「『MEMちょ』に選んでいただいたことは、私の声優人生の中でとても大きな出来事だったと思うんです」──TVアニメ『【推しの子】第3期』MEMちょ役・大久保瑠美さん【連載インタビュー第1回】
物語は新たなステージへ──「赤坂アカ×横槍メンゴ」が描く衝撃作『【推しの子】』。2023年4月放送の第1期、2024年7月放送の第2期に続き、TVアニメ第3期が2026年1月14日(水)より放送開始となりました。
アニメイトタイムズでは第3期の放送を記念し、各エピソードとTVアニメ『【推しの子】』を振り返る連載インタビューを実施。第一回はMEMちょ役の大久保瑠美さんが登場です。
B小町にとって、そして苺プロダクションにとって、いなくてはならない存在であるMEMちょ。第3期第1話(第二十五話)におけるアクア(CV:大塚剛央)との対話をはじめ、「MEMちょ」というキャラクターの魅力などについてお話をお伺いしました。
ふとした感情の機微や繊細なお芝居。そして「癒やし枠」としてのMEMちょを、大久保さんはどのように表現しているのか。「徹底的に深堀り」していきます。
【写真】『【推しの子】第3期』MEMちょ役・大久保瑠美【連載インタビュー第1回】
「それはMEMちょの優しさであり、持っている伸びしろなのかなって」
──TVアニメ第3期のストーリーに、はじめて触れたときの印象をお聞かせください。
MEMちょ役・大久保瑠美さん(以下、大久保):現在放送されている第3期「中堅編」は『【推しの子】』がラストに向かっていくために通らなければいけない道のような印象です。1期はアイドル、2期は舞台やPV撮影など大きな山場がありました。3期にも山はありますが、さらに大きな山に向かっていくためのエピソードかなと思っています。
B小町の3人も、現在は向かっている方向がバラバラですよね。第3期の第1話(第二十五話)でも、動画撮影が終わったら(有馬)かな(CV:潘めぐみ)ちゃんもルビー(CV:伊駒ゆりえ)もすぐに帰ってしまって、MEMちょは寂しさを感じていて。
これがいつか元に戻るかと言われれば、必ずしもそうではないと思います。普遍的なものは存在しないと考えると……このまま(B小町が)解散してしまうこともあり得ると思うんです。そんな岐路にB小町は立っていて、そしてそれは登場キャラクター全員にも言えると思います。
──選択のときが来ている。
大久保:そうですね。ここでみんなが何を選択するのかで、未来が変わっていくんだろうなという雰囲気を感じています。
──大久保さんが思う『【推しの子】』という作品の魅力を教えてください。
大久保:改めて、キャラクターのインパクトが強いなと思います。ストーリーはもちろんですが、これだけキャラクターが魅力的だと「勝手に動いちゃう」という言葉に説得力があるなと。
それこそアイ(CV:高橋李依)は、原作漫画の1巻、アニメだと第1話で亡くなってしまうじゃないですか。でもその一瞬しか登場していないキャラクターが絶大な人気を誇り続けているんですよね。「究極のアイドル」という設定が完全にキャラクターに乗っかっていて、納得できるほどの魅力があるということだと思うんです。そのキャラクターたちが物語を引っ張っているからこそ、これだけ魅力的で熱狂的に応援してくださる方が多いのかなと思います。
──芸能界のこと、そしてキャラクターの心情などにも強いリアリティを感じています。
大久保:正直、私は「芸能界」について……少なくともお芝居や舞台、ドラマ、アイドルなどの業界に詳しいわけではないので「どれだけリアルか」は、あまりわからないんです。でも描かれる世界を見ていると「なんだか、ありそう」と思えるんですよね。魅力的なキャラクターたちが「実際の世界にいそう」という空気感が、作品の魅力を高めているのかなと思っています。
──MEMちょについても、改めて魅力を教えてください。
大久保:MEMちょは登場キャラクターの中でも大人な方ですし、いつも自分のことよりも周りのことを考えて動いているなと思います。
第二十五話で、アクアにかなちゃんのことを話しにいきますが、それも彼女の「友だちを助けたい」という気持ちがあるからこそなので、本当に良い子だなと。ただその反面、そんなMEMちょのことも「まだ子どもだな」と思うシーンもあって。
「それ位の事(アクアがかなに対して冷たい態度をとれば、かなが傷つくこと)を俺が想像出来なかったと思うのか?」というアクアの言葉を聞いて「逆なのかも」と気がつく。そこではじめて、その考えに至れるんですよね。それはMEMちょの優しさであり、持っている伸びしろなのかなって。
今はB小町の中でもお姉さんに近い位置づけで、縁の下の力持ちになっているMEMちょですが、周りを大事にしすぎているんじゃないかなとも思います。それはもちろん良いところではあるけれど、彼女自身の光を曇らせている要因でもある。最近は、もっと自分本位になっていいんじゃない?と思ったりしています。
