銭湯が身体も心も読者も癒す漫画『おかえり水平線』をご紹介!──心の機微が丁寧に描かれるお風呂のように温かい人間ドラマ
マンガ誌アプリ「少年ジャンプ+」にて連載中の漫画『おかえり水平線』(作・渡部大羊先生)。小さな街の銭湯を舞台に高校生たちの交流と成長を描いた物語です。
2025年3月より連載が始まり、現在15話まで公開されている本作は、事情を抱えた高校生たちが居場所を見つけ、心の傷を癒しながら成長していく様子が描かれています。
派手な盛り上がりはなく静かに進んでいく物語には、登場人物たちの心の機微が丁寧に描かれており、読んでいるとじんわりと心を温めてくれるような感覚に。時折重いテーマを扱うこともあるのですが、それでも爽やかな読後感があります。
本稿では、そんな『おかえり水平線』をもっと多くの方に知っていただきたく、その魅力をお届けしていきます。寒さが増してきた今日この頃、あなたもきっと「柿の湯」で温まりたくなるはずです。
あらすじ
15歳の主人公・柿内遼馬(かきうちりょうま)は両親がおらず、祖父と2人暮らし。祖父は銭湯「柿の湯」を経営しており、小さな街でおよそ40年前から地域住民に愛されています。
そんな家庭で育った遼馬自身も「柿の湯」を心から愛しており、積極的に仕事を手伝い、銭湯にいる時間が大好き。学校では友達を作ることもなく、授業が終わればすぐに帰宅し、銭湯の仕事をする、そんな毎日を送っていました。
ところがある日、寂れた銭湯に一人のシティボーイが訪ねてきます。利用客のほとんどが高齢者の「柿の湯」に現れた異色の人物は柴崎玲臣(しばさきれお)。なんと遼馬の父の子供だというのです。
突然現れた異母兄弟に戸惑う遼馬。一方の玲臣は、母親が蒸発してしまい、親戚は母親ごと玲臣を嫌っているため、行く宛てのないまま会ったことのない父を訪ねてきたのでした。
しかし、残念なことに父親は既に病気で他界。祖父に玲臣を引き取るかどうかの決定権を委ねられた遼馬は悩んだ末、玲臣といっしょに暮らすことに。異母兄弟とのほろ苦い共同生活がスタートしました。
『おかえり水平線』の魅力①:誰に対しても態度を変えず我が道を行く遼馬
主人公である遼馬は、我が道を行くタイプの15歳。学校ではいつも一人で過ごしているのですが、一人の方が気楽でいいからという理由で友達とつるむことをしておらず、そのことで向けられるクラスメイト達からの視線もまったく気にしていません。
体育の授業ではいつもあぶれてしまうため、自ら進んで先生と組んでストレッチを行い、それを見た玲臣はギョッとしてしまいます。クラスメイトの中には毎回先生と組む遼馬を嘲笑する生徒も。
しかし当の本人はそんなことつゆほども気にしておらず、先生と組むことに関しても「得体のしれん奴(クラスメイト)に背中預けるより百倍マシ」「先生なら仕事だから下手なことしないだろう」という考えを持っています。
どうしても一人で過ごすことを否定的に見られがちな日本。特に学校生活ではそれが顕著に感じられますが、遼馬を見ているとそれが好きなら一人で過ごしたっていい、と言ってもらっているように感じられるのです。
望んで一人になっている遼馬ですが、決してコミュニケーション能力が低いわけではありません。課外授業のフィールドワークでは初対面の年配者にも話しかけ、お店のことや地域のことを聞き出しており、元気のない同級生には不器用ながらも寄り添って励ます姿を見せています。
抱えた辛さを打ち明けて泣く同級生に対し「すでに戦ってる奴に俺ができることなんてないけど 疲れたときはデカい風呂浸かりに来て休んだらええ」と伝えているのですが、こんな励まし方ができるのは銭湯を大切にしている遼馬だからこそ。
また、自分がどう見られているか気にしない分、人に対してもフラットで誰に対しても態度が変わらないところも遼馬の魅力のひとつ。遼馬はそこにいたのが誰であろうとそうやって励ましてあげたことでしょう。不器用な優しさで関わる人を銭湯のように癒してあげられる人物です。
『おかえり水平線』の魅力②:受け入れられる温かさを知る玲臣
「柿の湯」に突然訪ねてきた玲臣。遼馬にとっては亡くなった父親が残したとんでもない置き土産ですが、玲臣自身も辛い環境で育ってきました。
放任主義な母親は夜不在にすることが多く、玲臣の夕食はいつも菓子パンか買ってきた弁当。それも、おそらく1人で食べていた様子。柿内家のおかずがたくさん並んだ夕食に感動すると同時に戸惑いも隠せない様子から、彼がどんな家庭で育ってきたか容易に想像ができてしまいます。
