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学歴社会の行く末 大手企業もジョブ型にシフト 「高学歴なら安泰」が終わる時代へ

コクリコ

学歴社会の行く末 大手企業もジョブ型にシフト 「高学歴なら安泰」が終わる時代へ

能力主義の代表格である「学歴」。日本社会はなぜここまで学歴を重要視するのでしょうか? 行き過ぎた能力主義の弊害や子どもへの影響について、組織開発コンサルタントの勅使川原真衣さんが解説する本連載。第3回は学歴が力を持った理由と企業の関係、今後の方向性などをうかがいました。

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「学歴はあったほうが生きやすい」「仕事と学歴は別もの」。子どもの学歴について心配する保護者は多いことでしょう。それにしても、少子化時代に突入した現在でも、これほど学歴が重視されるのはなぜなのでしょうか?

「学歴社会の背景には、日本特有の採用や労働環境など、企業側の事情があります」と話すのは、2025年3月に『学歴社会は誰のため』を上梓した勅使川原真衣(てしがわら まい)さん。

学歴社会の構造と落とし穴を詳しく解説してもらうとともに、気になる今後のゆくえについても聞きました。

学歴重視に至った「日本の採用事情」とは

──著書『学歴社会は誰のため』の中では、日本で学歴が力を持ってきた理由や構造について詳細に解説しています。

勅使川原真衣氏(以下勅使川原):日本では学歴がもてはやされる一方で、企業の採用時にそれまで学んだ内容が求められることは、一部の職業を除いてほとんどありません。では、なぜ「学歴」が重視されるのか。それは、「仕事内容がはっきりと決まっていないから」です。

『学歴社会は誰のため』勅使川原 真衣著(PHP新書)

勅使川原:仕事の内容をあいまいにしたまま雇用関係を結ぶ日本特有のスタイルは、「メンバーシップ型雇用」と呼ばれ、欧米で一般的な「ジョブ型雇用(仕事内容を合意後に契約)」とは区別されます。

でも、仕事内容がわからなければ、適性を判断しようがありません。そこで重宝されたのが、「学歴」という指標なんです。学歴が何を示しているかといえば、「これまで努力してきた」実績です。

学生時代に真面目に勉強し、熾烈な受験を勝ち抜いてきた人なら、就職しても頑張ってくれるに違いない。いい換えれば学歴は、入社後の「訓練可能性」として機能してきたわけです。

──そうした採用が当たり前だと思っていましたが、冷静に考えるとちょっと変ですね。

勅使川原:そうなんです。今なら不可思議に思える「メンバーシップ型雇用」が広まったのには、時代背景が大きく関係しています。

戦後の急速な経済成長期は、特定の仕事に限定して採用していては間に合いませんでした。だから内容はあいまいにしたままで大量の人員を雇用し、どんな仕事でも柔軟にこなしてくれる社員を育成していく方法を選んだのです。

社員側には終身雇用が保障されるといったメリットもあり、結果的に労使ともに納得したため、「メンバーシップ型」が確立していきました。

学歴がこうした時代に果たした役割は否定しません。でも、人口が減少し、少子化傾向の現代では、学歴で採用をする意味がほとんどないように感じます。むしろ、学歴や能力主義を前提にしていると、仕事がうまく回らないのです。

学歴採用の落とし穴

──「学歴」を基準にしているとうまくいかないとは、どういうことでしょうか。

勅使川原:学歴(能力)が高い人を採用したい、という考えの根底には、一人で何でもできる「万能な個人」さえいればOK。スーパーマン的な存在をたくさん集めれば仕事はうまくいく、という発想があります。

ですが、社会の現状をみても、長年労働の現場を見てきた私の実感としても、こうした視点は方向がズレているといわざるを得ません。

なぜなら、多くの仕事は「チームワーク」だからです。個人業務のイメージが強い理系の研究職でさえ、チーム=組織での仕事が基本です。優秀な個人を集めたからといって、組織がうまく動くわけではありません。メンバーが持つ「機能」が十分に発揮され、互いにかみ合ったときに初めて、成果が上がる状態になるのです。

個人を能力ではなく、「機能」でとらえる視点は前回も説明しました。それぞれの「持ち味」(車のパーツにたとえるとアクセル、ブレーキなど)が組織にバランスよく存在し、互いに生かし合いながら存分に機能を発揮できる環境が大事です。

「機能=持ち味」は、学歴ではわかりません。東大卒の人たちが、みんな似たような機能を持っているはずがありませんから。

仕事、組織という観点では、能力ではなく機能に注目すべきであり、その人の機能が組織の中でどの分野を担ってくれるのか、という全体のバランスが重要です。つまり、個人を見過ぎないことが大切なのです。

学歴社会の行く末は、「苦しすぎる」社会!?