──MEMちょの、誰かを深く慮れる心のようなものは、どこから生まれてくるのでしょう。
大久保:昔、MEMちょもアイドルを目指していて、でも家族のために働かなければいけなかった……そして気がついたときには「夢を追える年齢じゃなくなってた」んですよね。それも、自分より他人を大事にするがゆえだと思います。
また、ずっとインフルエンサーとして活動してきたこともあり、他人から見た自分が「どう見えているか」や、自分のとる行動が「どう思われるか」に敏感な子だなと思っています。たった一人で配信などを行ってきた彼女は、良いことも悪いことも丸出しの環境にいたんですよね。タレントとして活動するなら、マネージャーさんをはじめとした「チェックをしてくれる人」がいると思うのですが、彼女はその環境でなくても乗り切ってきた。年齢についても嘘をつきながら、たった一人でのし上がってきた……やはり周りを見て「受け取られ方」を考えて、わかっていないとできないことだと思います。
そんな彼女の洞察力はもしかしたら、元々持ち合わせていたものかもしれませんが、経験によってさらに育てられたものなのかなと考えています。
「『MEMちょは良い子です』って書いてあったんです」
──放送された第3期第1話ですが、MEMちょによるナレーションからの幕開けとなりました。
大久保:第3期は原作漫画9巻からの内容となりますが、漫画もMEMちょのナレーションからのスタートです。なので「このシーンから始まるだろうな」という予想はしていました。
また、アクアとMEMちょの対話のシーンも第3期の序盤に来るかなと思っていたので、前もって準備をしていたのですが、実際に演じてみると「アニメ制作陣はこんなビジョンを考えていたんだな」と感じるところもあって。
アニメ『【推しの子】』は、作品の深堀りをアニメでもしていくんです。もちろん原作のチカラを感じつつ、アニメ制作陣が「アニメでしかできないことをしよう」という気持ちが強い。
例えば第二十五話で、かなのことを話しに行ったMEMちょに対して、アクアが「話があるならまた今度」と躱そうとしますが、それに返すMEMちょの「今度っていつさ」というセリフは「もっと煽ってください」という要望をもらいました。「アクアが行かざるを得なくなるような言い方にしたい」「もっと煽っちゃってください」と。
続くシーンの「逆なのかもしれない」も、「今のアクアを見た、単純な感想でいい」とお話しいただきました。当初はもっと、MEMちょがアクアのことを考察した先にある「逆なのかもしれない」をお芝居として出していたのですが、そうではなくて。ただ「違ったんだ」「私はこう思ってたけれどそうじゃなかったんだ」「だからそんなに辛そうなんだ」「ごめんね」というニュアンスで……リアルですよね。言ってしまえば、私は原作を読んで先を知っているからこそ「考察のお芝居」をしてしまったのですが、MEMちょはそうではない。作り手側の考え方と、役者のお芝居の受け答えで第二十五話を作ることができたなと思います。
──その一瞬を生きているキャラクターを表現する、のような感覚なのかなと。
大久保:MEMちょも、アクアのことを理解していないから「なんでかなちゃんに冷たくするの?」と、話をしに行ってしまうんですよね。「突然避けるようなことをすれば有馬が傷つく」ということをアクアが気付かないわけがない、というところまではわかっていなくて。それは、MEMちょの気持ちが今、かなちゃんに寄っているからだと思うんです。
(黒川)あかね(CV:石見舞菜香)とアクアが付き合い始めたことを受けて、あかねにはアクアがいる、でも今のかなちゃんの隣には誰がいるの?と。だからどっちが、誰が大事?という話ではなくて、あかねもかなちゃんも、アクアのことも大事だけど、今はかなちゃんに寄り添いたくなってしまう。だから、アクアの気持ちに気がついたときには「ごめんね」という言葉が素直に出てくるんだと思います。
──あのやり取りの中で謝罪に行き着くMEMちょの精神性も並ではないなと思っていました。
大久保:シチュエーションを私自身に当てはめたとき「なんで私の友だちを傷つけたの!」と言いに行った場所で「ごめんね」という言葉が出てくるかと思うと……。
大人って意外と謝れないと思うんです。アクアとMEMちょは友だち同士でもあるので、大人同士の会話とは違うのかもしれませんが、良くも悪くも大人になるにつれて謝罪は重くなっていくし言い出しづらくなっていきます。それでも「ごめんね」と言えるのはMEMちょの人間の良さですよね。
……とあるお話の台本のト書き(セリフではない、演出や状況を示す文章・言葉)で「MEMちょは良い子です」って書いてあったんです。登場キャラクターはみんな良い子なのですが、これはスタッフさんからついつい漏れた感想なんじゃないかなって(笑)。ちょっと「フフッ」ってなりました。
──制作スタッフからの愛情を感じます。そんな現場で行われたアフレコはいかがでしたか?
