【スケラボの「東海道中踊栗毛 沼津宿公演」】未来から来た弥次さん喜多さんが、沼津市の音と文化を取り込んだダンスパフォーマンスを披露
静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は7月19~20日開催の「東海道中踊栗毛 沼津宿公演」のリポート。7月19日の公演を鑑賞した。主催団体のスケラボは県東部を拠点に芸術活動を行うグループ。2016年に「Scale Laboratory」(スケイル・ラボラトリィ) として設立し、2022年に団体名を「スケラボ」に改めた。(文・写真=論説委員・橋爪充)
東海道の宿場町だった沼津に、1000年後の世界から東海道中膝栗毛の「弥次喜多」が訪れる。こんなコンセプトで練り上げられたパフォーマンスイベントである。「踊栗毛」と付くので、中心はパフォーミングアーツ。スケラボではおなじみの舞踏家松岡大さんと、ダンサー及川紗都さんが担当する。
日差しがやわらいだ午後6時、観客は狩野川沿いの沼津中央公園に集められた。旧東海道を横目で見ながら「歴史の水先案内人」軽野造船所さんの沼津城を巡るミニ歴史講座を聞く。三枚橋城が廃止され、沼津城ができるまでの経緯、宿場町としての機能、十返舎一九作「東海道中膝栗毛」に出てくる沼津宿の描写などを解説した。途中、未来の弥次喜多に扮したダンサー2人が公園を横切る、という演出があり、歴史講座とダンス公演の融合という、新しいチャレンジを感じた。
観客はそのまま中央公園から徒歩5分ほどの沼津ラクーンの8階に移動。かつて百貨店の売り場だったスペースががらんどう状態で保存されている。市内の飲食店「魚鳥木」「swing coffee stand」が出張営業。提供するコーヒーや軽食などを楽しみながら、ダンス演目を待つ。
午後7時。夕日が差し込む中、演目がスタート。「魚鳥木」店主でビートメーカー、音楽家としても活躍するDoramaruさんが登場し、手でパッドをたたいて鳴らすサンプラー「アカイMPC」の演奏を繰り広げた。両手の指先で絶え間なくパッドを打つことで太いキックの音や細かい金属音などを完全に制御し、空間を心地よいビートで満たした。
ほどなく、弥次さん喜多さんの衣装をまとった松岡さん、及川さんが再登場。作曲家武田直之さんがつくった楽曲にDoramaruさんがライブでビートを加えた音にのせ、躍動感に満ちたダンスを披露した。沼津市我入道の不動尊火渡りの音や、同市戸田の漁師歌をサンプリングして入れ込む場面もあり、非常にスリリングな内容だった。
Doramaruさんは演目終了後、総合演出の川上大二郎さんとのトークで「普段は一人で音楽をつくることが多いので、いろんな人との関わりがあるのは楽しい。きょうは武田さんがつくった〝公園〟で遊ばせてもらった」と語った。武田さんは「集めてきた音をどう楽曲に当てはめていくか、いろいろ考えた。演目は想像以上にダイナミックだった」と述べた。
「東海道中踊栗毛」は、弥次さん喜多さん役の二人のダンサーが市内の店舗や名所旧跡など16カ所を訪れ、その場でパフォーマンスする映像を撮影している。沼津ラクーンの公演も含めて編集作業を行い、今冬にインターネット上にアップする予定。川上さんは「東海道と名が付いているので、近隣のほかの宿場町でも同じようなことがしたい」と話し、三島や原、吉原などを挙げた。
宿場町の風物を本格的なコンテンポラリーダンスで表現するという新しい切り口。完成した動画コンテンツは一つの作品ではあるが、各地域のシティープロモーションとしても有効だろうと想像した。
(は)
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■スケラボ「東海道中踊栗毛 沼津宿公演」
総合演出・アートディレクション:川上大二郎
出演:松岡大、及川紗都、Doramaru、軽野造船所
会場:沼津中央公園~沼津ラクーン8階
今後の公演日時:7月20日(日)午後6時沼津中央公園集合(午後7時沼津ラクーンからの参加も可)
観覧料:前売 一般3000円、U25・500円
当日 一般3500円、U25・500円