、知識も増え、手に職をつけるという喜びを膨らませながら、師匠の味を守っていくという意思が固まっていった石畑さん。2017年4月20日に「十箱」をオープンさせました。

お父様の故・重光さんが作ってくれたというのし棒掛け。丁寧なお仕事ぶりに石畑さんへの愛を感じます 出典: 北海道Likers

オープンの日取りは師匠が決めたもの。飲食自体未経験、つゆの味も定まっていないなかでのオープンは、正直不安しかなかったそうです。でも決めたからにはやるしかない。

石畑さんのお父様、故・重光さんが自他ともに認める機械整備の職人でとても器用だったというのもあり、時にぶつかりながらも一緒に店内を作り上げ、家族総出でオープンのどたばたを切り抜けました。当時は記念撮影なんて撮る余裕がないほどにいっぱいいっぱいだったと話してくれました。

出典: 北海道Likers

お店の名前「十箱」には、“十”割そばを楽しんでもらう“箱(人が集まる場所)”になったらいいなという想いが込められているそうです。オープンから5年経過して、まさに思い描いたお店になっているのではないかと筆者は感じます。

出典: 北海道Likers

店内のホールで素敵な笑顔でお客様を迎えているのが、妻の智美(さとみ)さん。元々美容のお仕事をしながらお店を手伝っていましたが、年々店舗に立つ日が増えたそうです。

お子さんの成長と共にあるお店。一緒にお店に入っているときはお客様があやしてくれていたこともあったそう 出典: 北海道Likers

智美さんは「十箱」のそばは毎日食べていてもまったく飽きないと大絶賛。お二人ともそばが大好きで、開業前はお休みの日は必ずといっていいほどあちこちのそば屋巡りをしていたそう。舌の肥えた二人が間違いないと自信を持って出している十割そばがここにはあります。

十割なのに細い!長い!

出典: 蕎麦 十箱 〜Soba Tobako〜

十割そばには小麦粉が含まれていないため、すぐに切れてしまうことが弱点としてあげられることが多いですが、「十箱」のそばは細くて長いそばらしい姿形をしています。

「その謎やいかに」と石畑さんに尋ねてみたのですが、なんと作り手ご本人も「なんでだろうね~」と首をかしげています。新得町のそば粉の品質のよさや、師匠から教わった技のなかにその秘密があるのかもしれません。

つゆも石畑さんが一から試行錯誤しながら作り上げました。それはそれは研究されたそうです。

あるとき出会った小樽の乾物卸屋さんが惜しみなく知識を分け与えてくれ、海苔やわさびに至るまで細かく指導してくれたそう。そしてそこからグッと全体の味が向上したそうです。このときのことを語るお二人からは、乾物卸屋さんへの感謝の気持ちがあふれ出ていました。

シンプルなメニューは想いの表れ

出典: 北海道Likers

「十箱」のメニューはとってもシンプル。シンプルすぎてお叱りを受けたこともあるといいます。それでも、これまで貫いてきました。「素人から始めた自分達が100%の力を注いで出せるものだけを出す」それが石畑さんの確固たる想いでした。

「オープンから5年経って自分たちも成長し、お店の傾向も掴めてきた」と話すお二人。これからは少し変わります。パートさんが入る日だけ、智美さんが学びに学んだ天ぷらを揚げます。もちろん不定期になるため、お店に入ってはじめて天ぷらがある日かどうかがわかる。これもまたファンとしてはそそられます。

メニューは少しずつ増やしていきたいとのこと。といっても、一つずつていねいに自信を持って出せるものを提供するのが石畑さんの信念。心底納得したものだけが“そのうち”メニューに並びます。

これからの十箱

取材当日のお二人。新調したばかりだというエプロンに身を包み、筆者に想いを語ってくれました 出典: 北海道Likers

これからの目標についてお伺いしたところ、「長く続けること」とシンプルに強いまなざしでお話してくれました。

小さかったお子さんをそばが茹で上がるまでの間見ていてくれたお客さん、毎年必ず年越しそばを注文してくれるお客さん、知識を与えてくれた乾物卸屋さん、そして技を与えてくれた師匠、そのすべての人がいたからこそ、5年続けることができたのだと。

また未来の「十箱」はどうなっていたいかとお尋ねすると、「そば好きなお客様の好みのおそば屋さんの一つになれれば」とのこと。「もうすでになっていますよ!」と心のなかで叫びつつ、取材を締めさせていただきました。

柴田さんが守ってきた歴史、石畑さんの情熱、さまざまな人との出会いで誕生した「十箱」。そばの町で紡がれていく味をぜひお試しください。

<店舗情報>
■店名:蕎麦 十箱(とばこ)
■住所:北海道上川郡新得町元町66-3
■電話番号:0156-67-7025
■営業時間:11~15時
■定休日:木曜

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