──「学歴」が実際の職場や仕事の場面であまり意味をなさない、ということはよくわかりました。ただ、現実はまだまだ「学歴社会」です。そういう中で子どもに「学歴は重要じゃない」というのは難しいのでは、とも思います。

勅使川原:その気持ちはよくわかります。私も子どもが二人いますし、現実問題として「(現在の選択が)子どもの今後の人生で不利に働いたら……」と、頭をよぎることはあります。

いわゆる「勉強」が得意で強みになるタイプの子が、受験して学歴社会を泳いでいくなら問題ないと思います。だけど、そうじゃない子もたくさんいるのに、「勉強」「受験」という一元的な価値観で競争させ、その結果、子どもが傷つき疲れてしまう……という現状は疑問です。

学歴のために子どもが人生に疲れてしまっては、元も子もありません。  写真:アフロ

勅使川原:現在の社会の息苦しさは相当なものだと感じています。私はこれまで、いくつかの書籍で仕事をする上でのつらさや傷つきの原因などを分析してきましたが、それらを読んだ方々から反響をたくさんいただきました。大人は、学生時代は学歴、社会人になってからは優秀さを手に入れるために走り続け、限界の一歩手前なんだと痛感しました。

自分の子どもをそんな社会に送り込みたいでしょうか。頑張りすぎて疲弊し、希望が持てないような未来を生きてほしいでしょうか。そう考えてみてほしいです。

学歴社会は、「誰かが降りてから……」と考えている限り、永遠に続いてしまいます。だから私自身も、他人と競い合う「競争」ではなく、共に創る「共創」へと、行動を続けていきます。

学歴を重視しない大企業も登場

──『学歴社会は誰のため』では、学歴が重視される要因になった「メンバーシップ型雇用」を改める企業の事例も紹介されています。

勅使川原:影響力の大きい企業から、少しずつですが広がり始めています。ユニクロでおなじみのファーストリテイリング星野リゾートでは、新卒一括採用を止め、企業と個人の相性を見ていく採用方法にシフトしています。

富士通は、仕事の内容を示して採用する、いわゆる「ジョブ型」に舵を切りました。2026年度から部門と職種を決めた上で採用活動を行います。また、新卒者は長期の有償インターンシップを行い、希望職種を決めることができるそうです。

最近対談した大手通信事業会社もジョブ型で採用し、入社後のマネジメントも同様に、仕事の内容を定義した上で行っていると話していました。

これらは、ある意味で「当たり前」だと思います。仕事内容があいまいなまま採用してきたこれまでのほうがおかしかったのです。やっと……ではありますが、大手企業でこうした動きができたのはよい兆しといえるでしょう。

中小企業は大手のやり方を見て踏襲していきますから、今後広がっていく可能性があると思います。ジョブ型の採用が広がっていけば、どんな特性が必要なのか、ある程度は明確になりますから、少なくとも就職での学歴の位置づけは変化していくのではないでしょうか。

それに、高校進学でも「高専」に注目が集まったり、「N高」のような通信制の選択肢が登場したり、これまでの偏差値一辺倒から変化が見られるようになりました。今後も多様化していくことが期待されます。

─・─・─・─・

次回は、過度な能力主義や学歴社会に縛られず、親子で心身健康に過ごすヒント、考え方などを教えていただきます。

取材・文 川崎ちづる

©稲垣純也

【勅使川原 真衣 プロフィール】
1982年、横浜市生まれ。東京大学大学院教育学研究科修了。外資コンサルティングファーム勤務を経て組織開発コンサルタントとして独立。2児の母。2020年から進行乳がん闘病中。著書『「能力」の生きづらさをほぐす』(どく社、2022年)は紀伊國屋じんぶん大賞2024で第8位入賞。続く『働くということ 「能力主義」を超えて』(集英社、2024年)は新書大賞2025にて第5位入賞。その他著書多数。最新刊は『学歴社会は誰のため』(PHP、2025年)。日経ビジネス電子版と論壇誌Voice、読売新聞「本よみうり堂」にて連載中。

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