「メジャーデビューにふさわしい楽曲になった」シャイトープ・佐々木想が「ヒカリアウ」で若者に伝えたいこと
佐々木想(Vo.Gt)、ふくながまさき(Ba)、タカトマン(Dr)からなる3ピースバンド・シャイトープが、7月17日にメジャーデビューシングル「ヒカリアウ」をリリースした。「ヒカリアウ」は、懸命に日々を生きる若者にまっすぐなメッセージを伝える疾走感あふれるアッパーチューンで、カップリングの「skin」はコーセーコスメポート「クリアターン ごめんね素肌マスク」WEBムービーとのシャイトープ初のタイアップ曲のバラード。それぞれの楽曲に込めたのはどんな想いなのか。今回も佐々木想に、近況やシングルについて話を聞いた。
忙しく過ごす、メジャーデビューの日々
ーーメジャーデビューおめでとうございます! 前回のインタビューで「変化は進化」とおっしゃっていましたが、メジャーデビューして周りの環境は変化してきましたか?
やっぱり動いてくれるスタッフの方が増えて、その人たちと一緒に頑張っていくことも、ひとつの大きな変化です。それこそ「ヒカリアウ」のMVを撮った時も、すごい数のスタッフがおりまして。ドローンも飛んだりして、完成した映像を見た時に「すご!」となったんですよね。もちろん今までのMVも素晴らしいんですけども、「ヒカリアウ」のMVで素晴らしいものができて嬉しいです。
ーー前回のインタビューは2〜3月に行われたアルバム『オードブル』の全国ツアー前でした。メジャーデビューが決まった状態で「次に行くぞ」という気合いのツアーだったと思いますが、どういったツアーになりましたか。
『オードブル』のツアーは、今までで1番多い20カ所を廻ったので、そういう意味でも気合いは入ってましたね。すごくドキドキはありましたけど、「やってやるんだ!」という気持ちで挑みました。
ーーさらに4月からはFm yokohamaで初のレギュラーラジオ『ピロートープ(MON 25:30~26:00)』が始まりました。どんな感じですか?
楽しいですよ。3人で色んなことを話しながら、それがラジオとして電波に乗ってリスナーの方に届くことが、すごく楽しいし嬉しいです。ディレクターさんにコーナーを設けてもらって、お便りをいただいて、それを読むのも楽しいんです。ラジオ慣れはまだまだしてない感じがするので、ここからもっとラジオっぽくなっていけたらなとは思うんですけどね。
ーーお話するのは好きなんですか?
好きな方だとは思います。特にラジオで話すのはすごく好きですね。だけど普段はどうなんだろう。結構無口なことが多いかもしれないです。
ーーシャイですし。
そうなんです。3人ともシャイなので、ちょっとずつ慣れていってという感じで。
ーーメジャーの日々を、忙しくも楽しく過ごしてらっしゃるんですね。
最近はちょっと忙しくさせていただいてます。でもバンドのために頑張りたいと思います!
シャイトープは、夜を照らす月のような存在
ーー「ヒカリアウ」は記念すべきメジャーデビューシングルですが、楽曲を作る際に意識したことはありますか?
「ロックサウンドにしたい」とか「アッパーチューンで作りたい」といった気持ちは、胸のどこかにありましたね。
ーー大阪のバンド・the paddlesのライブにインスパイアされてできたそうですが、ライブを観る前から「次はアッパーチューンを作ろう」と思ってらっしゃったんですか?
the paddlesのライブを観る前からアッパーチューンにしたいなという気持ちはありました。ただthe paddlesと4月に対バンをして、the paddlesのライブを見て、すごく胸にくるものがあって。そこからヒントを得て、東京に帰って「よし作るぞ」とギターを弾いていたらAメロの歌詞とメロディーが出てきて、コンセプトが固まっていったと思います。
ーーthe paddlesのことを「光みたいなバンド」と表現されていましたが、どういうところが光だなと思われましたか?
the paddlesは自分からすると、本当に太陽みたいなんですよね。メンバーの人柄もそうですけど、ライブを観ているとお客さんも誰も置いていかないし、みんなを照らしてるように見えたんですよね。だから「ああ、光みたいなバンドだ」と思って。そこからずっと「the paddlesは光みたいなバンド」と言い続けてますね。
ーーそれで「光」という歌詞にたどり着いたんですか?
