鞘師里保さん|「真面目過ぎる」私たちが自分を否定せず、認めてあげるために大切なこと
「真面目過ぎる」「気を使い過ぎる」「頑張り過ぎる」など、自身の“〇〇過ぎる”性格に悩んだり、窮屈さを感じていたりいませんか。
元モーニング娘。のエースとして活躍し、現在はソロアーティスト・俳優として活動する鞘師里保さんも“過ぎる自分”と向き合ってきた一人。最新EP「Too much!」には「私たちはいつも『ちょうどよく』なんていられない。そんな『すぎる』毎日を肯定したい」といったメッセージが込められています。
そんな鞘師さんに自分の“過剰さ”と向き合い、肯定するためのヒントを伺いました。
「ちょうどいい」生活ができない私たち
💡POINT
•働き過ぎたり、逆に脱力し過ぎたり。「安定」は難しい
•「なんで私は」とネガティブ思考に陥るより、自分と上手に付き合う方法を見つけていく
•「too much」には「最高!」というポジティブな意味も
「too much」という英単語には、「過剰な」「〜過ぎる」といった意味があります。改めて、この言葉を作品のタイトルに冠した理由を教えてください。
鞘師里保さん(以下、鞘師):私自身がこの言葉通りの人間で……。
「自分らしいスタイルで人生の困難を乗り越えてきた、仕事もプライベートも充実したタイプ」ではなく、働き過ぎてしまったり、逆に時間に余裕があると脱力しすぎてなかなか仕事モードになれなかったり、毎日本当に安定していなくて……。
ちょうどいい生活ができたらいいのにな、なんて気持ちを抱えながら毎日を過ごしているのですが、同じ悩みを抱えている方はきっと世間にたくさんいらっしゃると感じています。
「なんで私はこうなんだ」と“内”にこもってしまうと、ネガティブ思考がどんどん増してしまう。だからこそ「近い生き方をしている人があなた以外にもいる」「上手に自分と付き合う方法を見つけていこう」というメッセージをこの作品を通して発信したいと思いました。
あと、英語圏では「too much」をポジティブな意味で使うこともあって。
どういうときに使うんですか?
鞘師:「普通じゃない=素晴らしい」という意味で、褒め言葉として使うことがあります。「あなたのダンス、too muchだね!」みたいな。
一見ネガティブに捉えがちな言葉でも、使い方によってはポジティブになるというところが気に入って、タイトルに採用しています。
「頑張り過ぎる」ことで自分を追い詰めてしまったモーニング娘。時代
💡POINT
•ただ頑張っているだけなのに「真面目過ぎる」と言われて
•周囲と考えが違うことをネガティブに捉え、自分の気持ちを隠してしまっていた
鞘師さんは12歳でモーニング娘。に加入した当時から、メンバーやファンに「真面目」「ストイック」と評されていましたが、そういった性格はどうやって形作られていったと考えますか。
鞘師:おそらく私の「真面目」な性格の根っこには、「焦り」があると思います。
小学生の頃にアクターズスクール広島に通い始めて、もともとダンスは「好き」で「得意」でした。でも、デビューして求められるレベルと量が増えて、「好き」で「得意」だったはずのことができなくなるのではないかという不安を感じるようになって。
できないことがないように、失敗しないようにといった焦りから、ただ頑張っていただけ。でも、そんな私のことを周囲は「真面目」で「ストイック」と捉えている。だったら「真面目」で「ストイック」な私でいなきゃ……と。
「真面目」や「ストイック」であることは決してマイナスではないけれど、「too much」になると、自分を追い詰めてしまったり、周囲に窮屈な思いをさせてしまったり……といったこともあり得ます。鞘師さんもそういった経験はありますか。
鞘師:ありますね。例えば、グループ活動をしていたとき。
「私の頑張りたいこと」に一生懸命過ぎて、ついつい頑固になることがありました。メンバーみんなにもそれぞれ違う「頑張りたいこと」があるのは当たり前なのに、同じでないことをネガティブに捉えてしまいがちで。
「自分の頑固さを押しつけてチームワークが乱れるくらいなら、私は私で頑張ればいい」と、周りに自分の気持ちを共有できなくなったことがありました。
まだ幼かったから、というのもあると思いますが。今なら議論を重ねて、お互い分かり合うこともできたかもしれません。
「過ぎる」ことで生まれたポジティブな感情や体験を積み重ねていく
💡POINT
•too muchだからこそ生まれた「いいこと」を成功体験として認めてあげる
•周囲と意見が異なったら、まずは受け入れてみる
•それぞれ違うことにこだわりながら、同じゴールを目指していく
鞘師さんが「Too much!」に込めたメッセージのように、自分の「〇〇過ぎる」ところを否定するのではなく、受け入れた上で向き合うことがすごく大切だと感じます。鞘師さんは自分の性質をどう「肯定」していますか。
鞘師:私、こういう性格なので「リスク」をすごく意識してしまって。「もしこれが起きたらどうなるんだろう」「私がこの発言をしたら、こういう影響があるんじゃないか」と考え過ぎてしまう。
でも、だからこそこれまでのキャリアの中で、大きな失敗をすることがあまりなかったと感じています。瞬発力がある人と一緒にいるとバランサーのような役割にもなれますし。
