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「地域を編集する」ってどういうこと? 「たなコトアカデミー」の 受講生が実践してみました!

ソトコトオンライン

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今期は、地域の魅力を伝えるための実践型講座。

 首都圏に住む人が和歌山県田辺市の「ファン」として、自分らしい関わり方を考え、実践していく講座「たなコトアカデミー」(以下、「たなコト」)が第3期を迎えた。

 舞台となる田辺市は、世界文化遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」と世界農業遺産「みなべ・田辺の梅システム」を有する地域資源に恵まれた場所で、近年では、地元の企業家が地域資源を生かした新しい事業を立ち上げる動きが活発だ。そんな田辺市のローカルヒーローと受講生がタッグを組み、共同で地域の課題解決に向けた取り組みを行うのが本講座の特徴。第1期では東京・渋谷区の『青山ファーマーズマーケット』にて田辺市産の柑橘類や紀州南高梅などを販売し、地域の魅力をPRした。第2期では、受講生それぞれが自身の趣味・スキルと地域資源とを掛け合わせたり、企業家とコラボレーションをしたりすることで自分らしい地域との関わり方を考えた。

 第3期となる今回は、14名の受講生が「地域の魅力を伝える」ことに挑戦。地域の情報をどう編集すると、その魅力を多くの人へ届けられるのかを「インタビュー記事にまとめる」形で実践した。

田辺とオンラインで中継しながらインタビューを実施。

 今回の講座内容が決まった背景には、これまでの「たなコト」修了生と田辺の人々とのつながり、そしてそこから生まれたアイデアがある。2020年の春、コロナ禍で地域経済が打撃を受けた田辺市の状況を聞いた修了生が、地域のために何かできないかと話し合った。その中で「田辺の産品をより広く、多くの人に知ってもらいたい」という思いから今回のアイデアが生まれたのだ。

 本編では、インタビュー記事を制作するまでの受講生の挑戦の足跡を追っている。対面での講演やオンラインでの取材などを経て、記事が完成するまでに田辺の人々と濃密に関わりを深めていった受講生たち。2021年2月27日の修了式をもって講座は終わったものの、田辺との関わりはここからがスタートだ。コロナ禍で講座中に現地へ訪問することが叶わなかった分、「次は田辺で会おう」と約束を交わした受講生と田辺の人々。きっと今後もおもしろい「コト」が起こるに違いない。

 後半では、今回受講生が取材した田辺のローカルヒーローの多くを輩出する「たなべ未来創造塾」を紹介。地域経済を盛り上げるビジネスプランや、過去の講座で作成したプランの実現に向けて動き出している修了生が登場するので、こちらもぜひチェックしてほしい。

ステップ1 田辺を知る

 まずは田辺市という地域を知ることから。市内でビジネスに取り組むゲストの話を深掘りしていく。田辺がどんなまちで、どんな人が暮らしているのか──地域と出合う時間だ。1回目は、森や川をきれいにするところから米作りを考える田上雅人さんや、果樹の栽培・販売を通じて人とのつながりを大切にする野久保太一郎さん、畑を荒らす猪や鹿を地域資源に変える果樹農家の岡本和宜さんらの話を聞き、受講生は目を輝かせていた。

地元でも信頼の厚いローカルヒーローたち。

ステップ2 編集の視点を養う

 田辺についてインプットしたら、今度はそれらの情報をもとに何を伝えたいのかを整理していく。メイン講師である小誌編集長・指出一正より、「地域を編集する」とは何か、のレクチャーを受け、地域をおもしろく発信するための視点を身につけていく。その後、実際に田辺の人にインタビューし、ウェブ記事をまとめるための構成案をグループごとに作成する。3つのグループがアイデアを出し合い考えたタイトルや見出しは、ユーモアあふれるものとなった。

グループで作った記事のイメージを発表。

ステップ3 田辺を編集する

 編集の視点を学んだうえで、実際に記事を作っていく。今回は11組にオンラインで取材をした。読んでくれる人に伝わる記事にするには、どの写真を使い、どんな文章にするとよいのか、試行錯誤を重ねる。出来上がった記事は、受講生同士で読み合わせをしたり、インタビューした方に読んでもらったりしながら磨き上げる。よりよい記事にするためにはどうしたらいいのかと悩みながらも、生き生きとした表情の受講生たち。

インタビューの様子。初対面ながらも笑顔の絶えない時間に。

ステップ4 ページが完成!