大久保:もちろん良い意味で、1期、2期と比べて3期の現場はおしゃべりが少なかったかもしれません。1期は作品の走り出しということもあって、みんな少し浮足立っているといいますか、打ち合わせも多かった印象がありました。
──例えば、どのような打ち合わせを?
大久保:キャラクター決めにおいて、ルビーとMEMちょが並ぶシーンでは「元気で明るい」という印象が被ってしまうから「MEMちょをもっと幼くしてほしい」と言われたことがありました。「大久保さんが思う究極の可愛いがほしい」という要望だったので、実年齢を考慮した年齢感は守りつつ「可愛い」を作っていったんです。
その会話があったから……ちょっと自分で言うのは恥ずかしいのですが、今回の第二十五話でアクアと対話するシーンを見返したときに「私の声、可愛いかも」と思ったり(笑)。これまで自分の声を「可愛い」と考えたことがなかったのですが、きっとMEMちょが引き出してくれた声なのかなと思っていて。
素直なディスカッションができる現場だったので、第3期になった今はみんな安心しているといいますか。みんながどんなお芝居を持ってきてくれるのか、ある程度想像ができて、例え想像と違ったとしても対応ができる。信頼関係が構築されている現場だからこそ、1期のころより落ち着いていた気がします。
──積み上げてきたものがあるからこそ。
大久保:そうですね。また第3期ではおじさま方がいつもいらっしゃいました。五反田監督(CV:加瀬康之)や鏑木P(CV:てらそままさき)をはじめ、壱護さん(CV:江川央生)もようやく再登場ですから、みなさん明るくおしゃべりされていました。
──アフレコ現場では、大塚さんの隣に加瀬さんがよく座られていた、というエピソードを聞きました。
大久保:そうですね。ただ毎回ではなかったのですが、私も加瀬さんのお隣に座らせていただいていました。というのも加瀬さんと同じゲームをやっていて、加瀬さんから「編成どうすればいいと思う?」と相談を受けていて(笑)。
別の現場でお会いしたときも「『【推しの子】』に出ているんですけど、なかなか五反田監督とシーンが合わなくて……」とお話ししたら「MEMちょ! 会えてよかった!」と気さくに接していただいて。五反田監督にピッタリの方だなぁと思います。
「私の声優人生の中でとても大きな出来事だったと思うんです」
──1期、2期、3期と積み重ねてきた今、改めて感じるMEMちょを演じることの楽しさややりがいについてお聞かせください。
大久保:改めて思うのですが、MEMちょを演じるにあたって私の声はとても合っていると思っていて。それはオーディションの段階から変わらないのですが、MEMちょ役は実際にアイドル活動もするということで、私じゃない方になる可能性も大いにあるなと思っていたんです。
でも原作の先生方やTVアニメ『【推しの子】』の制作チームは「可愛い」だけではなく「復讐」「人間ドラマ」に重きを置いていて、見せたいのも後者だとお伺いしました。そうなった際に、純粋にお芝居と声でMEMちょ役に選んでいただくことができたのは本当に嬉しかったなと思います。
『【推しの子】』という大きなタイトルの「MEMちょ」に選んでいただいたことは、私の声優人生の中でとても大きな出来事だったと思うんです。本当に多くの方から反響をいただいて、作品に関われたことが嬉しかったし、もちろん彼女に限った話ではありませんが、MEMちょというキャラクターに対しても愛着がある。大事に演じていかなければいけないなと思う反面、プレッシャーも大きかったのですが、MEMちょと同じ目線になれる瞬間が多かったなと思っていて。
──同じ目線?
