中野22.4%、高円寺19.8%。中央線沿線の路線価急騰で、実家の相続税が払えなくなる?税理士が鳴らす警鐘とは
国税庁は7月1日、相続税や贈与税の算定基準となる令和8年分の路線価を公表しました。
全国平均は前年比2.9%上昇で5年連続、2010年分以降で最大の伸びとなりました。上昇率トップは長野県白馬村の32.7%で、外国人に人気のスノーリゾートが上位を占めています。
ただし値上がりは観光地だけではありません。東京ではJR中央線沿線の中野で22.4%、高円寺で19.8%と、暮らしの街の路線価も急騰しています。
値上がりした実家を継いだとき、その相続税を払えるのか。売る気のない家を、税金のために手放すことにならないか。好川税理士に気になる点を伺いました。
白馬の32.7%は他人事ではない。暮らしの街でも路線価は上がっている
白馬村の32.7%は、スキーリゾートの一等地に付いた路線価の話です。ただし路線価の上昇は、観光地だけの現象ではありません。ふだんの暮らしの場である東京の沿線でも、評価額は着実に上がっています。
たとえばJR中央線沿線では、駅周辺の路線価が軒並み上がりました。中野駅北口で22.4%、高円寺駅北口の商店街通りで19.8%、荻窪の青梅街道沿いで19.7%と、いずれも1年でおよそ2割の上昇です。銀座や白馬のような特別な場所ではなく、普通に人が住み、買い物をする街で起きている数字です。これらは駅前の路線価地点の値ですが、駅前がこれだけ動く沿線では、そこから離れた住宅地の路線価もつられて上がっています。
市街地の土地は、路線価に面積を掛けて相続税評価額を計算するのが基本です。路線価が1割上がれば、同じ土地でも評価額はおよそ1割増えます。誰も売る気がなく、親がそのまま住み続けているだけでも、相続税の「土地の値段」だけが上がっていく。現金は1円も入ってこないのに、課税対象の評価額だけが膨らむのが、地価上昇局面の相続の怖さです。
本当に怖いのは、税額そのものより「納税する現金がない」こと
路線価上昇で本当に問題になるのは、税額の大きさより、それを払う現金があるかどうかです。相続税は原則として現金で一括納付し、申告と納税の期限は亡くなった日の翌日から10か月以内と決まっています。
たとえば都内に評価額1億円の実家の土地と預貯金300万円を残し、子2人が相続する場合を考えます。基礎控除は3,000万円+600万円×2人で4,200万円。遺産1億300万円から差し引いた課税遺産総額6,100万円をもとに計算すると、相続税の総額はおよそ820万円になります。ところが相続した現金は預貯金の300万円だけで、520万円が足りません。払えないときは分割払いの延納や、土地で納める物納もありますが、延納には利子税がかかり、物納は認められる財産に厳しい条件があります。結局、期限内に実家を売って現金をつくるしかない例は珍しくありません。継ぐつもりだった親の家を、相続税を払うために手放す。これが評価額だけ上がった相続で起きる現実です。
一次相続で「ゼロ」だった家庭ほど、二次相続で足をすくわれる
「うちは相続税がかからなかったから大丈夫」という安心が、かえって危ないこともあります。配偶者には配偶者の税額軽減があり、1億6,000万円と法定相続分相当額のいずれか大きい方までは相続税がかかりません。両親のどちらかが亡くなる一次相続では、これで税額がゼロになる家庭が多いのです。
問題は、値上がりした実家を相続した親が亡くなる二次相続です。ここでは配偶者の税額軽減が使えないうえ、相続人が1人減れば基礎控除も600万円下がります。加えて、一次相続で親(配偶者)が取得した財産も二次相続では課税対象になるため、二次相続の税負担はさらに重くなりがちです。今回の路線価上昇は「今」ではなく「もう一方の親が亡くなった後」にまとめて効いてきます。一次相続でゼロだったからと油断していると、子だけで受ける二次相続で想定外の税額に直面します。
打つ手はある。まず今の路線価で、実家の評価額と相続税を試算する
対策がないわけではありません。実家の土地は、小規模宅地等の特例の要件を満たせば、330平方メートルまでの部分について評価額を8割減らせます。仮に土地全体が330平方メートル以内なら、1億円の評価額を2,000万円まで下げられる計算です。ただし親と同居していたか、生計を一にしていたかなど適用要件は細かく、自己判断で使えると思い込むと、申告後に否認されるリスクがあります。
また、不足しがちな「納税資金」を補う手段として、生命保険(死亡保険金)の活用も有効です。死亡保険金は「500万円×法定相続人の数」まで非課税で現金を受け取れるため、親が元気なうちに加入しておけば、手元の現金を減らさずに納税資金を確保しやすくなります。なお、実家が戸建てではなく「マンション」の場合はさらに注意が必要です。2024年からマンションの相続税評価額の計算方法が厳格化され、市場価格との乖離が大きい物件ほど評価額が上がりやすくなっています。路線価の上昇に加え、この新ルールも踏まえた試算が不可欠です。
まず今回公表された路線価で、実家の評価額と相続税の見込みを試算しておくことです。そのうえで、特例が使えるか、納税資金をどう準備するかを、親が元気なうちに税理士へ相談してください。評価額が上がった今こそ、相続が起きてから慌てる前に、正しい評価と対策を確認する価値があります。
まとめ
路線価が上がっても現金は増えないため、評価額だけが膨らみ、継ぐつもりだった実家を売って相続税を払う事態が起こり得ます。一次相続でゼロでも、値上がりした実家は二次相続で効いてきます。今回公表された路線価で実家の評価額と相続税を試算し、小規模宅地等の特例が使えるか、納税資金をどう用意するかを、親が元気なうちに税理士へ相談しておくと安心です。