 ついに11本の記事が完成。講座の修了とともに、それぞれの記事を関係者の前で発表した。講座メンターの石山さんは、「ほぼオンラインでのコミュニケーションの中、完璧に仕上げてくれたことに感謝」と笑顔でコメント。講座メイン講師の指出一正は、「今後も田辺と関係人口を結ぶプラットフォームにしてほしい」と期待を込めた。真砂充敏・田辺市長からも「田辺と受講生のつながりができて大変うれしい」とコメントが寄せられた。

田辺のまちをイメージしたデザインの特別サイト。田辺のデザイナー・竹林陽子さんとコラボしたイラストも要チェックだ。

「たなべ未来創造塾」第5期生の事業アイデア。

「たなべ未来創造塾」第5期生の修了式が田辺市内で行われた。地元の企業家を中心とする塾生の専門性を生かしつつ、各自の事業と地域の課題を同時に解決するための、新たなビジネスプランを創出する約半年間の本プログラム。これまでの修了生のプラン実行率は70パーセントを誇る。今期は新たに11人が修了を迎え、集大成となる最終プレゼンテーションが行われた。学術・金融・行政といった機関の代表者の意見交換も交えた有機的な修了式となった。

修了式はコロナ禍をふまえ、オンライン配信も取り入れて開催された。

ファミリーキャリア・サポートプロジェクト─働くをもっと自由に自分らしく
『onlyone benefit』小山 葵さん
住宅専門のファイナンシャルプランナーとして2015年に起業し、2019年に「おうちの買い方相談室」を創設。自社の認知度拡大を兼ねて、働きたい子育てママを全力で応援する仕組みをつくる。ママ向けの就職・起業情報を紹介する雑誌の発刊やLINEの定期配信などにより、世帯収入が向上し、住宅相談が増加する見立て。

小さなケーキ屋がつくるスイート小ミュニティ─龍神村から笑顔の輪が広がりますように
『菓子工房HOCCO』榎本大志さん
人口減少に伴う地域の憩いの場の減少を解決しながら、田辺市龍神村に昨年オープンした自店の認知も拡大しようと、店の一部を活用して小さなコミュニティ拠点をつくる。親子を対象としたお菓子教室や誕生日会、テラスを使用した小規模なフリーマーケットなどを開催。将来的には、田辺市民の交流の場となることを目指す。

たなべ農家さん収入アップ大作戦!─人口減少からたなべの農家を守る!?
『紀州物産/田辺自動車学校/DRONE SCHOOL』野村晃大さん
取引先である農家の減少を課題と捉え、生産から販売を全面的にサポート。離農や高齢化対策としてドローンを活用した農薬散布を推奨し、操作技術を習得した農家にはパイロットとしての副収入を提案。生産物の認知拡大に向けて簡易販売所を設置し、販売網の構築を目的にECサイトやクラウドファンディングの活用も支援する。

梅干し屋が高めるクオリティ・オブ・ライフ─プラチナエイジ向けヨガ『UMELLNESS』
『紀州童』那須一徳さん
贈答品向けの梅干しを手掛けてきたが、時代の変化から需要が減少。一方、少子高齢化が加速する田辺市では、介護や通院といった生活サポートの負担が増えつつある。そこで、妻とともに60歳以上を対象とするヨガを開催し、高齢者の健康寿命を延ばすことで、サポートする家族の負担を軽減し、地域の生産能力の最大化を目指す。