「光」という言葉が出てきたのも、the paddlesのライブを見てからですね。
ーーthe paddlesの柄須賀(皇司/Vo.Gt)さんが、「the paddlesが太陽の光なら、シャイトープは月の光だ。そうやってずっとヒカリアウ関係でいたい」とSNSで発言されていましたが、想さん的にもthe paddlesとの関係性はそんなイメージですか?
確かにそうだと思いますね。the paddlesが太陽ならシャイトープは月って、すごく当てはまってるなと思います。
ーーシャイトープのどういうところが月の光だと思われますか?
なんだろうな。シャイトープは、the paddlesほど太陽みたいに明るい感じではないのかもしれないなと思っていて。月みたいに道を照らして「こうやって進んでいったらどう?」と示す、優しい光なのかなと。どこか切なさもあるし、儚さみたいなものも纏っているバンドだと思っているので。だからこそシャイトープは、夜を照らす月みたいな存在なのかなと思いますよね。
若者が聴いて楽になってくれたら、しんどい人に寄り添えたら
ーー「ヒカリアウ」は本当にまっすぐ突き刺さるアッパーチューンですが、月のシャイトープが描く「光」を、歌詞の部分で意識したことはありました?
たぶんコンセプトに繋がっていくんですけど、この曲には<若者>という言葉が結構出てくるんです。だから本当に若者に向けて書いた楽曲にはなってて。僕自身も若者ですし、若者は悩みをたくさん抱える時期だと思うし、孤独を感じることもあると思うし、「寂しいな」と思うこともあると思うんですよね。1曲でその人の人生を救うみたいなことは本当に難しいと思うので、全部が全部救えるとは思ってないんですけど、少しでも若者がこの楽曲を聴いて何かが変わってくれたら、楽になってくれたら、寄り添えたらなという気持ちで歌詞を書きました。
ーー日々を一生懸命生きている若者へ歌いたいと思うキッカケは何かあったんですか?
これは自然と出てきたものですね。自然とそういうことを書きたいと思って書きました。
ーー「ヒカリアウ」には<飛び降りる夢を見て><生きる理由というよりも 死ねない理由を探す>といった直接的な表現が多いですね。
確かに今おっしゃったようなところは、ちょっとシリアスな場面だとは思うんですけど、この曲を書くとなった時に、そういう部分から目を背けたくなかったんです。確かにちょっと重い表現だしシリアスなんだけど、そこは敢えて、ちゃんとまっすぐ直接的に書いていこうって。その方が本当にしんどい人には刺さるかなと思ったので、そういう表現をしてますね。
ーー<若者はいつだって飛び降りる夢を見ては 足踏みをして抱きしめてくれる人を待ってる>は、すごく共感できる部分だと思いますが、想さんご自身もそういう感覚はわかりますか?
そうですね。僕にもやっぱりそういう時もあるので。些細なことなんだけど、若さゆえなのか色々考えてしまったり、どんどん深いところに沈んでいって「もうこの命さえも」みたいに考える瞬間だってある。多分みんな生きてたらそういう瞬間はあるんだと思うんですけど、だからこそ「自分だってそうだよ」と言ってあげられたらなという想いはありますよね。
ーーなるほど。Aメロは一人称ですが、サビの<若者は〜>以降は第三者的で俯瞰しているような視点なのかなと。その辺りは何か意識されましたか?