ついには母親さえも蒸発していなくなってしまったのですが、そんな家庭環境だったにもかかわらず玲臣はやさぐれたところがなくとても優しい性格です。
無責任に自分を作った父親に一言文句を言いたくて「柿の湯」にやってきたものの、急な来訪にもかかわらず泊めて温かい食事を出してくれた遼馬や祖父、大切にされてきたことがわかる銭湯を見て、自分がそれを壊してしまったかもしれない、と一度は身を引くことを決意。
それでも玲臣には帰る家などなく、途方に暮れていたところを遼馬に発見され、「行くとこないんやったらうちに来ーや」と柿内家に住まうことに。帰るところがなく孤独だった玲臣にとって、柿内家に受け入れられたことが大きな救いとなります。
しかし、居候の身であるがゆえにどうしても遠慮してしまう玲臣。ある日捨て猫を見つけ、飼いたいと思いつつも、それを言い出すことができません。遠慮する玲臣を察した遼馬の祖父は猫を飼うことをあっさり許可します。
自分の気持ちを自然に受け入れられたことに嬉しさと安心を覚え、こっそり涙をぬぐう玲臣。孤独を抱えた15歳の心は柿内家の温かい家庭とお風呂で少しずつ温められていくのでした。
『おかえり水平線』の魅力③:「柿の湯」が居場所のクラスメイト・秋野
遼馬と玲臣のクラスメイトである秋野。彼女もまた「柿の湯」に救われている人物の1人です。
彼女は母子家庭で母親はいわゆる恋多き女。母はいつも仕事と恋に忙しく、なかなか家に帰って来ないため、一人っ子の秋野はいつも家でひとりぼっちで過ごしています。
いつも寂しい気持ちを抱えていた彼女は、自宅の給湯器が壊れたのをきっかけに「柿の湯」に初めて訪れ、お湯の気持ちよさはもちろん、居心地の良い雰囲気も気に入り、たびたび足を運ぶように。
同級生である遼馬や玲臣とも「柿の湯」で会うちょっと特別な友達として交流を重ねていき、秋野は家庭で募らせた寂しさを癒していきます。とある事情からクラスでは素の自分を隠していた彼女の変化と成長をぜひ見守っていただきたいです。
『おかえり水平線』の魅力④:子どもたちを見守る祖父・勝臣(かつおみ)
重いテーマを扱う本作でも安心して読んでいられるのは、遼馬の祖父である勝臣の存在があるからです。「柿の湯」の主人であり、男手ひとつで遼馬を育ててきた勝臣は、良い意味で子どもをきちんも子どもとして扱う格好良い大人です。
進んで銭湯の仕事を手伝う遼馬を、常連客たちは「頼もしい後継」と言っていますが、当の勝臣は「後継ちゃう 本人がやりたい言うから今はやらせとるだけや」と。
まだ15歳の遼馬にこの先他にやりたいことができた時、プレッシャーにならないように配慮してのことでしょう。
また、玲臣が突然訪ねてきた際には「あの子のこれからを考えてやらなあかん」と発言。実際、本当に息子(遼馬の父)の子かどうかは定かではなく、知らない、と突っぱねることもできたでしょう。
しかし、そこで独断で引き取ることを決めず、遼馬にも「嫌やったら嫌って言ってもええねんで」と同じく子どもである彼の意思も尊重します。あの年頃の子どもがみんな孫のように見えると前置きしたうえで「けどずっと育ててきたお前の方が大事や」と。
きっと、遼馬が玲臣を引き取る選択ができたのも、祖父のその一言があったからだと私は感じています。また、たとえ遼馬が嫌だと言った場合でも、玲臣が生きていけるようにできることはしてあげたでしょう。
遼馬も玲臣も秋野も「柿の湯」で安心して過ごすことができるのは、子どもを子どもとしていさせてくれる勝臣に見守られているからなのだと思います。筆者もいい大人と呼ばれる歳ではありますが、勝臣のような大人を目指したいものです。
銭湯に入ったような温もりを感じる『おかえり水平線』
銭湯を舞台にした本作は、肩までお湯に浸かったようなじんわりとした心地よさが魅力。また、銭湯で働く際に遼馬が来ているシャツも「一湯入魂」「フロフェッショナル」「銭湯開始」などユニークな文字が入ったものばかりで面白いのでぜひそこにも注目していただきたいです。
話数は15話とそこまで多くないのでまだ読んだことがないという方もすぐに最新話に追いつけます! コミックス2巻の発売を記念して声優の安田陸矢さん(遼馬役)と島﨑信長さん(玲臣役)によるボイスコミックも公開されていますので、声優ファンの方はこちらも要チェックです。寒くなってきた今だからこそ、『おかえり水平線』で心地よい温かさを感じてくださいね。