熱帯魚コーナーでよく見る美しいサカナ<ベタ> 実は変わった生態の持ち主?
熱帯魚を飼うためにペットショップを訪れると、必ず見かけるであろう綺麗な魚がいます。それがベタという魚です。
筆者が初めてベタを見た時、父に「ベタは肺呼吸で…」と教えてもらい、「魚なのに肺呼吸?」と、疑問に思ったことを今でも覚えています。
熱帯魚のなかでも特に色鮮やかで、大きなヒレをはためかせ優雅に泳ぐベタの生態について、まとめました。
ベタの特徴と色鮮やかな魅力
熱帯魚を扱うペットショップの水槽でも、ひときわ目を引くのが「ベタ」。ひらひらと美しく舞うヒレ、鮮やかな赤や青、紫など多彩な体色は、まるで“水中を泳ぐドレス”のようです。
特にオスは発色が良く、尾ビレの形状も個体によってバリエーションが豊かで、見ていて飽きることがありません。
同種の自然環境における原産地は東南アジアで、稲作が盛んな地域の用水路や田んぼなどにも生息しています。野生のベタは地味な色合いですが、観賞用に品種改良が進んだことで、現在のようなカラフルで華やかな姿になったといわれています。
野生のベタや、品種改良をされていないベタは“ワイルドベタ”と呼ばれ、こちらも愛好家に親しまれています。これに対し、一般的に私たちが思い浮かべる、先ほど紹介したような煌びやかなベタは“ショーベタ”と呼ばれることもあります。
ベタの特徴はとにかくその美しさ。ショーベタの名の通り、美しさを競う品評会(コンテスト)も行われているほどですが、コンテストにはワイルドベタの出品もあります。
実は気性が荒い魚・ベタ
一方、その見た目とは裏腹に、ベタは実は気性が荒い魚で、そのため「闘魚」と呼ばれることもあります。
特にオス同士は縄張り争いのために激しく威嚇し合い、美しいヒレが嚙み千切られてボロボロになってしまうこともあるのだそう。1匹ずつでの飼育が基本とされるのは、こうした性質によるものです。
魚なのに肺呼吸? 驚きの生態とは
ベタの生態で特にユニークなのが、「ラビリンス器官」と呼ばれる補助呼吸器官を持っている点です。
これは空気中の酸素を直接取り込むための器官で、いわば魚の中の「肺」のようなもの。酸素が少ない水中でも生き延びることができるのは、この器官のおかげです。
水面に口を出して「パクッ」と空気を吸うしぐさは、実はこのラビリンス器官で呼吸をしている行動になります。水質が悪化するといった酸素が薄くなるような状況でも生き延びられるという、非常にたくましい一面を持っているのが驚きですね。
また、ベタは泡で巣を作る習性もあり、オスが水面に泡をたくさん吹きためて「泡巣」を作ります。繁殖期になると、この泡巣の中にメスが産んだ卵をオスが丁寧に運び入れて育てるという、魚らしからぬ“父性”も見どころのひとつです。
ベタはコップの中でも生きられるのか
ペットショップでよく見かけるのが、ベタがガラスのコップや小さな金魚鉢のような容器に入れられている様子です。
確かにベタは空気中から酸素を取り込めるラビリンス器官を持っているため、ろ過装置がないような水中溶存酸素量を増やしにくい環境でも生き延びることができます。
しかしこれは「生きられる」というだけで、「快適に暮らせる」というわけではないようです。
自然界では広い場所でのびのびと暮らしています。やはりタフなベタであっても、狭い容器での生活は、運動不足やストレスの原因になるのです。特にオスはヒレが大きく、泳ぐスペースが限られるとヒレが傷みやすくなることもあります。
また、ラビリンス器官があるとはいえ、排泄物による水質環境の悪化もあります。清潔な水を保つためには、最低でも1.5~2リットル以上の水量と、週に数回の水替えが必要とされています。
見た目の美しさや販売時の手軽さから、つい「小さな容器でも大丈夫」と思われがちなベタですが、本来の魅力を引き出すには、適切な広さ・水温・水質を確保した環境で飼育することが大切です。
狭いコップでの飼育はあくまで一時的な展示用と考え、迎え入れる際は小型水槽など、より自然に近い環境を整えてあげるのがベタへの思いやりといえるでしょう。
(サカナトライター:せんば千波)