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ひらがなは読めるのに「おかあさん」と言えなかった自閉症息子。3歳で突然流暢に語りだした内容は……!?

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ひらがなは読めるのに「おかあさん」と言えなかった自閉症息子。3歳で突然流暢に語りだした内容は……!?

監修:室伏佑香

東京女子医科大学八千代医療センター 神経小児科/名古屋市立大学大学院 医学研究科 生殖・遺伝医学講座 新生児・小児医学 博士課程

1歳半健診で言葉の遅れを指摘されて

息子のスバルは1歳半健診で言葉の遅れを指摘されました。私が住んでいる地域では1歳半健診で「3つ単語が言えるか」聞かれるのですが、スバルは「あー(Car)、バイ(バイバイ)、ばあ(いないいないばあ)」の3つの言葉で挑み、再検査となりました。再検査となった家庭には2歳になると電話がかかってきます。

ただ、たまたま一緒になったお子さんが「パナ(パパ)、パマ(ママ)、ナナ(バナナ)」の3つの言葉で挑み、再検査とならなかったので「はは~ん、私の担当の保健師さんがたまたま厳しい人だったんだな」と楽観的に考えていました。当時、言葉が遅い以外ではなんの困りごともなく、むしろ教科書通りの成長をしていたので「そのうち喋るでしょ」とのんきに過ごしていました。

とはいえ何も手を打たなかったわけではなく、来たる2歳の誕生日に向けて絵本の読み聞かせを強化しました。スバルは絵本が好きなので、それまでも毎日絵本を読んでいましたが、1歳半健診のあとは毎日10冊でも20冊でもスバルが求めるだけ読みました。

するとなんと言うことでしょう!2歳の誕生日には発語が増えないまま、平仮名が10個くらい読めるようになりました。
言葉は出ませんが、むしろ天才を産んでしまったのではないかと思いました。なので2歳の誕生日を過ぎた頃かかって来た電話にも自信満々で受け答えしたのですが、結果「発達検査をしましょう」と言われたのでした。

言葉が遅い以外は育てやすい?2歳時の葛藤

その後も言葉がほとんど増えず、2歳から簡易なものも含めて数回の発達検査を受けました。毎回「言葉が遅いだけ。様子を見ましょう」と言われました。

周りの反応も2歳までは「男の子はそんなものよ」「一人っ子は言葉が遅いよ」と言ったものでしたが、2歳をすぎると「発語がない⁉心配ね」「絵本をたくさん読んであげないと」に変わってきました。不安が募る中、2歳半の頃にはひらがなの基本の50音が読めるようになりました。うちの子天才~!という気持ちもありましたが「お、か、あ、さ、ん」が読めて発音できるのに「おかあさん」と言えないのは、やはり何かあるのかもしれないと思い始めました。

ただインターネットでよく見る発達障害のチェックリストでは当てはまらない項目の方が多く、「そうなると専門家の言う通り『言葉が遅いだけ』なんだろうな」と自分を納得させるのでした。2人きりの家の中でも会話はできないものの意思の疎通ができるようになってしまってお互いに不自由なく生活できたので、言葉が遅い以外は育てやすい子だと思っていました。

しかし発語を促すために入園したプレ幼稚園で、2人きりだった時には気付かなかった集団の中での困り事が浮き彫りになり、ほかの親子が母子分離通園になる中、私とスバルだけが母子同伴通園を続けていました。そしてスバルが3歳直前の頃、私はにっちもさっちも行かなくなって心が苦しくなってしまい、プレ幼稚園をお休みして1か月ほど実家に帰りました。

そこでスバルは私の母から衝撃的な量の「言葉のシャワー」を浴び、なんと言葉が溢れたのです。黄色い車を指差して「きいろ」と言ったのを皮切りに言葉のコップが溢れるようにあっという間に単語で会話できるようになりました。

「言葉が遅いだけ」と言われていたスバル。
言葉の問題をクリアしたら、もう怖いものなし!というわけにもいかず、3歳の誕生日を過ぎてから受けた発達検査で「ASD(自閉スペクトラム症)」と診断され、プレ幼稚園からは退園勧告を受けてしまうのでした。

幼稚園生活での言葉の成長

プレ幼稚園を退園後に通い始めた別の幼稚園で良い刺激をもらい、単語だけだった会話は二語文、三語文へと順調に成長していきました。このまま順調に文章で話すようになるのかと思っていたところ、異変が起こりました。突然流暢な敬語で話し始めたのです。

全ての言葉が流暢と言うわけではありませんでした。

毎日繰り返し見ているテレビでの挨拶や、絵本のセリフ、いわゆる定型文をインプットし会話に応用しているのです。逆にインプットしていない言い回しは自分の言葉を使って話すので、たどたどしい二語文、三語文で話しました。