ママとこどもがつながるサードプレイス「andiamo!」─「andiamo!」からママとこどもたちの明るい未来へ
『the CUE』土井隆司さん
児童公園に隣接した曽祖母の空き家を活用し、親子を対象としたレストランを開くことで、既存店舗と異なる客層を獲得しながら、楽しく子育てができる地域づくりに励む。地元の木工家具店とコラボした木育キッズスペースも設置し、テラス席ではママ向けのマルシェを開催。イタリア語の「andiamo(〜しようよ!)」が合言葉。

新しいスモモ産地へ─廃棄から新しい価値を生み出す地域循環
『松本農園』松本一寿さん
規格外で年間約600キロが廃棄となる自社のスモモを冷凍し、地元企業と提携して加工商品を開発する。自ら販路を開拓し、閑散期に販売して収入の安定を図ることで、地域課題である農家の後継者不足とスモモ生産の減少を食い止め、「儲かる農業へ・憧れる農業へ」の転換を目指す。他社の廃棄スモモの買い取りも視野に入れている。

文化のタネを育てるマガジン創刊プロジェクト─クラフトの文化とアートを発信
『G.WORKS』松本麻佐子さん
約40年前の「龍神国際芸術村」構想により多数の作家が移住し、魅力的なまちづくりが行われた田辺市龍神村だが、今では作家の高齢化が進んでいる。地域を再び活性化させるべく、作家の収入と移住者の増加を目的に、ライターとイラストレーターが共同で龍神村のクラフト文化とアートを発信する冊子を発行し、根強いファンを獲得する。

地域に愛され、世界を酔わせる─和歌山発のクラフトリキュール
『濱田』濱田朝康さん
世界農業遺産にも認定される田辺の梅産業だが、梅干しの需要は20年前と比較して半減。これを解決するため、地域の梅干し屋が新規顧客の開拓に向けて梅のクラフトリキュールを製造する。加工商品なのでキズモノの梅を活用でき、需要が増えれば耕作放棄地も活用できる。将来的には類似の課題を抱えるほかの果物農家でも展開。

YOU.TASTICのシンデレラストーリー─私が田辺をPR
『Y’S COMPANY GAL』横矢雄一朗さん
目指すは、アイドルのいる洋服店。Uターンして家業を継いだ店主が、商店街の再生と来店者の増加を目的に、田辺市外に暮らす若者に対する購買アプローチとして「会えるご当地アイドル」になることを宣言。田辺まつりで花火を打ち上げ、音楽イベントを開催するなど、既存の文化を大切にした企画を展開し、SNSで発信する。

Select Wakayama─クラウドファンディングで海外プチ販売
山本玲子さん
国内市場が縮小傾向にある今、海外への販路開拓は重要だが、言語や商い文化の違いから思いとどまる企業が多い。そこで、ローリスクな予約購買型で、商品ストーリーが伝えられ、市場規模も大きな海外のクラウドファンディングの活用を提案。市場調査・動画撮影・英語サイトの作製を代行し、地元企業の海外進出を手助けする。

KUMANOリトリートプロジェクト─水と樹の間に
『紀の国設備』森 智宏さん
田辺市の山間部を中心に活動する水道会社が提案する、熊野古道×サウナ。山間部の人口減少と自社の職人不足を課題と捉え、その解決策として地元の工務店と共同で、熊野の源流を引いた水風呂と紀州材を用いたサウナを建設する。熊野参拝者が心身ともにリフレッシュできる場をつくり、若者が働きたくなる仕事と賑わいを創出する。

「田辺で暮らしたい!」を醸成する人たち。

暮らしたくなるまちとは何か。田辺には、その答えを自ら導き出そうと励む人たちがいる。生きづらさを抱えた若者のための居場所や、ママと子どもが楽しみ成長できる場所など、明るい未来に向けて心の拠りどころをつくる、「たなべ未来創造塾」の修了生のもとを訪ねた。