大久保:ルビー役の伊駒ゆりえちゃんやアイ役の高橋李依ちゃんをはじめ、同じ事務所の子も複数人参加していて、守ってあげたいといいますか、なるべく面倒を見たいな、と考えていました。特に最初期のころはMEMちょのように、常に誰かのことを考えながら現場に立っていたと思います。
だからもはや彼女は私の半身くらいの気持ちで演じています。またMEMちょは、重くなりがちな『【推しの子】』の癒やし枠だと思うので、そんな空気感も大事にしながら、これからも演じられたらと思います。
──大久保さんにとって、尊い存在なのですね。
大久保:すべての作品に言えることですが、やはりキャラクターがいてこその私たちですので、キャラクターと作品を何よりも大事にしたいと思っています。そんな気持ちが変わることなく走り続けられているのは、気持ちをつないでくれるスタッフさんやファンのみなさんのおかげだと思っているので、第3期はもちろん、その先にあるであろう完結まで走り続けたいですね。
とはいえ、まだ第3期が始まったばかりですので、まずは今を楽しんでいただけたらと思います!
──そんな『【推しの子】』における、大久保さんの“推しの子”を一人教えてください。
大久保:ひねりも何もないのですが、鳴嶋メルト(CV:前田誠二)くんです! 第2期のメルトくんの『東京ブレイド』のシーンを見て、推しにはならずとも嫌いになる人はいないんじゃないかなと思います。
実は私も(メルトと)同じ気持ちを味わったことがあるんです。メルトは自分が「演技が下手」なことを理解していて、その上で「この1分は誰にも負けない」と気張る……。私もお仕事をさせていただく中で「自分はできていないんだ」とわかる瞬間がありました。
そんなとき、現場としては「多分、大久保さんからこれ以上のものは出ないな」と、妥協のOKが出ちゃうんです。その空気感はこちらもわかってしまう。それが悔しくてたまらなくて。そんな経験が自分にもあるからこそ、メルトくんに惹かれるものがあるのかなと思います。
でも人は、自分が下手であることがわかったときに成長すると思うんです。これは私の人生論のようなものでもあるのですが、一個のことに集中して極めていくうちに、そのほかのことも上手になっていると思っていて。例えば、まずは手元の木の枝を木刀に、その木刀を真剣にしていく。そうして真剣ができあがったときには、周りの木の枝も木刀になっていると思うんです。きっとメルトくんもここからさらに羽ばたいていくんじゃないかなと思っています。
でも! 女の子遊びはやめて、お芝居に誠実な男でいてねと思います(笑)。
──(笑)。メルトといえば、初登場時の棒読みの演技も衝撃的でした。
大久保:メルトのことは原作で知ったときから好きで、あとから印象が良くなっていくこともわかっていたので、最初がヒドければヒドイほど良いなと思っていて(笑)。メルト役の前田さんが漂わせる「上手くないけれど、わざと下手にやっているわけでもない」「この人なりにやっているのはわかるけれど、できていない」というお芝居がスゴいなと! しかも「突き詰めた上でできない」のではなく「軽くやっていてできていない」なんですよね。絶妙だなぁと思っていました。
──意図的に浅さを出すお芝居といいますか。
大久保:そうですね! 底の浅さが見えるのがスゴいですし、逆にあの演技は底が深い人でないとできないものだと思います。色々な刺激を受けました。
──ありがとうございます。それでは最後に、TVアニメ『【推しの子】』第3期の注目ポイントを教えてください。
大久保:第3期の第1話(第二十五話)を見ていただけたらわかるとおり、みなさんの期待どおりの素晴らしいクオリティとなっています。この作品ではアニメでしか表現できないものを作っている、というお話をしましたが、第1話(第二十五話)はB小町のライブシーンなどが特にそうで、実際に歌がついて動きがついて「本当にライブを見ているよう」と感じるのはアニメならではです。そんな「アニメでしかできないもの」がこのあとも続いていきます。アニメと原作を見比べてみるのも楽しいのかなと思います。
原作をリスペクトしつつ、アニメでしか描けないものを描いている作品はなかなかありません。第ニ十六話以降もぜひ楽しみにしていただけたらと思います!
【インタビュー:西澤駿太郎 撮影:胃の上心臓】