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錦織敦史③ 人生の転換点となった『新世紀エヴァンゲリオン』

Febri

Febri TALK2022.07.01 │ 12:00

錦織敦史演出家/アニメーター

③人生の転換点となった
『新世紀エヴァンゲリオン』

演出家、アニメーターとして活躍する錦織敦史に、ルーツとなったアニメ作品を聞くインタビュー連載。最終回は、錦織がアニメーターを目指すきっかけとなったあの名作をピックアップ。ガイナックス入社後の心境についても話を聞いた。

取材・文/宮 昌太朗

GAINAX新世紀エヴァンゲリオン

「今、アニメが映像表現の最先端を行っている」ことを目撃している感覚

――3本目は『新世紀エヴァンゲリオン(以下、エヴァ)』。錦織さんにとってはこのあと、ガイナックスに入社するきっかけになる作品ですね。見たのは高校生のときですか?
錦織 たぶん、高校2年か3年生のときですね。アニメ雑誌で大々的に特集を組んでいたのもあって、気合が入った作品が来るんだろうなと思って第1話から見ていました。

――ということは、最初からガッツリ盛り上がったわけですね。
錦織 いや、それが意外とヤシマ作戦(第六話「決戦、第3新東京市」)あたりまでは「まあまあ面白い」くらいな感じだったんです(笑)。むしろ個人的には第拾八話以降の展開のほうが衝撃で。周りは賛否が分かれていたんですけど、当時の自分としては第拾八話以降のほうがフィットしたんですよ。ロボットアニメとして楽しんでいたというより、キャラクターの心象描写を楽しんでいたのかなと思うんですけど。

――むしろドラマのほうに惹かれた。
錦織 「アニメでこういう表現をやってもいいんだ」と思ったんですよね。ずっとアニメを追いかけてきて、ガイナックスが好きだった自分としては、ちょっと誇りに感じるところがあった。「今、アニメが映像表現の最先端を行っているんだ」というのを、リアルタイムで目撃している感覚があったんです。

――テレビで事件が起きている感覚があったわけですね。
錦織 そうなんです。田舎にいると、そういうことってなかなか感じられないじゃないですか。TVシリーズのあとに『エヴァ』の劇場版(『Air/まごころを君に』)を見に行ったときも、「すごいことが起きている」という感覚を、田舎の一学生でも感じられたんです。

――なるほど。
錦織 旧劇場版を見たのは大学受験に失敗して浪人生をしていた頃だったと思うんですけど、旧劇場版はTVシリーズとはまた違う意味で「こんなことをやっていいんだ!」と。というか、アリかどうかも当時はわからなかったんですけど、いったい自分は何を見たんだろう?っていう感覚があった。巨大な綾波レイとか、ちょっと宗教っぽい絵作り、あとは最後のストーリーの畳み方も含めて、魂で作っている感じがあったんですよね。お話を畳むことに一生懸命になっていないというか、自己表現をしつつ、ちゃんとそれをエンターテインメントとして観客に届けている。そういう庵野(秀明)監督の姿はすごく尊敬できたし、旧劇場版を見たからこそ、「映像に行ってみたい」と思えたんですよね。

賛否が分かれていたけど

当時の自分は

第拾八話以降のほうが

フィットした

――まさに、アニメーターを目指す直接のきっかけになった。
錦織 当時、予備校に通っていたんですけど、急に「予備校を辞める」と言い出して、親を泣かせることになる(笑)。で、そのあとちょっとアルバイトをして、東京に出てきて、アニメの専門学校に入るんです。

――めちゃくちゃ急展開ですね(笑)。
錦織 退路を断ちたかったんですよ。それで専門学校に入ったその年の夏前くらいに、ガイナックスのアニメーター募集があったんです。先生からは「今、受けても合格しないよ」みたいなことを言われたんですけど、「こんな機会はそうないだろう」と思いながら受けたら合格してしまって。ポートフォリオもテストの内容も決してうまい絵ではなかったと思うんだけど、「いかにもアニメが好きそう」な絵だったらしく、鶴巻(和哉)さんやたまたま見ていたすしおさんが推してくれたみたいで。

――でも、旧劇場版に衝撃を受けてアニメ業界を志した翌年に、ガイナックスに入社するというのは、すごいスピード感ですよね。
錦織 ほとんど間が空いていないから、よくわからない状態でした。夢が叶ったとか、そういうことを言っている場合じゃない、みたいな(笑)。何の準備もしないで入ってしまったので、自分の実力のなさをひしひしと感じましたし、明らかに場違いなところに入ったなという感じもあって。とにかく必死でしたね。

――憧れのスタジオに入ってみたら、入ってみたで苦労があったわけですね。
錦織 そうですね。足を引っ張らないようにしなきゃ、というわけでもないですけど、アニメーターってこんなにたくさんやることがあるんだ、動画のシステムをちゃんとおぼえなきゃ、とか。外から見ていたときとは違うこともやっぱり多かった。あとガイナックスはわりと自由なところがあって、逆に言えば、甘えられる環境でもあったんです。仕事を押しつけられることもないけど、実力がないままだと、だんだん仕事を振ってもらえなくなる、みたいな部分があって。その空気は感じていたので、頑張ってついていかなきゃな、という。あとはすしおさんとか久保田(誓)くん、柴っちゃん(柴田由香)あたりが近い世代でいたので、彼らと一緒に仕事をしたかったのは大きいかな。

――『エヴァ』の影響で、今でも自分の中に残っているなと感じることは?
錦織 絵の根本は、キャラクターの身体のバランスの取り方にしても動かし方にしても、やっぱり『エヴァ』なのかなと思います。あとはレイアウトの取り方とか……。それほど勉強をしていない状態でガイナックスに入ったので、影響を受けないはずがないというか(笑)。

――仕事をするための土台を、ガイナックスで学んだところが多い。
錦織 そうですね。今になってみると、自分はガイナックスの中でも少し毛色が違ったんだなと思うことも多いんですけど。自分としては『エヴァ』だったり、ガイナックス作品を目指してやっているつもりだけど、それでも自分の持っている特性みたいなものが個性として出ているのかな、と思ったりはします。自分が観客として見てきたスタジオの血を受け継ぎつつ、またそこから何か違うことができるといいのかな、と思いますね。

KATARIBE Profile

錦織敦史

演出家/アニメーター

にしごりあつし 1978年生まれ、鳥取県出身。演出家、アニメーター。ガイナックスに入社し、アニメーターとして数多くの作品に参加。『THE IDOLM@STER』などの監督作の他、最近では『シン・エヴァンゲリオン劇場版』に総作画監督・キャラクターデザイナーとして参加。

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