「毒入りカレーで4名殺害」の死刑囚は無罪なのか?日本が戦慄した凶悪事件の“なぜ”を改めて問う衝撃作『マミー』
大量殺人事件とマスコミの狂騒
あの「和歌山毒物カレー事件」を多角的に検証した驚愕のドキュメンタリー『マミー』が、2024年8月3日(土)よりシアター・イメージフォーラム、第七藝術劇場ほか全国の劇場で順次公開される。
「和歌山毒物カレー事件」とは
1998年7月、和歌山県某市の夏祭りで提供されたカレーに猛毒のヒ素が混入するという事件が発生。これにより67人がヒ素中毒を発症し、小学生を含む4人が死亡。捜査の末に犯人と目されたのは、現場の近くに住む主婦の林眞須美だった。
死刑囚の家族の「その後」
当時、週刊誌やテレビの報道で林眞須美の姿を見て衝撃を受けた人も多いだろう。「ふてぶてしい」と揶揄されたその態度から“毒婦”などと称され、マスコミは連日にわたって彼女をカメラで追い続けた。そして、昼夜にわたり自宅を取り囲むなどやりたい放題だった報道陣にホースで水を浴びせる様子は、皮肉にも格好のネタとなってしまった。
この事件は当然ながら、眞須美死刑囚の家族にも暗い影を落とした。事件当時まだ中学生だった長女は結婚や出産を経験するが、やがて虐待によって我が子の命を奪い、直後に自死。おなじく当時10歳だった長男は、苛烈報道が残していった偏見や誹謗中傷、そして母への想いについて、たびたびドキュメンタリーや報道番組のインタビューなどで吐露してきた。
和歌山毒物カレー事件から26年目の挑戦
本作では、林眞須美の夫・健治が自ら働いた保険金詐欺の実態を赤裸々に語り、確定死刑囚の息子として生きてきた長男の浩次(仮名)が、なぜ母の無実を信じるに至ったのかを打ち明けていく。毒婦・眞須美は夫をも殺そうとした冷酷な人間であったはずなのに、取材によって得た事実は、それとは全く違う姿を映し出していた。なぜ、これで死刑判決が下されたのか……。
事件発生から四半世紀、本作は最高裁判決に異議を唱える。「目撃証言」「科学鑑定」の反証を試み、「保険金詐欺事件との関係」を読み解いていく。林眞須美が犯人でないのなら、誰が彼女を殺すのか――? 捜査や裁判、報道に関わった者たちを訪ね歩き、なんとか突破口を探ろうとする二村真弘監督。しかし真相に近づこうと焦るあまり、監督自身が事件に飲み込まれていく姿も映し出される。
「あやしいから死刑」のおそろしさ
動機は不明で、物的証拠はなく、自白もしていない――。眞須美死刑囚は最後まで容疑を否認したが、2009年に最高裁で死刑が確定。今も獄中から無実を訴え続けており、今年2月には3回目の再審請求が受理されている。
最悪の結果を生んだ<飯塚事件>や改めて注目を集める<袴田事件>など、今この国の司法への疑念がかつてなく高まっている。毒物カレー事件から26年、本作を通して真相の在り処を、そして“あの狂騒は何だったのか”を改めて考えたい。
『マミー』は2024年8月3日(土)よりシアター・イメージフォーラム(東京)、第七藝術劇場(大阪)ほか全国順次公開