人それぞれに異なる役割があって、作用し合っていると受け止めているんですね。
鞘師:はい。今は昔より自分の気持ちをラフに表現できるようになっていますし、「too much」な性質がベースにあるのは、自分にとってはむしろいいことなんじゃないかと思えるようになりました。
作品作りやパフォーマンスに「こだわり過ぎ」たからこそ、いいものが完成することもあって。そういう瞬間のポジティブな感情や出来事を成功体験として認めて、積極的に大事にしています。
もちろん、こだわりが結果と比例しないことも多々ありますが。
自分のこだわりを優先するのか、それとも一歩引くのか、その塩梅はどう判断されていますか。
鞘師:私の場合はこれまでの経験上、周りの意見や新しいアイデアによって「自分の幅」が広がっていくと感じることが多かったので「まずは一回、提案を試してみる」を意識しています。
こだわりが強いからこそ、手を着けることが億劫になってしまうことも多いので……。
あとは、あえて「判断を他者に委ねる」こともあります。いくつかの選択肢が、それぞれ良さも難しさも同じくらいあると、考え過ぎてしまって自分では選べなくなることがあって。自分で選ぶと「やっぱりこっちが良かったんじゃないか」とあとあとも悩んでしまうし……。
人に委ねることで、いい意味で「考えること」から抜け出せると考えています。
他者に委ねることを「責任放棄」と捉える方もいますが、鞘師さんの場合は「こだわり」の先にある最終地点が「いい作品を作ってファンに届けたい」「いい仕事をしたい」だから、その目的が果たされればいい、という考えなんですよね、おそらく。
鞘師:なるほど……! 確かにそうです。すごい、今、しっくりきました。
一緒に働く人それぞれ違うことに「こだわり」があるから、最終地点が一致していればいいんですよね、きっと。
自分を「認識」する習慣を身に付ける
💡POINT
•「頑張ろう」と思うことは素敵なこと
•「条件」がある中で、どう工夫をし続けて自分のペースを見つけるかが大事
もし今、鞘師さんの近くに「too much」な自分に悩んでいる方がいるとしたら、どう声を掛けますか。
鞘師:私もまだ模索中ではあるのですが……。
きっと今は「周りと足並みが揃わない、重ならない」「ちゃんとやりたいだけなのに、過剰になってしまう」という自分に、ネガティブになってしまっているのではないでしょうか。
でもそれは「理想や目標に追いつかない自分」への悔しさでもあると思います。「頑張ろう」と思えている時点で、とっても素敵です。そんな自分を“認識する習慣”を身に付けてほしいなと思います。
確かに「自分を認識する習慣」は多くの人に必要な気がします。
鞘師:考え方も働き方も多様になって、誰もがさまざまな「条件」のもとで生きている。
そんな時代の中で大切なのは、「自分のペース」を見つけるために、工夫し続けることだと思います。
……と、私も自分に言い聞かせたいですね(笑)
ファンの方には、私の決意が伝わっていたはず
💡POINT
•自分のパーソナリティや考えを発信するのは恥ずかしい
•今までの自分を越えたくて「Too much!」をタイトルに
2025年夏に開催されたツアーでも、パフォーマンスやMCから鞘師さんの今作にかけるメッセージ性を強く感じることができました。
鞘師:楽曲そのものにもメッセージを込めていますし、ツアーではパフォーマンスやMCを通して楽曲の「補足」をしていたので、より伝えることができたと感じています。
メジャーデビューという節目の作品で「Too much!」というタイトルを採用したのは、もう一つ理由があって。
私の本来の性格では「自分のパーソナリティや考えていることを歌詞にして表現する」ということはかなり恥ずかしいことなんです……。
それでも発信したいという気持ちが強かったんでしょうか。
鞘師:はい。恥を捨てることで、これまで自分が引いていたラインを飛び越えて、熱いライブができるようになりたいなと。
私のことを長く見てくださっているファンの方には、ライブでの振る舞いやパフォーマンスを通じて、そういった私の気持ちが伝わったと思います。
モーニング娘。時代のメンバーカラーである「赤」をモチーフにした「Super Red」が表題曲な時点で、しっかり伝わっていると思います。「Too much!」は鞘師さんにとって、一歩踏み出す自身への“激励”でもあったんですね。
鞘師:そうですね。発信したからにはもう後に引けないですし、もし「ちょっと後ろを向きたいな」というときが来ても、「あのとき私はこう考えていたんだ、きっとまたそこに戻れる」と思える、道しるべのような作品になったと感じています。
取材・文・編集:はてな編集部
撮影:関口佳代
ヘアメイク:本岡明浩
スタイリング:藤本大輔(tas)
衣装協力:HOUGA(info@houga.jp)
お話を伺った方:鞘師里保さん
幼少期よりアクターズスクール広島にてダンスを始める。2011年に当時12歳でモーニング娘。9期生としてデビュー。2015年12月31日、惜しまれながらモーニング娘。を卒業し、その後ニューヨークへダンス留学。2020年9月より芸能活動を再開し、ドラマや舞台、ミュージカルなど活躍の場をますます広げている。
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