これも無意識にそうなってたというのが正直なところなんです。本当にサビは<若者はいつだって>と俯瞰的に見ている。だからこれは、自分のことも、この曲を届けたい若者も俯瞰的に見てる。そういう表現の仕方が好きなのかもしれないですね。
ーー落ちサビの<悩むことに疲れたって>から<生きて 生きて 生きてみようぜ>はメッセージ性が強いですね。
自分が作る楽曲や歌詞には、できるだけ最後に希望を持たせて、救いがあるようにしたいと思ってるからこそ出たフレーズだと思うし、ここは本当に伝えたいところですね。サウンドも歌い方も力強くなってるので、もう誰が聴いても「伝えたいんだな」とわかってもらえるようにしてます。
ーー2サビ後のベースがかっこ良いですね。
もうブリンブリンのね(笑)。その辺りもミックスで音にこだわったり、「こうした方がいいんじゃない?」「ベースもっと出した方がいいんじゃない?」と話し合いながらやっていたのが活きましたね。
ーー歌詞も難しかったのでは?
難しかったですね。こういう歌だからこそ慎重にというか。あとはちゃんと伝えたいからこそ、わかりやすさはちゃんと持たせたくて。ただ自分にしか書けないような歌詞を書きたいという気持ちもあって、そこのせめぎ合いで「どうすりゃいいんだろう」と悩んだりしてましたね。
ーー今回で言うと、自分らしい歌詞はどこだと思いますか?
それこそさっきおっしゃった<若者はいつだって飛び降りる夢を見ては 足踏みをして抱きしめてくれる人待ってる>は、自分らしいのかなと思いますけどね。
ーーどういうところでそう思いましたか?
<飛び降りる夢を見る>で終わるんじゃなく、<足踏みをして抱きしめてくれる人を待っている>というところがつけ加えられるのが、自分らしさなんじゃないかなと思いますね。
ーー最後には希望を持たせたいという意思が出ているんですね。
そうですね。
自分たちが描いていきたいものはこういうことなんだ
ーーカップリングの「skin」は、初のタイアップ曲で書き下ろしです。お題がある作曲は難しくなかったですか?
お題がある方がむしろ作りやすかったですね。やっぱり0から1というキッカケを作るのが、何もないところから探すよりはやりやすいので。
ーーピアノとアコギから始まる優しいバラードですが、曲調の指定はあったんですか?
「バラードで」というよりかは「テンポ感ゆったり目で」というリクエストがありました。「ランデヴー」くらいの感じで、みたいな。だからなんとなく「聴かせる感じの曲を作ってほしいんだろうな」と感じ取って、バラードに仕上げましたね。ピアノを入れるのも初めてなんですけど、ワンコーラス弾き語りで作った時に「ピアノがないと完成しない」と思ったので「ピアノ入れたいです」とディレクターさんに言って入れてもらいました。
ーー内容については?
企画書の中に、ある1人の女性を主人公にしたエッセイのような文章が書かれていて、「それをヒントに作ってもらえたら」と言われて。それを読んで「そうか、こういうターゲットなのか」と思いながらやってましたね。
ーーいつもの作り方とは違う部分もありましたか?
タイアップなんですけど、作り方はいつもと変わらずでした。ターゲットの主人公に近づけるようにしたつもりですけど、結構思うようにやらせてもらった気はしますね。先方から「なんか違うよ」とか「ズレてるよ」と言われないかなってちょっと心配だったんですけど、合ってたみたいで良かったです。
ーー最初にできたのはどの部分ですか?
これもAメロの<あなたの肌に触れる時 私の心は取り戻すの>が最初だった気がしますね。
ーーとても優しい楽曲ですが、<生活は辛くても>というのが、1曲目の「ヒカリアウ」ともリンクしているのかなとも、日々を一生懸命生きてる人に向かって描いているのかなとも思いました。
そうですね。「skin」も「ヒカリアウ」もメジャーデビューということで出した曲なので、「自分たちが描いていきたいものはこういうことなんだよ」と示せる曲なんじゃないかなと思います。暮らしや生活の中の辛さに寄り添って、聴いてくれる人を肯定してあげる。そういう姿勢をこれからもずっと示していけたらなと思ってるので、それが表れていると思います。
ーーサウンド面でのこだわりはありますか?
