本棚は人生を映し出す鏡 ~久住昌之さん、鈴木敏夫さんの本棚拝見 【NHK心おどる あの人の本棚】
本のいいところは、何といっても、自分のペースでいろんな世界へ自由に行けること。誰にもせかされないし、誰にも止められることはない。思い立ったときに、いつだって、ここではないどこかへふらりと出かけることができるのです。
そんな読書の楽しみに魅了された、漫画家・ミュージシャンの久住昌之さん、映画プロデューサー・鈴木敏夫さんの本棚をご紹介します。
※本記事は『NHK心おどる あの人の本棚』の掲載内容をもとに構成しています。
漫画家・ミュージシャン 久住昌之さんの本棚
久住昌之
くすみ・まさゆき。東京都生まれ。法政大学社会学部卒。美学校、絵・文字工房で、赤瀬川原平に師事。1981年、泉晴紀(現・和泉晴紀)と組んで「泉昌之」名で漫画家デビュー。99年には実弟の久住卓也と組んだ漫画ユニット「Q.B.B.」の『中学生日記』(青林工藝舎)で、第45回文藝春秋漫画賞を受賞。谷口ジローと組んで描いた漫画『孤独のグルメ』(扶桑社)は、2012年にTVドラマ化。劇中音楽の制作演奏、脚本監修、最後にレポーターとして出演もしている。
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子どものころからの「おもしろい」が詰まった本棚
こだわりはない。楽しいから、ちょっと変でどこかおかしみがあるから、読んでいる。大切にしたくて持ち続けているわけではない。ただ、好きで読んでいるから手元に残っている。
久住さんは、自身の本棚に並ぶ本を眺めながら、そう話します。事務所の一室の本棚には、幼いころの絵本や図鑑、学生時代に夢中になった小説や漫画、働き始めてから繰り返し見て読んだ写真集がぎっしり。さぞや大切にしてきた本ばかり? と問うと「ただ好きなだけです」と、ひょうひょうと答えます。本を選び、読んで、棚に並べる。そこに流儀などはない、と。「こだわりはない。おもしろいことは、ただ淡々と続けるのがいいんです」という言葉に、久住さん原作の『孤独のグルメ』の主人公を思い出しました。料理を前にして大げさにうれしがることなく、おいしさをかみしめながら、黙々と食べていく。久住さんの本とのつきあい方も、同じなのかもしれません。
幼いころは、絵本や図鑑が身近にあり、読むことも、絵を描くことも好きだったと振り返ります。
「母親が新聞広告で見て、いいなと思った本を買ってくれていて、それを弟と一緒に読んでいました。絵が入っている本が好きで、それは今でも変わりませんねぇ。絵や写真が入っている本にひかれるし、おもしろいと感じるんです」
目についた本を本棚から取り出しては、うれしそうにページをめくっていきます。時折、内容を暗唱できる本も登場するほど。何年たっても覚えているとは、よほど好きなんですか? と聞けば「ただおもしろくて、繰り返し読んだだけです。大人になって改めて読むと『こうなってたんだ』って発見があっておもしろいから」と、またひょうひょうとした答えが返ってきます。
こだわりはない。流儀もない。だからこそ「おもしろい」という感覚にまっすぐに向き合える。「そんな大層なことじゃない」と言うかもしれませんが、それでもやっぱり、久住さんの「おもしろい」は、正直で、純粋に感じられます。「適当に収めているだけ」と言うけれど、どこに何の本があるかしっかり把握していることこそが、その表れだと思うのです。
◆写真 大森忠明
◆編集協力 晴山香織
映画プロデューサー 鈴木敏夫さんの本棚
鈴木敏夫
すずき・としお。愛知県名古屋市生まれ。慶應義塾大学卒業後、出版社に入社。週刊誌や漫画雑誌の編集を経て、アニメ雑誌の創刊に参加し、副編集長、編集長を歴任する。雑誌編集と並行して、高畑勲・宮﨑駿作品の製作に携わり、1985年にスタジオジブリの設立に参加。1989年よりスタジオジブリ専従のプロデューサーとなり、以後、スタジオジブリのほぼ全劇場作品を手がける。その傍ら、執筆活動やラジオ番組でパーソナリティーを務めるほか、書家の顔も持つ。
本は増え続け大きな森をつくる
それは大都会にある本の森。木々は上に横にと枝を伸ばし、たくさんの葉を付け、森をつくっています。その森に住むのは、多くのアニメーションの名作を手掛けてきた、スタジオジブリのプロデューサーである、鈴木敏夫さん。
年輪を重ねる木々は本を置く部屋で、葉の一つ一つが鈴木さんの読んできた本たちです。森に鳥や小さな動物たちが集うように、多くの人が鈴木さんを慕い部屋を訪れます。
鈴木さんの読書遍歴を簡単に追うと、少年時代は児童文学から剣豪小説、サラリーマン小説に漫画と幅広く読み、大学生で寺山修司や詩の世界に出会い、出版社に就職して週刊誌の編集者になると、骨太のノンフィクションを読みあさります。そして、アニメ雑誌を手掛けたことで、のちにスタジオジブリをつくり共に歩むこととなる、宮﨑駿、高畑勲と出会い、彼らの読んできた本にも影響を受けます。そうやって読んできた本は約8800冊。本が増えるたびに、部屋も増えていきました。
いくつかの部屋を紹介すると、執筆机とベッドのある部屋、打ち合わせ用の部屋、幼少時から読んできた本のある部屋、映画に関する部屋、交流のあった作家・堀田善衞や永六輔の家族から譲り受けた本を蔵書する部屋、さらには老後の楽しみの本を置いた部屋……。
「気がついたらそうなっていたんですよ」と鈴木さんは困ったように言います。
「朝、起きると各部屋を巡り、空調を入れたり点検するのが日課。管理人みたいなものです。宿泊用の部屋に来客があれば、その人の好きそうな本やDVDをそろえたりと、支配人でもあるかな」
趣味はリフォームという鈴木さんだけあり、内装にも凝っています。イギリスから取り寄せた古いれんがをスライスして張った壁に、植物と動物をモチーフにしたウィリアム・モリスの壁紙、いろりをしつらえた和の空間など、部屋ごとに意匠が異なり、自分がどこにいるのか、昼間なのか夕方なのかがわからなくなります。
「時間と空間の感覚がゆがむような部屋をつくりたかったんですよ。時間を気にしながら打ち合わせをしても、アイデアは生まれないですから」
◆写真 千葉 充
◆編集協力 小林賢恵
◆『NHK心おどる あの人の本棚』