ハンカチを忘れずに…号泣する映画『35年目のラブレター』を観れば、必ず人に優しくなれる
本作の試写室に入る直前のことだった。「絶対にハンカチいるぞ、忘れないで」と言う声が聞こえていた。試写が終って、まったくその通りだ、と合点したのは昨年11月。映画を観て、あれほど涙が止まらなかったのは初めてのことだった。そして今、レビューを書こうと改めてパソコンに向かうと再び熱いものがこみ上げてきた。
過酷な、生きぬくことすら危ういような幼少時代を経て、読み書きができないまま成人した西畑保(笑福亭鶴瓶&重岡大毅)と、その妻、西畑皎子(原田知世&上白石萌音)夫婦の実話をもとにした物語である。
読み書きができないまま生きた60年余りの西畑保の人生に定年退職という転機が訪れる。保は長年、自分を助け寄り添ってくれた妻にラブレターを書こうと決意する。それが老境に差し掛かっている保にとっていかに難しいことだったか。保は夜間中学に通い始め、奮闘の日々が始まるのだが―。果たしてラブレターは書けたのか、届くのか。
様々なシーンを思い出しながら筆を進めたが、これ以上は涙が邪魔になる。(同時にネタばれを避けたい)
それにしても、本作の監督・脚本の塚本連平(62歳)は実にラッキーだった。この実話をTVのドキュメンタリー番組を見た妻から知らされ、すべては「愛する妻にラブレターを書きたい」という一途な思いに心打たれて映画化を思い立ったという。2020年のコロナ禍の真っ最中に始まった映画化への進展から脚本づくりを進める中で、本作のキャスティングが見事にはまったことが最高の幸運といえよう。若き日の保の重岡大毅、妻になる皎子の上白石萌音(彼女の優しい眼差しだけでも涙ぐんでしまう)にはじまって、鶴瓶、原田の穏やかな夫婦の姿など本作はこのキャスティングでなければ成り立たなかったのではないかと思わせる。加えて物語を支えるのは、夜学中学教師の谷山恵に安田顕、仕事に就けない保を寿司職人に迎えてくれる大将に笹野高史、戦争で亡くした両親に代わって皎子を育てあげた姉、佐和子に江口のりこ――本作にとって最強の面々が揃ったといえよう。
何とも刺々しくも人間不信に陥りそうな昨今の世の風潮を想えば、『35年目のラブレター』を観て、笑って、思いっきり泣いた後、なぜか、人が懐かしくなり、素直になって、優しくなって、心穏やかになることを願ってやまない。
35年目のラブレター
3月7日(金)全国公開
配給:東映
©2025「35年目のラブレター」製作委員会
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出演:笑福亭鶴瓶 原田知世
重岡大毅 上白石萌音
徳永えり ぎぃ子 辻󠄀 本祐樹 本多 力
江口のりこ 瀬戸琴楓 白鳥晴都 くわばたりえ
笹野高史 安田 顕
監督・脚本:塚本連平
配給:東映
公式サイト:https://35th-loveletter.com/