その結果
「今日は幼稚園から公園まで散歩に行きました。あっ……スバルのおてて、サクラちゃんのおてて、もって。公園に到着するとまず最初にすべり台をしました。えっと……大きいすべり台、シューして、3回、シューして。そのあとお弁当をいただきました」
定型分と自分の言葉を組み合わせて話すようになりました。

どうやら、アナウンサーが使うようなかっちりした言い回しがインプットしやすく、方言混じりで毎回言い方が変わる話し言葉はインプットしにくいようでした。

「自分の言葉」自体はゆるやかに成長しつつ、定型文の敬語と自分の言葉を組み合わせる話し方は小学校低学年まで続きました。中学年頃から方言をバリバリ使って話す友だちに憧れ、会話の中で定型文を使うことが減りました。

現在のスバルは……しゃべらなかったあの頃が嘘みたい!?

現在のスバルはしゃべらなかったあの頃が嘘みたいに、朝から晩まで実況中継のようにしゃべり続けています。あの頃スバルに浴びせた「言葉のシャワー」を10倍返しで浴びる日々です。

インプットした知識をアウトプットする時には「バスのダイヤは天候や交通状況、乗客の利用傾向などを考慮しながら、バス会社の担当者が綿密に作成していて正確な運行が保たれるように調整されているんだよ」と流暢に話します。かと思えば、「ヒロシくんが虫かごにさ、昼休み昆虫を……あっ、そもそも昨日ルイくんがバッタを体育でね」と今日あった出来事を自分の言葉で話す時はとたんに語彙力が減り、文法もたどたどしくなります。そこは定型文をうまく応用してよ!と思うのですがそう上手くはいかないみたいです。

そんなスバルを見ていて思うのは話すって1つじゃないんだなということです。話す話さないの白と黒では測れない、それぞれの色があるのかもしれません。

執筆/星あかり

(監修:室伏先生より)
スバルくんが言葉を話し始めるまでの道のりを、ここまで丁寧に振り返ってくださり、ありがとうございました。言葉がなかなか出ない時期は、不安や葛藤が大きかったことと思います。現在は朝から晩まで元気にお話しされる姿があるとのこと、本当に頼もしいですね。

ASD(自閉スペクトラム症)のお子さんの中には、言葉を「コミュニケーションの道具」として使うことへの関心が薄く、発語がゆっくりになる傾向があります。一方で、文字には強く惹かれ、まるでパズルや絵本と同じように「遊び道具」として夢中になり、周囲のお子さんよりも早く文字を読んだり書いたりできるようになることも珍しくありません。これは、言葉が人とのやり取りのためではなく、自分の好きな世界を広げるための道具として受け止められているからです。

言葉をコミュニケーションのために育てていくには、次の3つがとても大切です。人と関わることが楽しいと感じること、言葉を使わないと自分の思いが伝わらないという経験をすること、「自分の思いを伝えたい」という気持ちを育てることです。これらが積み重なることで、少しずつ「言葉を使って伝えたい」という意欲が生まれていきます。

言葉を育てるための第一歩は、「人と関わることが楽しい」という気持ちをお子さんの中に育てることです。ただ、ASD(自閉スペクトラム症)のお子さんは、ひとりで遊んでいる時間を心地よく感じることが多く、ご家族が一緒に遊ぼうと声をかけても、遊びに入っていっても、なかなか反応が返ってこないことがあります。そのため、保護者の方は「どう関わればいいのか分からない」「せっかく声をかけても反応がなくて悲しい」と感じてしまうこともあるでしょう。

ASD(自閉スペクトラム症)のお子さんとの関わり方には少し工夫が必要なこともあります。例えばお子さんの視界に入る位置に座ること、お子さんの興味を惹きやすい擬音語や擬態語を交えて声をかけること(お子さんの行動を実況中継するように声掛けするだけでも有効です)、ふれあい遊びや手遊び歌をたくさん取り入れることなどです。

療育の現場では、こうした工夫が体系的に取り入れられており、保護者の方も一緒に参加したり見学されたりすることで、関わり方のヒントをたくさん得ることができますし、「こんな遊び方があるんだ」と新しい発見があるかもしれません。家での遊びや日常生活の中にも、療育で見た工夫を少しずつ取り入れていくと、親子の時間がより豊かになります。

言葉がなかなか出ないと、不安な気持ちでいっぱいになることもあると思います。けれど、お子さんへの働きかけは決して無駄にはなりません。たとえすぐに目に見える変化がなくても、その一つひとつの声かけや遊びが、少しずつお子さんの心の中に積み重なっていきます。どうしても不安や迷いが大きくなるときは、ご家族だけで抱え込まず、療育の先生や保健師さん、発達支援センターなど、さまざまな支援者に相談してください。お子さんのペースに合わせながら、「人と関わるって楽しい」「伝えたい気持ちがある」という小さな芽を育てていくことが、やがて言葉の花を咲かせる力になるはずです。

(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。

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