これも「ヒカリアウ」に続いて、音にこだわって録った曲ですね。Cメロが開けてからの間奏で入っているギターソロの歪みにこだわったり、空間系リバーブやディレイの感じも、どういうものがいいのか話し合いながらやったりして。あと、Cメロはコーラスを結構重ねてるんですけど、その重ね方だったり「何をコーラスとして入れるか」みたいなことも色々こだわりながらやりましたね。
ーーメジャーとインディーズでは、レコーディングのやり方が変わったりしました?
変わりましたね。そもそも録音する場所も違ったりしたんですけど、インディーズの時は、京都のstudio decoというすごくお世話になったスタジオで録ってて。「ヒカリアウ」と「skin」は、東京でしっかりディレクターさんがついて、たくさんの人に協力してもらって録りました。レコーディングの方法も、インディーズの時は1人1人それぞれ取っていくスタイルだったんですけど、メジャーになってからはみんなで一斉に録るスタイルでやってますね。
ーー新しい感覚があったり、気付いたことはありました?
みんなで一斉にやるのは結構ドキドキしますね。「ミスれない」みたいなプレッシャーがあるんですけど、その緊張感が良い方向に作用してる気はします。あと、みんなで合わせることによってグルーヴや熱量が生まれると思ってるので、みんなで合わせる良さがすごくあるなと思いますね。
ーー「skin」の歌詞についてはいかがですか?個人的には<流行のように捨てられた 私の愛のカケラさえ あなたを拾って胸に仕舞う>が素敵だなと感じました。
サビのその部分ができた時は、もう小さくガッツポーズしたぐらい自分も好きですね。そこも大好きだし、2番の歌詞も、Aメロ・Bメロ・サビも全部お気に入りですね。
ーー特にどこですか?
うわ、難しい。すごくシンプルなんだけど、<探し物はあなたと探すから 見つかるものだよ>は好きですね。あと<油断しそうなくらいの 素敵な愛をくれる人>も、捉え方は人それぞれある気がしてるので、みんながどういう捉え方をするんだろうというのは楽しみですね。
来てくれた人を置いていかない、心に刻めるライブをやっていきたい
ーー以前「色んなタイプの曲を作っていきたい」とおっしゃっていましたが、これから作りたい曲の構想はありますか?
気が早いんですけど「次のアルバムどうしよう」と考えています。次のアルバムでは、ちょっと面白いことができたらいいなと思いますね。例えば、今まで入れたことのない音を入れてみるとか。ストリングスも電子音も入れたことないですし、そういう音を使った曲がアルバムに何曲か入ってたら面白いなと思うので、使いたい音から逆算して、曲やアルバムを作れたらなとは思ってますね。
ーー9月から11月にかけては、ワンマンツアー『シャイトープ LIVE TOUR 2024 "Here There and Everywhere”』が始まります。全国16箇所、今まで訪れたことのない場所を中心に廻られるそうですが、「行ったことのない場所に行こう」みたいなお話が出たんですか?
これもマネージャーの助言ですね。イベントでCDにサインとかしてると「ここにも来てください」と言われるので、こちらから行こうという。
ーー初めての場所で、初めて会うお客さんは新鮮だったりしますか。
新鮮ですね。その土地によって、お客さんの雰囲気もノリ方も全然違うので。そういうところも楽しみですよね。
ーーこれからいよいよツアーとなりますが、最後に意気込みをお願いします。
これはやっぱり、まずは体を壊さず走り切りたいなと思います。
ーー大事ですね。
本当に。ちゃんと体を壊さずに走り切るのはまずひとつの目標ですし、この夏もこれからもたくさんライブをやらせてもらいますので、来てくれた人みんなを置いていかないようなライブ、みんなを楽しませられるライブ、ちゃんと心に刻めるようなライブを1本1本やっていきたいと思います。
ーーまたお話を聞けるのを楽しみにしています。
お互いに気をつけて、健康第一で乗り切りましょう!
取材・文=久保田瑛理 撮影=ハヤシマコ