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【事例】80代の母親が転んで骨折…責任感から退職を考えるAさんへの、公認心理師のアドバイスは?

「みんなの介護」ニュース

橋中 今日子

介護殺人・心中事件の報道の直後は、私が代表を務める介護者メンタルケア協会にもマスメディアからの問い合わせや取材が集中します。よく受ける質問が「介護で追いつめられやすい傾向のある人、介護うつになりやすい人はどんな人ですか?」というものです。

「真面目な人や完璧主義の人が介護うつになりやすい」と思われる方も多いでしょう。しかし、のべ2000件以上の介護相談に対応して見えてきたのは、介護で追い詰められるのは、介護者の性格やタイプだけが原因ではないということです。

介護トラブルに対応していく間に、自分でも気づかないままに追い詰められていくケースの方がはるかに多い印象を持っています。

今回は、事前に心構えをしていたのに、いざ介護に直面すると「もっとちゃんとやらなければ!」という心理状態に陥ったAさんのケースをご紹介します。

【事例】Aさん(50代・男性)

関東地域に住むAさん(50代・男性)は、隣県の実家で一人暮らしをしている母親(80代)のサポートをしています。母親は足腰が弱くなってきましたが、家事もこなし、自立した生活ができています。

月に数度、買い物や通院時に付き添っているAさんは、「本格的に介護が必要になったときは、プロの手を借りよう。仕事も自分の生活も大事にして、一人で抱え込まないようにしよう」と心に決めていました。

4ヵ月前、母親が転んで骨折し、救急搬送されるトラブルが起きました。入院とリハビリにより杖を使えば歩けるまでに回復して退院した母親のために、Aさんはまず介護保険の申請を行いました。続いて、緊急時にボタン一つで助けを求められる民間のサービスを登録し、見守りも兼ねて週2回の宅食サービスも導入しました。民生委員や近所の方にも相談して、要支援2との認定を受けた母親の様子を定期的に見てもらえるように環境を整えました。

母親の生活を支援するために、すでに完璧と言えるほどの環境を整えているにもかかわらず、Aさんは次第に「もっとできることはないだろうか」と思い悩み「仕事を辞めて母のサポートに専念するべきか? いや、自宅に呼び寄せて同居した方がいいのでは?」と、当初の決意とは真逆のことを考えはじめるようになりました。

「過剰な責任感」には自覚がない

Aさんのように、事前に「一人で抱え込まない!」と心構えをしていても、いざ介護トラブルに直面した際には、「自分はちゃんとできていない」「もっと頑張らなければ」と完璧主義のような考え方に陥ることがあります。

家族の病気や怪我に突然直面すれば、誰だってパニックになるものです。そして「自分がなんとかしなければ!」と、自動反応的にスイッチが入ります。トラブルを乗り切るために頑張ること自体は悪いことではありませんが、過剰な責任感につながることも少なくありません。

介護では、病状の進行や加齢によって、回復が思うように進まないどころかどんどん悪化していくケースもあります。地域によっては、望むような医療や介護サービスを提供する事業所が不足していることもあるでしょう。「病気やケガをする前の生活に戻してあげたい」「慣れ親しんだ家で生活させてあげたい」と願っても、環境的に叶わないこともあります。

要介護者の健康状態や病状の進行、社会資源の有無は介護者の責任ではありません。しかし、いざ介護がスタートすると、その代替として自分の生活や仕事を犠牲にしようとする介護者は多く、過剰な責任感に突き動かされていることに自覚がありません。

自責の念が過剰な責任感に拍車をかける

Aさんに「実家に帰る頻度を増やしていたら、お母様の骨折は起きなかったのではないかと、ご自身を責めておられませんか?」とお聞きすると、Aさんは「確かにそうなんです。今さらこんなことを考えても仕方ないとはわかっているんですけど、もっと母の様子を見に行っていれば…と後悔ばかりしています」と話してくれました。

Aさんには、お母様の骨折はAさんの責任ではないこと、そして、介護保険サービスや利用できるサービスや人とつながって、十分に環境を整えられていること、「もっとやらなければ」と感じるときは、自責の念から完璧主義のような心理状態に陥っていると気づくきっかけすることの3点をお伝えしました。

加えて、今後も予想外のトラブルが起きる可能性があり、それを100%防ぐことはできないけれど、そのようなときにはすぐに支援者とつながる準備ができていることに自信を持ってくださいとお伝えしました。

Aさんは「そうか。今できることはやれているんですね。もっとやらなければ、と考えていました。母が転倒する前は、絶対に一人で抱え込まない!と思っていたのに、いざとなると、想像もできないような心理状態になるんですね」と驚きながらも「自分ができていることを認めるって、難しいものですね」と苦笑いをされておられました。

その後、Aさんの母親はリハビリや介護保険サービスを受けながら自宅での生活を続け、要支援2から要支援1へと介護度も下がり、一人暮らしを続けておられます。Aさんも、「また一人で転んだら、病気で倒れたらと心配は尽きないけれど、すべて自分の責任だと思い込まない、と念仏のように唱えています」と笑って報告してくれました。

もし「家族の責任を果たしていない」と感じたり、「もっとちゃんとしなければ!」と感じている方がいたら、それは頑張りすぎているサインです。自覚なく、過剰な責任感に突き動かされているだけだ、と気がつくきっかけにしてください。

みなさんが家族間で抱えている悩み、介護で経験されていること、対策をとられていることをぜひ教えてください。お困りのことやご相談には、こちらの「介護の教科書」の記事でお答えできればと考えています。

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