心地よい暮らしに大切なのは、「誰といるか」。

 価値観や境遇が社会的にマイノリティであることから生きづらさを抱えた若者が、新しい生き方や働き方を創造し発信する居場所をつくりたい。その思いのもと2019年9月にオープンしたのが、シェアハウス兼ゲストハウス『TSUKASAハウス』だ。

 運営者は、横浜市出身のIターン移住者で『Reborn』代表の三浦彰久さん。就職活動時にうつ病を患い、10か月会社勤めをした後に約5年間、生き方を模索して全国を転々と旅していた。そんな中、偶然SNSで梅の収穫作業を通じてうつ病やひきこもり症状の治療を支援する『峯上農園』の峯上良平さんの存在を知り、2018年8月に田辺を訪れた。

三浦彰久さん。自身も「TSUKASAハウス」に暮らしている。

 数日滞在して話を聞くつもりが、すっかり意気投合。居候で農園の手伝いをすることに。その後、市内のゲストハウスで働くなど、現在につながる活動を重ねながら、かつて旅館だった物件と出合い、『TSUKASAハウス』の開業に至った。入居者は関連施設を含め、約10名。個々人の抱えるものはさまざまだが、入居者同士、ほどよい距離間でお互いを尊重しながら暮らしている。

和気あいあいとしたシェアハウスのメンバー。

 三浦さんは開業直後に「たなべ未来創造塾」へ入塾したため「同期生にIターンの起業者が多かったことも励みになりました」と当時を振り返る。その様子を近くで見てきた峯上さんは「出会った頃の彼(三浦さん)は何をやるにも受け身でしたが、田辺の人たちからいい影響を受け、覚悟を持って主体的に取り組むようになりました」と話す。

 最近では、農家や農機具を扱う地元企業と協力し、入居者の就労支援も行う。「いい意味で世話焼きなのが田辺の魅力です。『どこにいるか』より『誰といるか』が大切だと、このまちから学ばせてもらいました」と、三浦さんは笑顔をにじませた。

地方で暮らすママと子どもの、未来の選択肢を広げたい。

 リトミックをご存じだろうか。音楽と触れ合いながら自由に体で表現することで、感受性・好奇心・集中力といった潜在的な基礎能力を発達させる、幼児向けの発育手法である。そんなリトミック教室を田辺で開講しているのが『リトスタ☆nico』代表の高橋あいかさんだ。「ママと子どもが輝く」をテーマに掲げ、0〜3歳児の親子を対象としている。

高橋あいかさんと、助手を務める小学生の娘・奏羽さん。

 田辺育ちの高橋さんは、ピアノ教室を営む母親譲りの音楽好き。夫が脱サラして作曲家に転身したことを機に、家計を支えるために自分も何かはじめようと、子育て経験を生かして2015年10月に親子リトミック教室を開講した。その後、「たなべ未来創造塾」に入塾。当時のことを「さまざまな業種の人たちと会って刺激を受けるうちに、チャレンジすることに対する度胸がつきました」と高橋さんは語る。

 1組の親子の受講からはじまったリトミック教室も、現在では約50組に。教室はレンタルスタジオや公民館のほか、「たなべ未来創造塾」の修了生からもスペースを借りている。子育てに奮闘するママ同士の交流の場にもなっており、3歳で迎える卒業を惜しむ声が多いため、今後は4〜5歳向けのクラスも開講予定だ。

道具を用いてストーリー性のある授業を展開。

 リトミックという発育手法は都市部ではよく知られているが、地方ではまだ認知度が低い。この現状を踏まえ、高橋さんは「子どもの『やりたい』とママの『やらせてあげたい』を叶えて、地方の未来を広げるきっかけを今後も届けていきたいです」と強い決意を見せた。

 会いたくなる人がいること。その人たちとつながるコミュニティスポットがあること。これらの要素が、暮らしたくなるまちに欠かせないものではないだろうか。

photographs by Katsu Nagai & SOTOKOTO
text by Yukari Maeda & SOTOKOTO

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