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セレクションを目指しているのにBチーム落ち。親のほうが立ち直れません問題

サカイク

Aチームにいた息子が、Bチームに落ちてた。来月セレクションがあるのに、現実は厳しいのか......。と親の方がショックを受けて立ち直れない。

子どもにどう声をかけていけばベストな状態でセレクションを受けられるか教えて。とのご相談。

スポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、これまでの取材で得た知見やご自身の体験をもとに、悩めるお母さんに3つのアドバイスを送ります。
(文:島沢優子)

(写真は少年サッカーのイメージ ご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)

 

<<息子に意地悪する子に注意したらコーチに叱られた、わが子をいじめる子に親が問いただすのはダメなのか問題

 

<サッカーママからの相談>

はじめまして。いきなりですが相談です。

息子は来年中学生なのですが、来月セレクションがあります。ですが、4月からAチームにいた息子が、今日Bチームに入っていました。

なんだか私が凄くショックを受けてしまって立ち直れません。まだセレクションが終わったわけではないのに、やはり現実は厳しいのかと悲しくなってきます。

どう声をかけていけばベストな状態で受けることが出来るでしょうか?

 

サッカー用語「セレクション」とは
サッカーにおいては、チームに所属するメンバーの選出やトレセンメンバーの選出などを行う際の試験のことを指して使用。大きく分けてチームに入るためのセレクションとトレセンに参加するためのセレクションの2つがある。

 

<島沢さんからの回答>

ご相談いただき、ありがとうございます。

「現実は厳しいのか」

この言葉を、私も思わず漏らしたことがあります。

 

■子どもにとってネガティブなことに親がいつまでも悲しんでたら子どもを2度傷つけることになりかねない

私の子どもAが中学3年の夏か秋だったかと思います。地元のジュニアユースクラブでプレーしていたその子は、高校では別のユースクラブへ入ってサッカーを続けることを考えていました。私たち親はAに「好きなようにすればいいよ。任せるよ」と伝えていました。

ある日、Aが鉛筆で何か走り書きしたような一枚のレポート用紙を私に見せました。そこにはこうありました。

「初めまして。〇〇と言います。ジュニアユースクラブの〇〇でプレーしています。今中学3年です。そちらのユースチームの練習に参加させてもらえないでしょうか。プレーを見てもらいたいです」

そして、私に首都圏の強豪ユースクラブ2つに自分で電話をかけて頼んでみようと思う、と言いました。私は「へえ。すごいチャレンジだね。いいじゃん。やってみたら」と言って、その紙を返しました。

ひとつのクラブは「ユースからはとっていません」と事務職員の方に断られましたが、もうひとつのクラブはコーチにつないでくれました。保護者同伴で来るように言われ、練習に参加しました。私は仕事だったので、夫が付き添いました。

コーチから「もう少し見たいので、もう一度来てほしい」と言われ、2度目の練習に参加しました。練習後少し待たされた後、コーチから「クラブの事情であなたをとれない。残念だけど」と落選を伝えられました。

Aは唇を嚙み悔しそうだったと夫から聞きました。もしかしたら受かるかもと思っていた私も「現実は厳しいねえ」と漏らしました。あなたと同じようにショックではありました。悲しくもありました。ただ、そこで考えたのは「一番悲しいのはわが子だ」という事実です。

ずっとAチームだった息子さんは、Bチームに落ちてショックだったことでしょう。セレクションを控えているのですから余計に落ち込みます。そんなときに、お母さんが落ち込む姿を見たり、ショックを受けていることを知ったら、彼はどう感じるでしょうか。いえいえ、そんな姿は見せていませんとおっしゃるかもしれませんが、子どもは親の気持ちを感じ取る天才です。

子どもがやってしまった失敗やネガティブな出来事を、親がいつまでも嘆き悲しんでいては、子どもを二度傷つけてしまうことになりかねません。

 

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■結果よりプロセス 小6でBチームだったりセレクションに落ちることは人生でそんなに重要か

そこでお母さんに三つアドバイスさせてください。

ひとつめは、息子さんにまつわるどんなことも「結果」よりも「プロセス」を見てください。寄り添う大人がプロセスを重視するほうが、脳科学的に子どもを成長させることがわかっています。目先の結果ばかりを追いかけて干渉してしまうと、子どもの意欲やモチベーションをつぶしかねません。

Bチームに落ちたことは結果です。息子さんが楽しく精一杯自分なりにサッカーに取り組んでいるのであれば、そのことを認めましょう。小学6年生でサッカーでBチームだろうが、セレクションで結果が出なかろうが、それらは彼の長い長い人生の中でどれだけ重要なことでしょうか。ぜひそこを考えてください。

 

■子どもにとってベスト場状態に持っていく力は本人の主体性からしか生まれない

ふたつめ。

これまでも何度かこの連載でも書いてますが、わが子の感情に共感しても同化してはいけません。Bチームに落ちたことなんて話題にしなければいいのです。知らん顔する。もし、息子さんが「落ちたんだ」と言ってきたら「そっかー、残念だったね。でも、お母さんは君がサッカーを楽しんでくれているだけで嬉しいよ」と答えてください。

そうやって息子さんの残念で無念な気持ちに共感して寄り添うことは、親として大事なことです。しかし、親のほうが落ち込んでしまうと、子どもの感情に同化することになります。同化すると、親としての立ち位置や役割を見失ってしまいがちです。

お母さんの役割は何でしょうか? ただ見守ることではないですか? ご相談文に「どう声をかけていけばベストな状態で受けることが出来るか」と質問されていますが、私たち親にそんな力があるでしょうか? 自分なりに気持ちを整理してベストな状態にもっていく力は、子どもの主体性からしか生まれません。

 

■もう12歳、この機会に少しずつ自立させよう

(写真は少年サッカーのイメージ ご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)

 

そして三つめ。

もう12歳。この機会をぜひ「子どもの手を離す時間」にしてください。何かについて「お母さんはどう思う?」と相談されたとき、「君に任せるよ」と言える。ちょっぴり心配でも「好きなようにしなさい」ときっぱり言える。そんな態度が息子さんの主体性につながります。もしかしたら揺れる、戻るの繰り返しかもしれませんが、少しずつ自立させてください。

ところで、わが子Aは結局、高校から別のクラブでプレーすることになりました。奇遇にも二度練習参加をしてとってもらえなかったクラブと同じエリアでした。

Aはそのユースクラブに入ってよく努力しました。しかも、在籍した3年間で、自分を落とした強豪クラブに一度だけ公式戦で勝ちました。他の選手も活躍していましたが、Aもとてもいいプレーを見せてくれました。試合後、泣いていました。嬉しいのはわかるけど、そんなに泣くか? というくらいに。涙の理由は私たち家族だけが知るものでした。

 

島沢優子(しまざわ・ゆうこ)スポーツ・教育ジャーナリスト。日本文藝家協会会員(理事推薦)1男1女の母。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』や『東洋経済オンライン』などで、スポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。主に、サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実 そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート 夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』『王者の食ノート~スポーツ栄養士虎石真弥、勝利への挑戦』『世界を獲るノート アスリートのインテリジェンス』(カンゼン)『スポーツ毒親 暴力・性虐待になぜわが子を差し出すのか』(文藝春秋)など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著/いずれも小学館)ブラック部活の問題を提起した『部活があぶない』(講談社現代新書)、錦織圭を育てたコーチの育成術を記した『戦略脳を育てる テニス・グランドスラムへの翼』(柏井正樹著/大修館書店)など企画構成も担当。指導者や保護者向けの講演も多い。最新刊は『高学歴親という病』(講談社α新書)。

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